第24話 脅し Ⅱ

「あの人に会えなかったな……」


私がそのことに気づいたのは王宮を出てかなり経った頃だった。

王子との望まぬ遭遇で、青年に会いたいと言う気持ちはさらに高まっている。

けれども私には王宮に戻ろうとは思わなかった。

王子がいるあの場所にはもう今日に関しては立ち寄りたくない。

そして私が王宮に寄ろうと思えない理由はそれだけでは無かった。


「何だろう……この嫌な感じ……」


私は何故か頭から離れないその感覚に疑問を漏らす。

王子が何かをやらかすかもしれない不安、それは常にあるが今私を襲っているこの感覚は明らかにそんなものではない。


「何だろう……」


私はその不思議な感覚に頭を傾げながら宿屋へと歩いて行き、


「えっ?」


ーーー そしてゴミがぶちまけられた状態になった宿屋の姿に言葉を失った。


「あ、アリスちゃん?」


私は必死にゴミを退かしているサリーさんの姿を見て悟る。

これこそが王子の言っていたことなのだと……





◇◆◇





「いやぁ、ありがとうねアリスちゃん」


それから2時間程度経ち、ゴミを片付けた私とサリーさんは室内で休んでいた。


「いえ、いつもお世話になっておりますし……」


「いやいや!お客様にこんなことさせるなんて本当にごめんねぇ……」


「そんな……」


しきりに私に謝罪してくれるサリーさんに私は自責の念で小さくなる。

決して冗談などではなく本当にこんな嫌がらせをされたのはまぎれもない私のせいなのだから。


「それにしても何でいきなりこんなことしてきたのかね……」


そう告げたサリーさんの言葉に隠しきれない怒りが浮かぶ。

そしてそのサリーさんの声に私はサリーさんから聞いた今までの経緯をおもいだした……


事件、つまりこのゴミの不法放棄が起こったのは本当に突然のことだった。

突然現れた騎士達がこの宿屋の前にゴミを投げ捨てていったと言うあまりにも不可解な出来事が起きたのだ。


「何時もやれ守る為に必要だの、戦争だので税金をむしり取る癖に実際何もしない。騎士団がそんな存在であることなんてもう等の前から知ってるさ!けども流石にこんなことをして言い訳がないだろう!」


その時のことを思い出したのか、興奮気味な様子でサリーさんはそう叫ぶ。


「っ!」


そしてそのことが私に向けられたものでないことを知りながら、私は肩を震わしてしまう。

何故ならサリーさんは知りもしないだろうが、この宿屋がこんな目に遭ったのは私のせいなのだから。


「あっ、ご、ごめんねアリスちゃん……」


そしてサリーさんはその私の反応を怯えたとでも勘違いしたのか、怒りを隠し笑顔を浮かべる。


「それじゃあ、今日は遅くなっちゃったけども晩御飯の用意をしないとね!こんな目にあってもうちに泊まりたいて物好きがかなりの数いてねぇ」


それから私にそう誇らしげに話し始めたサリーさんの顔にはもう怒りは見えなかった。


だが、その手は関節が白くなるほど強く握りしめられていて、さらに顔には隠しきれない不安が浮かんでいた……


「っ、はい……」


そしてそのサリーさんの様子を見た私の胸は罪悪感で締め付けられる。

だが私は笑顔のサリーさんに合わせ、そう返事をすることしかできなかった……





◇◆◇





「何でサリーさんに!」


部屋に戻った私はそう押し殺した声でここにはいない王子に向かって怒り漏らした。

確かに何をするかは分からない人間だとは思っていた。

それで実際私は不当な罪を着せられ、もう少しで王国が二分される危機にまで陥ったのだ。


「だけど、何で無関係な人まで!」


しかし今回だけは決して侵してはならない線を超えていた。

サリーさんは決して私のゴタゴタなど知らない。

なのに王子は関係なしに彼女を巻き込んだ。

それも私の身体を手に入れるそのためだけに。

それは決して許せることではない。


「くっ!」


だが、どうすればいいのか私には分からなかった……

おそらくもうこれから私に対して王子が連絡をすることはない。

王子は私が連絡をしてくることを待っているかもしれないが、絶対に自ら連絡をしようとすることはないだろう。

そしてそうなればもう私が王子の行動を告発することはできない。

しようと思っても証拠が無いのだ。


つまり犯人が王子であると分かっているのにも関わらず私はその証拠を持っていない。


よって私にできるのは王子に黙って身体を差し出すことだけ。


「っ!」


だがそれでも根本的な解決にはならない。

サリーさんが私の弱みだと分かった王子は何度もサリーさんを人質に私に言うことを聞かせようとするだろう。


ーーー さらに最終的には口封じのために殺す可能性も。


私だけではなく、無関係であるサリーさんまでもを巻き込み、そして命の危険までにも晒す。


「っ、どうすれば……」


それは絶対に許すことのできない行為で、だが私にはどうすることもできないもので……


「アリスちゃん?」


と、その時突然扉がノックされサリーさんに私は呼ばれる。


「は、はい!」


私はその突然のことに驚きながらも返事をして扉を開ける。


「アリスちゃん、実は忘れていたことがあったんだけど……」


すると扉の前には罰が悪そうな顔で立ってたサリーさんがいて、私は彼女に1つの封筒を渡された。


「ごめんね……実は騎士団の人からアリスちゃんにって手紙を渡されていたのよ……歳をとると物忘れが激しくて……」


「えっ?」


そしてそのサリーさんの言葉に私は絶句した。

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