第28話Dランク脱出大作戦!! その2
試験へと向かう浪を見送った後、シロは翔馬と凰児に連れられ外へと出かけていた。どうやらレミアとのいざこざの際、凰児合流直後に立ち寄ったあのショッピングモールのようだ。広大な専門店街を何処へ行くわけでもなくなんとなくぶらついている。
「こんなところで昼間からサボってて大丈夫かなぁ……」
「どっちにしろ俺ら二人でシロを護衛しろって言われてる以上学校行けないんだし別にいいじゃん。 Sランク二人が一緒にいること、ってなると凛ちゃんがSランク上がって帰ってくるまで学校行けねーなお前」
「学生の本分は勉強のはずなんだけど……。 さて、昇格祝いは何がいいかな……」
学生隊員の範疇を超えた扱いに多少不満を漏らしながらも、凰児は何やら楽しそうにも見える様子であたりの専門店を見回している。
どうやら既に三人が合格することを確信して先に祝いの品を用意しに来ているようである。しかし、凰児とシロに対して翔馬は若干不安げに見える。
「今更だけどさ、もし落ちたらどうする?」
「流石にそれはないでしょ。 浪も雪菜も凛ちゃんもとっくに次のレベルに上がってるよ」
「いや、浪はともかく、規約違反常習者だった凛ちゃんといかにもアレな感じの雪菜ちゃんが筆記受かるんかなあ、と。 規定とかまともに覚えてるとは思えん」
翔馬の言葉に凰児は確かに、と一瞬言葉に詰まってしまうが、とりあえずはフォローを入れる。
「り、凛ちゃんは頭の回転早いし一度勉強したなら大丈夫だよ。 雪菜は……、まあ。 で、でも筆記試験なんて一般常識だしね?」
「言ってることの割にテンパってるぞ……。 ま、俺がホントに心配なのは実は浪だったりするんだけど。 受かるには受かるんだろうけど、な」
苦笑いしながら思わせぶりな発言をする翔馬に、凰児は訝しげに尋ねた。
「どういうこと?」
「いや、乙部さんあいつに期待してるじゃん? そんで聞いたんだけど、俺らがSランク上がった時と同じことさせるらしいぜ?」
「はああぁぁ!? あの時既にAランクだった俺たちとはわけが違うでしょ!! 前代未聞だよ、何考えてんの!?」
翔馬の言葉に凰児はやけに大きなリアクションを見せて食いついた。
「まあ、いいんじゃねーの? アンリちゃんとの戦いもいい経験になっただろうし、無茶振りが成長につながるパターンもあるさ、多分だけど」
「不安になってきたな……。 まあもしもの時は慰めの品として渡すことにしよう」
凰児のネガティブな発言に、翔馬は呆れたような視線を送った。
一方その頃、受験者三人は少し緊張した面持ちで大きな建物を見上げていた。彼らの前に建つこの建物こそ、試験会場となるSEMM京都支部である。見たところ三階ほどの高さで、愛知支部に比べると低いかわりに面積は広い。やけに広い大通りに面しており、府内の景観を乱さぬためかグレーを基調とした落ち着きのある作りだ。意外と和風な要素はなく、直線的なデザインである。
高さと広さのバランスを考慮すれば愛知支部とそう変わらない大きさだが、地下がなく訓練場が独立し別の建物になっていることもあり、あちらよりかなり広く見える。辺りを見渡すと雪菜は若干不満そうにこぼした。
「うはー……、豪華だなあ京都支部。 本部が大きいのはわかるけど、愛知支部だけしょぼくない?」
「どうだろうねぇ。 あっちは土地が足らないからじゃないか? とりあえず早いとこ手続き済ますよ。 雪菜はC上がる時とB上がる時で二回やってるしわかるだろ。 浪に教えてやりな」
「本部と作り違うしわかんないよー。 お姉ちゃんは事務だし詳しいでしょ?」
「説明するのがめんどくさいって言ってんだよ」
「ええぇ……」
呆れて視線を送る雪菜に、緋砂は渋々三人を引き連れて何かの窓口へ向かい事務員と話をする。しばらくして彼女が持ってきた紙に各々必要事項を記入すると事務員にそれを渡し、その後指示に従い控え室にて試験開始を待つため移動することに。そこでふと、和服姿の女性に声をかけられた。総柄の赤い小紋、普段着として使われるような和服だが、それをまとった女性は見たところ緋砂と同じくらいの年のようだ。
