昼食が失われた者たち

冷凍氷菓

第1話

 私は高校二年生の吉谷という。学校生活の中で何が楽しみかと言えば、友達と話すこと。とは言い切れない。何が一番かなんて誰でも分かる。それは食事だ。昼食。購買のパンを買って食べること。購買のパンは学校の近くのパン屋さんが特別に焼いてくれた物ばかりで学校以外では買えないのだ。

 平穏な毎日。私はいつものようにそのパンを買いに行った。横目で校庭を見ながら購買へと向かう。すると前から歩いてきた友人の野上が声を掛けてきた。

 「吉谷。あのさ――」

 野上は何かを躊躇うように視線をあちこちに動かしていた。

 「野上。私はこれからパンを買いに行くのだ。邪魔をしないでくれ」

 そう言って私はのが見の横を通り過ぎる。まったく、野上は私にとってあのパンがどれほどのものか分かっていないのだ。友人五人と引き換えにしても良いほどのものなのだということを。(友人五人には野上も含まれる)

 「まったく、これだから」そう私はつぶやき歩く。だが、後ろから野上は追いかけてきて私の腕を掴んだ。

 「何だ。野上――」

 私はその瞬間何かを悟った。野上の表情がすべてを物語っていた。泣きそうな、悔しそうな、仲間を過酷な現実から仲間を遠ざけようとするその表情で。

 私はまさかと思った。そんなはずはないと思った。もし、万が一事実とするならば。

 私は走る。購買へと走る。まるで一秒は一時間のように引き伸ばされていくのを感じた。私はその時秒速であった。

 そして購買に着きそこには一枚の張り紙がしてあり、私は倒れ込んだ。張り紙にはこう書かれていた。

 {勝手ながら、パンの販売はしばらく休ませていただきます}

 「なぜだ」

 私は大事な、大事な。パンを失うことになった。私が倒れ込み、しばらくしていると野上は上原を連れてやって来た。(上原も引き換えの五人に入る)上原は言う。

 「こんなことって、こんなことってねぇよな。おい。」

 上原は閉まるシャッターを二つの拳で叩いた。そして叫ぶのだ。

 野上もそれを見て泣いていた。腕で拭っても拭っても次々涙は溢れるようだった。

 私は知らなかった。ここまで、ここまで彼等が私と同じようにあのパンを待ち望み、希望を抱いていたことを。

 私は愚かだった。この者たちは同志であったのに、引き換えになどと考えてしまっていた。

 私も拳を床に叩きつけた。同志が分からなかった情けない思いと、パンを失った思い。私は天国から突然地獄へと叩き落とされたような気分だと感じた。

 周りの女子はこんな状況にも関わらず笑っていた。彼女らはパンを本当には愛していなかった。彼女らはパンを嘲笑い、冒涜している。

 私は心の底から湧き出る何かを抑えきれず。野上と上原に言った。

 「今から一緒にいかないか。」

 彼等は同志だけあり、すぐに答えた。

 「ああ、行こうぜ。この地獄を終わりにしよう」

 「俺も決めた」

 私は彼等の意思を確認できた。もう。ここには戻れないかもしれない。けれどこれは私達三人が決めた未来なのだ。運命にはもう逆らえない。

 私たちは靴を履き替え外へと向った。これから幾つもの困難にぶつかることになるだが、私たちは絶対に諦めない。例え世界が終わっても、パンだけは終わらせない。

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昼食が失われた者たち 冷凍氷菓 @kuran_otori

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