2♢アリスの世界
あれから何時間が経ったのだろう。目が覚めた時、光など存在しない暗闇の中で目が覚めたため、外の景色などわかるはずもない。なので、時計を一応確認してみた。
「……………12時30分…まだ昼じゃん」
どうやら私は5時間ほど眠っていたらしい。そりゃあまあ、疲れていたし。主に精神的なものだけど。
「…まだなんか体ダルい……。水でも飲みに行こう」
喉の渇きを感じて、私は重い体を動かして部屋の外へと出た。
廊下のフローリングが異様に冷たく感じ、足元から私を攻撃してくる。
くそっ、こいつらは私の敵だというのか?!多勢に無勢だろ!こんなの卑怯だ、理不尽だ!!!
「ーー……た」
冷ややかな集中攻撃をしてくるマイホームと戦いつつ階段を降りていくと、ふいに誰かの話し声が聞こえてきた。
そして、私はその声にただならぬ嫌悪感……もとい不安を募らせた。今世紀最大じゃないかと思うくらいの勢いで嫌な予感が現実味を帯びてくる。
この声に、ものすっっっっっごく聞き覚えがある。
「ーー時葉?お前本当に変わらないなぁ…暗くて陰険で姑息で。相変わらず他人に不快な思いをさせるのが得意だな」
「そっちこそ。バカみたいなストーカーで、いつでも彼女につきまとってる。紳士の皮を被った変態のままだね」
うわー………。すっかり忘れてたけど、そういえばなんかそんな感じの事があった気がするなぁー…………あー、できれば思い出したくなかったな。
よし。逃げよう。今すぐマイルームに戻ろう。
触らぬ神に祟りなしだな。
「……ん?有栖…?」
「……あれ?姉さん?」
「………」
なんで二人同時にこっちに気がつくんだよ。まだ触ってないんですけど。触ってないのになんでもう祟りが来たんだよ。
意味わかんないんですけど。
「有栖、どうかした?気分でも悪いのか?」
「姉さん大丈夫?まだ寝てた方がいいんじゃない?」
「…………いや…もう…この際どうでもいいよ……」
私は絶望した。彼の運命とかその辺を司ってそうな神様と、ルイスさんのことをとても恨んだ。
いやどう考えても逆恨みなのはわかってるよ?でもさ、どうしてよりによって私がその被害にあうかな。
え?世界は残酷だから?知ってるよ。そんなの。昨日と今日で知ってしまったよ。
世界には、知らなくてもいい事が沢山あるというのに……。
「本当に大丈夫か?本当の本当にか?」
「姉さん、僕には隠さなくていいよ?」
ああもう、ほんっっっとうに嫌だ。
確か以前、クラスメイトの女子が「天乃っちってホントいいよねぇ〜〜。だってあの秦野くんが幼馴染で、弟くんがすっごい美少年なんでしょ〜?いいなぁ、変わって〜」とかなんとか言ってたな。
おいクラスメイトの女子よ、今なら変わってやるよ。全力で変わってやるよ。むしろこちらからお願いしたいよ。
ていうか、今すぐこの場から立ち去りたい。
「……わかった。話し声が聞こえたから降りてきてみたけど、やっぱり戻る。今すぐ部屋に戻って寝る。ちょっくら三度寝してくるから。お二人でごゆっくりどうぞ」
「え、ちょ、有栖?本当にだいじ……」
「姉さん?ちょっと待っ……」
二人の声を
「ああああああああ……………もうどうなってんの、これぇ…………」
枕に顔を押しつけながらもがもがとしている時、私の脳にある一つの考えが浮かんだ。
「………誰かに相談、してみよっかな………」
枕元に置いておいた携帯を手に取り、文章を打ち込む。内容は『ちょっと相談したい事があるんだけど。だから今度会えない?』こんな感じで、宛先は、
「………純かな」
送信ボタンを押し、携帯をブラックアウトさせてから、私はまたベットに倒れこんだ。
ここまで心労が尽きないのって初めてだな………。傍迷惑でしかないんだけどね。
……………そういえば、なんかうまい事部屋に戻されたけど……これって軽く軟禁じゃね?
