chapter5

 届かなかった。

 間に合わなかった。

 彼の眼前で、彼の世界を変えた吸血鬼が胸を貫かれる。

 傲岸不遜で、暴力的で、我侭で、憎んでも憎みきれない仇。自由奔放で、楽観的で、底抜けに明るくて、無力な自分を灰の中から拾いあげてくれた、かけがえの無い恩人。

 狭い部屋の中で、首輪で繋げられ生きていた自分を、彼女は攫ってくれた。無理矢理外へ連れ出してくれた。面白そうだからと、ただそれだけの理由で。

 その吸血鬼の命が砕かれた瞬間、再び世界は色を失った。

 慟哭で、全身の血液が沸騰した。憤怒で、視界が紅い血幕で濁った。彼女が抑えてくれていた銀狼の本性を、抑え切れなくなった。

 目に映る、動く者全てに襲い掛かった。

 最早、自分以外全て敵。否、彼女の何の役にも立たなかった自分でさえ、彼は攻撃の対象に認定した。

 殴る、へし折る、切り裂く。咬む、砕く、咀嚼する。全身をあまさず凶器と化して、命を磨り減らして、彼は暴走した。

「──アァァァルフレッドォォォォォォ!」

 怨敵の名を、血泡と共に呪詛の如く吐き出しながら──。

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