第3話:休日と契約と必要な情報

 休日。少女はいつにもまして早起きをした。同じ部屋の同居人にどうしても慣れないからだ。


「ミューズって浮いたまま寝るんだね……。コウモリって天井にぶら下がるものだと思ってた……」

『俺はコウモリをモチーフにしただけでだな……! 本来、ディークは浮くんだよ!』


 呆れながら話す赤眼のコウモリに、ハルは慣れはじめていた。

 出会って一晩経ったとは言え、人語を解する怪生物の存在は非現実的だ。それでも、彼女は矢継ぎ早に起こった非日常をその目で目撃した。そうなると、信じるしかないのだ。


「ねぇ、ちょっとディークについて興味湧いたんだけど……」

『確かに契約の確認は必要だな……。今後の法廷闘争とかがないように、な』


 一人と一匹が話しあう空間には、誰も邪魔するものはいない。Tシャツにスウェットパンツでラフに決めた休日ルックのハルは、目の前に浮かぶ寄生生物に矢継ぎ早に質問を始める。


「そもそも、ディークってなんなの?」

『この街の夜に現れる生物。人間の言葉で言うなら、“悪魔”だの“憑き物”だのが近いかな。憑依する奴らの願いを叶える見返りに、そいつの自我を乗っ取ることができる』

「それ、契約前に言ってほしかったなぁ。もっとちゃんとした願いはいっぱいあるのに!」

『〈周囲の人間を守りたい〉だもんな。咄嗟とは言え、よく出るよ。そんな美辞麗句を願いにするなんて、無私のヒーローにでもなるつもりか?」


 ミューズは一頻り笑った後、嫌いじゃない、と呟いた。

『安心しろ! その願いを叶えるための能力は、契約時にちゃんと自由に扱えるようにしてある。異能がヒーローたらしめるなんてのは詭弁だが、あった方が便利だろ?』

「それは、憑依するディークによって変わるんだよね。あの時は……血から弾丸を作ってた」

『そういうこと。俺の能力は、“触れた血液をほかの物質に変える”ことだよ。止血にも使えるし、悪くないだろ?』


『昨日みたいに、素質がないやつ——俺らが見えないやつを乗っ取って暴走したディークノアは、夜にしか出ない。あいつらは、夜しか活動できないんだよ。太陽の下では、ディークの力は生存活動に精一杯になるからな。だからお前の日常生活はできる限り尊重される、はず!』

「その……ディークノアっていう怪物を倒せば安全が戻るんだよね……?」

『まぁ、そういう事だな。ハルは周りのやつをディークノアから守り、俺は人間を操れて万々歳。win-winな関係じゃん。誰も損をしない! 完璧!』

 ミューズは両翼をいのるように畳み、笑う。それは揉み手めいて、なんらかのメッセージをハルに想起させた。


『そうと決まればアレだ。戦い方のレクチャーだ! 行くぞ未来のヒーロー!!』

「ヒーローになるなんて一言も言ってないけど!?」

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