第2話 出会い

あの星間大戦から六年、地球は、様々な問題を内包していた。貧困、飢餓。先進国のみが享受する、科学の進歩の恩恵。フェリシア人への差別、終わらないテロリズム。・・・誰も、フェリシアとの戦争が終わったからと言って、戦前よりも世界が良くなっている、とはとても言えなかった。・・・そんな、混沌とした時代。地球、日本国首都・東京。

 -空を見上げれば、東京の超高層ビル群の遥か上空、月の手前にフェリシア人の超巨大戦艦が、威容を誇っている、いつもの見慣れた空-黒巖博秋は、将来に苦悩していた。

彼は、今日の出来事に落胆していた。「・・・はあ。」なんてことだろう。この僕、黒巌博秋が、必死でここまで上り詰めた人生が、あんな下らない理由で、またも否定されてしまうだなんて。・・・彼、黒巌博秋は、今日、二一〇七年度国家公務員一種試験を受け、官庁訪問まで漕ぎ着けたのだった。家庭の事情から、一九歳で働かねば、在学中の大学―慶鳳での勉学を続けられない。それを指導教授に話したら、この試験を受験する事を薦められたのだった。それが。

「少し調べさせてもらったよ。君は非常に優秀な様だね」「ありがとうございます」「大学での成績も良い。改定新大検に、不登校の身でありながら合格しただけの事はある。」「不登校だった事、やはり公務員としては問題でしょうか?」「いや、それは大した問題では無いよ」・・・よかった、これで・・・、「ただ」途端に、人事官僚の声が、冷たさを帯びる。・・・嫌な流れだ。「君の母さん、「アカシ」だね?」くっ・・・、やはり、そこが問題かッ・・・!「あの、でも、僕は信者じゃなくて。」「例えそうでも、上級官僚の母が「アカシ」では、他の者の目を引く。君自身、母様を通して、どの様な影響を、有形無形に受けるか、わかったものではない」・・・、じゃあ。

 「では、僕は・・・」「残念だが、今回は縁が無かったと言う事で理解してくれたまえ。いや、本職も残念なのだよ、これほどの逸材を民間に渡すと言うのは、ね。」「・・・わかりました。今日はお忙しい所、本当にありがとうございました。失礼致します。」「ああ、君。気を落とさんようにな。君の能力なら、民間ならいくらでも欲しがる所はある。」「・・・はい。では、失礼します」そうして、博秋は、内閣府ビルを出た。個人的には、追い出されたかの様な感覚を受けていた。・・・くそっ!成績では、高い評価を得ているのに!よりによって、母さんの宗教が、僕の足を引っ張るなんて・・・!公務員の採用は、競争試験による。それが、公務員採用試験の基本原則なんじゃなかったのか!?・・・いや、無理か。日本、いや、地球とフェリシアの関係がややこしくなっている昨今、過激な反フェリシア主義を掲げる「アカシ」、キリストの証とは関係を持ちたくない。例え、本人がそれを嫌っていても。身内が信者だったら。・・・何もかもやるせなかった。第一、民間なんて。僕は体も弱く、普通の仕事に就けないからこそ、義塾の先生方に御相談して、この道―上級公務員の道を志したのだ。民間で働ける位なら、とっくにコンビニでも、マクドででも、アルバイトをしているさ。

 霞ヶ関を、肩で風を切るように歩いていく若手のキャリア官僚。仕立ての良いスーツ、最新のノートPC。天まで届くかの様な、官庁のビル群。遠くには、皇宮の御所の門が見える。・・・見ていると、何か不穏当な、恥ずべき感情に支配されてしまいそうで。・・・ああ、早くこの街から出よう。きっと、この分なら彼女も・・・

 「博秋君、どうしちゃったのかな?そんな暗い顔をして。って、君はいつも真面目顔だよね」明るい声がする。見ると、沙織だった。・・・取り合えず、最寄の喫茶店に。「入ろうか」・・・店内は、複雑な雰囲気だった。内定を勝ち取った者、ご縁が無かった者・・・様々な人生模様が見て取れた。

 「国家一種、落ちたんだよ」「ええ!?本当に?君が?」沙織は、僕の小さい頃からの幼馴染だ。最近までは、彼女は、いわゆる良家の子女だった。あの戦争の影響が、僕達一介の市民に影響を与えるまでは。

