第18話 ―二つの星の、闇を穿て―

翌日。「シルフィ、君の船、「シルフィ」は?」「我を探しておる。汝が目を覚ますまで、通信は控えておったのじゃ」いつも、気配りを忘れないシルフィ。・・・そう言えば、日進の乗員達は!?「シルフィ、戦いの途中で僕の船から離脱してきた人達は?」「ああ、「ニッシン」の乗員であるか。案ずるでない。我が艦が、既に救助しておる。電文でそう言って来ておる」・・・良かった、戦場に取り残されたのかと、心配していたんだ。

 「汝が起きたので、我が艦に我等の位置を知らせたいが。良いか?」「うん、頼むよ。日進の乗員とも、合流したいし」「決まりじゃな。では、我は「シルフィ」に連絡する」美しいフェリシア語が聞こえる。綺麗なシルフィ。と、声が止み、僕に語りかける。「博秋。我が艦、もうこの空域にあるとの事・・・見えた!我が艦じゃ!」「もう来たのか・・早いな、流石に」

 「シルフィ」が降下して来た。駆け寄る僕達。「お二人とも、お怪我はありませんか?」戦士が聞く。あの激戦の後だものな。「うむ。我ら二人、共に健やかぞ」シルフィの空元気だが、その戦士は、それ以上追及しなかった。彼女なりの気遣いなのだろう。

 艦内に入る。乗員が、シルフィにかしずく。「シルフィ・リ・フェリシア皇女殿下、御帰還、まことに御機嫌麗しゅう・・・」「良い。我は、最早皇国に弓引く身ぞ。そなたらもヴァルハラに帰艦した方が良うないか?」「ご冗談を。我等が主君は、シルフィ皇女殿下のみに御座います」「良かろう。そなた等の忠誠、確かに受け取った」そうシルフィは言い、艦橋へ上がって行く。途中で出会った「シルフィ」の乗員に聞けば、ウルル入植地は、機動強襲軍が再占領してしまったと言う。・・・東郷元帥の後退は、一時的な物だったらしい。それとも、最初からそう言う腹積もりだったのか。

 シルフィ艦内・会議の間。「黒巖少佐、お元気で・・・!!」日進の乗員達が集合していた。「皆さん、無事だったのですね」「このフネに助けられました。いい年をして、死に損こなっております」「そんな事・・・!!あれ、猪口副長?」「少佐か。私も、被弾区画にたまたまいてね、脱出艇に乗ってきた訳だ。」・・・副長がいるのは心強い。彼は第一次星間大戦以来の歴戦の勇士だからだ。「そろそろ良いか。間も無く情報を整理し終わる。しかる後、合同作戦会議としたいが。異論のある者は挙手をせよ」誰も、異論は無い。おそらく史上初の、フェリシア・地球合同作戦会議が、間も無く開かれる・・・

 西暦二一〇七年八月壱拾五日。パプアニュ―ギニア領、ニュ―ブリテン島・ラバウル沖、深海。「シルフィ」の艦内。博秋と日進の元乗員、シルフィと彼女の部下達。合同作戦会議が開かれていた。

 「では、地球・フェリシア合同作戦会議を行う。昨日までのいさかいを捨て、忌憚無き意見を聞きたい」そう、シルフィは言った。

 「東郷元帥の動向は?」副長に聞いてみる。「詳細は不明だ。だが、ウルルからは後退したようだな。ニュ―スではあるが、種子島宇宙港から宇宙へ上がるらしい」「宇宙・・・フェリシア軍と戦うのでしょうか?」「多分、『大和』と合流するのでしょう」砲術長だ。「大和」の火力。あれは、単艦で、自衛隊と国連軍、双方と渡り合えますな」・・・そう、砲術長は言った。「いつの間に、そんな艦が・・・?」「建造が開始されて、もう数年になります。・・・それより、あのフネの最大の脅威。『太陽光圧縮収束砲』「太陽光・・・圧縮収束砲?」「そう。アレがある限り、大和に負けは無い。あれは、一撃で地球と月を貫通する威力がありますでな」とんでも無い威力だ。と、シルフィが口を挟んだ。「我が皇国軍にも、悪魔の兵器が存在する。・・・収束魔力砲。」「それは、どんな武器なんだい?」「ヴァルハラで冷凍睡眠中の同胞の魔力を、ヴァルハラの艦体を媒介とし、月のフェリアスから発射する。ヴァルハラが近くに居ないと使えぬが、最大出力で撃てば・・・この太陽系が消滅する」・・・     

