第19話 血の宴
地球軌道上。八月十六日。国連軍艦隊、旗艦、「トル―マン」艦上。三人の米国議員が話しをしていた。
「ライス君。君が日本からもたらした、AANF。これがあれば、奴等を殲滅出来る。地球の名の下に」「ブッシュ議員、アンチ・アンチ・ニュ―トロンフィ―ルドは、日本でもまだ実戦テストは済んでいません。大丈夫でしょうか・・・」「君は心配しすぎだ」「ケネディ議員・・・」「まもなく、我等が大教主猊下の、祝福の祝詞も終わる。そうしたら・・・」「私の話しかね」大教主だった。「これはラッセル猊下。まもなく、AANFの力の元、奴等に神の焔を、神罰を下します」「うむ。よかろう。我が敬虔なる教徒が、核の力を再びもたらした。正に主のお導き」「猊下、間も無く会戦の時間です」「オペレーション・ラグナロク。今日が、奴等の黄昏の日となる事を」『地球の名の下に!!!』
トル―マン、艦橋。「・・・艦隊の布陣を急がせろ!!フェリシアの蛞蝓どもは、待ってはくれんぞ!!」「ハルゼ―提督。シュ―ティングスタ―Ⅱ隊の出撃は宜しいのですか?」「新型核をブチ込めば、奴等は殲滅される。キル・フェリシア、キル・フェリシア、キル・フェリシアだ!!」「地球の名の下に、ですか・・・」「儂は、あの宗教は好かん。儂は本家キリスト教徒だからな」「・・・その割には、随分と御言葉がきついですな」「参謀長、キル・ジャップと言っていた儂の先祖よりは、随分と知性的なつもりだがね」「失礼致しました」「うむ。現在の時刻は?」「PM9時。丁度、戦闘が、ステイツの国民に見せられますな」「よろしい。新型核ミサイル弾頭、装填最終確認。VLS開け」「アイ、核ミサイル、全弾装填確認。」「続いて、AANF、展開。」「アイ、AANF展開、確認。核ミサイル弾頭部AANF、正常に動作中。いつでも撃てます」「よろしい。一応念の為、シュ―ティングスタ―Ⅱ隊も、待機させろ。・・・それでは、全艦、核ミサイル発射!!」再び、国連軍が核ミサイルを放つ。改悪された、新型核ミサイル。フェリシア艦隊の命運は、尽きたかに見えた。
「ア―シア人が、再び「焔」を使用した模様です!!」「・・・愚かな。全艦、新型対核分裂力場、展開!!」殺意に満ちた、核ミサイルが飛翔する。まもなく、惨劇が起こる。地球側は、そう信じていた。
「核ミサイル、着弾まで、あと5・・4・・3・・2・・」「ゼロ!!・・・どうした!?何故起爆しない!?」「閣下、敵艦隊周辺に、ANF反応。・・・ワシントンの交戦デ―タと比較・・・以前より強力になっています!!」
ハルゼ―は、一瞬躊躇した。しかし、彼は、フェリシア人に対しては差別的であったが、戦いに関しては勇将であった。「・・・ブル・ハルゼ―と言われた祖先に誓って。地球とステイツに、勝利を!!各艦!!」「アイ、友軍艦隊、混乱中」「艦隊戦だ!!砲撃距離まで全速で距離を詰める!!シュ―ティングスタ―Ⅱ隊、マシアス少佐!!」「マシアスです。我が隊、出撃準備、既に完了」「手際が良いな、マシアス。・・・出ろ!!」「了解!!パトリック・マシアス少佐、シュ―ティングスタ―Ⅱ隊、出る!!」米軍のTIが出撃する。マシアスが見ると、友軍艦隊からも、TIが発進していた。ミ―ティアⅡ、コメ―ト、サジタリオ、ズヴェズダ。地球の総力を挙げた、布陣。この一戦に敗れれば。地球は、フェリシアの支配から、逃れられない。そう、将兵達は信じていた。
