1−10 確執

 優越者ユージェニク——

 慧理が入院している立川市三愛街病院を出た後、舞浜はタクシーの中で身じろぎもせず思考の奥底に沈んでいた。自動運転のタクシーが舞浜の自宅マンションに滑るように走る間、才原から明かされた事実はあまりに大きく彼女の思考領域を食っていた。

 「知能を持った獣」と才原は呼んでいた。彼女の説明した通り、獣のような身体能力に人間の知能が合わされば、それはまさしく優人間の進化した姿となり得るだろう。その存在を「反共同体」側であるテロ組織も、もちろんGoogleや国のような「共同体」側でさえ放ってはおかない。前者は社会への抵抗として、後者はさらなる秩序の拡大のため。

 感情や思考を共有することにより幸せを追求する共同体側が圧倒的多数となった今、テロ組織は苦戦を強いられている。何故なら少数派という存在はいつでも負担を強いられるものだから——年々テロ組織の数は概算すれば増加傾向にあるものの、諦めて共同体側に入り自らの思考を捨て去る者の方が多かった。そのため反共同体のスタンスを取る人間は小さな組織やグループとなって集まり、互いに情報交換をする。よってテロ組織、それに並ぶグループやサークル等は増加傾向にあった。しかし、全体の人口は減少していた。

 劣勢の反共同体側にとって、優越者ユージェニクとはまさに救世主と言っても過言ではないだろう。膨大な力を手に入れることになるのだから。

 そして秩序を乱す反共同体側を疎む共同体側もまた、優越者ユージェニクを使い大掃除をしたがるだろう。

 

 才原の悲劇とも、自業自得とも取れる結末はともかく——優越者ユージェニクの存在には興味をそそるものがあった。彼女は確か「出生時の脳死による自我の欠落」と言っていた。舞浜は一名、思い当たる知り合いがいた。

 真宮錠丹だ。

 舞浜は心理学科の大学院に所属している。彼女の研究領域は精神分析及び精神分析学の生物学への応用であり、現在のメインテーマは人間の感情のコントロールだった。

 彼女は度々真宮の精神分析を行なっていた。きっかけは真宮が自身のレポート内でフロイトの精神分析と流派について取り扱うため、話を聞きたいと彼女の元を訪れたことだった。真宮は舞浜から精神分析について学ぶうち、さらに興味を示すようになった。彼は精神分析をされること自体にも好奇心を抱いていたため、舞浜は論文のデータ集めにでも使うつもりで彼の精神分析を始めたのだった。

 そして予期せぬことが判明した。真宮には8歳まで。正確に言えばとても希薄だった。言うなれば——のような精神状態だったのだ。

 彼が体験した両親からの虐待、それ自体はよくある話だが、自我の希薄さについては虐待されていただけでは説明がつかなかった。それらは全く関係ない事柄だった。過去の膨大なデータを当たっても相関関係は全く見つからず、自我がないという現象についても特定の部族、人種にしか現れないものであり、真宮のように日本人の中に突然自我がない人間が生まれるとは考えにくかった。しかし、現に真宮は8歳以前の記憶を全く持っておらず、それは舞浜が彼と調査して実証した。

 そして今、糸が繋がる。才原の言っていたことが事実ならば、彼は「出生時の脳死による自我の欠落」であったと。現代の医学では出生児の脳死は治療可能の範囲だった。しかし唯一、前頭葉は修復に時間を要する部位だった。

 成長していくにつれ彼らは自我を獲得する——自分と周りが違う独立した存在であることに気づき、人間という社会的な生物だと学習する。これらのプロセスはヒトの場合通常1〜2歳の時に終えるものだが、脳死した赤ん坊の場合自我の獲得が非常に遅い時期に行われる。彼らは平均して6〜10歳の間に自我を獲得するが、それまで彼らは人間のような挙動を示さない。そのかわり人間以外の哺乳類のような振る舞いをするのだ。研究者はこれをだけで行動している状態と定義する。腹が減ったら泣き、なりふり構わず食物を手に入れる。排便も食事も睡眠も満足にできない—— およそ6歳までこれが続く。それから自我を獲得するまで、彼らは暴力、虚言等でなんとしてでも自分の目的を達成しようとする。

