第6話 未来は誰にも分らない


翌朝、セラが訓練場に行くと、すでにシズキとカイが稽古をしていた。

剣の打ち合う音が聞こえる。二人とも真剣な表情で打ち合っている。シズキが攻めてはカイが交わし、カイが攻めてはシズキが交わす。一進一退の攻防が続いていた。2人の膠着を破ったのは、シズキがカイの懐に飛び込んだ時だった。カイはいつものように横にそれて避けるつもりであったが、先を読んでいたシズキがそれを許さなかった。


キィン!

シズキの剣がカイの剣を弾き飛ばした。カイは苦笑し、降参といったように手をあげた。

「今日も負けた。やっぱシズキには勝てないなぁ。」

「今日は結構危なかったな、俺もいつまでも余裕ではいられないということだ。」

滴り落ちる汗をぬぐいながら、シズキは笑いながらカイの肩をたたいた。


セラはその様子を食い入るようにじっと見ていたが、カイと目が合うとはっとしたように姿勢を正した。

「おはようございます!よろしくお願いします。」


「ああ、おはよう。

そんなとこに突っ立ってないで、早くこっちに来い。」

シズキにそう言われ、セラは駆け足で訓練場に入っていった。

「シズキが稽古ねぇ。こいつ手加減しないからなぁ。セラ、気を付けるんだよ。」

カイは苦笑しながら、セラの頭をぽんぽんと叩いて訓練場を後にした。



「じゃあ、はじめるか。」

「はい!」

2人は剣を構え、打ち合いを始めた。


――――くっ、重い!


シズキの剣を一方的に受け、全く反撃できないセラは、悔しさにぐっと歯を噛みしめた。セラは息があがっていく一方で、シズキは平然と自分のペースを保っている。このままでは何もできずに終わるのが見えている。セラは一か八かでシズキの懐に入り込もうとしたが、それも呆気なく食い止められ、剣を飛ばされてしまった。


「なにもできなかった…。」

しょんぼりと肩を落とすセラに対して、シズキは眉を寄せて諭すように言った。

「お前は攻めることしか考えてないからな。相手の動きを見て、相手のどこに隙があるか見極めようとしない。しかも体力がないから、しびれをきらしてすぐに挑んでくる。さっきみたいに返り討ちにあっておしまいだ。もっと我慢しろ、相手の動きを見ろ。」

「そんなこといったって…」

「あ?」

「なんでもありません!」

恨めしそうにシズキを見ていたセラだが、シズキに睨み返されて背筋を伸ばした。

「もう1回お願いします!」

2人はまた剣を構え直し、打ち合いを始めた。






――――アルドに今日も負けた。

団員寮への帰り道、セラはがっくりと肩を落としながらトボトボと歩いて帰った。

悔しかった。何もできずに一方的に打ち負かされ、見下されている自分が、許せなかった。

考えていると涙が出てきそうになって、セラは気を紛らわすために、慌てて夜空を見上げた。



シズキには週に何回か稽古をつけてもらっている。最初の印象は最悪だったが、なんだかんだ気にかけてくれているし、良い人なのかなとも思う。ただ、何を考えているか全く分からないが。なぜ自分を近衛騎士団に入れたのか、まだ理由が分からないままだ。確かに借金返済が進んだのは喜ばしいことではあるが。

つい先日までは想像もできないような場所にいる自分。一体何をしているのか、考えてもどうにもならないことばかりで、ため息をつきながらとぼとぼと歩いていった。

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