 「沙織は財務省、通ったんだ」「うん。法務省にしようか、最後まで迷ったんだけどね。結局」沙織は、そこで紅茶を一口、口にする。「財務省の、日本の富を、正しく国民に、いえ、世界に分配する事が出来る職場だよ、って職員の一言に、クラッと来ちゃってね。戦争後の混乱した世界には、日本の富を正しく分配する、コレ大事。日本の支援なしでは、立ち行かない国も多いもの。あの女だらけの異星人が侵略してきて以来」

 ・・・沙織は、知性的で、とても魅力的な女性だ。なんで、こんな、成績しかとりえの無い僕の、ガールフレンドで居てくれるのか不思議な位。・・・でも。彼女は、過激な反フェリシア主義を掲げる「キリストの証」。その、信者だった。家族揃って。彼等の言う、福音家族、とか言ったっけか、ともかくそれだった。 

 「で、栄えある我が校が誇る秀才君が、なんだって、公務員試験なんかで躓いたのかしら?」「僕は、・・・母さんの宗教が理由で落ちたらしいよ」「ええ!?そんなのあり得ない!だって・・・」沙織は、少し声を低くする。彼女も、日本では、アカシを快く思わない人が多い事は、十分承知していた。

 「フェリシア人を嫌いだなんて事、地球人として正しいだけじゃない。あの連中、女同士で子供を産むのよ?いくら男の人口が少ないからって・・・。生物として、間違った行為だわ。それに男が少ないのだって、連中が野蛮だから、戦争で男が死滅しただけじゃない。」沙織の反フェリシア感情は、ほっておくと、延々と続く。

 「私は、今日の内定は、偉大な大教主様の御加護のおかげだと思うけど。・・・博秋君、教団の教義、ちゃんと説明したの?」「したよ。僕が、今のところ、信者じゃ無い事も、きちんと。」はあ。沙織がため息をつく。彼女は、僕にもアカシに入信して欲しいのだ。それで、将来は、例の福音家族、ソレになりたいらしい。沙織には悪いけど。・・・アカシだけは、御免だ。聖書の真の解釈を標榜するアカシ。彼等の教義は、神学校出の学友に言わせると、聖書の本来の教えからは随分とかけ離れたものであるらしい。しかし、アメリカの一新宗教に過ぎなかったアカシは、フェリシア戦争後の不安定な世界の人心を掌握し、いまや地球で確固たる地位を築こうとしていた。その信者が珍しく数少ない国、それが我が日本国だった。

 ふと、思う。・・・あの宗教は、反対する家族や子供には、全く容赦が無い。虐待は日常茶飯事だった。高校からアカシに心酔した沙織と違い、物心付いたときには、母さんがアカシだった僕には、良く解る。たとえ異星人―フェリシア人―が嫌いでも、あの宗教は駄目だ。・・・いつか、あの宗教は、世界を混乱させる。死んだじいちゃんが、よく口にしていた。と、沙織が何か言っていた。いかん、彼女の話を聞こう。

 「・・・私は、教授が諮問員を勤めてる、「これからの日本のあり方を考える有識者の会」の会合で、書記の助手をしていたから。教授や先生方の推薦状を頂けたわ」「そう言う縁故採用って、禁じられてるんじゃ・・・。」「正論ではそうかもしれないけど。私だって、君同様、将来が懸かってるんだから。」沙織の言う事も一理はある。それに教授だって人の子だ、お気に入りのゼミ生に、推薦状の一つ位渡す事も有るだろう。・・・と言うより、そう思わないと、不公平感で、胸が締め付けられそうになる。努力はきっと僕の方が・・・いや、いかんいかん。これは、恥ずべき感情だ。理論ではなく、感情。で有るならば、彼女の努力を妬ましく思うのも、人として、ある意味自然なのかも知れない。

 「沙織、君は今日、これからどうするの」個人的な事を聞いて、一体どうするのか。おかしな話だが、今日のショックから僕が立ち直るには、見事未来を勝ち取った沙織の、元気な姿を見ている方が、僕自身が立ち直れる気がした。