 これらはサイコパスとは似て非なるものである。サイコパスと呼ばれる人々には完全な自我があり、感情が備わっている。しかし彼らのように出生時の脳死に見舞われた人々は、自我は一切持たない。あるのは目的の達成欲求、ただそれだけだ。

 では真宮は優越者ユージェニクか?しかし、もう一つ条件がある。才原は「多因子遺伝疾患」が絡んでいると言っていた。多因子遺伝疾患とは遺伝子に記述された先天的な疾患のことで、糖尿病や口唇口蓋裂等の要因となりうる。これ自体は特に珍しいものではない。才原はその中でも「不活性遺伝子疾患」という疾患を挙げた。「DNAが操作できない疾患」と彼女は説明した。つまり、現在盛んに行われている生前のDNA操作が一切できないのだ。

 DNA操作が一切できない疾患と、出生時の脳死による自我の異常な遅れ、これらが組み合わさると自然発生的に優越者ユージェニクが生まれる——人間の身体能力を超越した、知性を伏せ持つ獣……

 なぜDNA操作が一切できないという事実が、超人的な力を生み出すことに繋がるのだろうか?自我のストッパーが外れて目的を達成することだけに意識が向くのはわかるにせよ、こちらは舞浜にはまだ調査不足であった。確か真宮には遺伝子操作がなされていなかったはずだが…

 そしてもう一つ、奇妙なことがある。精神汚染の憂い目にあった崖内慧理——なぜあの子はたった一日で回復したのか?

 才原は崖内慧理の肉体に精神を一時的にねじ込むことができたものの、だからと言って精神を守ることなど不可能だ。一つの体の中に複数の精神及び自我が入り込むことは可能だが、守ったり、逆に攻撃しあうことなど一切できない。

 舞浜はここで必然的な一つの結論にたどり着く——

 のではないか?


 青樹は植物性プラスチックチューブに補填された高栄養コンバット・レーションを吸っていた。傍らには箱詰めされたチューブ型のレーションが山積みにされていた。アパートの一室にはノートパソコンの光だけが灯り、青樹の瞳を小さな長方形型に虚しく照らしていた。以前このチューブに入った人工肉のペーストを口に入れたときはあまりの誇張された豚臭さに辟易したものの、今ではそんなことは全く気にならなかった。

 (俺のせいだ)

 吐瀉物で汚れた彼女の口元を妙に鮮烈に覚えていた。精神汚染された者を見たのは、実のところ今回が初めてだった。

 テロの実行内容の詳細はサイバーテロ課にのみ知らされていた。情報漏洩を防ぐためだ。そこに所属していた青樹にさえ、「共感苦痛」を実行することだけしか教えられなかったのだ。まさか精神汚染までやるとは思いもよらなかった。

 (いや、そんなことは関係ない)

 慧理の端末には感情マスクがされていなかった。これが現実であり、慧理は泡を吹いて倒れた。Auto-syncの脆弱性を探したのは自分であり、慧理はAuto-syncを持っており、精神汚染された。今彼女がどんな状態なのか彼は知らなかった。知りたくなかった。真宮はどうしているだろうか。あれから3日しか経っていないことが彼には信じられなかった。一日が異様なほど長かった。映像編集ソフトのタイムラインが最大限拡大されたように、秒数は過ぎるのに、時間はいつまでたっても進まなかった。テストが明後日あるな、と青樹はぼんやり思った。それから参考書を手の届く範囲にあるか探したが、無かったので、彼の目はまたノートパソコンに戻った。