誰も声が出なかった。唖然とした、と言うべきか。「アレは、正しく悪魔の兵器。皇国元老院が極秘に開発していたが、ウルルの動乱の混乱に乗じて、民にも発表された。・・・幸い、我が民は、アレには良い感情は抱いておらんが。」

 どうしよう。四面楚歌だ。と、「『武蔵』。アレは、まだ竣工間も無い」「戦力は?」「武装の一部が未完成で、主砲が「太陽光収束砲」のままです」・・・それだ。それしかない。大和と戦うには、それしか―

 「「武蔵」を奪取しましょう」「しかし、あのフネは・・・、あれも十分手強いですぞ」「このいくさ、木星の皇国本国艦隊が来航するまでに決せねば。月のフェリアスを含む、七巨艦。それと、新造艦のファリエスとフェレセア。あの艦達に介入されたら、勝機は無い。その為には、「ムサシ」の力が必要なのであろう?決まりであるな。本艦はこれより、武蔵奪取作戦を発動する!!!」

・・・「シルフィ」が、大気圏を突き抜けていく。今は、地球軌道上。月軌道へ曳航される武蔵を、奪取する。僕と、シルフィで。そう、作戦は決まった。・・・シルフィが、彼女の近衛騎士、フェリエルさんを連れて行くか?と聞いてきたが、「罪は、僕達で背負おう。」と言うと、無言で頷いた。

 「シルフィ、武蔵に向かうよ」「解っておる。・・・ゆくぞ」「シルフィ」から、夜天とシルフィリアが撃ち出される。武蔵曳航艦隊まで、あと僅か。

 「少佐」「今の僕は、軍から離れた身だ。少佐じゃないよ」「部隊の維持には、規律として階級が必要と考えます」それは、一理ある。「なんだい、夜天?」「武装名を変更しないのでしょうか」あ。僕はかつて、彼がまだ十六夜の人工知能だった頃、機体の武装名を変更したのだ。呼びやすく、と思ったが、後で沙織に「中二っぽい名前」と酷評されたっけ。・・・で、それをまたやるか、彼は聞いているのだ。

 「了解。武装名称、再変更。いいね?」「了解」「じゃあ・・・、陽電子砲を「与一」、長刀身超高振動斬撃刀を、「正宗」。長刀身固定磁場刀を「草薙」。・・・草薙は以前にもう変更したっけ?以上、変更終了。」「変更、了解。〇七式長砲身陽電子砲、与一。〇七式長刀身超高振動斬撃刀、正宗。〇七式長刀身固定磁場刀、草薙。各武装、再度変更確認。変更終了」「・・・宜しく頼む、夜天。さすがに正式名称は居朝か長い」こういうとき、シルフィリアの武装名は、単純に美しい名前だと思う。エクスカリバ―に、デュランダル。カッコ良くもある。「鬼火式兵装制御機構はどうしますか」そうか、鬼火は考えてなかったな。

 「鬼火はそのままでいいよ。」「よろしいのですか」「ああ。僕が、僕自身の罪を背負う為にも。その名の方が良いだろう」僕の鬼火に落とされ、無念のまま異星・地球に散っていったフェリシアの騎士達。その無念に、僕なりに報いる為に。・・・鬼火の、血塗られた名称は、必要だった。・・・それから。「報告。前方に、「敵」、敵影」武蔵の曳航艦隊だ。遠くに武蔵の反応がある。その中に。「・・・あれは!?」日進だった。修理を終えた日進が、曳航艦隊の前衛、護衛艦隊の旗艦の様だった。・・・「夜天、突っ込むぞ!!」「シルフィリア、その力、我に示せ!!」二騎が、武蔵曳航艦隊に迫る。

 秋月級の対空弾幕を縫うように、武蔵に接近する。と、北上が、猛烈な誘導弾の嵐を叩き付けて来た。伊達に、重雷装艦の名じゃないって事か・・・!だが。彼等のデ―タは、元友軍騎である夜天の人工知能に、入力済みだった。「弾道予測、・・・そこっ!」誘導弾の嵐を掻い潜る。鬼火で薙ぎ払う。シルフィリアの魔法弾が、敵艦隊の砲塔を狙い撃つ。・・・シルフィ、命を極力奪わないで居てくれてる。・・・武蔵の巨体が、目視出来る距離に近づいた。眼前に、日進が、立ち塞がる。・・・仕方ないッ!!!

