第14話 穢れた力

さっきの少女は・・いた、あそこだ!どうやら、夜天の精神波力場の防御が、間に合ったらしい。・・・本当に、良かった。

「オイ、黒巖。手前、何敵異星人を庇ってンだよ」回天から、操者の、敵意に満ちた罵声が届く。「民間人を救助しただけだ。問題ない」「ああン?問題大有りだぜ。命令は、暴動を起こしたフェリ公の殲滅だろうが!」「だが、この子は暴動に参加した訳じゃない!」

 僕は、夜天の操縦席を開いた。「こっちにおいで」「ア―シアの人・・・、怖い・・・。」「大丈夫。安全な所まで連れて行くから」「・・・本当に?」「ああ。だからこっちにおいで」「うん」少女を夜天に収容する。・・・そう言えば、夜天の「民族選別機構」は何も言わないな?・・・かえって都合がいい。「安全な場所・・・、日進は・・・、」駄目だ。かえってフェリシア軍の攻撃を受ける。若しくは、人質を取ったと誤解され、一層激しい攻撃にさらされる。どうしよう・・・

 瞬間、天から轟雷が轟いた。無数の蒼い光芒が、戦略・戦術騎達を貫いていく。・・・なんだ?大量破壊兵器?・・・にしては、攻撃精度が高い。フェリシアの民には、被害が出ない、精密狙撃。まるで、僕の夜天の、鬼火のような。

 「・・・ワルキュ―レ・システム!戦乙女達よ、貫け!」シルフィか!?

「ち、畜生・・・!」回天が大きくよろめいた。あの攻撃を、あの巨体で受けたのだ。相当、機体に負荷がかかっているのだろう。「てッ、手前・・・!」見ると、桜花も不安定な飛行体勢だった。主翼に大きな穴が、多数開いている。昔の飛行機なら、とっくに墜落しているだろう。超伝導プラズマ推進機構が、推力で、あの巨体を飛ばしているのだった。少佐の呑竜は・・・、一番被害が大きかった。複雑な合体機構を搭載している分、あの光芒の直撃を、弱点に食らっている。

 「手前!」「殺してやる!!」道脇兄弟の二騎が、後ろからシルフィの騎士を撃つ。「笑止!我にそのような卑劣な手が通じると思うてか!!」シルフィの騎士の周囲に、蒼いフィールドが形成される。二騎の攻撃とも、無力化された。強い。「こちら道脇兄弟、後退する!!」何を勝手な・・・!!と、シルフィの騎士が迫る。

 「博秋!!これは何事ぞ!!我が民を、貴様!!」「僕は、民を手にかけてはいない。信じて欲しい」「同じ事ぞ!貴様の祖国の軍の蛮行、貴様の命で贖え!!!」

 「わかった。だけど、戦う前に、この少女を、安全な所に降ろしたい」「・・・良かろう。貴様の良心を、一度だけ信じてやろう」シルフィは本気だ。もし、僕がおかしな挙動をすれば、さっきの蒼い光が、撤退中の我が軍の機体を撃ち貫くだろう。「君、名前は?」「・・・いや。ア―シアの民、いっぱい友達を殺した。」・・・答えられない。まあ、そうだろう。僕だって、さっきまで攻撃して来ていた機体に救われたら、訝しがるに決まっている。でも、シルフィは、初めて出会った時、彼女にとっては敵「異星人」である、僕を救ってくれた。その恩義に、少しでもむくいたい。と、少女が初めて自分から口を開いた。      

 「リ―ン。」「リ―ン?良い名だね。」「かあさまがつけてくれたの」「そう。かあさまは?」「・・・死んじゃった」言葉が出ない。僕の軍か、国連軍か。些細な違いだ。誰も、この子を、この子の母親を殺す権利など無い。「リ―ン、もうすぐ、君を安全な場所に預けるよ」「・・・本当に?」「うん。世界一安全な場所だ」・・・リ―ンを、シルフィに預けよう。それが、この子にとって最も安全だ。

 「シルフィ、この子を君に預けたい。君の船に乗せてあげれないか」「笑止・・・!今は、戦の最中ぞ!そうやって、あの二騎の様に、我と我が艦を後ろから撃つ気か?」「信じてくれ。こっちの味方も、君の攻撃で損害を受けた。今、戦闘を続ける余力は、僕等には無い」「フェリシアに賭けて誓うか?」「僕の名、博秋と、祖国日本の名誉において誓うよ。・・・元帥!」「何かね」「通信を御聞きでしょう。いま、フェリシア軍と戦うのは得策とは思えません」「貴様、元帥閣下に向かって!」「良い。それで?君の意見具申を聞こう」「僕の夜天が、彼女の機体を引き付けます」「出来るかね」「僕と、僕の夜天なら」「良かろう。君達の一騎打ちの間、両軍休戦と言うわけか。宜しい」「元帥、一つだけ御願いがあります」「うん?」「僕の側にいる、この少女・・・、さっき保護しました。この子を、彼女に預けるまで、絶対に戦闘を行わないと、彼女に誓って下さい」「良かろう。フェリシア人一匹で、戦況を維持出来るなら、安い物だ。・・・フェリシア人よ、聞こえているか」「一匹・・・、我がフェリシアの民を「一匹」と!?」「シルフィ落ち着いて!今なら、犠牲は最小限で済む」「とっくに我が民が、罪も無き我が民が、多数殺められておるわ!」「・・・もう一度だけ訊こう。フェリシアの騎士よ。私は日本国機動強襲軍、戦場最高指揮官、帝國元帥・東郷春樹である」「神聖フェリシア皇国、聖皇女近衛騎士団、司令騎士、シルフィ・リ・フェリシアぞ」「彼の提案を、私は呑もう。君はどうするね」 「フェリシアの名に賭けて、その幼子を我が艦に収容するまで、停戦に応じよう」「だそうだ、諸君。これより戦闘空域を放棄。本国に帰還する」 「・・・さ、シルフィ」シルフィの騎士に近づく。シルフィも操縦席を開いた。「幼子よ、もう安心であるぞ。」「皇女さま?」「うむ、シルフィと呼ぶが良い」「シルフィさま、こわかったよう・・・。」「ああ、遅れて済まぬ。・・・だが、民の無念は、我が必ずや晴らしてくれようぞ」「シルフィさま、だめ。かあさまがいってた、「怨みは報復しか・・・」、あとはわすれたけど。」「良い母だったのだな、お主の母は。」「うん。この入植地に、ア―シアの民が攻めてきても、その人がとらわれのみになっても、「いつかア―シアの民とも分かり合えるひが来ます」っていってたの」「そうか。して、その母君は?」「さっきの、ピンクのひこうきにうたれて、フェリシアのみもとにめされました」・・・ッ!あやつら・・・!このような、純粋無垢な幼子の母すら・・・!ア―シア人は、男女でしか結ばれぬと言うが・・・その様な価値観、この殺戮の正当化に等、なるものか・・・!いや、これは、種のあり様の問題か。「アカシ」は、我等の「駆除」を目的としておると、あ奴も言っておったしな。しかし、今はこの幼子を、我が艦、「シルフィ」に・・・!

