1−7-1 才原

 自爆テロ当日までの1週間はあっという間に過ぎていった。

 テロはシステマティックに、効率的に、そしてクリーンに、作業が勧められていった。普通の会社もきっとこんな感じなのではないだろうか?と慧理は思った。慧理の配属された執行部はスケジュール管理、武器調達等のマネジメントをこなしていた。自爆テロ用のプラスチック爆弾は破片によってより多くの被害を出す。腰の周りにこれらの小型爆弾を取り付け、目的地につき次第、起爆装置を発火させ、爆発を起こす。

 慧理は無料のコーヒーを飲みながら、時折事務作業を手伝ったりした。

 真宮の所属する情報解読班はひたすら日米のGoogleのやりとりを入手・暗号を解除、その後執行部に手渡すという作業を行っていた。暗号を解読するのは基本的にコンピュータの仕事で、Googleの暗号化システム解読専用ソフトが入っている。このタイプの文字を扱うコンピュータは現在紙を模したシート状ディスプレイに結果が出力されるようになっており、従来の不健康な勤務体制から、リクライニングチェアに横たわり紙をめくるという形に移行していた。ストレスも軽減され、高いパフォーマンスでタスクをこなせるようになっていたのだ。

 テロ組織のホワイト企業化が進んでいた。真宮は翻訳をシートの上のキーを打ち込みながら長い脚をゆったりと『窓』に向けた。地下でずっと働いていると日光不足に陥り、いらぬフラストレーションを感じる要因になる。この『窓』は地上の大手町をリアルタイムで映し太陽光を再現する。働きやすい環境を整える工夫が社内に満ちていた。

 真宮は以前のインターン先と比べてよい印象を持った。真宮は『共同体』思想とは関係のない一般企業に2ヶ月のインターンをした経験があったが、少しばかり社内の感情シンクが強すぎて真宮は非常にやりずらく思えた。いかに共感できるか、いかに気が利くか、彼はそればかり考えていた。Auto-syncを所持していないため感情シンク機能は使えない。社員の意思統一は完璧だったが、ゆえに真宮はあたかもAuto-syncを所持して幸せに生きている人間のように振る舞わざるを得なくなってしまったのだ。もし少しでも社員との意思の齟齬があれば、彼はインターンを放棄される可能性もあった。

 


 青樹は42階のサイバーテロ課で會田と再開した。

 「久しぶり、Xvideaokiくん」

 「今回はありがとう。Kaikai320」

 彼らは匿名掲示板で知り合ったクラッカーだった。彼らはコテハンというわけではなかったが、ある日たまたま掲示板内でとある企業のサーバーをダウンさせようという話が持ち上がったときに連絡先を交換したのだった。その際に利用した1分で消滅する暗号化メッセージシステムの名前で出会ったばかりの彼らは呼び合っていた。

 會田の顔は左右対称で完全なる美男子であった。彼が語るところによると、そこそこ裕福な家に生まれてしまったことで至れり尽くせりのDNA操作を受けてしまったのだという。彼は現在《Exit》に就職して2年になる。青樹に今回の自爆テロのプロジェクトに誘ってくれたのも彼だった。

 「どう、実際のテロに関わる仕事場は?」

 「いいね。国やGoogleのセキュリティの強さを実感した。堅牢だ」

 青樹は少し声を潜めて、

 「テロ組織にしては、快適すぎる」

 と言った。

 會田はにやりと笑った。「そうさ。俺達は快適に仕事ができる」

 「なかなか楽しいところだよ。給料もいい。多数派と戦うというのは、気分もいいし」

 広い「コンピュータールーム」という昔ながらの名称で呼ばれる部屋で、透明度の高いプラスチックが国の根幹を為すセキュリティを解析しようと忙しく文字の羅列を吐き出していた。

