第14話未来視が見せるは絶望のみ

 SEMM愛知支部を抜け出した四人は、とりあえずSEMMから離れようと走ること十分ほど、以前エキドナと交戦した麻宮公園にいた。雪菜が息切れしているため、各々ジュースを買って一息ついている。ようやく落ち着いたのか、先程よりかは一同の顔色はいい。ただし、当の本人であるシロを除いて。

 浪に渡されたサイダーに手をつけず、不安そうな表情で唇を噛みうつむくシロを雪菜がなだめている姿を、ふたりが座るベンチの横の街灯にもたれながら凛が横目で見ている。


「大丈夫だよ、シロちゃん。 あたしたちが絶対シロちゃんのこと守るから」


「……、ありがとう。 でも……、多分勝てない……。 私はみんなに傷ついて欲しくない」


「っ!!」


 シロの言葉に、雪菜は言葉を詰まらせてしまう。予知能力者でないとわかっていても、彼女の言葉が今まで的中していたこともありつい彼女の言葉に飲まれてしまうのだ。

 弱気なシロの言葉に、凛が呆れたような声で返す。


「あたしらはてめえのために無茶してんだぞ。 あんまネガティブなこと言うな」


 雪菜に続いて黙ってしまうシロに代わり、ベンチの正面に立っている浪が凛に問いかける。


「そういえばお前は大丈夫なのかよ。 今回の規約違反は多分今までのとは比べ物にならないぞ。 会ったばっかのシロにそこまで肩入れする理由はお前にはないだろ」


 凛を心配してかそう声をかける浪にふっ、と鼻で笑うと彼女は微笑みながら答える。


「てめえと同じだよ。 あたしと関わりないくせに雪菜のためにあたしを助けたろ。 雪菜と……、あとまぁ悔しいがてめえにも恩がある。 てめえらはこいつを助けたいんだろう? だから、今回のこれでチャラってわけだ。 好きにやれ、あたしはただついてく」


「そうか、ありがとな。 お前がいてくれるなら心強いよ」


「お、おう……。 任せとけ、つっても……」


 正直な浪の言葉に若干頬を染めた凛だったが、その後一瞬言葉を濁すと少し苦い顔で話し出す。


「服部が追っ手になるんだったらきついな……。 あたしは龍崎に負けてるからな。 ま、龍崎とやった時のあたしは精神的なコンディションが最低だったからあそこまでの完敗はないと思うが……、あいつと同格の服部に勝つのはさすがに難しい」


 凛の言葉に先程まで黙っていた雪菜が必死に反論する。


「で、でも翔馬さんだって一緒にシロちゃんと動物園遊びに行ったり浪と三人で住んでたりしたんだよ? それをSEMMから命令が出たからって……。 迷いがあるんだったら凛ちゃんの方が強いんじゃない?」


「甘いっつったろ。 SACSは能力による犯罪を扱う。 それは場合によっちゃ甚大な被害が出る危険があるし、暴れる能犯者を無理に生け捕りにしようとして返り討ちにあう可能性も十分ある。 そのためにある特権を持ってるんだ。 どうやっても死人が出るって場合、死んでもしょうがねえやつはどいつだ?」


「犯人……、とか?」


「そうだ。 一瞬の判断で被害が変わる故にSACS隊員はもしもの時上の判断を仰がず犯人の命を奪う権限を持つ。 それゆえにSACS隊員は全員成人で学生隊員はいない。 つまり、だ。 服部は一年チョイでエース呼ばわりされてるってわけだ。 よほど働き者だったんだろうな」


 凛の言葉に声も出ない雪菜。雪菜だけではない。他二人も驚きを隠せない様子だ。凛の言わんとすることはもう理解できる。しかし、いつものお調子者な翔馬の姿からは想像もできない。凛が続ける。


「……、確実に服部はその『特権』を使ったことがあるだろう。 SACS隊員は冷徹でなければ務まらない。 さっきはさすがに迷いもあったようだが、SACSに所属してる奴らは割り切ることには慣れてるはずだ。 次に会った時はマジでやることになる。 あたし一人で勝てないとなれば、わかるな?」