 「私はもう少し街にいるわ。お父さんが、内定祝いに、食事の出来る店を予約したんだって。今、携帯にメールが来たわ」「それはよかったね。楽しんで来てよ、沙織」「・・・うん、この携帯代だって、お父さんお母さんが毎日、きつい仕事を頑張って、持たせてくれてるんだものね。早く来年にならないかしら。財務省で働いて、最初の給料で、二人にお礼返ししなくちゃ。あ、それ以上に、官舎に移れるのよね。今の狭いアパートは、もう懲り懲り。住人の柄も悪いし」

  沙織は、採用内定の喜びを噛み締めている様だった。アカシと関わりがなければ・・・きっと僕も。そう思うと、心悲しい気分にさせられる。もっとも、沙織には、そんな憂鬱な僕の気分を思いやる余裕は無いようだった。無理も無い。戦後の混乱に、いきなり巻き込まれて、良家の子女から、突如として社会的弱者の家庭の子になったのだ。以前なら当たり前だった車の保有すら、家計が許さず。紗織の自慢だった、腰まで伸ばした薄茶色のロングヘアーも、長期に渡る貧困生活で、黒髪に戻りつつあって。栄養不足の所為か、白髪さえ少し見える気がする。そんな沙織に、僕の事まで気にかけてくれというのは、余りにも身勝手と言う物だった。

 「それじゃ沙織、僕は先に帰るよ。ご両親に宜しく」「博秋君も気を落とさないでね。大丈夫、君程の秀才なら、道は一杯開けてるわ」「はは、頑張るよ。・・・それじゃ、沙織」「うん。本当に、気を落とし過ぎないでね」「解ってるって」

 喫茶店を出る。山手線から、私鉄のローカル線に乗り換える。帰宅時のラッシュが、今日は疲れる。「・・・本当に」沙織、内定して良かったな・・・。と、睡魔が襲ってきた。

 目を覚ますと、いつもの無人ローカル駅だった。自販機で、お茶のペットボトルを買う。僕は、持病で体の水分が少ない。そういう病気らしい。定期的に水分を補給しないと、干からびてしまう。

 落胆したまま、自宅への帰路に戻る。母さんが、そろそろ「アカシ」の集会から、帰宅する筈だ。今日の結果をどう言おう。母さんは、僕の官僚志望を応援し、期待してくれていた。その官僚から、母さんの宗教、「キリストの証」が、不採用の理由だと、暗に宣告されたと知ったら。きっと、心を病んでいる母さんの事だ。自分が理由だと、激しく自分の過去を悔やむだろう。

 僕が大学で習った一つの成果、それは、あの教団が、欧州等では「セクト」と呼ばれる、過激団体と認識されていることだった。それに母さんは、フェリシア人の事を、それ程悪く思っていない。この東京で、たまに、日本に移住したフェリシア人と出会う時がある。母さんは、フェリシア人が、地球人となんら変わらない、友好的な人々だと思っている。そのフェリシア人を、「アカシ」の連中は差別しているのだ。彼らの「集会」では、教団の地区幹部が、フェリシア人の「駆除」を呼びかけてさえいる。曰く、フェリシア人には、神の祝福は無い。神に祝福されたのは、我々地球人のみであり、唯一地球人こそが、正しい存在である。フェリシアの「蒼い血」は穢れているから、彼女達の血液を体内に受け入れてはならない、等等。

 どうやら、アカシのラッセル教主は、フェリシア人が、女性同士で子を設ける事が、事の他、気に入らないらしかった。尤も、それは地球人の側からみて異常に思えるので、男性が極端に少ないフェリシアからすれば、種の保存の為に、最適な手段を採っているに過ぎないのだろう。大体、アカシは、フェリシアの「人工男性」には、神の領域を侵犯する物であると、口に泡立てて罵倒する。一体、どうしろと言うのだろう。

 ・・・まあ、僕だって、男に告白されたら大変困るし、フェリシアの同性婚を貶す気持ちも、少しは解らなくも無い。でも、それはあくまで感情論の話だ。種の保存方法が違うからと言って、彼女達を差別して良い理由にはならないと、小生は考える。・・・途中から、今度のゼミに出すレポートの話に、話題が移ってしまっていた。

 兎に角、母さんには、正直に事情を話そう。大学に通えなくなるかも知れない、金銭的に。その話題は避けよう。母さんの事だ、きっと働く事が出来無い、自分の障碍を嘆くだろうから。心の病には苦労するけど、僕のたった一人の家族なんだ。

