心配故に
家に帰ると、もう眠っていたはずの祖父母と、部屋で音楽を聴いているはずの兄が待ち構えていた。
鬼のような表情をしながら、烈火のごとく叱られた。
兄は実のところ僕が夜な夜な外出していることに気づいていて、放置すればそのうち止めるんじゃないかと見逃してくれていたのだが、一向に止める気配がなかったので、ついには祖父母に打ち明けたのだった。
納得はしてもらえないかもしれないが、僕にも言い分はあった。
けれど、聞き入れてはもらえなかった。
両親が亡くなっているという出来事から、もし僕まで何かあったらどうするんだと言われると、僕にはもう何も言えなかった。
当然のごとく、外出は禁止された。
自室から眺めるは月は、ほとんど満月に近づいており、すべてが終わる日の予兆を如実に感じた。
でも、僕が考えていたのは、堕とされる対象の月ではなくて、ミネコさんのことだった。
ミネコさん。
約束を果たせないかもしれない。
ごめん。
身長は今日も相変わらずの平行線で、柱の傷はいよいよ深まっていくばかりだった。
別の意味で学校には行きたくなかったけど、今日も行かなければならない。
足取りはいつもより重くて、精神的な不調を強く感じた。
今日もシエラさんに追い抜かれて、学校の正面玄関に差し掛かる手前で、ミネコさんがリズムよくやってきた。
「おっはよーユウト。いよいよ、明日だね」
いつも通り背中を叩かれたけど、言いにくい言葉が喉につっかえて、むせこんだ。
ものすごく気が重くて進まないけれど、言わなければならない。
「ミネコさん」
今にも駆け出しそうなミネコさんを呼び止めた。
今言えなかったら、きっとずるずると言えないまま引きずってしまう。
そんな弱さを、僕は情けなく思う。
「実は、夜出かけていたことが、家族にバレちゃって……外出禁止だって、怒られちゃって……明日行けない、かも」
どんどん声が小さく、弱々しくなっていった。
言葉を紡ぐ口も、チリチリとするような空気も重さを増していく。
ミネコさんの相貌は崩れ、悲しみを抱えた表情へと変貌していく。
出来ればあまり見ていたくはないのだけれど、自分の責任を持って、ミネコさんから視線を逸らさずに眺め続けた。
「あたしには、ユウトしかいないの」
一言だけど、とても重かった。
僕にもミネコさんにもそれぞれの関係性があり、事情だってあるのだけれど、ミネコさんにとってのこの出来事は、僕しか拠り所がないのだ。
そう考えると、とても、とても痛い。
「僕だって行きたくないわけじゃないんだ。ただ……家族にこれ以上心配をかけられないっていうか……」
正論ではあるのだろうけど、うまく表現出来ない。
ミネコさんを悲しませたくないのと同じくらい、家族に心配をかけさせたくないというのは、両方とも本心なんだ。
両立出来ない気持ちというのは、ひどくもどかしい。
「わかった。もういいよ。あたし一人でなんとかする」
そう言って、目にも留まらぬスピードでミネコさんは駆けていった。
咄嗟に呼び止めようと手が伸びたけど、僕に与えられる言葉は何も思い浮かばなくて、力なく重力に従い、垂れ下がる。
足取りが重くて、いつもより不器用な歩みで、教室に向かった。
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