 対サイバーテロ対策が急激に発達している今、テロ組織側はさらなる技術向上を求められていた。

 「ただ、匿名掲示板のような自由さは無いよ。もし会社のセキュリティを破って悪事を働こうものなら……有害指定映画みたいな感じになるぞ。昔のスパイ映画みたいにね」

 思わず青樹がぎょっとすると、會田は余裕を見せるように笑った。

 「なわけねーだろ。うちの組織はそういうことしないから。するのは、敵」

 敵に拷問されるような役職に飛ばされるわけか、と青樹は相田を思い出した。


 サイバーテロ課のミーティングで自爆テロの実行内容が説明された。

 「今回は『共感苦痛』を実行します。メカニズムは知ってますよね?Auto-syncの感情シンク機能をハッキングして自爆テロ当事者の苦痛を周囲の人間に味わわせるってことです。そのためにあなたがたにはAuto-syncの脆弱性を洗い出してもらう」

 なるほど、Auto-sync所持者以外には害を与えないというわけか。Auto-syncを所持していないものは『反共同体』思想を持つとみなし、被害を免除する。すると、気がかりなことが一つある。青樹は手を上げた。

 「すみません、インターンの一人にAuto-syncを装着している者が居ます。処理済みですが。彼女にはマスキングをかけてほしいのですが」

 説明していた男は彼の端末に何かをメモし、「了解です。そのように伝えておきます」と親切そうに言った。


 慧理は暇をもてあましていた。マネジメントといっても慧理は見学だけなので、事務作業が終わるとやることはなくなってしまった。慧理は自由に行き来して良いフロア――1〜54階まで、少し探検してみることにした。

 慧理の確信はますます深まっていった。テロは、仕事なのだと。一般企業と同じく電話応対室、サーバー管理室、給湯室があり、今は閉まっている食堂、会議室、会議室、マスコミ対応のための部屋(一体どこのメディアだろう?)等々が、正しい室温と正しい湿気と正しい照度のもとに存在していた。

 ……階段の下は55階だ。普通の従業員はここに立ち入れない。慧理は辺りをきょろきょろ見回してみるが、誰も廊下にいない。少しぐらい立入禁止エリアを覗いても、構わないかもしれない。彼女はそっと薄暗い階段を下り、55階の廊下に降り立った。少し歩いてみると普通の会議室が並んでいるだけで拷問部屋も秘密の部屋も見当たらないため、通常のフロアとほぼ同じ内容であることがわかり、慧理は少々がっかりした。仕方なくエレベーターに乗って、持ち場に戻ろうとした。

 (あれ?)

 女性が一人、自動販売機の前に立って、こちらを見ている。ガコンと音がして、女性はあわててスナック菓子を取った。そしてまた、慧理を見つめた。

 飛行機のアテンションを思わせる音がしてエレベーターが到着した。

 「待って!」

 女性が無我夢中で走ってくるのが見える。やっぱりまずかったかと後悔がよぎる。慧理は慌ててエレベーターの開くボタンを連打した。女性はドアから慧理の手首を掴み、光が当たらない一角に連れ出した。

