第6話 機動強襲軍・独立
午前7時。「黒巖しょ・・・二尉。本日は、我が群にとって、極めて重大な日となる」いつでも僕には重大だけど。それより、さっきの、しょ・・・、って言うのが気になる、なんて言ったら怒られるだろう。
「了解しました。それで、重大な事とは?」「それは、私が演説で追々話すよ。君は、その間十六夜で、施設の警備に当たってくれたまえ」「了解です」
・・・ここは、神奈川県・防衛大学上空。日本の将来を担う、幹部自衛官の学び舎だ。そして、この県は、アカシの日本支部があるところでもあった。・・・地元民にとっては、迷惑極まりないだろうけど。「信仰の自由」、憲法で保障された権利が、連中の蠢動の法的根拠と言う訳だった。
「大将。演説は何日後ですか?」「今日だよ」今日!?「本日は、各界から、多数の著名人・名士がおいでになる。そのための機密保持の一環として、君にも教えていなかった訳だ。決して、君を軽視した訳では無い。わかってくれるね」「・・・はい。了解しました。ところで、大将の演説は、何時からなんですか?」「11時からだ」・・・って、急だよ!そんなに時間無いじゃないか!「十六夜、施設警備に出撃します!」「うむ。頼むよ」
今、午前10時40分。間も無く、大将の演説が始まる。・・・さて、大将は何を話すのかな。それに、多数の著名人・名士、って言ってた。卒業式でもないし、防衛大で大将が話す事って一体・・・と、携帯のタイマ―が鳴った。10時59分。
「世界は、混沌の闇の只中にある」東郷大将の演説が始まった。「言うまでも無く、この地球、そして我が祖国日本は、危機にさらされている。フェリシアとの紛争・・・いや、もはや戦争に近い。そして、そのフェリシア人入植地に対するテロ。フェリシア人のみならず、入植地の一般住民さえも狙った、卑劣な犯行。こうした闇が、世界を覆っておる」・・・・大将、なかなか良い事を言う。入植地の地元民を狙ったテロ。それは、余り報道されない。情報統制、って奴なんだろうか?・・・それにしても。確かに、著名人や名士が来るとは言ってたけど。豪華すぎる。小柳前総理を始め、帝都大、京都帝國大、慶鳳、早春。その他にも、いくつもの名門大学の名のある先生方。防衛大って凄いんだな・・・・。だけど、僕の大学だって、負けてない!慶鳳の先生方も来ておられるし!・・・無意味な空元気を出す。ん?あそこに居るのは・・・まさか。沙織!?どう言う事だろう。と、機体の通話機構にコ―ル。沙織だった。「博秋君、久しぶり!元気だった?」「あ、ああ。・・・席上から電話はまずいんじゃ・・・」「大丈夫よ。脳波通話だから」「?なんだって?」「脳波通話。群の最新技術でね、人間の脳波を声に変えて、電波に乗せて飛ばすの。本来は、普通科隊員の市街戦用の技術らしいんだけど。あ、私の番だわ。また後で」そう言って、通話は切れた。
「・・・では、ここで、我が群の精鋭を二名紹介しよう。まず、藤咲三佐。彼女は国家一種試験で、財務省キャリアとなったが、入省後の適性試験で素質を見出され、本人の希望もあって、晴れて我が機動強襲群に入隊した」「藤咲です。この若輩の身に、三佐の地位を与えて下さった航宙相には、大変深謝しております」・・・見ると、写メッてる奴がいた。こら、沙織は僕のガ―ルフレンドなんだぞ!・・・ええと、愛しているのはシルフィだけど。
