第16話 大義と正義

「我は神聖フェリシア皇国聖皇女后婚約者にして第一皇位継承者、シルフィ・リ・フェリシアぞ!名を上げたくば、挑んでこよッ!」・・・とてもじゃないが、今の我が軍に、あの新型騎を止める余力は無い。撤退するだけで精一杯だ。・・・やはり、ここは僕が、シルフィの戦う力を奪うしかないのか・・・だが、あの「ワルキュ―レ」、あれは脅威だ。僕が下手をすれば、友軍まで巻き込みかねない。「シルフィ、」「此度の停戦、裏切りはア―シアの側ぞ!」

「シルフィ・・・!フェリシア皇族の呪縛から離れられないのかッ!?」「黙れッ!貴様に一瞬でも気を許した我が浅はかであった・・・!ここで貴様は終わる!我がシルフィ・リ・フェリシアの名の下に!」「そっちがその気なら、僕だって!行くぞ夜天!シルフィを止めるんだ!」「・・・」「夜天!」「任務、修正。敵司令騎士の撃墜に変更」「そうだ、それで良い。生身で話せば、きっと解る、いや、解らせる!この戦争で死んでいった、地球人の無念を!」・・・そうだ、今はそれしか無い。シルフィの新しい騎士と、彼女の船、そして聖皇女后近衛騎士団の戦力は、圧倒的だ。このままでは、我が軍が総崩れになる・・・!桜花と回天は、もう戦域を離脱しているし、少佐の呑竜は防御体制のまま、動く暇が無い。僕が、僕がやらなきゃ・・・!「愚かな。ワルキュ―レ・システム起動・・・!貴様等、生きて帰れると思うな!ここがお主らの墓場ぞ!」・・・来た!あの攻撃端末、『ワルキュ―レ』、僕の鬼火と同等か、いやそれ以上か。さっきの一撃で、我が軍を一撃で半減させた攻撃、夜天でも防ぎきれるか・・・?「行けい!戦乙女達よ!我が民の無念を、今こそ晴らす時ぞ!」

「シルフィ!僕達の一般兵士は狙うな!」「うるさい!フェリシアの騎士に、二言は無いわ!だが、その三騎だけは赦すまじ!」ここから、母艦空域の桜花と回天まで届くのか!?本当に、鬼火に似ている・・・!

 シルフィの騎士と切り結ぶ。草薙と渡り合える以上、彼女の剣も、ただのエーテル剣では無い様だった。さっきシルフィが口にした、ユグドラシル。それが、彼女の騎士の制御ユニットの名の様だ。そして、その性能が、夜天の制御機構より数段進んでいる事も。「くっ、隙が無い・・・!」戦えば解る。

 「ワルキュ―レ、ユグドラシルが力、その身に纏え!!舞え、戦乙女達よ!!」シルフィのワルキュ―レが、蒼い光を帯び、舞う。向かう先は、・・・日進!目標は・・・呑竜も狙ってる!!ワルキュ―レが、日進と、離脱中の桜花、回天を貫く。日進が、蒼い焔に包まれる。桜花と回天も、さらにダメ―ジを受ける。・・・少佐は!?見ると、呑竜も、機体のあちこちから火花を出していた。「坂井少佐!」「黒巖、日進を守れ!!」

 「日進の方は・・・!」日進の方を振り返る。ワルキュ―レの光芒に貫かれた日進は、なんとか飛行していたが、あちこちから蒼い炎が出ていた。このままだと沈むかも知れない。白石三尉、高木二尉、・・・谷川!反応無し、全員戦死か・・・!!

「閣下、本艦の被害甚大。退艦を進言致します」「良い。本艦を失う訳にはいかん。被害の大きい区画を放棄せよ」「しかし・・・!今は戦闘中です!フェリシアの皇女が停戦を守るかどうか・・・!」「構わん。区画の乗員は、脱出艇に乗船させよ。被弾区画、投棄」「・・・、了解。被弾区画、投棄準備」

 日進の方で動きがあった。船体の一部が、落下している。いや、投棄されているのか。と、脱出艇の姿が見える。被弾区画の乗員達か。・・・守らなきゃ、なんとしても・・・!「シルフィ、彼らは、置いて行かれた身の上だ。君に降伏するだろう。だから、彼らを撃たないでくれ。頼む!」「・・・非戦闘員は撃たぬ。我が騎士道に誓って。たとえ、トーゴ―が船の乗員だとしても」「ありがとう、シルフィ」「・・・早ようせい!我の気が変わらぬ内に、この場から立ち去らせよ!」「うん。・・・日進の乗員の皆さんへ、僕は夜天の操者、黒巖少佐です。皆さんの退避行動を援護します」