 「日進、ごめん・・・!」鬼火の紺の光芒が、僕のかつての乗艦、日進に降り注ぐ。極力、生体反応がある区画は避けたつもりだ。・・・でも。一方で、理解していた。あの光の渦の中で、誰一人、死なせずに済む事等ありえないと。だから、ワルキュ―レの力は借りなかった。シルフィに、たとえその決意が固くとも。これ以上、地球人の血を流させたくなかった。その罪は、僕自身が背負わなきゃならない。東郷元帥の暴走に手を貸した、僕の罪。贖わなくてはならない。

 「武蔵」の艦橋に迫る。乗員の動揺が、モニタ―ごしに伝わる。「こちらは、「シルフィ」搭載騎、夜天。貴艦の降伏を進言します」「おのれ、賊軍め・・・!」「止めろ。降伏すれば、部下の命は保障するか?」「司令のお命を含め、保障します」「・・・解った。降伏する。・・・ところで。敵艦隊に向かいたい奴はおらんかね?」「司令、それは・・・!!」「今の軍に、正義は無い。あのフネと共に、フェリシアと元帥の私軍、どちらにも属さず戦うのも良い」

 ・・・何か、艦隊で動きがあった。「司令?」「君達に合流したい艦が、数隻ある。日進も、君が、最低限の攻撃に留めたお陰で、追随可能だ」「あ、ありがとうございます・・・!!」「礼なら、部下たちに言ってくれ。・・・日本を、頼むぞ」「はい・・・!!確かに!!」武蔵護衛艦隊から僕達の艦隊に参加した艦の中に、超大型戦略戦闘空母『飛龍』『大鳳』の姿があった。…これなら、第三艦隊の空母艦隊とも互角に渡り合えるんじゃ…と、『飛龍』から通信が入った。武蔵護衛艦隊空母戦闘群司令、山口大将の名で発信されてる。

 「空母戦闘群司令、山口大将だ。君が黒巌君か?」「はい、山口大将閣下」「「閣下」は止してくれ。君達に参加した身だ、負ければただの反逆者だよ」「はい。・・・御協力、深謝致します」「うむ。・・・所で、一つ、君の意志を確認しておきたい件があってな」「?何でしょうか?」「『武蔵』に搭載している核。国連軍に引き渡し損ねた奴だが。あれを使えば、大和にも幾らかの有効打になるだろうが。どうかね?」 

山口大将の御意見も、尤もだ。・・・だけど。僕とシルフィは、いくら力を手にする事と知っても、核の焔に頼りたくは無かった。

「山口大将。御見識を御教授頂き有難う御座います、しかし・・・」「ウン、しかし?」「僕達は、核の焔に頼らない道を選択します」「君、大将は・・・」「良い。それが、君と、皇女殿下の決意なのだな」「その通りです。」「解った。この件は、君と皇女殿下の御意志を尊重しよう。今後、この件に関しては、儂は何も言わぬ」「御理解頂き、有難う御座います」「ただ、核抜きでは、大和艦隊を墜とすのは厳しいぞ」「覚悟の上です、提督」「解った。以後は、我が空母戦闘群は、全面的に君達の指揮下に入る。護衛の各艦にも通達せよ」「了解であります」「ではな。生き残っていたら、直接会おう」「はい!」

それから。僕達は、降伏した艦隊の乗員達を後送する脱出艇を見送ると、武蔵艦内に足を運んだ。・・・すると。「君が、黒巖君か。」「はい。貴方は?」「私か。笹野中佐だ。国防技術研究所所属の、技官だよ」「お主・・!我が民に、」「そう話しを急くな。私は、君達に新たな力を託す為、本艦に一人居残ったのだ。歓迎して貰いたいものだね」どう言う事だろう?

