chapter2
総和化学コンビナートの正面玄関から離れることわずか、二〇〇メートル足らず。築一五年になる十階建ての白い外壁のビルが、夜明けの清輝に佇んでいた。
三年前には、コンビナートに関連する複数の企業がオフィスを構えていたが、看板が外された跡も生生しく、今では打ち棄てられて久しい。
政府による退去命令により、工場地帯に隣接していた一般市街、距離にして長い所で三〇〇メートルの範囲が立ち入り禁止となっている。人々は我が家を捨て置く悲しみに暮れたが、選択の余地は無かった。薄い金網のフェンスを隔てて、人狼の跳梁する廃墟が広がっているのだ。耳元で狼の唸りを聞きながら、安眠できるはずもない。砂漠が草原の緑を侵すかのように、ゴーストタウンは見る間に広がっていった。
緩衝地帯として設けられたこのエリアには、常時警察や自衛隊が駐屯し、終始監視の目を光らせていた。いつもならば、緊張の静寂が周囲を満たしているのだが、現在は慌しい喧騒があちこちから上がっている。
それも直に、落ち着いていくだろう。ようやく長い夜が明けようとしているのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます