第7話 真相
王宮の回廊に、二人の男の姿が見えた。予定の時刻に間に合うようにと、足早に歩いている。
「セラの様子はどうだ。」
歩くスピードを緩めることなく、今から行われる会議の資料に目を通しながら、シズキは隣を歩くルニエに問いかけた。
「剣技はまだまだ未熟なところがありますが、鍛えれば使えるようになると思います。それよりも、芯が強く柔軟性に欠けるところが問題かと。アルドに任せたものの、一向に打ち解けておりません。むしろ喰ってかかる勢いです。」
「あいつは負けず嫌いだからなぁ。」
くっくっくと笑いながらシズキは口元を手で覆うが、耐えきれないとばかりに肩が揺れている。
「お聞きしてもよろしいでしょうか。」
「なんだ、改まって。」
ルニエの口調が真剣味を帯びていることを感じ、シズキは手元の資料から目を離し、ルニエの目を見て次の言葉を待った。
「騎士団が人手不足なのは確かです。優秀な人材をはじめ有力貴族の子息は軒並み文官に流れています。だからといって、セラ・エルネストを引き抜いたのは乱暴すぎではないでしょうか。確かに彼女は女性にしては見事な技術を持っています。しかし、女性です。身分も低く財政は豊かではない。殿下に指揮する騎士団にふさわしい人物とは思えません。
なぜ、彼女を騎士団に入団させたのですか。」
ルニエの一言一言を確認するように聞きながら、シズキは真摯な目に向き合うようにして答えを返した。
「それは、あいつが俺より職務を優先する人間だからだ。」
「・・・どういうことでしょうか。」
シズキは手元の時計をちらっと見て時間を確認した後、立ち止まり、廊下の窓枠に背中を凭れさせルニエに向き合った。
「この間、俺の生誕式典あったろ?
あいつが警備兵で俺を探しにきたんだ。でも俺は帰るつもりはなかったから、帰れって言った。そしたらあいつ、なんて言ったと思う?」
「・・・・なんて言ったのですか。」
そもそも国の一大行事である生誕式典を抜け出すのがおかしいのでは―
喉元まで出かかった言葉をなんとか呑み込んで、ルニエは怪しげに次の言葉を促した。
「今すぐ仕事に戻れ、俺みたいな女たらしが王子だなんて、この国もお終いだ、だとよ。ついでに股間も蹴られて、俺は危うく再起不能になるところだったよ。」
当時を思い出したのか、シズキは痛みを堪えるように眉をひそめた。
「な、なんということを・・・・。」
ルニエはなんと反応すれば良いかわからず、顔を真っ青にして、立ち尽くすしかなかった。
「まぁ、言葉遣いと手段はおかしい。だが、職務遂行と俺を比べて、職務をとったんだ。下手すれば首が飛ばされるのにな。まぁ、馬鹿だからそこまで考えが及ばなかったんだろうが。でも、誰にでも出来ることではない。正しいことを正しいとはっきり言えるやつも必要だと思う。団員にとっても良い刺激になるはずだ。だから、騎士団に入団させた。」
シズキはルニエが何も言わず固まってしまっている姿を苦笑しながら見て、ため息交じりに答えた。
「まぁ、見る目があると思ってくれ。
あと、お前が言ったとおり、何にでも噛みつく癖があるから、そこはきちんと指導して欲しい。化かし合いの王宮では、いつ罠にかかるか分からないからな。」
シズキは時間だとばかりに話を切り上げ、また足早に歩き出した。
シズキの背中が離れていくのを見て、慌ててルニエはその後を追う。
―すべては騎士団のために
「承知しました。」
ルニエの静かな声が、王宮の廊下に響いた。
王子と騎士 青山 律 @kkt1122
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