第13話 ―入植地の虐殺―
太平洋・ソロモン諸島共和国。ガダルカナル島沖、首都ホニアラ近郊。深海深くに、機動強襲軍の特潜艦隊の艦影があった。その数、十六隻。その内の十隻に、緊迫した空気が流れていた。
「艦長。呑竜の発艦準備、整いました」「うむ。桜花と回天はどうか?」「どちらも発艦準備、完了です」「よろしい。呑竜、回天、桜花の順に発艦させよ」「了解。」潜水艦の中だけあって、静かに会話する。その格納庫。
「坂井少佐、呑竜のシステムチェック、完了しました」「そうか、ご苦労。・・・しかし、何だな。七機が合体して、戦略機動兵器になると言うのは」「少佐はご不満ですか?」「いや、機体に不満は無い」・・・不満があるのは、今回の任務だ。そう言いたかったが、部下に愚痴ってもしょうがない。「七機の内訳を、再確認する」「はい。機体中心コアとなる大型戦略騎。左右両腕。両脚部。背部兵装ユニット。本体の追加装甲ユニット」「こいつ等が、敵防空網を突破して、いきなり眼前で合体する訳か。フェリシア人も、さぞ驚くだろうな」「分離中は、ただの飛翔体ですからね。合体してからが、本騎の真骨頂です」少し、俺の部下には東北訛りがある。彼女は気づいていない様だが。いや、俺も佐賀訛りがあるか。しかし、無機質な東京弁よりは、かえって人間らしい。幹部自衛官に昇進した辺りから、俺はそう思ってきた。
「回天の合体機構はどうか?」「良好です。震洋・伏竜から、回天への合体機構、問題なし。・・・水中戦が、この子達の本分ですが。」「桜花は?」「そちらも問題ありません。・・・問題は、操者の方かと」「研究所の『備品』か。あいつらは―」坂井が続けようとすると、敵意に満ちた声が聞こえた。
「これはこれは、坂井少佐殿。部下と仲が宜しいことで」「セクハラだぞ、道脇」「俺らには階級、ナイッすからね。」明らかに、軍の人間とは雰囲気が違う。調整のしすぎだ。
「貴官等は、今回の任務を?」「汚ねえフェリ公をブチ殺せる、いい機会だと思いますよ。殺すのが俺等の存在理由ですしね」・・・こんな奴等と、共同任務か・・・日本の誇りは、自衛隊の誇りは何処へ行った?やはり、軍の独立を許してはならなかったのではないか。改めて、そんな想いに駆られる。「少佐。まもなく本艦は発艦シ―クエンスへ移行します。・・・三名共、操縦席へ」
「艦長より指揮官、坂井少佐へ。武運を祈る」「坂井、了解。出撃します」「特潜艦隊、坂井少佐を支援する。三騎発艦後、急速浮上。巡航誘導弾及び曲射陽電子砲、発射態勢へ移行。」
「呑竜、発艦する」七隻の潜水艦から、次々に、呑竜の機体が射出されて行く。高速でフェリシア軍の防衛線を突破し、ウルル近郊に辿り着いた。
「呑竜、合体開始」そう坂井が言うと、七機の機影が、合体を開始する。フェリシア人入植地の眼前で、全高五六〇メートル級超巨大戦略機動兵器、呑竜が完成した。機体開発コードは、『戦略対地殲滅駆逐騎』。「坂井、戦闘機動に移る」その頃、回天も、震洋・伏竜に分かれて、潜水艦から射出されていた。ウルルに到着すると、合体。『戦略対艦殲滅騎』、回天が完成する。最後に残った桜花も、離艦していた。凄まじい速度で、豪州大陸を抜け、ウルルへ。この三騎の中で、唯一変形・合体機構を搭載していなかった桜花だが、『試製戦略支配殲滅戦闘機』XFSと言うだけあって、高速戦闘に特化した特性を有していた。
「戦場に機体反応・・・大型が、三騎!?友軍なのか?」博秋がデ―タをチェックすると、確かに友軍ではあった。
「大きい・・・!なんだ、こいつ等は!?」「黒巖か。坂井だ」「一尉・・・いえ、少佐!?」「おう、俺たちも無視スンな」「少佐、彼等は?」「我々は、フェリシア人の暴動を鎮圧する為に派遣された、特務部隊だ。フェリシア人の掃討は、我々がやる。君は、騎士共の相手をしていてくれ」「少佐、暴動なんて・・・!!!」「うぜーよ、お前」桜花が、機首を下方に向ける。機首の先端が、大きく開く。「弐千粍陽電子砲、食らえ!!フェリ公ども」
桜花が、地上を薙ぎ払った。その殺意に満ちた光の中で、フェリシアの入植地代表は愛娘、リ―ンの事を想いながら、消えていった。
「清らかなる未来の為に!」「馬―鹿、そンじゃテレビ局から、軍に版権料の取立てが来ンぞ」「じゃ―、どう言うよ手前?」「決まってるだろ。「この放送は、楽しい明日を作る企業、双星模型の提供でお送り致します」ってな」「後さ―、大日本帝國皇軍の提供でもあら―な」・・・なんだ、こいつ等は・・・?戦争を、アニメかゲ―ム感覚でやってんのか!?
