春過ぎて夏去りぬればうつせみの身に吹きそむる秋の風かも
【読み】
はるすぎてなつさりぬればうつせみのみにふきそむるあきのかぜかも
【語釈】
うつせみの――「(『空蝉』『虚蝉』という表記から『むなしい』の意が生じて) 命、身、人、空(むな)し、などにかかる」(精選版 日本国語大辞典)。
【大意】
春が過ぎて夏も去ってしまうと、秋の風がこの身に吹き始めることである。
【附記】
奇をてらうことを潔しとしない、良くも悪くもわたしらしい詠みぶりではないか。
推敲前、二句「夏も終はれば」→「夏も果つれば」、四句「身に吹きわたる」。二句に完了の助動詞「ぬ」を出したのは四句の「そむ(初む)」に対応させた、技巧とも言えない措辞と評せようか。
【例歌】
春過ぎて夏来るらし
君待つと我が恋ひ居れば我がやどの簾動かし秋の風吹く 額田王
秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる 藤原敏行
たそがれに
【例句】
身にしみて大根からし秋の風 芭蕉
秋風や薮も畠も不破の関 同
牛部屋に蚊の声暗き残暑哉 同
塚も動け我が泣く声は秋の風 同
あかあかと日は
石山の石より白し秋の風 同
物いへば唇寒し
がつくりと抜け初むる歯や秋の風
秋風の心動きぬ縄すだれ
秋風の吹きわたりけり人の顔
秋風に白波つかむ
あぜ豆の黄ばみ初めけり秋の風
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