 くだらないな。

 青樹は天井を見る。

 一瞬、脳の中の嵐が止んだが、また思考の隙間風が吹いてくるのだった。

 気がおかしくなりそうだった。才原の自爆テロにより巻き添えを食らった人間たちを思い出し、血を吐く慧理に重ね、ぞっとして、また思考をシャットダウンしようと試みる。と、そこにNeumannがピアノに似た断続的な電子音を発した。青樹は放っておいたが、鳴り止まなかったので、仕方なく確認した。真宮だった。また一瞬逡巡してから、結局真宮からの電話に出ることにした。

 「青樹。今どこいる?」

 「……家」

 「今すぐこっち来い。地図送るから。早く。病院」

 病院。青樹は胃の底に何かが脈打つのを感じた。

 「……嫌だ」

 「何言ってんだ!慧理ちゃんの意識が戻った——」

 青樹は通話も切らずに走り出した。


 立川市三愛街病院。青樹が病室の薄型防音ドアをノックすると、看護師が開けてくれた。

 「ご友人ですか?」

 「はい、そうです」

 「どうぞ」

 明るく清潔に保たれた病室には真宮の後ろ姿が見え、明らかに生きている人間に白い薄型保温シーツがかかっていた。

 「崖内!」

 ベッドから身を起こしている人物がいた。髪をおろしてはいるが、間違いなく慧理――

 「あ、青樹先輩こんにちはー」

 「え?」

 慧理が手をひらひら振っている。「どうしたんですかーそんな必死に!」真宮にさもおかしそうな目線を送り、くすくすと笑う。

 「え、いや、だってお前」

 「もしかして私めっちゃ心配させちゃったんじゃないですか?ホントごめんなさい。そんなつもりじゃなかったんですけど」

 「えっと……」

 青樹は言葉を探す。

 「やけに元気だな」

 「そうですか?私はいつも元気ですよ。ねえ?」

 真宮に話が振られる。彼は特に戸惑う素振りも見せずに応対する。

 「あー、あと敬語じゃなくていいって言ったよな?」

 「そうだっけ?忘れてたー。そっか先輩たちフレンドリーな感じの人達だもんね。グローバリゼーションっていうの?英語にならってって感じかな?」

 「……」

 ついに青樹が沈黙した。真宮がさりげなく話を振る。

 「ところで身体の方は大丈夫なの?この間、随分ひどい目にあったよね」

 「大丈夫。ちょっと目が痛いけど。正直良くあのときのこと覚えてないし、早く退院したーい」

 「安静にしてな。ゆっくり休んだほうが良い」

 真宮が慧理の枕元にお見舞いの品(チョコレートやクッキーが大量に入っていた)を置いた。「じゃあまた来るから。おだいじに」

 「うん、ありがとう!」

 二人はにこやかに退場し、さよならを言って、廊下に出た。

 病室のドアが音もなく背後で閉まると、彼らは早足で歩き始める。

 「なあ……」

 せわしなく電子メスや医療機器が積まれた台を押す看護師と何度もすれ違った。薬品の匂い。彼らにとっては非日常の香りだった。白く、やわらかな照度に統一された廊下。

 「あれ、誰?」

 「俺も最初来た時は驚いた。よくわからんが人格が若干変わったみたいだな…」

 「なんだそれ。そういうことってあるの?脳が損傷したとか?」

 「さあ…… なんにせよ記憶はあるみたいだが」

 「一部記憶が抜け落ちていた。敬語のくだりとか。それに、崖内は敬語を話さないことにかなり抵抗感があったような覚えがあるんだが。あれじゃまるで……」

 「別人だな」

 そして二人は黙り込んだ。何も言うことが見つからなかった。しかし、病院の前の穏やかな小道に出た瞬間、真宮が何かを思い出したようにふと立ち止まった。

 「どうした」

 「なあ、彼女『才原』とか言ってなかったか」

 「『才原』……?」

 「あの自爆した女性に向かって叫んでいたんだが……」

 青樹は当時の惨事を思い出すとまた心臓が脈打ったが、なんとか記憶を探る。

 「確かに、誰かの名前を叫んでいたような気がする」

 「そう、それなんだ。俺が話したかったのは」

 真宮はいつものバックパックから2枚のカードを取り出した。花柄の古いイギリス風の縁取りの中にはただ空白だけがあった。

 「これは?」

 「看護師が渡してくれた。汚れた上着を洗うから預かっててと言われたが」

 真宮がNeumannの懐中電灯機能を使うと、シールが白く発行する。光をカードにあて、長い波長にするためNeumann内の波長スライダーを移動させると、光は目視できなくなり、代わりにカードに文字が現れる。