『桜花』と『回天』の操者は、まるで快楽殺人者の様だった。彼らには、入植地の、フェリシアの民すらも、「駆逐」する対象でしかないのだ。
「貴様等!暴動と無関係なフェリシア人まで撃つな!」「うっせ―よ、お坊ちゃん。戦争は楽しまなくちゃあな?」「そうそう、国をバックにブッ殺し放題!これぞ戦争の醍醐味ってな」「お前達、名前は!?」「ああ?そんなモン聞いてどうすんだよ?」「この戦闘が終わったら!自分が法務官に掛け合って、貴様達の責を問う!!」クックッ・・・嫌な笑い声だ。「俺達は道脇兄弟。階級はねーよ」「階級が・・・無い?」「おう。研究所の備品だ、俺達は。・・・だから!」「翼はいらねえ、富と名声が欲しい!」『自由になる為に!!』・・・意味はよく解らないが。彼等も東郷元帥の、都合の良い手駒その一なんだろう。・・・沙織はどこで戦っている!?まさか、沙織も虐殺に手を染めていないだろうな!?
呑竜の操者、坂井「少佐」は事情が異なっていた。元々彼は自衛官であり、機動打撃群、後の機動強襲群を経て、「軍」に選抜された、叩き上げの士官だった。国を守ると言う、己の任務に誇りを抱いていたし、であるからこそ、今日まで戦い続けて来られたのだった。その祖国が下した今回の任務は、控え目に見ても虐殺、あるいは殺戮でしか無かった。「こんな任務に就く日が来るとはな。長生きはするもんじゃ無い」正直な感想だった。彼の愛国心は、彼の持つ正義感との狭間で激しく揺れ動いていた。「そうは言っても」坂井少佐は決意する。任務に忠実である事、これが軍人の義務だ。例え、それが狂気じみた任務であっても。
「呑竜、掃射体勢へ移行」「了解」呑竜が、大きく姿を変える。逆間接型の機体から、人型へ。大きく機体身長が伸びる。呑竜が開発された目的の一つ、対地制圧形態であった。機体各所の五百壱拾粍機関砲が、早くも生贄を選んでいた。「目標、前方のフェリシア人居住区画。〇七式掃射砲、掃射開始」凶弾の嵐が、フェリシア人の美しい街並みを、薙ぎ払って往く。坂井少佐は、これは任務なのだと己に言い聞かせた。・・・そうでないと。この一斉射で、一体何人殺したか。気が狂いそうになるからだ。・・・フェリシアの街並みが、崩壊していく。坂井は、心苦しくも、引き金を引き続けた。回天は、咥内の水圧カッターでフェリシア人を切断していた。桜花も、主砲でフェリシアの街並みを破壊していく。
「沙織!」「博秋君!」沙織と、混乱の中で再会した。「沙織。君は、フェリシアの人を・・・」「民間人なら、殺してないわよ。いくら汚いフェリシア人でも、皇国軍とは別よ。見損なわないで」・・・良かった、沙織が虐殺をしていなくて。
戦場は大混乱だった。攻める国連軍と僕達、機動強襲軍。国連軍には、少なからずアカシが居る様で。あちこちで虐殺めいた発砲を繰り返していた。さしあたっての僕の任務は、フェリシアの騎士達の相手だった。尤も、僕と沙織のコンビは容易には打ち崩せない。遠くの騎士には僕の鬼火、接近してきた騎士は、蒼天の白兵戦用武装の生贄になっていた。
ふと、戦場をスキャンする。・・・「機体下方に動体反応」「この小ささは・・・子供?」全方位モニタ―の下方を拡大する。確かに、蒼い髪の少女が居た。その瞬間。殺意に満ちた紅の光芒が、辺りを染めた。
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