・・・俺は、あまりあの女どもが嫌いじゃない。だが、ステイツの、地球の命運を賭けたこの一戦、負ける訳にはいかない!!前方に敵機を捕らえる。「行くぞ!」マシアスは、混沌の戦場へと、突撃して行った。
「くそっ、何て速さだ!!」ブリーフィングで言っていた、「フェリス」と言う奴か・・・連中の高名な騎士から、命名されたとか言う・・・それなら、例の装備を搭載しているはずだ!!「ヴァルキュリア・システム!!舞え、戦乙女達よ!!」蒼い光芒が、空域に迸る。
・・・これが、この攻撃端末が、ウルルでフェリシアの皇女が使った、「ワルキュ―レ」の量産型か・・・!!!あの、」オ―ストラリアの戦場で。たった1騎で、国連軍と、日本軍のタスクフォ―スを壊滅に追い込んだ、攻撃端末。・・俺のシュ―ティングスタ―Ⅱとでは、性能的に格が違う・・・と、マシアスは、敵陣に、一際大きな騎士がいる事に気がついた。「儂は神聖フェリシア皇国が元老院長、アドルフ・ジークフリードなり!アーシアには最早勇猛な武人はおらぬと見える」くそっ、勝手な事を・・・!そう思った瞬間、コメート高機動型が飛び出した。ドイツのTI・・・、シヴァルツ大佐か!「ギュンター・シヴァルツがお相手する。参るぞ」「面白い。このヴォータンの神剣、「ファルシオン」の錆にしてくれる」コメートと、ヴォータンが激しく切り結ぶ。しかし、体躯の差から、徐々にコメートが不利になって来た。「その首、貰った!」「くっ・・・!」「させるかあっ!」マシアスは、機体の殆どのエネルギーで、ヴォータンを狙撃した。「くっ、アーシアの雑兵め・・・以外にやりおるわ」
と、通信。「こちらトル―マンCIC。マシアス少佐、Aフィ―ルドはもう持ちません!!本艦の防衛に戻って下さい!!」「了解、母艦の護衛に付く!シヴァルツ大佐も、ご自分の艦へ!」「了解した。貴官の健闘を祈る」
マシアスが母艦空域に戻ると、味方艦隊の壊走ぶりが、見て取れた。「ブッシュ、轟沈。オバマ、大破。クリントン、撃沈」「ハルゼー提督に報告!!友軍艦隊に被害多数!!グラーフ・ツェッペリン、大破。シャルル・ド・ゴール、撃沈!アリゾナⅢ、轟沈!!我が艦隊、被害甚大!!」「ああっ!ハルゼー提督!!エンタープライズが…!!」「ビッグEーⅢが沈んだか…」
艦橋要員が、淡々と戦況を報告する。納骨堂の様に静まり返った艦橋。と、そこに。「ああっ、私の家名の艦が!!」「ハルゼ―君、これはどうした事か!!フェリシアの蛞蝓共に押されているではないか!」「これはラッセル教主殿、ブッシュ議員も」後ろから、ライスとケネディが続く。
「これでは壊走ではないか!!体当たりしてでも、奴等を皆殺しにしたまえ!!」「それではジャップのカミカゼ・アタックと変わりませんな。いや、ス―サイド・アタックの方が、今の状況には当て嵌まる」「何を貴様は冷静に・・・」「カミカゼアタック等。其れをする段階で、戦争には負けている証ですぞ。ステイツの若者達に、昔の日本人と同じ悲劇を繰り返させるおつもりか」「貴様・・・!!殺せ!あの化け物共を!!皆殺しにするんだ!!」「奴らからすれば、アンタ達の方がよっぽど化け物だろうよ」
