第19話「予期せぬ再会」
ほどなく、主である志均が戻ったと、この邸宅の使用人である女童が告げにきた。三人は彼女に従って亭台を下り、院子を巡る回廊を渡って正屋へと向かう。
行く手が二手に分かれた。
そこで楓花は立ち止まり、「じゃあ、私はここで。お仕事頑張って」
そう言って踵を返しかけたが、「お待ちください」と女童に止められた。
「女性が居た方が客人も安心するだろうから楓花さまも同席するようにと
「そういえば女性の方なんですよね、今回の依頼……お客人」
「だったな」
珪成の言葉に頷いている琉樹の表情がどことなく固い。
きっと来て欲しくないんだろうな。なんだかんだ言いつつ、ちょっとでも「危ない可能性」があるところに近づかせまいとするのは昔のままだ。もう三年も離れているのに、私ももう子供じゃないのに――大兄にとっての私は、初めからずっと変わらない。きっとこれからも。
結局、再び四人で歩き出し、案内されたのは客房。房間の片隅にある香炉から細く煙が立っていて、麝香が仄かに香る。客房らしく掛軸や壺、各所に置かれていて、その全ては値の張りそうなものばかりだ。別室にいるのか、志均と依頼人の姿はなかった。
三人が中に入ると、「それでは大爺を呼んでまいります」と言い残し女童は室を出て行く。琉樹と珪成は朱い毛氈に並んで腰を掛けた。
「ついに美人とご対面だぜ」
と、調子よく話しかける琉樹を、
「師兄、真面目な話なんですよ」
珪成は、ぴしゃりと窘める。そんな二人を見ながら、楓花は立ち尽くしていた。 どうしよう、どこに座ればいいんだろう。珪成が奥に座ってしまったから、その隣ってことになると随分と上座になってしまう。ここはやっぱり、出入り口に一番近い下座がいいよね。でもそれだと……。
「どうしたんですか楓花さん、お座りになられたらどうですか?」
「あ、うん。そうだ、私お茶の支度を……」
「そんなん、この家のヤツが用意するだろ。そっちに志均が座って、そこが依頼人の席だから、お前はその隣に座れ」
そう琉樹が示したのは、彼の隣である。確かに、それならば話の筋は通ってる――そう思った楓花は、黙ってそこに座った。
そこへ、
「お待たせしました」
そう言って、志均が一人の女性を伴って姿を見せたとき、
「「あ!」」
そう声を揃えたのは、志均以外のその場の全員である。
「あなたは茶房の――」
珪成がそう言うと、女性は見開いた杏型の目を細めて、「はい」と小さく頷き、
「昨日はお助けいただいて、本当にありがとうございました。お蔭さまでお店の被害も少なく、また過分なお心遣いまで頂き、老板も喜んでおりました」
そう言って素早く膝をつき、深々と頭を下げた。立ち居ふるまいは、今流行の茶坊に勤めるだけのことはあり、流れるようで無駄がない。加えて薄化粧でもはっきりと分かる整った目鼻立ち、柳眉の下の大きな眼は、吸い込まれそうな美しさだ。
琉樹の言葉通り楓花の隣に女が座り、その横に志均が座る。五人は輪になって膝を突き合わせた。そこへさきほどの女童がそれぞれの前に茶を置く。それが全て行き渡ると、志均が女童に声をかけた。
「
「かしこまりました」
そう頭を下げる女童の面立ちは、珪成より二・三年上といったところか。耳の脇で二つに束ねた髪が、彼女が十五歳前だということを示している。笑い声が軽やかで鈴のようだから鈴々と名付けた、とは志均の話。彼女と、その祖父がこの家の家人である。
「ご用の際はお呼びくださいませ」
そう言って、鈴々は素早く踵を返した。
「さて」
扉が閉められると、志均が一同を見回しながら声を上げる。最後に女に目を向け、
「では早速、お話聞かせていただきましょうか」
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