若ければ美しければちやほやとされやうものをいかにかはせむ

 わかければうつくしければちやほやとされやうものをいかにかはせむ


【大意】

 若くて美しければちやほやともてはやされることもあろうものを、いったいどうしようというだろうか(外見上の不利を埋め合わせることには限界があるし、年をとれば誰でも必ず容姿が衰える道理である)。


【解説】

 日本文学史上で老化の問題をあつかった作品といえば兼好(1283頃-1352頃)の『徒然草』の名を挙げないわけにはいかないだろうものの、さかのぼれば山上憶良(660-733頃)の「哀世間難住歌(よのなかのとどみかたきことをかなしぶるうた)」などが見える。この機会に後者を題詞と反歌とともに掲出する(出典サイト:千人万首―よよのうたびと―。読みやすくする目的ですこし手を加える)。




 集め易くはらひ難し、八大辛苦。遂げ難く尽し易し、百年の賞楽。古人の歎きし所、今また及ぶ。このゆゑに一章の歌を作り、以て二毛の歎きをのぞく。其の歌に曰く、


 世の中の すべなきものは

 年月は 流るるごとし

 取りつつき 追ひ来るものは

 百種ももくさに 迫め寄り来たる

 娘子をとめらが 娘子をとめさびすと

 唐玉からたまを 手本たもとに巻かし

 同輩子よちこらと 手たづさはりて

 遊びけむ 時の盛りを

 留みかね 過ぐしやりつれ

 みなわた か黒ぐろき髪に

 いつの間か 霜の降りけむ

 なす 面の上に

 いづくゆか しわか来たりし

 ますらをの 男さびすと

 剣大刀つるぎたち 腰に取り

 さつ弓を 握り持ちて

 赤駒に 倭文鞍しつくらうち置き

 這ひ乗りて 遊び歩きし

 世の中や 常にありける

 娘子をとめらが さす板戸を

 押し開き い辿たどり寄りて

 真玉手の 玉手さし

 さ寝し夜の いくだもあらねば

 手束杖たつかづゑ 腰にたがねて

 か行けば 人にいとはえ

 かく行けば 人に憎まえ

 よしは かくのみならし

 玉きはる 命惜しけど

 せむすべもなし


 反歌


 常磐ときはなすかくしもがもと思へども世の事なれば留みかねつも

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