 「え、あの、あなた、何ですか」

 女性は後ろを振り返り、襟の後ろにある壁に人差し指を押し付けると、急に壁が消えて、慧理は後ろにのけぞる。

 「うわっ!」

 派手に転んでしまった。女性はかまわず慧理を引っ張って、左の壁にあるドアを乱暴に開けた。慧理を引き込むと、女性は急いでドアを閉めた。

 「慧理、久しぶり!」

 私の名前?慧理の背にぞっと冷たいものが走る。

 部屋に薄暗い電気が自動で灯る。

 「……」

 女性は慧理を真正面から見据えている。ここはどこかの会議室のようだった。

 「私……8年前、引っ越した……」

 「何?何のことですか?」

 「よく見てよ、私の顔!」

 「皆同じだからわかんないよ!」

 女性は傷ついたように長い金髪を揺らした。金髪……?今では流行らない……日本人から後ろ指を指される。そういえば、彼女は若い。私と同じ年齢に見える。

 「才原ななか……これでわかる?」

 「……」

 「本当に忘れちゃった?」

 「ごめんなさい……」

 才原は諦めたように慧理から離れてカーペットの上に足を投げ出した。

 「小学校のとき5年間も一緒だったのに……私、卒業と同時に引っ越しちゃったけど。結構楽しかったんだけどなあ」

 「あの……あなたが私の知り合いだったとして……どうして私のことが一瞬でわかったの?」

 「……慧理の塗布型社員証の情報は、周囲5メートルの正式な社員証を持っている人間に表示される仕組みになってるから……『崖内慧理』って名前見た時……心臓が止まるかと思った」

 「……」

 「それに、近くで見たら、片方八重歯だった。間違いなく慧理だと確信した」

 「……」

 慧理は何も言うことができない。事実、慧理はこの女性のことを何一つ知らないのだ。

 「申し訳ないけど……私、あなたのことは本当に見覚えがないんです。小学生のときのこととか一切覚えてないし……ごめんなさい」

 「それでも、慧理は慧理だよ」

 才原ななかと名乗った女性は、初めて笑みを見せた。なんだか、優しい女性だ。白く整った歯並びがのぞいた。

 「お昼でも食べ行こうよ」


 「そうか、本当に私のこと覚えていないんだね……」

 才原は25階の社員食堂に慧理を連れて行き、彼女は鯛和食ランチA、慧理は牛肉の香草焼きを注文した。

 「あたしヴィーガンになったんだよね。ゆるいからチーズもお菓子も食べるけど。合成肉はどうも好きになれなくて」才原は箸の先で牛肉を指した。

 ローズマリーやタイムにまみれているつやつやした角切りゼラチン質の合成牛肉の風味は申し分なく、牛脂の匂い、舌に感じるテクスチャもリアルな肉の繊維を完全に再現している。慧理は皿の上に盛られた牛肉を一つずつ、フォークを刺してゆっくり口に運んだ。これまで食べた肉の中で一番おいしかった。

 「野菜はなかなかいけるでしょ。社内栽培なの。これ全部あたしが作ったの、ブロッコリーとラディッシュのあいのこ」

 牛肉が盛ってある合間にぶつぶつした緑の球体がいくつか入っていた。

 「遺伝子工学を少し勉強しててね、就職のときもテロ組織かモンサントか迷ってたほどだったんだ。まあ落ちたからこっち来たんだけど」

 「どちらも同じようなものかも……。じゃあ、野菜の研究をしているの?才原さんは」

 「才原さんじゃない、ななかでしょ!それに、これはただの趣味で。本当は……ここだけの話、世界を救う研究をしてるんだ!」

 才原の熱意がこもった声に隣のテーブルにいた社員がこちらを振り向き、また食事に戻った。「おっと」口元を指先で抑える仕草は少々芝居がかって見えた。

 「へえ……」

 慧理はぶつぶつした球体を食べる。表面はブロッコリーの芽、内側はラディッシュの味がした。

 「ちょ、ちょっと、驚かないの?」

 「あまりピンとこないというか……」

 「ノリが悪いなあ!昔はもっと明るかったのに!」

 「そんなこと言われても……」

 芝居の延長で、才原は呆れたように目を大げさに回した。「私が2年生のとき転入してから5年間ずっと一緒だったのになあ。慧理はまっさきに私に声をかけてくれて、二人でよく遊んだじゃん。あのときの慧理は、活発って感じだったけど」

 「私が……?へえ……」

 「自分のことさえ、何もかも覚えてないの?なにか思い出したくないことでもあるわけ?」

 慧理は考え込む。ぴりっと嫌な感じが蘇ってきたからだった。しかし特に思い当たることも無かったので、「そういうわけじゃないけど」と答えた。才原が探るような目をしていたことには気づかないふりをした。「慧理さあ、中学入ってからどうだった?」「うーん、特に何も……」「高校は?」「何も……」