 ・・・それにしても。沙織は、母さんとは間逆に、アカシへの依存を深めていたな。・・・無理も無い、自衛官だった御爺さんが、第一次星間大戦で殉職し、戦後の超不景気で、両親も職を失ってしまっていた。六菱の技術者だった父と、慈善活動家だった母、沙織の両親。それが今は、父は不安定な労働、母は、もはや他者を慈しむ余裕は無く。ただ、沙織を無事、卒業させたい、その一心で、身を粉にして、低賃金で必死に働いていた。僕からすれば、良家のお嬢さんだった沙織。彼女は、今は、アカシにしか、すがる物が無いのだろう。なにせ、彼女からすれば、何の罪もない、自分達の生活が破壊されたのは、全部フェリシア人が、地球にやって来てからなんだから。彼女も一六歳で慶鳳大学に、飛び級入学した才女の身で有りながら、僕同様、働かねば大学での勉学が続けられない身分だった。  

奨学金の申請者が多すぎ、しかも能力的には資格を満たす者が圧倒的に多く、紗織や僕の分まで、手が回らない。世間からは裕福とされる、慶鳳大学の財政能力であっても、である。確かに、フェリシア人を恨みたくなる気持ちも解らなくは無い。

 ・・・僕からすれば、豊かな少女時代を過ごしただけ、幾分かマシに思えるけど。僕は幼い時から貧しかったし、それに、なんせ、僕の最大の不幸は、大学に入ってから訪れたのだ。

 「慶鳳に入っても、昔、不登校だった人は、大学を卒業しても、働くとは思えませんし・・・。」

それが、母さんの義理の姉の言ったセリフ。保健婦であるあの人は、不登校の状況から、名門大学に入る事が、人として信用出来る根拠とは考えないらしかった。その夫、母さんの実の兄は、じいちゃんに借金をこさえさせて、ようやく三流地方大学に入って、その地方で県庁職員をやっているわけだが。僕を、じいちゃんの様に支援してくれる気は、全く無いようだった。    

 もう一人、自称大富豪の男…、中小企業の社長である、母さんの実の姉の夫、彼も同様だった。しかも、叔母・・・あの女の話では、個人的に僕を嫌っているらしかった。いかがわしい業界に部品を納入して得るお金。それを、あの男は、じいちゃんの葬儀の時に、貧しい僕達親子に向かって、嫌味たっぷりに言ったのだ。

 「いやあ、年収が数十億もあると、長者番付に乗って、色々金の無心をされて、大変でねえ」・・・呆れて物が言えなかった。「いかがわしい、パチ・・、なんざ…いや、言ってもしょうがないか。」

そう言えば、あの男と実の叔父の二人は気が合うらしく、じいちゃんの葬儀に、高知に僕達親子が出かけた時、運命の地球とフェリシアとの開戦の日も、フェリシアとは戦争にはならない、なっても地球が簡単に勝つ、そう信じていた。・・・普段、ローカル紙しか読まず、テレビも民放の低俗な番組ばかり見ている彼等は、戦争と言う言葉が、まるで実感が湧かないのだ。・・・地球上でも毎日戦争をやっている地域はある。アイルランド、アフリカ大陸、中東、聖地パレスティナ。そうした情報を、彼らは知らないのだ。テレビのニュースでも、動画サイトのニュース動画でも普通にやっているのに。どうやら彼等にとり、テレビやPCとは映画とスポーツ、バラエティー番組を映すだけの箱であるらしかった。

 公務員と、いかがわしい産業。どちらも、第一次星間大戦の影響をさほど受けず。寧ろ、「産業」の方は、戦後の混乱期、心が疲弊した日本人の、不安定な人心を取り込み、かえって濡れ手に泡、そんな状況であるらしかった。

 ・・・こんな事は、なにか間違っている。真面目に努力して、不登校の過去歴を、新制度大検で払拭し、私学の名門、慶鳳大学に入った僕が、母さんが、爪に火を灯す様な暮らししか出来ないなんて。日本は、何処かで、国民の教育の大事さを忘れたのか?教育を大事にしない国家は、亡国の道を辿ると、歴史が証明しているというのに・・・!