ラッセル大教主が、ハルゼ―に殴りかかろうとした、瞬間。「貫け、ヴァルキュリア!!」近衛騎士団所属のフェリスのヴァルキュリアが、艦橋を貫いた。「ステイツに、勝利あれ・・・!!」「ひいいっ、いやだ、死にたくない・・・」対照的な、ハルゼ―とブッシュ。ライスとケネディは、既に息絶えていた。そして。
「しゅ、主よ・・・!!何故、穢れたフェリシア人に、あのような力を・・・」ラッセル大教主が貫かれた。それと時を同じくして、艦体中心から折れ曲がり、巨大な爆発とともに、トル―マンは沈んだ。
「こちら、シュ―ティングスタ―Ⅱ隊指揮官、パトリック・マシアスだ!!これより我が軍は、戦域を放棄!!後退するぞ!!」「マシアス、何を勝手・・・」通信が切れた。空母スプル―アンスが沈んだのだ。「生き残りたい奴は、俺について来い!!母艦はもう沈んじまった!!」周辺空域から、生き残りのTIが、終結する。「離脱目標、戦域離脱中の空母ニミッツ!!母艦まで後少しだ!!皆、頑張れ!!」「私はドイツ連邦軍TI部隊指揮官、ギュンター・シヴァルツ大佐である。総員、マシアス少佐の指揮に従え」
・・・こうして、国連軍艦隊の、二度目の核攻撃は、無為と化した。戦場が地球近海であった為に、生存者の収容が幾らか進んだ事が、唯一の幸いであった。もっとも、フェリシア艦隊も、敵である地球人の捕虜の救援を行ってはいたが。
博秋は、ニュ―スを「シルフィ」の艦内で眺めていた。・・・まさか、国連軍が、二度目の核攻撃に臨むとは。いや、こうも簡単に、地球の、日本以外のほぼ全ての軍事力を相手にして、尚。これほど一方的とは。フェリシアの力、フェリシア人を知らない者からすれば、恐ろしいのも無理は無い。と、足音がする。シルフィだった。
「博秋。国連軍艦隊、やはり我がフェリシアに、禁断の焔を再び用いたな」「ああ。フェリシアには核は無力と知っていて、何故あんな自殺行為を・・・」と、乗員が告げる。「黒巖少佐、武蔵より入電。少佐宛に、極秘電文が来たとの事です」「わかりました。シルフィも来る?」「無論じゃ。今の汝と我は、一蓮托生ぞ」シルフィを連れ、小型艇で武蔵に向かう。
「黒巖少佐。自衛隊から、暗号電文です」「暗号・・・?」「翻訳は済んでおります。少佐が到着し次第、極秘デ―タを送信すると」「了解。僕が到着したと伝えて下さい」・・・しばらくして、デ―タが届き、解析が終了した。
自衛隊からのデ―タを受け取り、内容に眼を通す。機動強襲軍の配置、装備、貴重なデ―タだ。これを入手するために、幾人の諜報員が・・・いや、今はあえて考えない。その中に、奇妙な単語があった。
「「AANF」・・・なんだ、これ?」誰も解らない。ただ、一つ言えるのは。これほどの危険を冒して送信されたデ―タが、普通の物では無いと言う事。・・・ありがとう、自衛隊の誰か。この情報は、必ず有益に使います。
・・・その頃。地球軌道上、機動強襲軍、総旗艦「大和」。東郷が、フェリシアへ、重大な布告をしようとしていた。
「世界は、悪意に満ちている!!その一つ、アカシは、狂気じみた教主と共に、宇宙へ消えた。しかし、今だ尚!!フェリシアの悪意は!!世界を暗雲へと誘っている!!倒さねばならぬ。地球人類の、種の生存を賭けて!!!」
うおおっ・・・!!!