「俺たちも……、やるしかないのか……」


「……、さっきてめえらについてくとはいったが、それができない様な中途半端な覚悟ならさすがにやる意味もねえ。 降りさせてもらうぞ」


 腕を組みながら真剣な顔で浪の目を見てそう言う凛の言葉に、一拍おいて同じく真剣な表情で浪が答える。


「わかってる。 元はといえば巻き込まれただけのお前に全部押し付ける気はねーよ。 雪菜は、いけるか?」


「大丈夫……。 浪の方が辛いはずだもん。 あたしだけ逃げることなんてできないよ」


 表情を引き締めてそう話す雪菜に浪は優しく微笑んだ。未だシロは気持ちの整理がつかないのか雪菜の袖を掴んで不安そうにしているが、彼女を守る三人はとりあえず覚悟が決まったようだ。

 しかし和やかなその雰囲気はものの十秒も持たなかった。浪の背後から、ひとりの少女が彼に声をかける。


「やはり、あなたたちは敵になってしまいますね。 あなたたち相手にあまり手荒なことをするわけにはいかないのですが」


 声は落ち着いており敵意の感じられないトーンであるが、その内容は敵以外の何者でもない。浪が身構えて問い詰める。


「お前は……っ、SEMMの追っ手か!? 見たことはねーな……」


 不敵な笑みを浮かべる少女が答える前に、シロがその顔を思い出し、ベンチから立ち上がり顔を青くして声を絞り出す。


「あの時翔馬に手紙を渡した……!! じゃああなたが未来予知のホルダー……!?」


「察しがよくて助かります。 ……逃げ切れるとお思いですか?  私の未来予知は完全。 私がSEMMに協力すればすぐにでも精鋭たちが押し寄せてきますよ。 あなた方の知る優秀なSACSのエースもね」


 にやりと笑みを浮かべたまま話す少女に、凛はスクールバッグを探ると邪悪な微笑みを返しながら刃渡り20cm程のごつい黒塗りのナイフを抜いて向ける。学校帰りそのままのはずの彼女がなぜそんな物騒なものを持っているかといった感じだが、常に戦える状態でないと不安な性分なのだろう。


「そうさせなきゃいいってだけだろうが。 戦闘向きのファクターじゃねえくせにノコノコと姿を見せてどんなつもりか知らねえが、しばらくおとなしくしてもらうぜ?」


「……未来予知が戦闘に不向き、ですか。 まあいいでしょう。 今日はあまり戦う気はないので仲間に任せることにしましょう」


 少女がそう言って指をパチンっ、と鳴らすと公園の木の陰から一瞬で黒い影が蛇かあるいはムチのように凛へと襲い掛かる。チッと軽く舌を鳴らした凛は後ろへ跳びながらナイフでそれを受け止め距離を取る。

 凛に襲い掛かったそれは伸ばしたゴムバンドを放したようにバチンッと縮むと、塊になってもごもごと蠢きながら人間の形となった。凛とシロは一度目にしているが、初めて見るふたりは見たことのない異様なファクターに驚きを隠せない。


「な、なにあれ!? 体を魔力に変換できるの!?」


 雪菜が冷や汗を垂らし驚きつつもビットを生成し戦闘に備えていると、新たな敵の影を捉えた浪が声を上げる。


「雪菜!! 後ろだ、来てるぞ!!」


 雪菜が浪の声に咄嗟に振り向きシールドを作ると、襲撃者の拳を受け止める。

 襲撃者はノンフレームのサングラスをした短い金髪の大男。着崩したシャツに千鳥柄ズボンとルーズな服装である。ただ殴りかかっただけのように見え、到底雪菜のシールドにダメージを与えることなどできないはずであるのに、かなりの魔力を込めなければ砕けてしまいそうなほどに重い。


