第17話 想い、告げる夜

ふと、目を覚ます。・・・眠れなかった。今日は、色々ありすぎた。見ると、シルフィも起き出していた。自分の騎士の点検をしている。と、シルフィが振り返る。

 「なんじゃ、眠れぬのか?」「うん。シルフィは?」「今宵は眠れそうにない。昼がああじゃったからな」・・・確かに。とても、今日の戦闘、そして戦いの後の、二人でした話。・・・とても眠れる雰囲気じゃない。と、シルフィが話し掛けて来た。

「我も、汝が友を数多、手に掛けた。「シルフィ・・・。」「我も罪人よ。敵とさえ定義すれば、あたら若きアーシアの若人を手にかける。何が騎士の誇りか・・・、ははっ、我がフェリシアの平和を愛する姿勢を、誇り有る神聖フェリシア皇国第一皇位継承者たる我が、身をもって否定しておるではないか。何たる皮肉か」「あいつ等は友達なんかじゃ無いよ。特に、あの二騎の操者は。あいつらは、日進の乗員は、坂井少佐は、軍の同胞達は、ただの…」「ただの?」「戦友達。」「その戦友達を、我は数多手に掛けた。あの2騎の操者は兎も角としても、我が手は、多くのアーシアの民の紅き血にまみれておる」「そんな、シルフィのせいじゃないよ!!あれは…」「うむ、なんであるか?」「戦争が。戦いが悪いんだ、きっと。」と、不意にシルフィが、僕の背後の夜天の方を見上げ、質問してきた。

「その騎士の名は何と申すのか?」シルフィの質問も尤もだ。この機体は、十六夜以上に、フェリシア系の技術を投入して建造された、機動強襲軍の切り札であるからだ。・・・いや、「桜会」の切り札、と言うべきか。外観も、地球系のシルエットとは大分懸け離れている。シルフィが気にしているのは、この、地球の、と言うより、桜会の、フェリシアへの悪意の塊の機体を、僕がどう扱うか、その点なんだろう。

 主人公は答えた。「「夜天」だよ。私・・、僕の新しい機体さ。それと、「騎士」じゃなくて、「戦略騎」と言うんだ」シルフィは少し首を傾げて、「ヤテン?異な名であるな?」「日本語で、夜の天・・・、星空みたいな意味があるんだ」「ほう」「暗闇を照らす星灯り、そんな意味を込めて、言の葉の加護を受けた機体になる様に、って期待を込めて、名付けられた」 シルフィは少し厳しい表情を浮かべて、「・・・我がフェリシアが、ア―シアの民にとっての暗闇、と言う事か」「違うよ・・・!いや、技術者達は、そう言う想いを託したのかも知れないけど・・・」「して、夜天の命名者は誰か?」「・・・東郷元帥だよ。」「あ奴か。あの男の、我がフェリシアの民への敵意をこそ、正しく暗闇の如し」「・・・だけど、僕はこの名を気に入っているんだ。東郷元帥の御考え・・・いや、あの男の真意は解らないけど、名前の様に、地球とフェリシアを覆う、戦争と言う暗闇を照らす、夜天の如く、この力を使って行きたいんだ。」

 ・・・シルフィの心は、必ずしも明るい物では無かったが、彼が、夜天の力を、フェリシアの民に向ける事は無いと思った。否、そう信じたいのだ。

 「今度は僕が聞いてもいいかな?」博秋が語りかけた。「何をか?」「君の騎士の名前。新しい騎士だよね、その子。君が前に乗っていた騎士より、美しいシルエットだ。君に相応しい美しさと、強さを持っている。戦った時は大変だったんだよ?」

 博秋め、我にその名を語らせる気か・・・姉聖皇女陛下から下賜された挙句、祖国に弓引く運命の、呪われた騎士の名を・・・!「シルフィリアぞ。」「いい名前だね」「何処がだ。姉君聖皇女陛下より下賜されてなお、皇国に弓引く、呪われた騎士の名ぞ」「呪われてなんかいないよ。フェリシアを守ろうとした、君の母星の人々の願いが込められているじゃないか。」「しかし、明日には、我の名は、反逆皇女としてフェリシアの民に知られる事になる。我は構わぬが、我が騎士もまた、民の憎しみを受けると思うと、こやつは産まれて来て良かったのか・・・」

 僕は、自然に微笑んだ。「シルフィリア。君の、ア―シアとフェリシアの戦争を止めようとする決意が込められている、なんて風には考えられないかな?」・・・こ奴は・・・どうしてそう、昨日、命を奪い合った我に、その様な穏やかな目を向けるのだ?

