寧々(澄寧)の宮仕え《3》


「おはよう、諸君。今日も良い朝だな」


 こう言って食堂に入ってきたのは、朝服姿になった玉安であった。

 食堂に集まった面々が、次々と挨拶の言葉を口にしながら頭を垂れる。

 その様子を嬉しそうに見た皇太子殿下は、皆に席につくように促した。

 こうして皇太子殿下の少し奇妙な朝餉あさげの時間が始まった。



◆◇◆



寧々ねいねい。ここでの生活はもう慣れたか?」


 青梗菜チンゲンさいの和え物を、自ら自分の小皿に取り分ける皇太子殿下が澄寧にこう尋ねた。


「……。そうですね。皆様のお陰で、つつがなく営むことが出来ておりますよ」


 澄寧は、当たり障りのない言葉で玉安に言った。宮仕えの成り行きはともかく、皆に良くしてもらっているのは事実だったので。

 その返事に、


「そうか。それは良かった」


と満足そうに一つ頷いた玉安は、ほう母子おやこに話しかけた。



 ところで(今更ではあるが)、澄寧の秘密――彼が本当は男であることは、今のところ誰にもバレていない。知っているのは、この離宮の主である玉安と筆頭女官の香璘こうりんだけである。

 近頃は女装生活にもすっかり慣れ、変装用の薄化粧までも自分で出来るようになった。…………悲しいことに。

 そのことに気が付いた澄寧は、心の中で密かに目元を拭ったのである。


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