「肉体……強化……!?」


「ほう、こいつを耐えるか。 なかなかやるじゃねーか、お嬢ちゃんよ」


 余裕を持った表情のままさらに力を込める男の拳に、ついにシールドにはひびが入り始めてしまう。その瞬間男のもとに轟音とともに雷が落ち、彼は間一髪、体格に似合わない俊敏な動きでそれを回避した。

 臨戦態勢となった浪は雪菜の前に出て敵を睨む。


「大丈夫か、雪菜?」


「うん……。 でも、やばいよ。 あんなパンチ一発でシールドが破られるなんて……、SEMMでもあれほど高レベルな肉体強化ホルダーはいないよ」


 ホルダー同士のいざこざに一般人が騒ぎながら逃げていく中、未来予知の少女の前で二人並び不敵に微笑む敵に、一同身構える。

 しかし武器を隠し持っていた凛も普段の使い慣れた片手剣ではなく、浪に至っては丸腰だ。雪菜とシロは普段から武器を使わないが、シロは目に見えて動揺しており使い物にならない様子である。凛がまっすぐ敵の方を見据えたまま雪菜に指示を出す。


「雪菜!! 二人分は厳しいだろうから、新堂の方に剣を作ってやれ。 あたしはコレで何とかする。 ちっこいのはまともに戦えそうもねえなら下がってろ」


 凛の言葉にシロは苦い顔になりながらも反論しようとする。


「わ、私も戦える……!!」


「邪魔だって言ってんだ。 あの手品野郎は暴走中のあたし相手に余裕見せてやがった。 あの大男も多分Sランク隊員並みだと思ったほうがいい。 それにカレイドの野郎がいつ攻撃してくるかもわからねえんだ。 足でまといかばってる余裕はねえんだよ」


 バッサリ切り捨てるような言葉に何も言えなくなったシロ。唇を噛み締めて俯いてしまった彼女の前に雪菜が立ち、前方広範囲を守るように横長のシールドを展開する。

 その少し左前あたりで立っている浪が右手を横に上げると、冷気が集まり剣の形をとる。


「やるぞ……!! 未来予知だかなんだか知らねえが、そんなもん俺たちで変えてやる!!」


 覚悟を決めて自分たちを睨みつける三人にどこか疲れたように顔に手をつき、メガネの少女は自分を守るように立つ二人に冷たく言い放つ。


「二人共、よろしくお願いします。 ……、事前に伝えた、勝利への道筋の通りに。 ……、どうあがこうと何も変わらない事を教えて差し上げましょう」


 少女の言葉に、まず動いたのは金髪の大男。右手を握り拳にしてバシンっと左の手のひらを叩き気合を入れると、足に力を込め一気に走る。1m90cm近い巨体は、まるで砲弾のように三人のうち一番前に出ている凛の方へと襲いかかった。


「凛ちゃん、危ないっ!!」


 叫んだ雪菜がシールドを構成するビットを一部バラして凛のもとで再構成する。彼女の左前方に出現した氷の壁は男の拳を受け止めるが、やはりいとも簡単にひび割れてしまう。凛は歯を食いしばって顔の前あたりで左側面をかばうよう、左手で握ったナイフの刃の側面を右手のひらで支えるように構え、衝撃に備える。

 間一髪のところでガードが間に合ったものの、次の瞬間予想を遥かに超える衝撃が襲う。


「やべっ……、刃が折れる……!?」


 武器を失えば勝率は更に下がってしまう。咄嗟にバックステップし衝撃を逃がし距離をとった凛を、続けざまに手品師の術が襲う。再び鞭のように飛びかかってきた相手に凛はもう一度飛び退いて回避を行い、事なきを得た。

 しかし特にダメージを受けたわけでもない彼女の顔には、さらなる焦りが見受けられる。


「ちっ!! あたしと二人を分断するのが狙いか!?」


 二度の回避行動によってできた凛と浪たちの距離はざっと6、7m程。なんだか頑張れば合流できそうにも思える距離であるが、格上相手の戦いでよそに意識を向けることがどれほど危険で無謀なのかを彼女は理解している。