「あら、緋砂さんではありませんか? お久しぶりでございます」
「ああ、あんたか。 今日ここにいるって事は今日の試験に?」
「ええ。 そちらの方々が愛知支部からの受験者の方でしょうか」
耳が隠れる位の黒髪で、花かんざしをさしたいかにも京美人といった雰囲気の落ち着いた人物である。知り合いであったのか、緋砂は慣れた様子で会話をしている。内容から察するに、京都支部所属の受験者であろうか。雪菜は興味本位で尋ねる。
「お姉ちゃんの知り合いの人? やっぱり顔広いんだね」
「顔が広いのはあたしじゃなくて彼女の方さ。 こいつは妹の雪菜、こっちはその友人の新堂浪と黒峰凛。 悪いが、あんたも自己紹介してやってくれないかい?」
ささっと緋砂が三人を紹介すると、揃って軽くお辞儀をした。だが凛の顔が若干険しい。その後緋砂に促された女性は優雅に微笑むとさらりと自己紹介をする。
「はじめまして、私は
女性の自己紹介を聞いて、全員の顔色が変わる。浪と雪菜は驚いているようだが、凛はやはりな、といった様子で既にその正体を察していたようだ。浪が慌てたような口調で口を開く。
「聞いたことあるぞその名前……!! 五連星の一人っすよね、しかも他の四人より一回り強いっていう……。 でも、さっき試験に出るとかって……。 いや、まさか……」
浪の言葉の続きを、凛がニヤリと微笑みながら続ける。
「試験官側、ってことだろ。 こっちこそよろしく頼みます。 あんたが相手するのはあたしなんだろう?」
「察しの良い方ですね。 あなたは既に並のSランク隊員よりもお強いと伺っています。 流石に試験官が負けてしまうようでは面目ないので、そういうことになってしまいますね」
「ふん、試験なんざ消化試合でやる意味ねえと思ってたが。 思ったよりも得るものがありそうだ」
珍しく嬉しそうに微笑む凛だが、若干殺気が混じり浪と雪菜は引き気味だ。
「ま、まあ大変だろうけど頑張れよ。 そういえば俺の試験官は誰がやるんだろ? 勝たれるとまずいって言うなら……」
苦笑いで他人事のように言っている浪の態度に、梨華は意味ありげに微笑む。
「あら、あなたも他人事ではないかもしれませんよ? いえ、あなただけではないでしょう。 あなたたち三人は特別なのです」
「どういう意味っすか?」
「どうでしょうね? さ、もうすぐ折原支部長の挨拶がありますので受験者の皆様は控え室までお願いします」
相変わらず意地悪く微笑んだまま、梨華は結局その真意を明かすことなく去っていった。その後控え室から講堂に向かうことになり、一行は緋砂の後について移動していく。講堂に到着すると、割り振られた受験番号が書いてある椅子へと着席する。緋砂は受験者ではないので一人離れて後ろの席へ座り、ほか三人は浪を挟む形で並びの席となった。
三人は開始を待つあいだ、ヒソヒソと話をしている。
「折原支部長ってどんな人だっけ? 本部で試験の時は本部長出てこなかったのになぁ」
「キリっとしたイケメンだったような……。 あれで三十代ってんだからな。 とても師匠と同年代とは思えねーわ」
そんな会話をしていると、壇上に事務員が上がり式辞を述べ始める。無難な挨拶が済んだあとは、早速支部長よりの激励へと入るようだ。促され壇上に上がったのは、浪より若干背が高いかというくらいの金髪の男性だ。顔はよく整い、髪も短めでさっぱりとした好青年といった印象であるが、壇上に上がった彼は誰が見ても感じられるほどに覇気とでも言うのか、一目で実力を察することができるような雰囲気をまとう。
緊張の面持ちで視線を送る受験者一同に、京都支部長、折原怜士はゆっくりと口を開いた。
「受験者の諸君、今日はよく来てくれたな。 忙しい中突然変更があったことを深く詫びよう。 さて、私から伝えることだが、長々とどうでもいい話をするつもりはない。 言えることはひとつ、全力を尽くしてくれ。 結果も重要だろうが、どう受かるかというのが、君たちの今後に大きく響いてくることだろう。 今回は試験官として五連星の六道梨華、