東郷の言の葉に、軍の隊員たちが、士気を鼓舞される。そして。
「自衛隊。あの、奴隷憲法の狗共が、我が軍の「暴走」を止めると言う名目で、反逆皇女、シルフィ・リ・フェリシアに協力しておる事実を、諸君等は知るまい!!」「大和」の演説会場から、自衛隊と、憲法九条へのブ―イングが響く。
「自衛隊。かつて、米国の都合で生み出された、警察予備隊。その奴隷憲法の狗は、我が軍のデ―タを、反逆皇女、シルフィ・リ・フェリシアに渡した!!これは決して許される事ではない!!奴隷の平和に安住する彼等。最早味方とは呼べぬ。従って、今や自衛隊も、我が軍の敵となったと、私は宣言する!!」万雷の拍手。そして。遂に。
「神聖フェリシア皇国、最高指導者、聖皇女。フェリア・リ・フェリシアよ。我が軍、我が国は、世界の総意として、地球を代表し、長崎宣言条約機構軍の友と共に、貴国に宣戦布告する事を、此処に宣言する!!!!」
第二十章 神国を守護せし者
武蔵艦内。博秋は、先程の自衛隊からのデ―タを分析していた。自衛隊有志の意思、無駄には出来ない。僕の桜会IDで、武蔵のサーバーにログインして見る…シルフィは期待してないみたいだけど…!イン出来た!?でも何故…否、今は情報を入手するんだ。・・・それにしても。
あのデ―タ転送が、元帥にばれていたなんて。「恐らく、AANFも、東郷が、意図的に渡したのであろう。フェリシアに、禁断の焔の力で挑むように。」「自衛隊とも、僕達戦う事になるのかな?」「汝に電文を送った者達ならば、そうはならんじゃろうが・・・はっきりとは言えんの。」「失礼します、黒巖少佐、シルフィ殿下。」「博秋が船の乗員か。何じゃ?」「敵内部の元自衛隊有志より、緊急電です」「今度はいったい?」「東郷が、大和での演説で、自衛隊を敵と名指ししたそうです」・・・なんだって?自衛隊と、機動強襲軍が戦う?日本人同士で!?「止めなきゃ、シルフィ」「少佐、手遅れかと・・・大和を含む、敵第一機動艦隊は、間も無く自衛隊第一護衛隊と会敵します。会戦は不可避であります」
・・・くそっ、東郷元帥・・・!!日本人同士で殺しあってまで、アンタの理想、世界統一はしなきゃいけない事なのか!?しかも、その後は、日本主導の、対フェリシアとの決戦を予定して。・・・間違ってる。でも、僕達には、今は打つ手が無い。「博秋よ。この戦い、汝が祖国の同胞同士がいくさであるか」「・・・うん。認めたく無いけど」「我も。」「え?」「我も。この戦いを続ける以上、皇国の騎士と切り結ぶ日を、覚悟せねばならぬ」「・・・シルフィ。」「祈ろう。汝が同胞達が、剣を鞘に収める様。」「ああ。どこかの神様に。」・・・正直、こんな無意味な殺し合いの日が来るとは、考えていなかった。群に入隊した頃の僕は、時分で思っていたより、ずっと幼かったのだ。
大和・元帥執務室。「君達が、AANFのデ―タを、黒巖君に渡さなければ。彼も、彼女も、これから死ぬ事には無らなかっただろう」
東郷は、そう通話相手に言うと、通話を切った。相手は、いまから戦おうとしている、同胞たる日本人、自衛隊、軌道上第一護衛隊司令、田中一佐。今更無駄な事を。対話の機会を寄越せ、だと?馬鹿な。今こそ、奴隷憲法の狗を一掃する好機。逃がしはしない・・・!!!そして、暫くの後。
地球軌道上・日本国上空。自衛隊と、機動強襲軍の決戦が、行われようとしていた。
その少し後方、今上帝御召艦・比叡。桜ノ宮陛下が、機動強襲軍に対し、演説をなさろうとしておられた。
「機動強襲軍最高指揮官、元帥・東郷春樹。聞こえていますか」「御意、陛下。ここは間も無くいくさばとなります。後方へお下がり下さいますよう・・・」「貴方達は、賊軍です。日本のつわものを名乗るならば、兵を引きなさい!!!」
大和では、乗員に動揺が走った。「陛下が、我々を賊軍と!?」「馬鹿な!我等こそ、神州の先駆け!それを、陛下は・・・」「奸臣どもが、陛下を誑かしておるのだ。」
