うらぼんの月を踊りに更かしつつ阿波でこの世を過ぐしてよとや

【読み】

 うらぼんのつきををどりにふかしつつあはでこのよをすぐしてよとや


【語釈】

 過ぐしてよとや――過ごしてしまえと言うのだろうか。


【大意】

 踊りをおどって盂蘭盆の月の更けるにまかせつつ、阿波(=徳島)で残りの世を過ごせと言うのだろうか。


【附記】

 伊勢(877頃-939頃)の百人一首入集歌(例歌を見られたし)をもじった狂歌である。「逢はで」を「阿波で」と詠み替えた。


【例歌】

 風は清し月はさやけしいざともに踊りあかさん老のなごりに 良寛

 一村の爺婆こぞる盆踊影もまばらに月更けにけり 正岡子規


 難波潟みじかき蘆のふしのまも逢はでこの世をすぐしてよとや 伊勢

 難波がたみじかき足の亀の子もながきよはひをすぐしてよとや 作者不詳


【例句】

 はくたみの踊団扇か盆の月 一滴

 奥の間に人こそ見えね盆の月 諸九尼しょきゅうに

 盆の月しづまりてのりの光りかな 樗良ちょら

 盆の月なりけり鐘はひがし山 完来かんらい

 人ののち掃くかどや盆の月 寥松りょうしょう

 笛吹てはせ山越る盆の月 一茶

 宿とればまづ浄土なり盆の月 梅室ばいしつ

 湯だらひの功徳池くどくちもあり盆の月 同

 盆の月踊らぬ都憂かりけり 尾崎紅葉


 在郷ざいがうで死て戻りし踊かな 桃隣とうりん

 養父入やぶいりに戻りて京の踊かな 許六きょりく

 極楽の札場込合ふ踊かな 越人えつじん

 踊子の帰り来ぬ夜やきりぎりす 丈草じょうそう

 七夕の川をへだてて踊かな 李由りゆう

 子心の哀やよそにきく踊 玄梅げんばい

 夜は相撲昼は踊の噂さ哉 露印

 声はてる踊の果や乱れ鶏 荻子てきし

 名月にひかれて行や里踊 林紅りんこう

 長い夜を輪にして明すおどり哉 也有やゆう

 木戸しめて明る夜惜むおどり哉 太祇たいぎ

 四五人に月落かかる踊かな 蕪村

 月更けて猫も杓子も踊かな 同

 明かかる踊も秋のあはれかな 同

 八朔もとかく過ぎ行くおどり哉 同

 うかと出て家路に遠き踊哉 召波しょうは

 母式部闇よりやみへ踊かな 同

 島原や踊に月の昔顔 几董きとう

 踊見る人のうしろや秋の闇 定雅ていが

 松陰におどらぬ人の白さ哉 一茶

 六十年踊る夜もなく過しけり 同

 眠たがる子をかりに来る踊かな 卓池たくち

 秋もやや西にきこゆる踊かな 梅室

 両刀を人に預けて踊りけり 内藤鳴雪

 熊祭るアイヌも踊れ菊の洒 同

 月更けて恋の部に入る踊かな 同

 母酔うて古き手振りの踊かな 同

 案の如くこちら向いたる踊りかな 夏目漱石

 見て過ぐる四条五条の踊かな 河東碧梧桐


 あはで此世を過ぐしてるしやぼん売 作者不詳

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