暇つぶしに(神のスキルで)世界救っときます。

鷹宮 センジ

プロローグって多分こんな感じ

第1話 五月雨愛士の災難

さて。

僕はあまり冗談が好きじゃない。

冗談何て言っても暇つぶしにならないし、つまらないし、白ける。僕のことを殆ど知らない人は、僕と暫く会話して「ああ、この人は冗談が嫌いなんだな」と理解してくれると思う。


だからまず、こう聞いてみるとしようか。


僕は目の前の女性に問いかける。その女性は頭に光の輪っかを浮かせていて、背中に実にリアルな翼をはためかせている。無表情でこちらを見つめていて、それは神秘的な雰囲気を醸し出している。しかし黒髪ロングと黒目のお陰でかなりクオリティの高いコスプレしている日本人にしか見えない。


「えっと、僕は冗談が嫌いなのですが……それは冗談ですか?」


「いえ?冗談が嫌いなのは私も同じですから」


「さいですか」


ハイちょっと待て。この状況が冗談と言わずして何という。


僕が今たっているのは雲の上だ。文字通り。足にたゆたう雲を見空かせば遠ーーーーーくに地面が見えた。


雲の上で女神的な美少女と話をしている時点で冗談その物の状況だろうがよ。


「僕は映画のエキストラに選ばれた覚えはないのですが」


「ここファンタジーの世界なんで。映画の撮影ではありませんので」


「特撮の現場にしては雲のリアリティとか臨場感とか半端ないですね」


「これ本物の雲なんで。女神の力で雲の上に立てているだけなんで」


「ほっぺた抓ると夢から覚められるってホントかなー?」


「じゃあ抓りましょうか?」


「お願いします」


という訳で抓ってもらった。

グニューーーー


いひゃい痛いいひゃい痛いいひゃい痛い!!ひゃにこひぇ何これいひゃい痛い!!」


「ルビで何だか読みにくくなっていますね」


「メタネタぶっ混むとかマジで電波系美少女だな!!」


「美少女……」


「いや『電波系』の所で何か言えよ」


無表情で照れるんじゃねーよ。


「えーと、とりあえず本当に起こっている事だと思っときますので。今なんで僕はここに居るんですか?理由を教えてください」


妙な掛け合いのお陰で冷静になった僕は、事象を知っていそうな女神(仮)に話を聞いてみることにした。


「今更いい子ぶっても、先程の『電波系』発言は忘れたりしませんよ?」


いやそれ位は根に持ったりするなよ。


「まあ、元々初めから説明役として私はここに居るので。その責任を果たしましょう」


女神(仮)はそう言うと、


「まずは私の名前から――多分あなたはどうせ女神(仮)とか失礼な呼び方しているでしょうから――」


バレてーら。


「――私の名前はエクリュア。微妙に呼びにくいとよく言われるので、エリとでもお呼びください」


そう言って一礼した。


「あのさ、エクレアって呼んじゃダメなの?」


「私エクレア嫌いなので」


「あっ、そう……」


この人って何かマイペースだね。


「ついでに、私が日本の……もっと広くいえば地球の存在する世界の……知識を持っているのは私が仲介の女神だからです」


成程。要するに純地球の女神では無いと。


「仲介という事は、僕が何かの取引対象という事ですか?」


「あー、そうですね。取引と言えばそうです。一方的ではありますが」


「一方的?じゃあ、僕の代わりに何らかの利益が地球にもたらされることは無く、僕にも利益は無いと」


「その通りです」


ふむふむ。

途中から想像だけで話していたから話の筋が外れるかと思ったけど、ビンゴだったらしい。


僕の読んだ本の中で、異世界と地球の間で一方的に行われる人身取引と言えば。


「これが異世界召喚モノって奴か」


「まあ、不本意ながらその通りですね」


不本意とか言いながら全く無表情を崩さないエクレ…じゃなくてエリ。


「私は地球の世界の文化に触れた経験が有りますから、日本の文化も理解しています。ラノベと呼ばれる文学も知っていますが、アレはなかなか面白いですね。でもアレらの世界観で今回の件を捉えていれば、すぐ死んじゃう可能性ありますから」


「マジすか」


あ、でも死んだら元の世界に帰れるとかあったな。


「ちなみに死んでも普通に死ぬだけですから。元の世界に帰れたりしません」


「マジすか」


全然ダメじゃん!!元の世界に帰りたいんですけど!!


そう考えたけど、ふと思いとどまった。


そう言えば、僕は暇だったんじゃ無かったっけ?



~・~・~・~



僕の名前は五月雨さみだれ愛士いとし。高校1年生。私立の高校に通っていてクラスは初めからエリートコース。望んで入ったわけじゃない。受験した後で校長先生に直々に呼び出され、合格発表される前に「頼むからノーマルコースじゃなくてエリートコースに入ってくれ」と泣きつかれたのだ。理由は多分、全教科で満点取ってみたからだろう。


エリートコースは他のコースとは別の教室で受験するので、入学式に突然現れた謎のエリートコース生徒として色々噂になった。変な勝負を挑まれて(受験の点数競ったり、その後の小テストの点数競ったり、たこ焼き早食い競走したり)、その全てに勝利して更に有名になってしまった。


そして、有名になり過ぎたので対等に話せる相手が居なくなってしまった。


「エリートコースの怪物」

「高校始まって以来の天才児」

「トップランカー」

「たこ焼き魔人」


恐るべき称号で呼ばれた僕に近づくのは、僕を利用しようとする奴か僕より自分が偉くて凄いのだと証明したがる奴ばかり。

残念な事に、相手の事情を全く気にせず話しかけてくるような、それこそマンガやアニメに出てくるような素晴らしい人間はいなかった。


僕は毎日を退屈に感じるようになっていった。この高校を選んだのは何となく面白そうだったからで、テストで点を取るのは当たり前の努力を当たり前にしているだけで、特に天才という訳ではなかった。


天才でも無いのに天才と持て囃され、楽しく話せる友達が一人もいない。


毎日一人でいたけれど、僕は一人で寂しかったというよりもただひたすらに暇だった。


「暇だなぁ……」


フェンスで鳥籠のように囲われた自分以外誰も居ない小さな屋上。


そのベンチで弁当を食べていたら、不意に曇り空から光がさして来て今に至るのだった。

こう、『天使の梯子』と呼ばれる現象を1人に絞って光量を増やした感じと言えば伝わるだろうか。


今にして思えば、あの光が召喚のそれだったのだろう。


魔法陣的な物なしで、凄く地味な召喚だったな。


~・~・~・~



「あの、回想してみたんですけど」


「はい」


「暇だったか異世界召喚に付き合おうとか、そういうのはありなんですか?」


「ありですよ」


「分かりました」


動機なんて、大抵不純で適当なものだ。なら別に「暇つぶし」が理由でも大丈夫だろう。


「そんならまあ、いいですよ。どうせ今ここで頼んでも地球に返しては貰えなさそうだし……それにこの世界で過ごすのも、悪く無さそうです」


前代未聞、でも無さそうな気がするけど。暇つぶしに異世界バカンスと洒落こもうか。


「僕が召喚されたのは、この世界を救うためですか?」


「その通りです」


「なら、暇つぶしにやりますよ」


少しカッコつけて宣言する。


「異世界、暇つぶしに救ってやりますよ」


それを聞いたエリは少しだけ驚いたような顔をして、


「それなら私も責任を果たしましょう」


微笑を浮かべて宣言を受けてくれた。

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