第25話 決意 I
「あ、ありがとうございます……」
「アリスちゃん、見たくなかったら捨ててくれて良いからね!」
そう心配そうに告げ、去っていくサリーさんの足音を聞きながら私は震える手で手紙の封を切る。
目の前の手紙、それは王子を告発することができるかもしれない切り札であるかもしれない、そう考える私の顔に緊張が走る。
ー そんなに都合よく無いよね。
私はそう自分に言い聞かせつつも期待せずにはられなかった。
もし、これが王子からの手紙だとし、そしてそのことが正式に認められればそれは王子を追放することの出来る切り札となる。
ーーー 親愛なるアリスへ。
「っ!」
そんな書き出しから始まる手紙に怖気を覚えながらも私はその手紙の差出人を見る。
ーーー マルズ
「良しっ!」
そしてその手紙にマルズの名が記されていることを確かめ拳を握りしめる。
「これであの王子を……えっ?」
だが、私の喜びはほんの一瞬で消え去った。
手紙の中つらつらと私が妾になるべきだと説いていたのは、王子のだと一目でわかる癖の強い文字ではなく明らかに代筆されたものだったのだから。
「っ!」
そしてその文字を見て、私は焦る。
手紙に書かれている文字では王子が書いたとは証明できない。
つまりこの手紙は切り札とはなり得ないということになるのだから。
「何でっ!」
私は手のひらに掴みかけたチャンスが指の間から抜け落ちて行く絶望感に唇を噛み締めながら必死にこの手紙を書いたのが王子であると証明できるものはないかと探す。
「っ!」
ーーー だが、それらは一切見つからなかった。
今まで身体の中を暴れ狂っていた熱が、絶望にかわり私の精神を蝕み始める。
切り札になり得ないただ神経を逆撫でするだけに成り下がった手紙、これが王子を告発出来なかったのはただの偶然だろう。
名前を書いたような手紙を差し出した王子が告発される可能性など考えているとは思えない。
代筆者に手紙を書かせたのも、王太子である証明となる刻印を押さなかったのもめんどくさかった、その程度の理由だろう。
「くっ!」
そしてそれがわかるからこそ、私の内から激情が噴き出す。
おそらく王子が致命的なボロを出すのは確実だっただろう。
私の不幸はそれが今出なかったということだけ。
ーーー そして今回という最大のチャンスを逃せば私に王子を告発することはできない。
「あと一歩だったのに!」
そのことがわかるからこそ私は苛立ちを隠せない。
王子と話すだけで彼はあっさりとボロを出すだろう。
だが、それが証拠して残るのは今回の手紙だけ。
そしてその最大の危機を王子はただの偶然で逃れた。
誰もそんなことを望んではいないのに。
「証拠さえ、残すことが出来れば……」
私はどうしようもない現状をそう罵る。
そして乱雑に立ち上がった時、腕が荷物にあたりバランスを崩した荷物の山が崩れる。
「っ!」
次から次に起こる不幸に私は神経を逆撫でされながら、荷物を直そうと座り込み、
「あっ、」
ーーー そして宝石箱から飛び出した1つの宝石を見つけた。
それはせめてと、私に父が持たせてくれた精霊石と呼ばれるもの。
精霊石とは伝説の存在である精霊の名を冠するだけあり、ただの宝石ではない。
宝石さえも凌駕する値段が付く、特別な力を持つもので、この宝石にはおそらく録音という機能が……
「っ!」
そこまで考え、私はあることに気づき無駄な思考を止める。
「これなら、王子を告発できる……」
そしてぽつりとそう呟いた……
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