 再度人の形の戻った手品師はニヤリと微笑むとハットを深くかぶり直し告げる。


「あなたがどう動くかはあらかじめ彼女に聞かされています。 ……、合流しようとするなら遠慮なく後ろから打ち抜かせて頂きますよ? 消化試合というやつですかね。 勝利が確定しているのが分かってから来ているのですから。 正直、フェアではないと思います……、が」


 手品師が言い終わるのを待たずして凛がナイフを振り、黒い衝撃波が走る。手品師は再度流動化し左右に分かれ衝撃波をかわして接近し、凛のもとで再度一体化し刃物状に変化させた腕で斬りかかった。

 両手でナイフを構え顔前で受け止めた凛に先ほどの言葉の続きを言い放つ。


「大人は時に手段を選んではいられないものなんですよ」


「ガキで……、悪かったなァッ!!」


 凛が叫びながら手品師をはじき飛ばそうとナイフを振り抜いた瞬間手品師は再度魔力となって霧散し、凛の刃は音を立てて空を切る。しまった、と身を引き構えたものの針状に変化した無数の魔力が彼女の全身を貫いた。

 しかし手心を加えているのか、致命傷には至らない。針はまた霧散し人の形に戻る。


「私の仕事はあなたを戦闘不能にし、あちらに合流させないこと、です。 痛覚遮断があろうと限界はあるでしょう」


「ちっ……、まどろっこしい真似を……。 くそっ、あっちも二人がかりでもきついだろうな……。 あたしがやられたら終わり、か」


 冷や汗を垂らし珍しく一歩引いて慎重に構えている凛。ダメージを受けているのは凛のみで、それどころか相手に攻撃を当てる手段すら未だ思いつかない。状況は最悪に近いと言えるだろう。

 一方その頃浪、雪菜組もそこまでではなくとも追い詰められた状況にいた。

 浪が雷を帯びた剣を手に敵へと駆け寄り、寸前で右へステップしフェイントをかけながら斬りかかる。しかしその刹那、浪がフェイントをかけることすら知っていたのか、既に体をひねりこちらを向いて拳を握る大男と目があった浪は、えもしれない寒気を覚える。

 そのまま大男の拳は浪の氷剣とぶつかり合い、剣はいとも簡単に砕け散りさらに圧倒的なパワー差に浪はよろけて隙を晒してしまう。瞬時に後ろで構える雪菜がシールドを形成し浪をかばうが、大男の追撃はシールドを砕きそのまま浪の腹部へと直撃する。


「……、っおえっ……!! 冗談……、だろ……!?」


「浪!! そんなっ……、あたしのシールドが全く通用しないなんて……」


 絶望的な表情で身じろぎする雪菜に、久しく聞いていなかった声が届く。


『雪菜が攻撃に回るの!! 攻撃特化の肉体強化なら十分ダメージを与えられるはずだ!!』


「……、え、エル!? 最近出てこないと思ってたら……、ってそんなことはいいか。 分かったよ!!」


 雪菜はエルの言葉に構えを変え、攻撃に転じる。ちなみに魔力の込め方は精神的な物なのでこの動きに特に意味はない。無数の氷の刃が切先を敵に向け雪菜の周囲に浮かび上がる。にいっ、と不敵に笑いサングラスを輝かせる敵に向け、雪菜がそれを打ち出す。しかし……


「この程度じゃあ……、俺は沈まねぇぞお嬢ちゃんよ!!」


 ビットが体を裂くのもお構いなしに、笑みを崩さず特攻を掛ける大男に身を引きつつ、雪菜はビットを組み上げて三本の槍とし放つ。しかし大男が腕を豪快に振るのみですべてを破壊する様に言葉を失い、そのままシールドを組むことも忘れ接近を許してしまう。伸びる丸太のように太い腕が雪菜の首筋に迫る。


