第23話 脅し I

「あぁ、そういうことか……」


ようやく私が悟った王子の狙い、それは私の想像外のものだった。

だが、分かった今なら最初から王子はずっと私の身体を狙っていたことに私は気づく。

下世話な視線に、そして何を想像して居るのか考えたくもない緩んだ顔。

そして王子は私の心を自分に向けさせるために今まで必死に私に話しかけていたのだろう。


ー 最悪。


だがその結果は逆に私の王子への憎しみが増すだけだった。


「いや、実は私の女、と言っても君を傷つけようとしたあんな奴はもう追放したが、に君が襲われたと聞いて気が気でなくてね……仮にも婚約者だった君をこれでも私は心配して居るんだよ!」


ー 全てお前のせいだろうが。


「そうなのですか…」


私は王子の顔を張り飛ばしたい感情にかられるが、必死に耐えて神妙そうな顔を作り上げる。

王子への憎しみ、それは彼が一言喋るたびにどんどん膨れて行く。

勝手な逆恨みでこちらに冤罪をかけて婚約破棄しておきながら、明らかな身体目当てでさも自分は君を心配していたのだと言いよってくる。


そんな人間を受け入れるわけがなかった。


「王子、分かりきって居ると思いますが……」


私がそう告げると何故か王子の顔に笑みが浮かぶ。

まるで断られることなど一切考慮していない笑みが。


「ああ!分かりきった答えだな!」


そして私はその王子の笑みに吐き気を覚えながら、口を開いた。


「断固お断りします!」


「えっ?」


それは明らかに分かりきった答えだった。

冤罪に婚約破棄。

それだけで十分に私はこの王子を憎んで居る。

しかもその上からさらに逆鱗を逆撫でされたのだ。

これ以外の返事になるはずがない。


「何で?」


ーーー なのに何故か目の前の王子は心底納得できない、という表情をしていた。


「っ!貴方のせいで私が今どんな目に遭って居るかも知らずに!」


そしてその表情を目にした瞬間、私は怒りを抑えることをやめた。


「っ!」


王子は私に怒鳴られ、あっさりと萎縮する。

その目には恐怖と屈辱を感じたのか私に対するドロドロとした感情が見えて、


「貴方の妾になるくらいなら、ドラゴンへと嫁ぎます」


だが、それでも私は一切躊躇することなくそう吐き捨てた。


「巫山戯るなよ!何で!何でいつも!」


そしてその私の言葉に突然王子は豹変した。

今までの笑みが消え、私の肩へと手を伸ばす。


「っぅ!」


だが私はあっさりと王子の手を振り払った。

確かに幾ら父に訓練してもらったとはいえ、私は決して強いわけではない。

だが、この王子程度ならば何の問題もない。


「今度ばかりは国王陛下もお許しにならないと思いますよ」


「っ!」


そしてそう冷たく告げると王子の顔はさっと青ざめた。

恐らく私に手を出せないことをようやく思い出したのだろう。


「マイアがいない今、父上を誤魔化すことは……」


そして王子は何事かをボソボソとつぶやき始める。

私はその王子の様子にもう自分に手を出してこないだろうと判断して、その場から早足に去ろうとする。


「アリス!貴様はいつもいつも私の心を拒絶して!」


だが、私が去る前に王子が私に向かってそう怒鳴った。

一瞬、私の胸に王子を刺激し過ぎたかもしれないという不安がよぎる。

だが今は王子には何をすることもできないと王子を無視してその場を離れることにする。


「だが、お前は絶対に直ぐ私のものとなる!」


しかし、王子が叫ぶ言葉にはいつの間にか嗜虐的な響きと、確信がこもり始めていた。


「お前の方から、私に妾にしてくれと頼み込む未来が楽しみだよ!」


「っ!」


そして最後の一言に私の胸に何か嫌な予感がよぎる。

だが、その予感が何なのか私はわからないままその場を後にした………

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