 「ん、何か可笑しい?」「全くもって、貴様はおかしい。つい最近まで、貴様は我がフェリシアの騎士達の命を奪い続けていたでは無いか。如何に昨日の今日とて、貴様の祖国の、日本の大儀を捨て去れるものか?」そう聞かれるのは当然だ。確かに、僕は、機動強襲軍の一員として、無数のフェリシアの騎士、戦士達の命を奪い、それが当然だと思って来た。いや、そう思いたかっただけだ。だって、今、僕は―

 「君を愛しているから」・・・何?何を言っておるのだ、こ奴?今、何と―「もう一度言うよ。君を愛しているから。初めて出会った、あの日から。一目惚れだったんだ」「愛って、貴様・・・」「あの時は、地球人とフェリシアの騎士。でも今は違うよね。僕、「博秋」と、君「シルフィ・リ・フェリシア」。人を愛する心に、産まれた星は関係無いんだ、きっと。だって、僕達の星だって、昔は憎しみあっていた戦火の中でも、敵国の人を想う人はきっと沢山いたし、それが人として、正しい姿なんだと思う・・・多分。これじゃ、答えになっていないかな?シルフィ。」・・・ああ、この男はどうして、誇り高きフェリシアの騎士たる我に、その様な言の葉を投げ掛けるのか・・・。多分、我も。

 「我も、我も貴様を・・・!」「その先は、この戦争が終わってから聞かせて欲しいな。平和な時代に、僕と、君と、そして・・・、」「そして?」「君と僕の子供と、3人で、静かに暮らしたい。」「こ、子供・・・」「無理かな?フェリシアの人であるシルフィにとっては、ア―シアの「男」の子供なんて・・・」「否!断じて否!」その時、僕は、シルフィに拒絶されたと思った。・・・でも。

 「否であるッ・・・!我も、貴様との赤子が欲しい!我の言の葉に嘘偽りは無いッ!」「本当に!?」「うむ。フェリシア皇女として、2言はない。それに、我と貴様の赤子が産まれれば、フェリシアの民にとっても、ア―シアとも、地球人とも分かり合えると、希望をもたらすであろう!」「・・・君は、こんな時までフェリシアの皇女なんだね。僕の、一世一代の告白なのに。」可笑しかった。昨日の、命の奪い合いが、嘘のようだ。・・・ああ、シルフィの照れ隠し、強がり・・・、全てがいとおしい。

 「だから、我は!」「うん、僕の気持ち、受け取って貰えたかな。」「ああ、貴様こそ、我を愚弄しておらんだろうな?姉聖皇女陛下との婚約を破りたもうた、フェリシア皇女の気高い誇りを、からかっておらぬと、確かに誓うか!?」勿論。「誓うよ。僕は、君が、世界で、ううん、この宇宙で一番好きなんだ」我も。「我も、貴様を、・・・その、ええと、・・・あ、愛して・・・、い・・・る。」嬉しかった。地球人とフェリシア人とだって、恋の障害には成らない。なら。だったら。

 「シルフィ、共に戦おう。二つの星の闇を、打ち払う為に!」「闇を、夜天の元にさらす為に!」「僕の夜天と!」「我が騎士、シルフィリアと共に!」『二つの星の平和の為に!』

 ・・・その夜、二人は結ばれた・・・とは、ならなかった。シルフィは、何度か、こちらを真っ赤な顔で、チラチラと視線を送って来たけど。シルフィにも約束した通り、大事な事は、この無意味な戦争が、終焉を迎え、両星の人々が、共に笑い会える日まで、取っておくんだ。・・・案外、僕は、古風な日本人なのかも知れない。桜会とは大分別の意味で。

 「シルフィ、夜天の整備、終わったよ・・・そっちは?」「・・・だから、我は・・・。」見ると、彼女はシルフィリアの操縦席で、まどろんでいた。ふて寝されたのかも知れない。可愛かった。今すぐにでも、抱きしめたかった。でも、今は・・・

 「明日からは、二つの星の為に戦うんだ、夜天」「了解」「シルフィリアも。明日から宜しくな」「・・・」操縦席からは、なにか綺麗な響きの言葉が聞こえてきたが、意味は解らない。「・・・大学で、フェリシア語の単位を取っておくべきだったかな。」まあ、いいさ。フェリシア語は、シルフィに教えてもらおう。二人きりの時は、僕だけの、気高いけど、可愛い皇女様に。

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