 『ご友人へ』


 『こんにちは。今は7月13日の9時39分です。これを見ているということは慧理がちゃんと渡してくれたんですね。とりあえず昨日カードを渡しておいてよかったです。このカードはネットワークにつながっているので、いつでも更新ができるのです。便利でしょ?』

 真宮のアパート――狭く古い一室の8割は本やDVDで占められている。ほとんどが「有害図書」指定されたものであり、発見され次第膨大な額の罰金が下るだろう。部屋の隅には「VHSテープ」という四角く小さい箱のようなものが積まれている。真宮曰く「大昔に使われていた、今で言う動画再生ファイルのようなもの」であるらしい。青樹はいまいちピンと来なかったが、つまりは古い映画が記録された媒体であるということだった。

 彼らはNeumannに花柄のカードを読み込ませ、実在するディスプレイに映像を表示して見ていたのだった。

 『あなたたちは慧理のお友達なんですよね。もしかしたら明日会うかな…… でも誰かわからないや。時間があったら慧理に聞いてみます』

 才原は笑った。

 『私は明日自爆テロするんですけど。インターンには知らされてないですよね。多分今、あなたたちは私が自爆したあとにこの映像を再生しているでしょうから、ちょっと驚いているんじゃないかな?まあいいや。前置きはこれくらいにして。本題に入りますね』

 「自爆した当人だったのか……」

 死んだ人物の語りかけに、二人は悲しくもぞっとした感情を覚える。

 『まず——私は慧理の小学校時代の友人です。慧理はなぜか忘れていましたけど、正真正銘、同じクラスでした。これ、小学校時代の名簿。慧理、可愛いでしょ?もちろん私もね』

 画面に「多摩市立中央小学校」の名簿が表示される。青樹はようやく一つの真実を手に入れた——彼女の本物の情報だ。「崖内慧理」の文字列と、その上の正方形の写真に癖っ毛の女児が写っている。

 『慧理は転校生で引っ込み思案だった私にとても仲良くしてくれました。親の転勤が多かった私はなかなか集団の輪に馴染めずにいました。慧理は本当に優しい子で、私をすぐクラスに溶け込ませてくれました。聞けば彼女はもともと障害者学校にいたというではありませんか。彼女自身の暴力が手に負えなくて、親の判断で1年間通っていたと聞きました。私は全然想像できませんでしたけどね……。小学校はすごく楽しくて、私が中学に上がる時に引っ越すことになってしまったのですが、その時彼女から「文通しない?」って誘われたんです。おかしくないですか?「文通」って。私最初聞いた時なんのことだかわかりませんでしたよ。

 まあそれはともかく……私たちは中学校に上がってから離れ離れになりましたが、3年間ずっと「文通」していたんですよ。高校に上がってから、手紙は途切れてしまいましたが。だから彼女を本社で見かけた時、一瞬死ぬほど驚きました!』

 才原は屈託無く笑う。

 『それでね、私は大きくなって、彼女についてちょっと疑問に思うところができたのです。私は生物工学を高校で専攻していて……大学は半年で辞めてしまったのですが、実はある研究をしていたのです。

あなたたちは、『自我』というものをご存知ですか?』

 自我……!

