第15話 大地、紅に染めて

「博秋、貴様・・!我がフェリシアの民を焼き、殺戮し・・・之の何処に、貴様の大儀はあるッ!?我が問いに答えよ!」「シルフィ、これは誤解なんだ!アカシが、戦火を拡大させようと―」「最早貴様の言の葉、我の耳には届かぬ!!聖皇女后近衛騎士団、出陣せよ!シルフィ・リ・フェリシアが名において命ずる!未だこの地に留まり、我が民を殺戮せるア―シア人を、殲滅せしめよ!」                

 シルフィの船から出てきた増援の中に、重騎士の姿があった。・・・まずい、アレと戦う余力は、今の少佐の呑竜には無い。

 「少佐、下がって!!」「そうはいかん。重騎士と戦うのも、本騎の任務だ」そう言って、通信が切れた。しかし、あの重騎士、呑竜のサイズより二回りは大きい。大丈夫か?と、呑竜も刀を取り出し、構える。少佐は、あの騎士と刺し違える積もりだろうか?と、シルフィの騎士が戦場を駆ける。あの騎士に追随出来るのは、僕の夜天と、沙織の蒼天だけだ。

 「ユグドラシルよ!シルフィリアの力、我に示せ!」シルフィの騎士が、蒼い光に包まれて行く。そして。「舞え、ワルキュ―レ!」その光芒に、次々に、我が方の機体が撃ち貫かれる。気のせいか、・・・いや、確かに。さっきより攻撃力が増している。その証拠に、「大鵬」と「マッカ―サ―」の二隻が、戦闘不能と素人目にも解る程に、粉砕されて行く。霞兵団の無人機が、一掃される。何か、特殊な機構を搭載しているのか!?あの騎士は!

 長刀身超高振動斬撃刀で、斬りかかる。それを、シルフィは剣で受け流す。刹那、長刀身固定磁場刀でもう一撃。再び切り返される。・・・だめだ。あの騎士、二刀流の使い手でもあるんだ・・・!!

 沙織の蒼天が、斬りかかる。シルフィの新たな騎士と、切り結ぶ。―だが。近接戦闘に特化した筈の、沙織の蒼天。それが、鎧袖一触に打ち倒される。「きゃあっ!何よ、この騎士!?」馬鹿な。夜天と蒼天、地球でもっとも強力な機体。それが、二騎がかりでも、まるで歯が立たないなんて・・・!

 (くっ・・・蒼い血の投与を拒否したからか!?富士の時の様に、一気に蹴散らせない・・・!!)

 「女・・・!?汝も女ながら、騎士として剣を振るうや!?」「余計なお世話よ!汚らわしいフェリシアの屑!」シルフィは言葉では答えず、肉体言語で答えた。蒼天の頭部に、騎士のカカト落としが決まる。機体に特に外傷は見られない。が、操縦席の沙織には、装甲ごしに効いたらしく、蒼天が、緊急離脱モードで後退すると、沙織の声。

 「こら、蒼天、私はまだ戦える!」「拒否します。操者、藤咲中佐の頭部に打撃。精密検査の必要あり」「蒼天の馬鹿-!!蒼天!操者の言う事聞かなきゃ駄目でしょう!!博秋君、その汚い女!必ず殺すか、元帥の前に引っ立てなさい!」「え、ええと」「解った・わ・ね!?」「・・・不必要な血は流さない範囲で、全力を尽くす」「なによそれ!?全然答えになってない!」「藤咲中佐、御気を確かに」「うるさい!蒼天、私は戦える!戦えるの!!離脱しないで!!元帥のご期待に背きたくないの!!」・・・沙織が何度主張しても、蒼天の人工知能は、沙織の命を第一に行動していた。・・・沙織、君は、少なくとも今は幸せだよ。シルフィの真の力を見ないで済むのだから。多分、本当に、シルフィはまだ力を残している。激情に身を任せているとは言え。彼女は冷静だ。その筈なんだ。

 一方戦場では、〇七式戦略指揮車内から、機動強襲軍陸軍、山下大将が、フェリシア皇国軍に降伏勧告を出していた。「今一度尋ねる。降伏か否か、イエス・オア・ノー?」「ナッツ!!と言えば通じるかね、貴様等には?」ウルル入植地近衛騎士団司令官、フェニキサス大将は、降伏勧告を一蹴した。(我が娘にして、ウルル入植地近衛騎士団長、エリーゼよ・・・、僅かでも良い、民が避難するまでの時間を稼いでくれ・・・、戦死した汝の妹、マレーネの為にも。)「前線より報告!」「うむ、状況はどうか?」「我が騎士団の力でも、アーシアの軍勢を押さえきれていません。幸い、シルフィ皇女殿下がおいで下さった御陰で、戦線は膠着状態です。」「我が娘・・・、いや、エリーゼ騎士団長は?」「それが・・・、前線にて、敵の2騎の新型騎と交戦した後、反応が途切れまして御座います。」「くっ、討ち死にか・・・!」「大将閣下、状況が錯綜しております。ルイーゼ団長も、御無事であると小官は考えます」「そうか・・・、そうだな。司令官たる我が、ここで弱気になる訳には行かぬ。ウルル入植地近衛騎士団各騎士に申し伝えよ、民の退避が完了するまで、寸土たりともアーシアの軍勢を通すな!!」「了解致しました、フェニキサス大将閣下」

 その頃。日本国首都東京・都内某所、桜会・会議室

 「予定通り、混沌としてきましたな、一之瀬先生」「うむ。皇女シルフィを、生け捕りに出来ればよいが。あの新型、夜天でも及ばぬか」「やはり、技術はフェリシアが数段進んでいると見るべきでしょう」「ふむ。ウルルの御力石鉱脈は、得難い。東郷君は後退したが、頃合を見計らって、再占領すべきじゃろう」老人達の、闇。博秋とシルフィは、知る由も無かったが、今日の惨劇を演出したのは彼等であった。そして、もう一つの闇。

 同時刻。ニュ―ヨ―ク、ブルックリン、キリストの証本部。

 「大教主猊下、我が信徒、見事フェリシア人の駆除に入りましてございます」「うむ。我が教義を、信徒が成すのは気分が良いものだ。フェリシアの餓鬼を撃った二名、後の葬儀の折、儂自ら言葉を賜ろうぞ」「全ては、大教主猊下の大御心のままに・・・」

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