第21話 幕間
退廃と混沌という夜の衣装を脱ぎ捨てた世界に合わせて人々が衣替えをする頃合い、背広の上に秩序の見えざる衣を羽織った人波で通りが満たされる、朝と呼ばれる時間。
日光が石畳を白く塗り、そこに落とされる建造物の影が鋭角的な模様を描く。その境界に倒れ伏す人影の上半身が明るい日差しに包まれていた。
男が着ている紺の制服は警察のものだろうか。俯せに倒れている警官の胸から広がる液体が、白と黒の画板に深紅の色彩を加えている。見開かれた目は空気と時に触れすぎたのか、眼球が乾いて鈍い光をこもらせていた。
死体の傷口は銃創のようで、前面と背面に小さい孔が空いている。血の匂いに誘われた数羽のカラスが背中の傷をついばみ、固くなった死体の肌に醜い面積を広げている。
突然、警官の死体が横たわる路地に足音が響く。学生風の男が急いでいるらしく、小走りに路地を進み、やがて死体を目にして立ち止まった。
「すいません、大丈夫ですか?」
学生は警官の生命の灯が消えていることに気づかず、訝しげな声をかける。素知らぬ振りをしないだけ善意の人間なのだろう。数歩を近づいて、ようやくそれが一個の肉塊だと理解した学生が喉を引きつらせる。
慌ただしく元来た道を駆け戻った学生に驚いてカラスが飛び去った。羽音が透明な空に吸い込まれて消え、紺色の制服に漆黒の羽が一毛だけ残された。その羽が衣服に染みた鮮血で濡れ、粘着質な感触を帯びた頃、どこか遠くで警察車両の警報が高く鳴り始めた。
倒れている警官、その死の直前まで自身を撃った相手を捉えていただろう瞳が、今はただ空虚を湛えて別世界を視ている。
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