 真宮は以前、青樹に崖内慧理の自我について話していた。当時青樹はあまりよくわかっていないようだったが、ここにきて彼の頭の中で何かがつながった。

 『自我がないと、人間は人間のような生活を送れなくなってしまいます。説明が難しいんですけど、そうだな、例えばにゃんこってすごく気ままに生活してますよね?猫じゃらしがあれば突進するしマタタビがあればゴロゴロしますよね?だけどそれは考えて生活しているわけじゃありません。本能のまま動いているのです。人間は猫のように毎日ゴロゴロしながら生活するということはまずありません。ただゴロゴロしている時にも幸福感の中に罪悪感やら虚無感やらを感じる余地があるはずです。自我っていうのはね、簡単に言えば心です。超自我、エスとか聞いたことないですか。人間の心の中には、猫みたいに気ままでやりたい放題の部分と、やりたいことを計画する部分と、それを抑える部分があります。順番にエス、自我、超自我って名前がついてます。なので正確に言えば、超自我の欠落ですね。

 それともう一つ。『不活性遺伝子疾患』っていう、DNAが操作できない疾患があることを知っていますか?その疾患は特に人間に害を及ぼさないのですが、何しろ生前のDNA操作ができないので、イケメンになったり、病気に強くなったり、そう言ったことができにくくなってしまうんです。今じゃ大問題ですよね?あんなにこぞってGoogleや24andMeが遺伝子操作を奨励しているのに……。

 それでね、その二つが合わさると、多くの場合——優越者ユージェニクという人間の身体能力を超越した人間になるのです。GoogleやApple等の共同体派の大企業を統括する世界国際平和共同推進委員会WPOは世界各国の権力者と共に彼ら優越者を——』

 ここで一瞬、画面が黒く途切れた。動画が再開したが、突然の画素数の著しい低下とコマ落ちにより彼女の顔や、音声さえ聞き取れる状態ではなくなった。

 「どうなってんだ」

 ひどくノイズが乗った声で才原が何か訴えているが、もはや二人にはわからない。そのうち映像はモザイクのような状態で停止し、終了した。

 「何だ……どこかで設定をミスったのか」

 「優越者ユージェニクって何?」

 「なんか……すごい人間ってことなのかね。これ、念のためコピーしとくか」

 「頼む。コピープロテクトかかってるけど大丈夫か」

 青樹が得意げにニヤリと笑う。いくらか元気を取り戻したようだった。

 「正直彼女の訴えたいことはよくわかんなかったけど——自爆テロの当人だとは知らなかった——だけど、崖内の本物の情報が得られたことは驚きだった……」

 「ああ、前全部嘘だとか言ってたな」

 「今まであいつは何なのか、そもそも人間なのかどうかも疑っていたが……ちゃんと証人がいた」

 「俺以外にも遺伝子操作してないやつ、日本の中であんたら以外にいたんだな」

 「そりゃそうだよ」

 「お前なんか嬉しそうだな」

 青樹の饒舌さが止む。

 「別に」

 「慧理ちゃんが元気だったから?」

 「え…、まあ……えーと……そりゃ死んだと思ってた知り合いが元気だったら誰だって喜ぶだろ……」

 「確かに。俺ももうダメかと思ったよ」

 「そうだよ……なんか性格変わったけど……無事でよかった……兎にも角にも」

 「お前も無事でよかったわー」

 「は?」

 「どうせあれから落ち込んだきりでロクな生活してなかったんだろ。そーゆー奴じゃんお前。餓死してるかと」

 「……食ってたよ、ちゃんと……」

 「ちゃんと見舞い行ってあげろよ。入院中は退屈だからな」

 「何で俺が。お前と一緒に行くよ」

 「忙しいんだから無理して一緒に行かなくたっていいだろ」

 「……」

 真宮がおもむろに立ち上がり、缶チューハイを冷蔵庫から抱えて戻ってきた。「不法入国の外国人が提供してくれた酒」

 「やるね。あんま強くないやつちょうだい」

 「実はな。その不法入国の怪しげな外国人はGoogleの社員らしい」

 「え!」

 「そして彼から、とある頼まれごとを引き受けた……」

 缶チューハイの飲み口が爽やかな音を立て、青樹の喉を冷たいライムのアルコールがつたう。

 「Google社内部から、とあるプログラムを盗み出してほしいと」

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