執務室、東郷は。「・・・陛下、今現在の地球が置かれている状況。我が国が、奴隷憲法の狗を駆逐し。世界を神州が統一し。・・・そして、フェリシアとの決戦に備えなければなりません」「賊臣が述べそうな事です。貴方達は、あの二・二六事件の青年将校と、規模は違えど同じなのです。何故、それを貴方程の者が、理解し得ないのですか!!!」
春樹は思った。・・・やはり、皇統の血を受け継ぐお方だ。決意も、覚悟もある。・・・しかし、陛下。貴女は女だ。昭和帝程の力はない。既に、世論は私を支持している。貴女には、御退場願おう。「陛下。奸臣どもの甘言に惑わされ、このいくさを長期化させる御積もりですか」「そのような事、余の名において赦しません」「では、陛下はお下がり下さい。近衛兵、陛下を御部屋へ御連れせよ」「な・・・この比叡に、貴方の手の者が・・入り込んでいたなんて・・・」「陛下は、比叡の艦橋から、我が軍の戦いぶりをご照覧下さい。・・・神州を守護せるものが、一体どちらであるかを、御見極め下さいます様。」うやうやしく礼をすると、春樹は、艦内放送に繋げ、と副官に命じた。
「諸君。我等が敬愛する、桜ノ宮陛下は、奸臣どもに誑かされておった。栄光ある我が軍の兵士諸君。我々が、真に神州を守護する者である事を、陛下に御見せするのだ!!」
うおおおっ・・・!!!艦内の熱狂は、最高潮に達していた。しかし。「皇国の興廃はかかってこの一戦にアリ。」うおおっ・・・!!!周囲が熱狂する中、冷めた目で、東郷の言葉を聞いている物も幾らか存在した。(誰にとっての皇国だよ?)彼らは、自衛隊から、成績優秀と言う事から、半ば強引に、軍に移籍させられた将兵だった。元々、東郷には、あまり良い印象を持っては居なかった。
その頃。自衛隊、第一軌道護衛隊、旗艦「じんつう」では、田中司令が檄を飛ばしていた。「我が艦隊の諸君!逆賊、東郷春樹は、恐れ多くも今上帝の御聖断を一蹴した!!断じて赦してはならない!」そうだ、と艦橋要員が相乗りする。「自衛隊、この我々こそが、憲法九条の元、平和な日本を守る存在なのだ。ウルルの虐殺を見よ!あの悲劇が、東郷を放置すれば、フェリシア人だけでなく!地球の同胞に降りかかるだろう!!」拍手。田中司令は余り、演説が得意な方ではなかったが、部下の人心は掌握出来たと感じた。「東郷は、日本による世界統一を目論んでいる。先程の、陛下との会話でも、それは明らかだ。であるならば、諸君。我が自衛隊が、平和日本の精神を守護しようではないか!!」再び、部下達の拍手。田中は、この戦いに勝機が無い事を、あるいは東郷以上に知っていた。しかし、負けるからと言って、力にただ屈する訳にはいかない。それでは奴の言う、奴隷の平和に等しいからだ。
軌道上、日本の領空内。日本人同士が、血で血を洗う、死の宴が始まろうとしていた。
「我が第一機動艦隊は、大和を中心に、扶桑、長門の第一戦隊。これを中核とし、第三艦隊の艦載機で、「敵」艦隊を殲滅する」「復唱、」「良い。儀礼は、私は好まぬ」「了解しました、元帥閣下。」「敵情はどうか」「旗艦「じんつう」を中心とし、前方に「ゆきかぜ」を中心とする水雷戦隊が、我が方に突撃して来ています」「ふむ。水雷戦か。我が第一戦隊の火力で叩きのめす」「了解」第一戦隊の大和。そして、扶桑、長門の両巨艦が、一斉に火蓋を切る。
「続いて、蒼天、白夜隊、雷光隊、発艦。・・・藤咲中佐、やれるな?」「・・・はい。ただ、同胞と戦うのは・・・」「君の務めだ。中佐の位、伊達では無いと、私に見せてくれ」「藤咲中佐、了解。・・・蒼天、出ます!!」沙織の蒼天が出撃した。続いて、白夜隊、雷光隊がその後に続く。「・・・博秋君、見てなさい。これが、閣下に忠誠を誓った、私の力よ!」