「沙織、三佐って、君が?」「ええ。大将閣下が、私の素質を見出して下さったわ。君との連携戦のためにも、って」「大将が?」「ええ。あの方、冷たい印象を受ける人も居るらしいけど。結構、部下思いよ」そうか、それなら良かった。・・・っと、「沙織?」「なに?」言いづらい。でも、聞いておかねば。「アカシ。・・・キリストの証は?」「ああ、あれ?脱退したわ」
「アカシを・・・何だって?」「だから、脱退。あの団体には、もう何も得るものが無いと気づいたの」「そうか、それは良かった。僕も、母さんには、アカシを止めて欲しいんだ」「難しいわね。私は、東郷大将からのお誘いがあったから、今ここにこうしている訳だけど。・・・一度洗脳された人の脱退は、正直難しい。私の両親も、まだアカシだし。」「沙織が群に入隊したきっかけって、大将だけ?」「ううん。群の戦術騎の操者になれば、あの汚いフェリシア人を駆除出来る機会が増えると思ったから。」「駆除」、それはアカシの言葉だよ、沙織・・・!そう言いたいのだが・・・「フェリシア人を駆除して、地球に平和を取り戻す。崇高な使命だわ。私、感謝してる。戦術騎の操縦適性があった事に」「そうか、君の決意は固いんだね、沙織」「君こそ。活躍の噂、ニュ―スでも見たわよ?地球人で初の魔法武装を使った、って」「そう。他には?」「機動強襲群の若きエ―ス、黒巖二尉って。頑張ってるのね」「まあね」「あ、それより君、大将の演説、ちゃんと聞かなきゃ駄目よ。今日は何か、重大発表の日らしいから」
「・・・と言うわけで・・・」いかん、大将の演説の方も興味があったんだ。
「本日ただ今より、我が群は、雌伏の時を経て、「統合機動強襲軍」として、自衛隊から独立する!!!」
うおおおっ・・・!!!隊員たちの熱狂的な歓声。・・・え・・・僕は・・・軍人になってしまったのか・・!?大将の演説は続く。
「我が「軍」は、自衛隊との識別の為、階級呼称を旧軍時代の物に復古させる。艦の命名基準も同じく。しかし、我が国の憲法9条尊守の精神に則り、我が軍は、内閣総理大臣からの、自衛隊以上の強い指揮監督を受ける」ブーイングが聞こえる。大将は構わず続けた。「では、我が軍の独立を記念して、南條総理から御言葉を拝聴する。・・・総理、どうぞ」「うむ。諸君、内閣総理大臣、南條だ。本日から諸君は、機動強襲軍として、日本の主権を脅かすあらゆる外敵と戦って貰わねばならん。その前祝と言う訳ではないが、東郷航宙相を、之までの武勲を考慮し、特別に「帝國元帥」に任命する!」おおおっ・・・!!再び、歓声。どうやら大将、いや元帥は、以外に自衛官と「軍」の人間に、人気があるらしい。」と、僕の頭の中に声が響く。東郷「元帥」だ。さっきの沙織の脳波通話だ。「気に入ってくれたかね。今日から、君達は晴れて帝國軍人、と言う訳だ。」「・・・光栄、」「光栄であります!」沙織だ。「若輩の身に三佐の階級を授けて下さり、今また栄えある軍の一員として、戦わせて下さるなんて・・・!」「うむ。それと、さっき私は言ったであろう?階級呼称は、旧軍時代の物に復古させると。」「つまり?」「藤咲君、君は、三佐では無い。「少佐」だ。黒巌二尉も、中尉となる」・・・いきなりの事態に、頭がついて行かない。沙織は喜んでいるようだが・・・・。軍人になると言う事。それは、フェリシアとの戦争の最前線に投入されると言う事。そして、地球の同胞とも、時至らば、戦火を交えると言う事。・・・正直、素直には喜べない。沙織の心境はいかばかりなのだろうか?
と、サイレンが鳴り響いた。空襲警報だ。・・・空を見渡す。と、上空に、フェリシアの騎士が9騎。あの宝飾は、・・・皇国近衛騎士団か!?十六夜で、先生達を守り通せるだろうか?いや、やってやる!僕がやらなきゃ!