 「……あたしはいろいろあったけどなあ。高校のとき、遺伝子工学を専門に学ぶようになって。恩師とも出会ったし」

 才原は鯛茶漬けを几帳面に崩し、鯛と白米と汁を均等に消化し続けている。

 「世界を救う研究にのめりこんだ。慧理はヒーローものって好き?」

 「よくわからないな……」

 「人々がね、悪に気づかないっていうのが一番の悪なの」才原が箸の先で鯛を切る。「悪は滅びるのよ。いつか絶対正義が勝つの。今はまだヒーローはいない、でもいつか近いうちに現れる」白米とともに咀嚼する。「科学の力によって」

 最後の一口。「あたしは世界を救いたいの」

 慧理は何も言えずに肉を噛んで時間を稼いだ。「ええと……よくわからないけど、すごいね」

 「すごいことだよ。誰だって英雄に憧れるものでしょ?ヒーローになりたいでしょ?人間を超越した存在になりたいでしょ?」

 「うーん、そうなのかな……」

 慧理はそっけなく返事をするに至ったが才原は気にも止めない。

 「ねえ、このあと暇?」

 「え、多分……」

 「じゃあさ!ちょっと遊びに行こ?」


 「こんなに広い現実のプール、来たことある?それとも、大衆の前で水着姿を晒すのは苦手?」

 「ちょっと……」

 「じゃ、貸し切りのプールにしよう。ちょっと歩くけど。店員さん、才原だけど、どこか空いてるプールを探してちょうだい」

 「24番室が空いています」

 「案内して」

 足元からプールサイドのざらざらした地面に光る道が伸びてゆく。「徒歩3分で到着予定です」二人の耳元に自動案内音声が聞こえる。

 「すごい、個人で借りてるなんて」

 「唯一の癒やしなの。仕事帰りに夜の東京を眺めることができるから」

 貸し切り専用プールは高層マンションのような建物に収められており、24番室は上階に位置しているため窓から東京全体が見渡せる。廊下で上等なスーツを着た実業家や肌がきらめいた女と何度もすれ違い、そのたびに慧理は気まずいような、場違いな感覚を味わった。才原は水着の上に白衣を纏っていたが、不思議と赤い絨毯とアールデコ様式といった仰々しい装飾に馴染んでいた。一方慧理は安っぽく薄いユニクロのショールを羽織り、才原のあとに続いた。

 「ここにいる人たち、半分は毛先さえ濡らさないで帰るでしょうね」

 才原は楽しむように耳打ちするのだった。

 「入りましょうか。何か冷たいものでも飲む?シャンパンでいい?」

 「なんでも……」

 プールの水は生ぬるく、慧理は窓ガラスに寄って小さなビル群を見下ろした。地平線の向こうに薄青くにごった空が広がっていて、窓ガラスに表示された気象情報によれば今日が連続46日目の猛暑日だった。生まれたときから1年の殆どが25度以上の真夏日で、それに疑問を抱くことはなかったが、暑さに慣れることは決してなかった。