 日進の退避から取り残された、桜花と回天に、シルフィの騎士が迫る。「消え失せよ!!我が魔法剣の前に!!エクスカリバ―、デュランダル!!忌まわしき二騎を、斬り刻め!!!」シルフィの騎士の剣、そこから蒼い光が伸びて行く。凄まじい長さ。その剣が、桜花と回天に斬りかかる。「うわあっ、兄貴ぃ!!」回天が、真っ二つになる。「くそっ、あの女・・・!!」そこまで言った瞬間。デュランダルが、桜花に襲い掛かった。「ひ、ひいいいっ!!!」桜花は、蒼い刀身に貫かれ、爆散した・・・。「次は!!汝の番ぞ!!」少佐の呑竜に、二つの剣を携えたシルフィが迫る。弾幕を張る少佐。しかし。「受けよ!!我が二つの聖剣!!エクスカリバ―、デュランダル!!!聖双剣連結!!ツヴァイリンク・バスタードソード!!」「少佐!!」少佐の呑竜は!?ギリギリ操縦席から逸れた。・・・いや、機体が大きいから、そう見えただけだ。シルフィは止めを狙ったんだ。・・・・、通信が入る。

 「黒巖・・・これ以上、軍の暴走を許すな・・・お前も、元自衛官の誇り、」そこで通信は切れた。呑竜が爆散したのだ。「少佐―!!!」軍の切り札、戦略機動兵器は、最早三騎共、シルフィに討たれた。

 その頃。「手駒を三つ、失ったか。まあ良い。」日進艦内では、東郷が智謀を巡らせていた。大義の名の元の、悪意。

彼にとっては、博秋も、沙織も。自らの理想の為の手駒でしか無かった。その頃、博秋とシルフィは―

 シルフィの騎士が、僕の前に立ち塞がる。博秋の騎士が、我の前に立ち塞がる。「最早。」「言葉は要らない」・・・次の一撃が、勝敗を決する。そう感じていた。二人共。 

 「いくぞっ!!」「参る!!」『うおおおっ!!!』夜天と騎士が、激しく切り結ぶ。剣を落とす。すかさず、一突き。かわして、僕の夜天の拳が、騎士を打つ。騎士が、蹴りを入れてくる。・・・そうやって、幾分か。機体が、双方とも追従しなくなった。機体に負荷がかかり過ぎたのだ。戦場から離れ、適当な着地点を探す。森の中、両騎が降り立つ。

 二人とも、最早操者と騎士では無く。ただ、相手を打ち倒す事のみ。それだけが、体を突き動かしていた。博秋は、腰の日本刀を手に取った。機動強襲軍の操者には、日本刀が支給される。フェリシアの騎士と、白兵戦になった時の用心、とのことだが。旧軍の航空兵と同じ、つまり…「自決用、か…だが、今は!!シルフィ!!」「参る!!」日本刀と、騎士の剣が切り結ぶ。

 「シルフィ・・・!シルフィ!」「言ったであろう!もはや我には、貴様の言の葉は届かぬと!」「お願いだ、もとの優しいシルフィに戻ってくれ、お願いだから!」「勝手な事を・・・!我がフェリシアの民を焼き、無辜の子らをも殺戮したのは、貴様の祖国の軍ぞ!」「解っている、だけど!」「我は、もはや貴様の言の葉には惑わされぬ!」「君は、優しい少女じゃないか!あの悲劇を記録した資料館で、名も知らぬア―シアの民の運命に涙した、優しい・・・!」「今の我には、貴様の言の葉は届かぬ!」シルフィの剣が、僕の首のすぐ脇をかすめる。彼女は本気だ。一度は分かり合った僕を、殺そうとしている。だが、僕は―

 「シルフィ!君は、フェリシアの皇女である前に、シルフィだろう!」瞬間、シルフィの剣が鈍る。「我はフェリシアが皇女、シルフィ・リ・フェリシアぞ!」そう言ったが、シルフィの剣に、さっきまでの鋭さは、無い。明らかに迷っている。自分の意思と、フェリシアの皇女の立場に。

 「あのシスタ―も言ってた!君が、ア―シアの民を信じる事を、止めないように、って!」「そのような事ッ・・・、言われなくとも・・・、解っておるわ・・・ッ」・・・本当は。二人とも、お互いに話したい事があった。ただ、今は敵同士。そのいとまは・・・・

 「シルフィ!!僕は、君を手にかけたくない!!君を殺めたら、君とはもう話せない!!!」「・・・くっ、博秋・・・何を、世迷言を・・・」そう言って、尚。我も。こやつと話しがしたい。二人で。もう一度。あの地で交わした約束。―今度、会う時は。ア―シアとフェリシアが、良き関係になっているように。―我は、あの悲劇を眼にし、誓った。此度のいくさを終わらせると。それが、あの遺影の者への手向けになると信じて。・・・あやつの声が聞こえる・・・そうだ。我も。