「藤咲三佐、月光、出ます!」「沙織!君には・・・」「無理な訳ないでしょ!」勝気なところは相変わらずだ。この分なら、初の実戦でも大丈夫かな?・・・少し心配ではあるが。・・・彼女が、フェリシアの騎士を、簡単に駆除する事が。
「中尉、敵は三騎づつ、三方に分かれてこっちの出方を伺っているわ。君は、中心の敵小隊を撃破。その後・・・」なんだ?なんで僕が沙織に命令されてるんだ?「沙織、」「藤咲少佐。上官よ、私は。・・・少なくとも、戦場ではそう認識して頂戴」「了解・・・」「不満そうね?でも、私の階級は、操縦適性だけでなく、指揮官適性も考慮された任命なの。だから、戦闘中は、私の指揮に従って」・・・その方が、フェリシア人を駆除出来るものな。そう思ったが、口にするのは止めた。
「黒巖中尉了解、中心の敵小隊に突撃します」十六夜が変形する。一気に加速して、騎士の眼前に姿を現す。その頃、沙織は、左翼の騎士に切りかかっていた。「〇六式磁場固定刀・・・これね」自らの剣を手にすると、手ごろな距離の敵に斬りかかる。「受けなさい!穢れたフェリシア人!」「おのれ、騎士モドキめ!量産型の分際で・・・!」「量産騎だろうと、ワンオフモデルだろうと。・・・扱うのは、操者の腕ッ!!」沙織の月光が、眼前の騎士を盾ごと貫く。僅かに操縦席を外した。そのまま落ちていく。
「・・・チッ」操縦席を外した事は、私としては、不服。なら、次の生贄を・・・この空域は、残り二騎。・・・その内の、動揺している方を狙う。「月光、ライフルを!」「了解。〇六式陽電子銃、起動」「よしッ!!」銃を、臆病な騎士に向ける。連射する。・・・と、眼前に、もう一方の騎士が現れた。「やらせん!我が妹ルイ―ゼは!」「気色悪いのよ、アンタ達は!そうやって女同士で!」私は、剣を眼前の騎士に突き立てる。今度は、間違いなく操縦席。・・・殺った。フェリシアの、穢れた騎士を、この手で・・・
「マレ―ネ!・・・ああ、姉上。貴女、私をかばって・・・」「うざいのよ、貴女達。次はアンタの番よ!」それを聞いた騎士は、退避行動に移る。「逃がすものかっ!」私は、引き金を引く。しかし、当たらない。さっき殺した、マレ―ネとか言う女が守っているとでも言うのか。馬鹿な!・・・しかし、敵騎士は、射程外に退避していた。・・・黒巖中尉、後はあなたの番よ・・・沙織にとっては、誇らしい戦果であった。例え、敵の命を奪ったとしても。
その頃。黒巖中尉は、三騎を落としたところで、戦況が膠着していた。・・・流石に皇国近衛騎士団だけあって、士気と錬度が高い。一般の皇国軍とは比較にならない。特に、隊長と思われる騎士。彼女が、残りの二騎のフォロ―に入ると、十六夜でも対応が難しい。
「十六夜、どう判断する?」「錬度が劣る二騎から駆逐するのが上策と考えます」「成る程。僕と同じ結論か」ならば・・二騎の内、どっちの騎士に挑むか?見た目はそう、錬度に違いは無い様だが―と、右手の騎士が、踏み込む。・・・隙ありッ!虎徹で斬りかかる。と、例の指揮官がフォローする。刹那、左手の騎士が、僕をめがけ、魔法弾を撃つ体勢に入った。・・・今だッ!!すかさず、菊一文字で突き刺す。・・・良かった、操縦席は外れたみたいだ。「黒巖中尉、手緩いわよ!」沙織か。ほっといてくれ、僕はなるべく殺したく無いんだ。・・・二騎の連携が乱れる。すかさず、及び腰の騎士に斬りかかる。丁度、操縦席の真下で真っ二つになる。その騎士は、そのまま落ちていった。・・・よし、今度も殺してない。・・・多分。
「日本の騎士め。我が騎士団を、7騎も落とすとは。侮れぬ」「そっちこそ。残っているのは、君一騎だけだ。おとなしく降伏してくれないか」「笑止・・・!!我は、今日この地に、この国の闇が集うと聞き、出撃を志願したのだ。騎士の誇りにかけて、ア―シア人の軍門になど、下らぬ!!フェリシアが騎士、フェルス、参る!」そう隊長騎は言い捨てると、一直線に僕に向かってきた。・・・やるしかない。彼女の剣を、虎徹で受け流す。隙が出来た。・・・この位置では、操縦席を外すのは・・・無理、か。