折原の言葉に会場が軽くざわつき、浪も若干嫌な予感を感じ顔色が変わった。しかしとりあえずはそのまま黙って演説を聞いている。
「くれぐれも十分な実力があるからといって適当にやることのないようにしてくれ。 実技試験を楽しみにしているよ。 しかし、その前に筆記で落ちないように気をつけてくれよ。 まあ苦手なものもいるだろうが、……、そこは丸バツ問題なので天に任せることだな。 というのは冗談だが、私は……、いや、SEMMは君たちの更なる躍進を期待している。 では、このあたりで締めとさせていただこうか。 諸君、精一杯励んでくれたまえ」
演説を終え折原が軽く一礼をし壇を降りると、浪と凛は小声で話し始める。視線の先には梨華と、その横に座る小柄で栗色の髪を持つツーサイドアップの少女。緊張しているのか、うつむき気味でそわそわしているように見える。
「あそこ、梨華さんの横に居るのが御剣十和か? 思ったよりなんだか……?」
「だろうな、見た目はガキだが感じる魔力からして明らかにあたしより格上だ。 最年少でSランクへと上がった天才……、か」
「梨華さんの態度的に、俺か雪菜が戦わされるんじゃ……、ってのは流石にないか」
「いや、ありうる話だな。 乙部もなんか意味深なこと言ってただろ。 ま、とりあえず緊張してても無駄だ、まずは筆記に集中することだな。 ……、特に雪菜」
名指しされた雪菜は苦い顔でビクッとしながら目をそらした。
式が終わった後、早速試験会場へと移動し筆記試験へと移る。ランクは全員違うのだが、筆記試験の内容はすべて共通であり、三人とも同じ部屋で試験を受ける。
浪と凛は軽く考えながらスムーズにペンを走らせているが、雪菜は案の定難しい顔で唸りながら問題用紙を睨んでいる。
今彼女がつまづいている問題は『AランクアニマとAランクホルダーであれば、ほぼ同程度の戦闘能力とされる』というものだ。
「どうだったっけコレ……。 いや、でもアニマと同ランク以上のホルダーに出撃許可が下りる、が丸だからここもおんなじだよね」
考えた末に解答欄に丸印をつけた。その後もところどころつまづきながらもなんとか時間内に最終問題まで記入することはできたようだ。
試験終了後、昼休憩を挟んだあと控え室にて実技試験の案内があるそうだ。昼食前に三人はエントランスで集まり緋砂と合流することにした。待ち合わせ場所には先に三人がついたようだ。
「ねえねえ二人共、AランクアニマとAランクホルダーが同程度の戦闘力かってやつどっち? 丸でいいよね?」
「おまっ……。 同ランクのアニマ一体に対しホルダーが複数人で当たるのが原則なんだから同じランクだったらあっちのが強いに決まってんだろ。 エキドナと戦った時明らかにAランクホルダーより強かっただろ」
「うっそ、やらかしたー……」
浪が雪菜の問いに呆れて返す。今の受け答えで一同、もともと抱いていた不安が更に大きくなってしまったようだ。凛が呆れ顔でため息をつく中、緋砂が合流する。しかし彼女は一人ではなく、とんでもない大物を引き連れてきていた。
「あんたたちに興味があるってんでね、この三人も一緒にいいかってさ」
「やあ、はじめまして。 といっても君たちは私を知っているだろうが。 君たちが例の運命の子だということは聞いているよ」
折原支部長に、梨華と十和。京都支部のトップスリーであった。十和は若干恥ずかしそうに一歩引いている。
「いや、そんな俺たちなんかそんな贔屓にしてもらうほどじゃないっすよ!? 特に俺なんかまだ最低ランクで……」
慌てて謙遜している浪にふふっと微笑むと、折原は落ち着いた様子で話す。
「それは君がまだアマデウスとして未熟だったからだろう。 エルはまず君に体術のみを徹底的に磨かせるため、あえて力を貸さずにいたのだよ。 ファクターが使えないと思っていればそれを補うための努力を君は欠かさないだろう。 そしてそれが完成に近づいた今、成熟した器に強い魔力をさずけた。 あとは力の使い方さえマスターすればすぐにでも上へと駆け上がれるだろう」