 「博秋。我は、もう汝と命の奪い合いをしとうない」「僕もだ、シルフィ!!」「このいくさも、我は望んでおらぬ。汝はどうであるか?」「僕だって・・・!!こんな無意味な戦争、一刻も早く終わらせたい!!」「・・・ならば。」「え?」「ならば。先ず、我等がこそ、剣を収めるのが道であろう」「・・・シルフィ、君は・・・」「勘違いするでないぞ。いくさを終える為じゃ。汝を、汝の軍を、許した訳では無い」「うん・・・うん・・・!!」「汝との命の取り合いは、これにて終了じゃ。いくさを終えようと誓う者同士、殺しあっても詮無き事よ」「じゃあ・・・!!!」「我は剣を納める。汝は如何や?」「僕も、刀を納めるよ。シルフィ。」「博秋。戦いは終えるが。我等、よく話し合わねばならぬ」「僕も。地球の闇、フェリシアの闇。話し合おう。・・・少なくとも、僕達が殺しあっても、誰の為にもならないよ」「そうであるな。・・・では、騎士の下へ戻るか。汝も、己の騎士の見舞いをするがよいぞ」「うん・・・!!じゃあ、僕達は・・・」「我は、汝を赦そう。汝の剣は、闇に染まっておらぬ」「ありがとう、シルフィ!!」「・・・少し休むか。お互い、今日は疲れ果てた」「じゃあ、僕は果物でも探すよ」「・・ア―シアの果実、か。人生は解らぬ物よのう」・・・良かった。博秋を殺してしまわなくて。会話すれば、こんなにも簡単に分かり合えると言うに。・・・我が皇国とア―シアのいくさ、存外、お互い吐き出す物を吐き出せば、対話の糸口が掴めるやも知れぬ。と。「シルフィ、オレンジの木があったよ。食べられる果物だよ!」・・・今は。こやつの善意に甘えるとするか。フェリシア皇女としてではなく。「シルフィ」個人として。

 ・・・それから。二人で色々な話をした。地球の闇。フェリシアの闇。日本の闇。・・・東郷元帥の、機動強襲軍の・・・闇。

 「ト―ゴ―が軍と戦いし、我等が騎士達が戻らぬのは。あやつが、フェリシアの騎士達で、忌まわしき実験を行っておるからじゃ」・・・え、そんな・・・「東郷は、騎士を殺めてはおらぬ。だが、必死に帰還した我が配下の騎士の言葉によれば。実験の贄となった騎士は、植物状態にあったと。そして、その実験で、エ―テル石を解明し、ついには我が蒼き血の複製にも成功したと言う」「そ・・・そんな・・・」確かに、元帥の行動には、最近不信感を募らせてきた僕だが。・・・事実は、いつだって残酷だ。「あのフジの森深く。あの地で、我が騎士達への実験が行われておる。汝の新たな騎士から見るに、あの日の戦いで、我が皇国近衛騎士団を壊滅せしは、汝か。それと、あのサオリとか言う女の騎士。」「・・・そうだよ。あの日、近衛騎士団を倒したのは、僕と沙織だ。・・・蒼い血も、確かに投与を受けた。・・・なんて謝罪したらいいか・・・」

 「良い。汝は、己の祖国に剣を捧げたのだ。ただ、為政者が悪意に満ちておっただけの事」シルフィはそう言うけど、僕には、謝罪の言葉が見つからなかった。と、シルフィが語りだす。「命の定義は、価値観によって異なる」偶然にも、東郷元帥の言葉と同じだった。「しかし、我がフェリシアの民にとり・・・」そこで、シルフィは言葉を区切る。

 「植物状態に置かれてなお、殺していない、と。確かに命は奪ってはおらん。が、それは我がフェリシアの民にとり、死せる身も同じ事ぞ」改めて自分の罪深さを思い知る。・・・そんな、元帥が言った「一人も殺してない」って言葉が、そんな意味だったなんて、・・・口の中が酸っぱくなる。そして、嘔吐感。

 我は明日から、反逆皇女であるな・・・ウルル入植地を守れず、民を守れず。日本の騎士、博秋を助け。・・・いや、我が助けられたのか。否、我が助けたのだ、多分。・・・フェリアが悲しむであろうな。婚約は破棄されるだろう。もう、フェリアと共に朝を迎える将来は、我には無い。・・・・疲れた。そろそろ休むか。 

 「今日は、お互い疲れたであろう?暗い話しは、また明日にしようぞ」「うん・・・じゃ、お休み」「うむ。汝の方こそ、ゆっくりと休め」

とにかく、今日は二人共、心身共にボロボロだ。詳しい話は明日にしよう。僕の、シルフィへの想いも。

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