 「笹野中佐。新たなる力とは、一体?」「興味が湧いたかね?・・・重要機密格納庫。そこにある。」重要機密・・・?「では、行くか」

 笹野中佐が案内した場所。重要機密格納庫には、巨大な刀が佇んでいた。「中佐、これが・・・?」

「群雲、蒼天用に開発された聖剣だ。本来なら、君如き反逆者が触れて良い物ではない」「群雲・・・、三種の神器の?」「その通り。今上帝を守護せる為の聖剣なのだ」「この刀を僕に?」「託そう。今の我が軍は、東郷の私兵に成り下がってしまっている。今上帝を守護するのは、彼等に相応しく無い。・・・マニュアルと、制御系の調整。それが終わったら、私も君達について行くとしよう」「え・・、」「見届けたいのだよ。君達は、いずれ機動強襲軍と雌雄を決するのだろう?」「その覚悟であるぞ」「姫はこう仰せだが。君は?」「東郷元帥は、僕が討ちます。」「その覚悟だ、少年。では、聖剣の調整には時間がかかるのでな、君達は行きたまえ」「・・・はい。笹野中佐、この刀、正しい目的の為に使います」「良い決意だ。それでこそ、私が居残ったかいがあると言うものだ」笹野中佐はそう言うと、群雲の調整に向かった。

 僕達は・・・と、シルフィが真剣な眼差しで言う。「博秋。我は、我等の決意をフェリシアの民に、いや、地球の民にも伝えたい」「それは・・・、大事な事だ。だけど、君の立場が―」「既に我は、皇国に弓引く身。決意は鈍らぬ」シルフィの決意は非常に固い。なら。「解った。武蔵の回線で、地球のネットワ―クに繋げる。フェリシアには、君の船で繋げて。「うむ、シルフィ・リ・フェリシア、一世一代の演説を眼にかけよう」両艦で、シルフィの演説の準備が始まった。そして、夜。中継の準備が終わり、シルフィは、フェリシアと日本、両国の国旗を掲げた謁見の間で、演説を開始した。

 「我は神聖フェリシア皇国、聖皇女后婚約者にして第一皇位継承者、シルフィ・リ・フェリシア。我がフェリシアの民よ、そして、地球の民よ。しばし我の話しを聞いて欲しい」演説は、ヴァルハラを始め、地球の入植地のフェリシア人、そして地球市民が見守る中、厳かに行われた。

 「・・・既に皆が知っての通り、我が神聖フェリシア皇国と、地球は実質的な戦争状態にある。しかし、その背後に居る者達を、諸君はご存知か。我がフェリシアを敵視する、キリストの証。日本の指導者層を支配せる、桜会。そして・・・」そこで、シルフィは、言葉を区切る。言い辛そうに。

 「そして。我がフェリシアの暗部、皇国元老院、その指導者、アドルフ・ジ―クフリ―ド。これ等の者達の野心と猜疑心とが、再び二つの星の間に、不幸な戦争を・・・」映像が、突然切れた。恐らく、名指しされた、三者の手配だろう。・・・しかし、シルフィの、僕達の意思は伝わった。そう信じたい。僕達の、戦う理由を話せなかったのは、残念ではあるが。       

 「シルフィ、お疲れさま。凄かったよ、さっきの演説。」「そうか。・・・我等の大義、両星の民に伝われば良いのう」シルフィは、走り終えたマラソン選手の様に、汗をかいて、きつそうに呼吸していた。・・・やはり、自国の暗部を言うのは、誰だって辛い。でも、シルフィは立派にやり遂げた。「シルフィ、僕は改めて君を好きになったよ」「ば、馬鹿者・・・!今はそんな時分ではない!!」シルフィが照れ隠す。と、丁度その時。

 「緊急報告!!地球軌道上にて、国連軍艦隊と、フェリシア艦隊が戦闘に入る模様!!」・・・シルフィの言うとおり、そんな時分じゃなかった。この戦い、国連軍はどう出るのか?核は無駄だと、彼等も知っているはずなのに・・・

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