「やっぱりエルのことも知ってるんすね」
「当然さ。 私は……、おっと、これはまだ秘密だな。 まあ数時間後にはわかってしまうことだが。 さ、とりあえず食事にしようか」
折原に案内され緊張しながら食堂へと向かう一同だったが、案内された場所は愛知支部のいかにも社員食堂みたいな雰囲気とは違う、高級レストランの装いだ。
「お、お姉ちゃんお金足りるの?」
「何普通にあたしに払わせようとしてんだ」
そんなことを言いながら若干焦り気味の姉妹だが、それを見て折原が笑いながら気前よく言う。
「今日は私の顔を立ててもらえないか? 気にせず好きに注文するといい。 テーブルは……、そうだな、私と梨華は緋砂君と座ろう。 十和はそちらに混ぜてもらうといい」
「ひゃっ、そそ、そんな……。 わたし……」
梨華にくっついておどおどした様子で隠れていた少女は、ささやかな抵抗をしようとするも折原と梨華の意味有りげな視線に黙殺され、渋々もうひとつのテーブルへと混ざる。気をきかせたのか、一番人当たりのいい雪菜の横へと案内され、少し離れてちょこんと座った。
「御剣十和さん、だよね? 年聞いてもいい?」
「じゅ、十四でしゅ……、ひゃわっ!! か、噛んでないですよ!?」
「か、かわいいなあ……。 この子が翔馬さんや先輩と同じくらい強いなんて……」
「そんな、あのお二人に比べれば私なんて……、全然弱いです」
謙遜する十和は、一見とても強そうには見えないというか、戦闘行動ができるのかすら怪しい。苦笑いで様子を見守る浪に対し、十和の正面に座る凛は頬杖をついて若干不機嫌そうだ。そして彼女は、そのまま思うことを口にした。
「謙遜するのは結構だが、SEMMに所属するほとんどの隊員より強いお前がそんな態度じゃ下が萎えるぞ。 お前が弱いってんならあたしらはなんだっつの」
「ちょ、凛ちゃん!? 相手はまだ中学生なんだから!!」
雪菜の言葉に凛はツンとした態度で目をそらす。十和はきつい言葉に俯いてしまった。若干悪くなった空気に、隣のテーブルの折原が微笑みながら言う。
「自分に自信を持つように、とは日頃から言っているんだがどうもうまくいかなくてな。 それがその子が成長するために今一番必要なのはわかっているのだが。 正直試験を任せるのも不安なのは否めないが、自信をつけるには実戦が一番効果的だと思ってな。 まあ、君たちとは当たることはないから気にすることはない」
「あ、そうなんすね。 てっきり……、って俺らなんかが五連星に相手してもらえるなんて考えてたのがそもそもおこがましいよな……」
「ふふふ、そんなことはないぞ? まあいい、君たちは試験初日のトリだ。 その時が来ればわざわざこの場所で試験が開かれた意味もわかるだろう。 楽しみにしていてくれたまえ」
そのまま食事を済ませると、京都支部の面々と別れ控え室へと向かう。そして、ランクごとにグループ分けされると、別棟の実技試験会場へと案内される。会場には愛知支部と変わらぬ程の大きさをした二つの闘技場があるが、試験が始まるとほとんどの視線がその片方へと向けられた。二階の観戦スペースにて愛知支部の四人もそちら側の試合を注視しているようだ。理由はごく単純である。
「やっぱりみんな十和さんが気になるんだね、こっちばっか見てる。 あの子ってどんなファクター使うんだっけ?」
「あの子の戦いは見てて楽しいよ。 服部くんが好きそうだねえ、ああいうの」
「翔馬さんが好きそうってろくな想像できないんだけど……」
「どんなイメージ持ってんだい……。 まあ、要するに男の子が好きそうな、てことさ。 見てな」
会場の視線を一身に受け、十和が魔力を高める。対戦相手の受験者は当然Sランクの候補生だ。大学生くらいの青年である。先手必勝、とでも言わんばかりに両手に炎をまとって突撃する彼に、十和は焦ったように戦闘準備に入る。彼女が右手のひらを横にゆっくりと振ると、三枚のカードのようなものが空中に出現し、その真ん中のものをピッと取ると素早く胸の中心ほどの場所へとその魔力でできたカードを差し込んだ。