「クナイ、出せ」「了解」クナイを、左手で取る。・・・今だ。虎徹と切り結ぶ彼女を無視して、操縦席にクナイを突き立てる。・・永遠に思える一瞬の後、彼女は言った。「せ・・聖皇女陛下に、栄光あれっ!!」
「はあ、はあ・・・。」落とした。フェリシアの騎士を。あの傷では、操者の命は、もう―。着陸する。沙織と大将、いや、元帥が駆け寄って来た。
「よくやってくれた。敵騎士、8機撃墜。緒戦と高野山の戦果と合わせて、17騎だな」・・・もう、そんな事はどうでも良かった。と。「・・・二階級特進だ。騎士を計二個中隊、撃破したのは大きい。君は今日から少佐となる」「二階級特進って、戦死したときとかに授与される、あれですか?」「まあな。だが、今日の場合は違う。君の戦果に対しての特進だ。私の権限で、略式ではあるが、戦時昇進させ、正式に少佐に任命する。異議のある者には、先生方が、やんわりと理を御説明下さるだろう」・・・少佐、少佐か・・・母さんには、随分と楽をさせてあげられるが。8騎中、何人のフェリシアの騎士が生存しているのだろう。
「君は、何を気に病んでいる?」「いえ、ただ何人死んだか、と。」「些細な事だわ、博秋君。」沙織か。「藤咲君の言う通りだ。敵フェリシア人の戦死にいちいちかまってはおれん。勿論、生存者には日本の名において、手厚い保護を約束しよう」「本当ですか」「フェリシアに、会いたい女が居るのだろう、君は。それ位の気配りは、私にもある」「東郷元帥は、黒巖二尉に甘いのでは?」「藤咲君、学友が、そんな冷たい事を言ってはいかん。それに、彼は、桜会の―日本の叡智の方々の御命を護ったのだ。いくら賞賛しても、したりない位だよ。それと、彼は今日から少佐だ。君と同じ階級と言う訳だ」「桜会?」「日本の英知たる先生方の会合。その名は、桜会。世界を正しく導く、賢者の集いだよ」
「東郷君、その二名が君の秘蔵っ子かね」・・・誰だ、この老人?と、沙織が姿勢を正す。「藤咲少佐であります。こちらは、黒巖少佐。両名共、先程の戦功を評価戴き、黒巖中尉は少佐に任命されました」「ほう、ほう、それは良い。東郷君、君も存外部下思いだな」「先生方ほどではありませんよ」「元帥、この方は・・・?」「ああ、御紹介が遅れたな。一之瀬先生だよ。桜会の重鎮でいらっしゃる」「ほ、ほ、ほ。そう緊張せずとも良い。年寄りなりに、日本がフェリシアに敗れる事の無い様、知恵を絞っておるだけじゃ」「先生は、フェリシアとの本格的な戦争が、不可避と御考えなのですか?」「君。その気が向こうに無けりゃ、此処に騎士を送り込んではこんよ」・・・正論だ。だが、僕は、フェリシアの意思が全て、戦争に向かっているとは信じたく無かった。「先生。先生の最終目的をお聞かせ下さい」「言うまでもない事を聞くね、君は。若いのかね?・・・目的、それは言うまでも無く、フェリシア人の「駆逐」じゃよ。まぁ、火星のテラ・フォーミングも、連中が勝手にやっておるしな。これ以上、太陽系内に、奴等の領土を広げさせる訳にはいかんでな」駆逐・・・まるで、アカシの「駆除」と同じじゃないか!?それに、火星には、地球人だって入植している。フェリシアの技術で、テラ・フォーミングされた、火星に!!
「先生。若者には、古典語は少々きつく聞こえます」「すまんな、東郷君。わしもいい加減、お迎えが来る年じゃてな。・・・それでは若いの、達者でな」・・・先生が、黒塗りの高級車に乗り込む。ただ、見送った。
あれが、桜会。その重鎮。・・・フェリシアに、日本が敗れる事の無い様。そう言った。信用して良いのだろうか?と、東郷元帥が、見透かしたかの様に話しかけて来た。「君は、少々疲れているのだよ。落ち着けば、先生方の偉大さが、君にも理解出来よう」・・・本当だろうか。指揮官騎が言った、この国の闇。あれは、一体どう言う・・・いや、いまはそう信じるしかない。・・・さっき、多分殺した騎士の命。沙織が殺した姉妹の内の姉。その二人の命の重みを、今夜は考えよう。
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