 「慧理の他に二人インターンが来てたよね?」

 「うん……」

 「これ渡しておいてもらえる?」

 才原は古風な花柄のカードを慧理の上着のポケットに入れた。

 「何それ」

 「ラブレターかな?」

 「ええ!?」

 「とにかく、絶対渡してね。二人以外には見せないこと」

 「え、うん……」

 ふいに才原がビーチボールを投げつけて来た。慧理は反射的に打ち返す。

 「運動神経は相変わらずいいんだね」

 「誰でも打ち返せるよ」

 「そお?慧理さあ、昔休み時間にクラスでドッヂボールしてた時、同級生の男の子の前頭部にボールを強く投げ過ぎて失神させちゃったんだよ。覚えてないよね」

 「そうなんだ……」

 「私、あれずっと、慧理が狙ってやったんじゃないかと思ってたんだけど」

 「……私はそんなひどいことしないよ」

 「本当にそう言い切れる?」

 才原がほのかにライトアップされたプールに足先を降ろす。改めて彼女の身体は全く慧理とかけ離れたものであり、引き締まっていて、お風呂上がりに鏡を見ながら脚から首まで良い匂いのする固いクリームを手のひらいっぱいに広げて念入りにさすっているところが容易に想像できた。そんな習慣を持つ彼女がなぜ私なんかに構うのだろう?いつのまにか才原が隣にいて、窓にもたれかかっていた。そう言えば自分以外の女性の身体はあまり見たことがなかった。同じ女性といえども、私と才原さんでは二の腕に対する意識の違いの隔たりは大きいだろうし、どんな下着をつけるのかとか、どんな服を着るのかとか、彼女は相当気にしているだろうと思った。いくつかの「くだらない娯楽」を与えるのが国民を無力にさせる第一歩だと誰かが言っていたが、今はまさに数々のくだらない娯楽が世界規模で供給され、発達した感情操作技術が脳内をあれこれしておとなしい羊に人間を変えているため、人々が気にすることは国や企業が流す各種の情報をいかに取り入れるかということだった。才原は抵抗しているかどうかわからないが派手な金髪にぴったりしたサマーセーターという水商売ともとられかねない出で立ちをして大手町や新宿などを歩いた。しかし、それが彼女には似合っていたのだ。夜の街を彼女が歩いても男は凝視せど決して彼女に話しかけようとしなかったし、商売女たちもまた彼女をちらりと見て別種の人間と判断するのだった。

 そして才原は慧理の大学の同級生とも違い垢抜けた雰囲気を持っていた。「なーに見てんの?」才原が微笑んだ。慧理ははっと我に帰り、「あ……えっと、全然私と違うっていうか、私といて楽しいのかなって」

 才原が眉をしかめる。慧理は慌てて付け足す。「違うの、才原さんは私と違って明るいし、優しいし、その、本当に同級生だったのかなって……つまり、鈍臭い私なんかといても、つまらないよね?ごめん……」言葉を続けるたびに言いたいことから離れていっているように感じた。「ええと、だから、才原さんの問題じゃなくて、私の問題で、私全部忘れてて申し訳ないし、あの、私……」

 「えい!」才原が両手で水を巻き上げる。初めて頭から水をかぶり、まともに息を吸ってしまった。慧理は目をしばたかせる。

 「まあ、気を使いすぎるところは昔と同じかな……」

 才原はプールの縁に腰掛ける。「小学生の慧理は優しい子だったよ。慧理も1年生までどこかの施設にいて、2年生の時に引っ越してきた。転校生同士気があったのかも。よく学校のもの壊してた気がするなあ……。一緒にテニスの練習をするのは楽しかったなあ。ラリーが続くから、私もつられて上手くなったものだよ。中学生に進学した時、私は引っ越しちゃったけど」

 「どこかの施設って?」

 「よくわからないけど、慧理は転校前養護学校に1年いたって、自分で言ってたじゃん。それも覚えてないの?なんか、おかしくない……」

 「ごめんなさい……」

 才原はため息をつく。「いいの。ちょっと調べてみるから。ほら、飲みなよ。私は慧理と会えて嬉しいんだからさ。ここ数ヶ月、友達と遊ぶ暇すらなかったし」

 慧理は何も言えずまた黙り込んだ。目の前の女性のことは、過去の記憶を探ろうとしても靄に絡め取られて全く思い出せなかった。

 私はおかしいのだろうか?

 いつもそうなんだ。

 今だって、楽しまなきゃいけないのに、この場から遊離したように悲観している自分がいる。こうなるともう感情のコントロールは難しくなり、自分の意志とは勝手に感情が暗い絶望へと水の入ったグラスを倒したようにだらだらと下へ下へ落ちてゆく。

 「いろいろあったはずだよ、慧理も……」

 そうだろうか。だとしたらなぜ私はこんな空っぽな人間なのだろうか。

 「またぼーっとしてる」

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