ーーーー
翌日、昼前のこの時間帯に私が今いるこの店、某有名ジャンクフード店ことナクドでは、クリスマスとやらがあったばかりだというのに、なかなかの賑わいを見せていた。
まあ、そんなナクドにクリスマス終わりのこの時期に一人でいる私に、周りが好奇の視線と思われるものを向けてくる事に対しては言うまでもない。
すいませんなどと絶対に言わない。勿論弁解などしない。リア充になんて、死んでもなりたくない。
何故ここまで不快な思いをしながらこのようなジャンクなフードを食べられる店に一人でいるのかというと、ここが待ち合わせ場所だからだ。
昨日、メールを送ったらすぐに返信がきて、結局次の日に会う事になったのだ。つまり、今日の事だ。
そういうわけで、今日会って相談する事にはなったんだけど………それの待ち合わせ場所が、寒くない場所ということでここ、ナクドになってしまった。
最悪な事に駅前に複合施設などのデパートが無いため、こうして飲食店での待ち合わせとなった。
「…………純のやつ、遅い…」
いつの間にか私はそう零してた。
今はすでに待ち合わせより十分ほど過ぎている。一応私は待ち合わせの五分前には到着し、二人用の席を確保していたため、かれこれもう十五分近くここに居座っていることとなる。
今はかなり店が賑わっている。つまり客が多いのだ。そんな状況で意味もなくただ席を占領し続けるなど、他の客からしたら迷惑きわまりないだろう。
なので、純には今すぐにでも来てほしい。これ以上一人でここにいる勇気が私にはない。
「ーーごめん有栖、待った?」
「………待ったよ。めちゃくちゃ待った。何でそんなに遅れたの?純が遅行なんて珍しいじゃん」
「いやー、それがさぁ…ここのレジの行列が凄くて凄くて。十分くらい待たされた」
「…なんでここを集合場所にしたのかが謎だわ」
「ははっ、同感」
そう言って笑いながら席に着いた遅刻者は、友達の
高校は一緒だが、クラスは違う。何故そんな私達に交流があるのかと問われれば、理由は簡単だ。私達は同じ部活に所属している。部活内容は、この際どうでもいいので割愛するが、純は私と趣味の合う珍しい人材なのだ。
スミ……マイ、フレンド………。
「んで?そっちから連絡なんてこの一年、まだ片手で足りるくらいしかなかったのに………俺に相談なんて何事?真央にすりゃあいいじゃん。どういう風の吹き回し?」
純が片手をヒラヒラさせながら聞いてくる。
ちなみに、真央と純は同じクラスで、結構仲もいいらしい。
「いや、その真央の事で相談がありましてねぇ……」
「へぇー、あの真央についての相談?なにそれ何があったんだ?めっちゃ気になる」
「あんた他人事だと思って楽しんでるわね」
「他人事じゃん。俺はただ相談受けてるだけだし」
「はぁ………まあいいわ。とりあえず概要を説明するから、ちゃんと聞いててね」
「りょーかい」
そして、私はここ二日間の間に起きた事を話した。私が話している間の純は、茶化したりせず、いつも以上に真剣に話を聞いているかのように見えた。
そして、私が一通り話終わったら、純は俯いて真剣な顔で何かを考えるかのようにした後、いつも通りの顔でこちらを向いた。
「うーむ……なるほど…つまり、要約すると真央と弟くんが前世で不思議の国のアリスのキャラだったっていう事を思い出して、その上でお前に言い寄ってきた。こんな感じか?」
「まあだいたいそうね。にしても……」
「ん?」
「笑わないのね。純は」
「なんでだ?」
「普通、こんな話聞いたら笑うでしょ?作り話だーって嘘だって」
「だってお前が意味のない嘘をつくわけないし。それに、真剣な話を笑うなんて、俺にはできねーよ」
「…やっぱり、純っていい人ね。だから好きだよ、純の事」
「…………好き、ねぇ…」
「…純?どうかしたの?」
純が先ほどまでの真剣……というかまったく別人のような顔に戻っていた。
そしてーー、
「…なぁ、有栖。お前のその『好き』って、なんなんだ?」
「………は?いや…友達としての好き…だけど……」
「やっぱりな。前と同じ答えだ」
「は、はぁ?どうしたの?何の話?」
「お前がさっきした話だよ………アリス」
「ーーえ?」
「アリス、俺はお前の事を諦めたつもりなんて一切ない。お前に諦めろと言われたあの日、俺の中の何かが壊れた。でも、今こうしてお前また会えて、もう一度、チャンスが来て……俺は今、ようやく戻ったんだ。元の俺に…………」
「す……み……?まさか……?!」
「そうだ。有栖。お前がさっきした、不思議の国のアリスの前世の話……俺もそのうちの一人だ。眠りネズミのシェリー、俺は昔そう呼ばれていた。そして、お前に恋慕を抱いた何人かのうちの一人だ」
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