 いかんいかん、怒りに我を忘れる所だった。どんな表情で、母さんの元へ帰ろう・・・。そんな事を思っていた、正にその瞬間。轟音が、東京の空を切り裂いた。上空には、いつも通り、月の手前にフェリシア人の超巨大戦艦。「・・・なんだ?」 謎は直ぐに解けた。のどかな、田舎の田園風景。その上空で、何者かが戦闘しているのだ。自衛隊?だったらおかしい。彼等が警戒しているフェリシア軍とは、長崎条約で、向こう10年間、つまり後3年は、戦争を行わない筈だ。   

 そもそも、自衛隊は戦争を行わない。あの星間大戦でも、そうだった。憲法九条の精神を尊守して、各国の恨みは買った物の、国土の荒廃は免れた。自衛隊である筈が無い。そう思った。いや、思いたいのだ。そうでないと、日本が戦争に巻き込まれる可能性を考慮

しなければならなくなる。「頼む、他所の国の機体であってくれ・・・!」

その期待は裏切られた。上空に、蒼い光を放つ、美しいシルエット。機体に白銀と金装飾、蒼の宝飾。間違い無い、あれは、フェリシア人の近衛騎士団だ。でも、都心から離れたこんな所に?月明かりの下、空が開ける。ふと、空を見上げる。すると、見慣れない船の姿があった。船体に鮮やかな日の丸、自衛隊か?見慣れない装飾が有るが・・・まさか・・・まさか、機動強襲群か!?こんな所で戦闘なんて・・・・!?ここは、民間人居住区なんだぞ・・・!?途端、その船が発砲した。

 自衛隊の機動艦が、砲撃している方の空を見上げる。すると、向こうの空にも船がいた。艦体の宝飾から、あれが「彼女達」の母艦であるようだった。そうこうしている内に、フェリシア艦から、またも騎士と、少数だが戦士、戦闘機が発艦した。遅れて発艦した所から見るに、さっきの騎士が指揮官騎であるか、乃至は今度の部隊は、機動強襲群の戦術騎に対応する為の戦術の様だった。噂通り、物凄い速度で自衛隊の機動艦に、肉迫する。それに対し、弾幕の嵐。続いて、遅ればせながら、戦術騎が発艦する。機体にOD…濃緑色、間違い無い。自衛隊の『睦月』だ。あれは機動強襲群用に改装された、強化型か…!?

出会い頭、一刀の下に切り捨てられる睦月。やはり、エーテル剣の力は相当な物だ。睦月の剣と盾では防ぎきれていない。その上、睦月の銃は、フェリシアの騎士のスピードに付いて行けてない。機動強襲群といっても、ここまで不利になる程、騎士の力は圧倒的なのか・・・。確かに、一時間戦争で、国連軍艦隊が壊滅するだけの事はある。

 睦月と、それに見慣れない戦術騎が降下して来ていた。新型騎なのか、あの機体だけは、多少は戦えている様に見える。どうやら、空中戦では不利な戦術騎は、地上で戦うつもりらしい。あの目立つフェリシアの騎士、指揮官のカスタム騎なのか、一際高性能な様だった。ニュースで見た、騎士の「魔法」に、次々と戦術騎が打ち倒されていく。運の悪い機体は、操縦席付近に魔法を受け、爆散した。・・・だんだん戦闘が近づいて来る。このままここにいては危険だ・・・!と。戦闘中、流れ弾が僕を掠めた。戦闘の着弾が、だんだん近づいてくる。銃とはいえ、戦術騎のそれは、人間からすれば大砲と同じ。このままでは僕も危ない・・・!と。一際美しいフェリシアの騎士が、僕の前に立ちふさがった。まさか、僕を守ろうとでも言うのか!?刹那、彼女の騎士の背中に、壱百四拾粍砲弾が続けざまに炸裂する。しかし、騎士は小揺るぎもしなかった。

 その騎士は、他の騎士に戦闘を任せた様で、僕の方を向き直った。そして、厳かに、音もせずに操縦席が開く。・・・見た事も無い、美しい少女。フェリシアの人を象徴する深い蒼い髪と瞳、間違い無い。彼女はフェリシアの騎士だ。

  「我が名はシルフィ・ラ・フェリシア。アーシアの民よ、戦場(いくさば)で何を成そうと言うのか?」

 ・・・一目惚れだった。彼女は、地球にとって、敵だと言うのに。ん?待てよ・・、フェリシア・・・!?その姓と言う事は・・・フェリシア皇族なのか!?

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