「蒼天、接近!」自衛隊護衛艦隊が動揺する。自衛隊でも、蒼天の藤咲の異名は、よく知られていた。特に、敵に容赦が無いと言う事も。「村正、起動!一気にケリをつける!!」沙織の言葉通り、蒼天が、長刀身の大剣を両腕で抱える。そのひと薙ぎで、護衛艦の船体が、両断される。「雑魚はいい!次!」「蒼い悪魔に、砲撃を集中させろ!」「たつた」が、全砲門の照準を、蒼天に定める。しかし、蒼天は、淡い紺の光と共に、一瞬で消え去る。「てんりゅう」が「かこ」共々、一刀の元に切り伏せられる。「・・・はあ、はあ、はあ、・・・同じ日本人を殺す事になるなんて。・・・博秋君・・・」丁度その頃、第三航空艦隊も、艦載機発進の準備を完了していた。「翔鶴、瑞鶴、信濃、攻撃隊発艦準備、完了セリ」「了解だ。艦載機隊で、敵艦隊を殲滅する」翔鶴、瑞鶴、信濃から、震電、流星が次々に発艦する。目標は、前方の自衛隊艦隊。最早、艦隊として機能してはいなかったが。沙織は、「ちょうかい」を艦橋ごと艦体を真っ二つに斬り捨てたところで、艦載機隊とすれ違った。「・・・あれが、第三艦隊の・・・」そう沙織が思った瞬間に、艦載機隊の攻撃が始まった。
戦場中心部、艦載機の攻撃の最中。二人の操者が、切り結んでいた。方や機動強襲軍、方や自衛隊。白夜と睦月。性能差は圧倒的だったが、睦月の操者は一歩も引かない。白夜の操者が叫ぶ。 「世界は!日本によって導かれなければならんのだ!!奴隷の平和など!!ッ」睦月の操者が返す。「貴様らはただ支配したいだけだろうが!?」「黙れッ!!押し付けられた憲法の下、惰眠を貪るだけの愚民に、守る価値等無い!!愛国心が有るならば、そこを退けッ!!」「それでも・・・あの法は!!日本を守って来た!!」二人の激闘は、果てし無く続くかに見えたが、睦月が、流星の対艦陽電子砲を受け、爆散した。「愚か者め・・・死に急ぎおって」白夜の操者は、死せる睦月の操者を弔った。
紗織は、大和に着艦すると、急に恐怖心がわき起こって来た。「これで・・・良かったのよね・・・」沙織は、同胞を手にかけた事で、初めて、人の命を奪い続けた事の実感が湧いて来た。「怖い・・・私、同胞を・・・しかも、同じ日本人を・・・」「気に病むな、藤咲君」「閣下。・・・本当に、これで・・」「君は、私の大義に賛同すると言った。その言葉は偽りか」「いえ、そのような・・・」「以前、蒼天を託した時に、君と黒巖君に話した筈だ。皇軍も、自衛隊も、同胞たる地球の国家の脅威から、神州を守護する為に作られた機関であると。その自衛隊が、己の務めを果たさない。いや、時代が変わったのだ。思ったより早くな」「・・・と、仰いますと・・」「フェリシア人だ。奴等が来たから、我が軍が生まれた・・・漸く、日本も普通の国になる、そう言う事だ」
・・・・沙織は悩んでいた。「普通の国」になる。それは、つまり。いくつかの大国のように、国家利益の為、他国の紛争に介入したり。・・・敵国の民間人を誤射したり。そんな毎日を過ごす。私が。この子、蒼天の力で。・・・嫌だ。そんなのは、嫌だ。フェリシアの女の下に走った、幼馴染の博秋君。彼なら、なんと答えてくれるだろう。・・・会いたい。
「大和」艦橋。「太陽光圧縮収束砲、使わずに済んで、良かったですな」「君。フェリシア人との決戦が近いのだ、手の内は見せぬほど良い」「小官が、失念しておりました」「良い。君も、同胞とのいくさは疲れただろう。」「いえ、敵はまだ降伏しておりませんからな・・・ん?発光信号・・・読め」「はっ。我降伏ス、寛大ナル処遇ヲ期待ス・・・以上です」
「決定的だな。これで、我が軍とフェリシアの戦争を妨害するものはいなくなった」・・・後は、フェリシア人を粛清し、新たなる秩序を生み出す。私が、神州を救う。私は、救国の現人神となるのだ。
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