 「シルフィ皇女殿下、着艦。幼子を回収いたします」「急げよ。いつあ奴等が、和議を破るやも知れぬ。」

その時。戦場から離脱中の部隊、豪州軍の「ミ―ティアⅡ」隊の中に、その男は居た。その男は、狂信的な「キリストの証」の信者だった。「ハアハア・・・、薄汚い異星人め・・・!」彼は、機動強襲軍が撤退を開始しても尚、戦い続けるつもりだった。「ラッセル大教主猊下・・・、私は、この手で、敵フェリシアの屑どもを、駆除致します。」彼の機体、「アカシ」の信者が勝手に、TI「ミカエル」と呼ぶ、国連軍標準機体。各国毎に仕様は異なるが、信者はミカエルと呼んでいた・・・その操縦席。「地球の、名の下に!」彼の機体の狙撃用オプションライフルから、殺意に満ちた凶弾が飛ぶ。向かう先は、シルフィリア。「な・・・ッ!?」「くたばれ、穢れた化け物!」シルフィは、急ぎシ―ルドを展開する。少女を降ろす途中だった為、背部の守りが甘くなった。「皇女さま!」「我は・・・、大丈夫だ。早く、船内に行くがよい」「でも!」「早くせい!・・・フェリシアの民ならば、皇女の言う事は聞かねばな?」「は・・・、はい!」少女は、船内に向かう。迎えの戦士が、手を伸ばす。「さあ、奥へ!もう安全よ!」「うん!」そのやり取りを見届けると、シルフィは凄まじい形相になって、宣言した。 「愚かなるア―シアの民よ!貴様等の虚言に、一瞬でも気を赦した我が、愚かであった!貴様等は此処で死に行け!」ミカエルの操縦席では、狂信者が狂った笑みを浮かべていた。「ハハハ・・・!ア―ッハッハッハ!これで、駆除は再開される!大教主猊下、私は・・・!」「先ずは先程の、凶弾を放った野蛮人!貴様から滅せよ!舞え、ワルキュ―レ!」蒼い光芒が、彼の「ミカエル」を貫いた。彼は、死の瞬間まで、狂信者であり、忠実な大教主の僕であった。「ア―ッハッハッハ!見ろ、神の刃を!貴様等フェリシア人は、薄汚い・・・!」爆発。その男は、潰えた。「我が怒り、これでは済まさんぞ・・・!死にたくなくば、我の前から消え行け!」「待って、シルフィ!」「貴様は!?貴様も、我と切り結ぼうと言うのか!」「違う!さっきのは、命令違反の機体の攻撃だ・・・!多分、前に話した「キリストの証」だよ!」「最早ア―シアの民ならば、誰であろうと容赦せぬ!我が民の無念、その身で受けるが良い!」と、邪魔が入った。「戦闘中に悪いが。我々機動強襲軍は、シルフィ・リ・フェリシアとの停戦協定に基づき、撤退する。これを妨害するならば、神聖フェリシア皇国には、地球人との協定を尊守する意志無きものと見做す」・・・なんだよ、それ!?シルフィは、アイツの行為に怒っているんだ、それを解ってよ!「元帥!彼女は僕が止めます」「うむ。そうしてくれ。あの蒼い光芒は、我が軍にとっても危険だ。今の内に処理したまえ」「・・・出来る限り、時間を稼ぎます」「うむ。では、全軍後退」

 ああ、奴等が行ってしまう・・・、罪無き民を殺戮した、憎い敵が・・・。そして、眼前に立ち塞がるは。「シルフィ、僕だ!もう一度話し合おう!」・・・何を、今更。こやつは何を・・・。我は、フェリシアの騎士にして、聖皇女后婚約者、第一皇位継承者、シルフィ・リ・フェリシアぞ!「我の前に立ち塞がるなら、貴様も我がワルキュ―レの生贄となるが良い!!」

 ・・・ああ、もう、シルフィとは話せないのか・・・、優しいシルフィには、もう戻ってくれないのか・・・殺しあうしか無いのか・・・!?

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