寧々(澄寧)の宮仕え《2》


 あの後。

 早朝の薪割りを終えた澄寧ちょうねいは、朝餉あさげの支度を手伝おうとくりやに来ていた。


「おはようございます、みなさん」


「あ、寧々ねいねい、おはようさん。朝一番から悪いんだけどこれ、食卓に持って行ってくれないかい?」


 厨の入り口で挨拶をした澄寧にまず初めに声をかけたのは、この離宮で料理番をしている豊母ほうぼであった。

 ちなみに彼女はこの離宮の最高齢の女官だそうだ。ほう母子おやこの母親の方だから、豊母と呼ばれている。

 年の頃は五十路いそじ近く。孫のような歳の澄寧を近所の小母さんみたいに可愛がってくれる。

 だから澄寧は、


「ええ、構いませんよ。この青梗菜チンゲンさいの和え物ですね。わかりました。すぐ持っていきます」


と気前よく応じることにしていた。

 そのまま、和え物の大皿を手に持って、食堂に向かう。と、その道中である人の姿を見つけ、澄寧は慌てて頭を下げた。


「おはようございます、香璘こうりん様」


「おはよう、寧々。玉安様はもう少ししたら、いらせられますよ」


 そう、この離宮の筆頭女官であるげん香璘であった。何でも玉安の母、黒皇后が入内する前から貴人に仕える、凄腕の女官らしい。

 事実、香璘は、滅多なことでは動じないような芯の強さを持っていた。

 その筆頭女官は言葉を続ける。


「毎日毎日、他の者の手伝いをするとは感心ですね。これからも、そうやって励むように」


「はいっ!」


 澄寧は元気よく返事をした。

 厳しい人ではあるが、きちんと人を見る目が香璘にはあった。


 こうして小さな離宮の朝は、慌ただしくも賑やかに過ぎていったのである。


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