第10話 信頼

「ここは…。」


薄暗く誰も、なにもない部屋に1人、大輔はいた。

周りを見ても出口らしきドアはない。

すると、その部屋の壁は見覚えのある村の景色に変わる。

すると景色の奥から龍の姿をした少年が向かってくる。


(逃げないと…!)


必死で少年から離れようとするも見えない壁に阻まれ、逃げることはできない。

目の前にはいつの間にか少年がいる。

龍人は剣を大輔に振りかざす。


「うわぁぁぁああ!」


「うるせぇぞ。見つかりてぇのか?」


何者かが大輔を怒鳴る。


「え…?」


(夢か…。)


大輔には夢の中まであの恐怖が出てくるほどトラウマだったようだ。

それよりも今の状況…体は地面を向いていて少し浮いている。

そして地面は動いている。いや、大輔が動いているからそう見えるのだろう。


(そうかあの後男に担がれて気を失って…ってそうだ!)


まだあの白髪の男は大輔を肩に担ぎながら走っていた。

大輔はまた暴れだす。


「おいおい勘弁してくれよ。助けてやったっていうのに…。」


「それも俺を食い殺すためだろ!?」


「は?なに言ってんだ?」


男は呆れたように苦笑しながら大輔に問う。


「あの時の龍人だって食われて死んでたし…。」


「はぁ…。お前が色々と勘違いしてるのはわかった。」


男は担いでいた大輔を下ろして話し始める。

改めてしっかりこの男を見ると見上げるほどの高身長で顔立ちも整っている。しかしとても人間には見えない。血の気のない真っ白な肌だからだろうか。


「まず俺はお前と同じ魔族だ。ただでさえ俺たちは滅びかけているのに仲間を殺す訳にはいかない。あと…。」


「俺はまず食人族でもないし人を食う趣味なんてない。飲む、俺は生き物の血を飲まないと生きていけないからな。お前らの生きる為に食べるっていう意味では同じだ。」


「てことはヴァンパイア…?」


「そう呼ばれているがな。」


「えっと…ヴァンパイア…さん?今これはどこに向かってるんですか?」


「ハハハ!俺の名前はヴィンセント・リドラドラだ。ヴィンでいい。ヴェスネス城に帰るつもりだ。」


「ヴィンさん…。…ってヴェスネス城!?」


「知っているような聞き方だな。なにか関係があるのか?」


「話すと長くなるんですが…。」


「そうか。ならいい。」


即答された。いいのか?まぁ着いてからでもいいけど。

大輔が困惑してるとヴィンは


「ハハハ!冗談だ。聞かせてくれ。」


すごいツッコミたかったがやめた。

自分が魔王に異世界から連れてこられたことを簡潔に話した。


「よくわからんがなんて呼べばいいんだ?」


最初の質問が呼び方にだとは思わなかった大輔は少し戸惑う。

偽名を使うべきなのか。まずこの人、いやこのヴァンパイアを信頼していいのだろうか。

これまで味方がいなかった大輔はこれも自分を騙そうとしているようで不安だった。

少し考えた大輔は


「じゃあダイスケでお願いします。」


「ダイスケ…聞いたことない名前だな。まぁいいか…。そうだ。」


何かを思い出したようにヴィンは横にいた女性を指差す。


(え?今まであんな人いたっけ?…ってかあの時の。)


ヴィンと一緒にいた灰色のエルフに似た女性だと気づく。


「こいつはティア・リディア・フェントンだ。ティアでいいと思う。で、こいつは見ての通り黒いエルフでダークエルフ。まぁエルフとは敵対してて仲間ではないんだけど。」


(ダークエルフ?聞いたことないなぁ。)


というか当の本人は喋らないのだろうか。

ティアもあの時はっきり見ることができなかったため、今気がつくことが多い。


(顔と性格はちょっとキツそうだけど綺麗だな。うん…それよりも…。)


多分初対面の人は見ないわけがないほどの大きな双丘を持っていた。


(いや、確かにそれだけならまだいいんだけどなぁ…装備の露出度高すぎだろ!)


水着のようなアーマーで恥部は隠され、小具足などで腕などは守られているが、露出した太ももや肩などが大人の色気を発している。

そう、一言で言えば…


「エロい…。」


(あ、声に出てた…。聞こえてた?ちょっとティアさん睨んでません?)


とりあえず目をそらす。

ヴィンはだよなーなどといいながら笑っている。この人はデリカシーというものを知らないようだ。


「そうそうダイスケの傷はティアが治してくれたんだ。」


「え…?」


そういえば龍人に斬られた傷がない。魔法でも使ったのだろうか。こんな世界だ。出来ないことの方が少ないのだろう。


「あ、あの…ありがとうございます。」


とりあえずお礼を言った。

ティアはダイスケを無視する。まだ怒っているようだ。


「とにかく行くか。」


この空気に痺れを切らしたヴィンはまたダイスケを持ち上げ、目的の場所へ向かおうとする。


「いや、いいです。傷も治ってるし走れるんで。」


ダイスケはそういうと狼の姿へと変身する。


(とりあえず、悪い人たちじゃなそうだし信じてみるか…。)


そして3人はヴェスネス城へと出発した。








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