「うぐっ……!? ゲホッ、がはっ!!」


「女の子相手に傷を付けるような真似はしたかねえ。 ……、まあ今日はここまででいいって話だ。 悪かったな、お嬢ちゃん」


 苦しみもがく雪菜をあっさり離すと、男は背を向けて歩いていく。咳き込む雪菜が顔を上げると大男の横には手品師、その傍らには凛が血を流して倒れていた。


「凛ちゃん!! ……、許さない……。 あんたたち……っ!!」


 怒りの表情をあらわにし、手をついて立ち上がろうとした雪菜を手品師が静止する。


「命に別状はありませんよ。 傷もそこまで深くはないはずです。 痛覚遮断のせいでいつまでも向かってくるので気絶していただいたのですよ」


 先ほどの大男の態度といい、妙な手心を加えてくる敵に気が抜けてしまった雪菜は訝しむような顔で再び膝をついた。すると男たちの横に、遠くで様子を伺っていたメガネの少女が歩み寄り、並んだ。

 少女は真面目な表情になると、膝をつく雪菜と腹を押さえながらなんとか顔を上げた浪に向かい言い放つ。


「考える時間……、いえ……。 覚悟する時間をさしあげましょう。 初めから一方的にあなた方の気持ちを無視して終わらせるのも心苦しい。 しかし考えて欲しいんです。 彼女が引き起こす事態の重大さを」


 少女は一瞬シロの方へ目線を移し話す。浪たちの後ろで戦いを見守っていたシロはビクッと体を震わせた。眉をひそめた浪が答える。


「未来が見えるんだろ……。 だったら俺がどう答えるかもわかるだろ」


「……、私は今回カレイドを連れてきていません。 こうして話をすることができなくなってしまうので、彼には黙ってきました。 そして今日あなた方が戦った二人も本気ではないのは、あなた方自身が一番よく分かっているのでは?」


「……、っ」


 彼女の言わんとすることを理解し言葉を失ってしまった浪に対し、さらに続ける。


「抵抗することに意味がないことを、あなたは理解しているはずです。 ……、まあいいでしょう。 どうせ次に会うときには最後です。 今日のところは、これで」


 拳を握り歯を食いしばる浪に背を向け少女が歩き出すと、浪の頭の中でエルが叫ぶ。


『浪、私を外に出して!!』


 浪が何事だ、と顔をしかめながらもエルを具現化すると彼女はすぐに歩き去る少女に向けて叫ぶ。


「……、あなた、レミアなの!? 『彼女』が言っていたのはあなたの事なの!?」


 足を止めた少女はうつむき気味に振り向くと、エルの質問の答えとは少し違うことを話す。その顔には悲しみと覚悟のようなものが宿っていた。


「……、私はお母さんが救った世界を守ります。 本当は真実を歪めるSEMMも憎むべき敵。 でも、お母さんが作った物だから許しているに過ぎません」


 レミアと呼ばれた少女はそれ以上は語らずそのまま歩き去っていった。しばらく後、事情の飲み込めない三人のうち浪が顔をしかめて少し睨むように口を開く。


「エル、お前あいつのこと知ってたのか?」


「知っているっていうのかな……? 知り合いの、娘なの。 話さないといけないね。 SEMM創設にまつわるヒミツと……、SEMMを動かす人物について……。 でもその前に、もう少し落ち着ける場所を見つけないと……」


 確かにお尋ね者である彼らがこのままこんなところで話し込むのはまずい。そもそも逃げていった一般人の誰かがSACSを呼んでいてもおかしくはない。

 エルが困った顔でつぶやくと、思いがけない人物が一同に声をかける。


「あなたたち……、こんなところで何をやってるのよ」


 木陰の遊歩道から恐る恐る顔を出した少女は、オレンジの髪を後ろでまとめた顔の整った美少女。覚えのあるその顔を見て、雪菜が思わず声を出す。


「あ、あなた……、井上アンリさん?」


 そう、凛の中で感じ悪い奴だと評判な隣のクラスの転校生であった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る