「イデアルドール、オン……。 ハイボルテージ!!」
掛け声とともに左腕を前に構えると魔力が全身を覆い、まるで戦闘用スーツのようになっていく。キラキラと光沢を放つ軽い鎧のようなものをまとうその姿は、完全にヒーローモノの正義の味方だ。
電撃を纏う鎧を身につけた彼女は、向かい来る炎の拳を突き出した右手一本で正面から受け止める。
しかし受験者の青年もSランク試験を受けるだけの腕前、焦らずすぐに後ろへ距離をとり爆破魔術で遠距離から攻撃を仕掛ける。攻撃を受け軽くよろけた十和は足を中心に魔力を高めると、一気に解き放ち、閃く雷光がごとく殴りかかるが、青年は高熱を放つ盾を生成し受け止めると同時にダメージを与える。そしてひるませたところに再び爆破魔術を叩き込み、十和は膝をついてしまった。
「相手もSランク受験者だけあってやるもんだが……、あいつの方が真面目にやってねえだけだぞこりゃ……。 さて、どうなるか」
そのまま押され続ける十和を見てこぼす凛。このままでは負けかねない、そんな時、会場に声が響いた。
「十和さん!! もし負けてしまうようなことがあればその時は……。 わかっていますね?」
梨華だ。何故か拡声器を手にニッコリと怖い笑顔を浮かべる彼女に、十和は顔は見えないが冷や汗を浮かべたことだろう。一気に電撃を放ち相手に距離を取らせると、ポツリとこぼす。
「ううっ、ごめんなさい……。 これは試験では使わないって決めてたのにぃ……」
そんなことを言いながら先程と同じようにカードを出現させると、次は両手で真ん中と右胸あたりの二枚をとり、手をクロスさせるようにしてシュバッ、と胸へと差し込んだ。青と黄色、二色の光が彼女を包む。
「イデアルドール、モード『ブルーカタリスト』っ!!」
次は掛け声とともに水色と金色の鎧を纏う。そのまま右手を振り上げると水が彼女の周りに吹き上がり、うねりを上げて相手へと襲い掛かる。焦って同じように盾で受けようとした青年だったが、水と炎では相性が悪く、盾は簡単に突破されてしまう。大したダメージは無く全身ずぶ濡れになっただけであるが、十和は申し訳なさそうに、といっても顔は見えないのだが、右手の指先に電気を集める。
「ちょ、ちょっとまっ……」
「ひいぃ、ご、ごめんなさいぃ!!」
青年の言葉も虚しく電撃は水を伝って一瞬で彼の全身を襲い、そのまま決着となった。
「な、どうなってるの今の!?」
「ファクターを二つ使った、のか!?」
驚きのあまりあいた口がふさがらない浪と雪菜に、緋砂は軽く説明する。
「あの子のファクターは『他人の能力のコピー』だよ。 ストックは三つまでで基本オリジナルより若干劣化するが、属性ごとの肉体強化がオマケでつく。 更に三つのうち二つを同時発動させて今みたいなことができるのさ」
「なんつーか、世界は広いな……」
その後、何度か十和が相手をする受験者はいたものの、彼女を破る強者はいなかった。そしてついに、試験は残り愛知支部からの三名のみとなる。
凛のことは若干有名になっているのか、梨華が試験相手をすることが分かっている人間も何人かいたようだ。特別に彼女の時はもう片方のリングを使わないようだ。
「あなたと私の戦いはより多くの人にじっくり見て学んでいただこうと、もうひとつのリングは使いません。 すべての視線がここに集まることとなります。 ……、お互い恥ずかしい戦いは見せられませんね」
「はん、面白い……。 愛知支部じゃ龍崎しかまともな相手がいなくていい加減飽きてたんだ。 ……、今あたしがどれだけやれるのか、試させてもらいます」
位置につき構えを取る二人。実技試験初日最大の対戦カードに、場内は緊張に包まれる。
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