第5話 感情はどこからくるのか

――――ここはどこだ。


セラはぼうっとした頭で辺りを見渡した。

白いカーテンに囲まれている。


――――ああ、アルドに負けたんだっけ。

セラは先ほどの稽古でアルドに完膚なきまで叩きのめされたことを思い出した。頭がガンガンすることを思うと、軽い脳震盪でも引き起こしているのかもしれない。


「調子はどうだ。」

カーテンが引かれ、シズキが顔を出した。

意外な人物が登場し、セラはびっくりして勢いよく起き上がろうとしたが、いきなり体を動かしたため、目まいで勢いよく布団の中に倒れてしまった。

「いきなり起きようとするからだ。」

シズキは呆れたように言うと、セラは「うぅ…。」と恨めしそうな顔でシズキをにらみつけた。

「なんでここにいるんですか。仕事してください。」

「お前は本当に失礼なやつだな。今日の仕事は終わらせた。今何時だと思ってる。」

セラははっとして窓の外を見ると、外は真っ暗で、星が空に輝いていた。

「晩御飯食べ損ねた…。」

「言うことがそれか。食い意地はりすぎだ。」

セラががっかりしたように言うと、シズキは苦笑しながら食事の入ったトレーをもってきた。


「ほら食え。食べないと明日もたないぞ。」

セラは信じられない顔でシズキを見つめた。あまりに顔を凝視されたシズキは気まずくなって、セラに早く食べるように言った。

「食べないと俺が食うぞ。」

それを聞いたセラははじかれたようにトレーの食事を食べ始めた。

シズキは呆れながらその様子を見ていたが、しばらく食事をしていたセラが、急に食べるのをやめてしまった。

「どうした?」

不審に思ってセラの顔を覗きこむと、ぎょっとした。大粒の涙を大きな目にいっぱい浮かべながら、唇を震わせているのだ。

「あんなやつに負けた。」

「は?」

「アルドに負けた。女だからってばかにされたのに。」

「お前…」

シズキは呆気にとられていが、セラが涙をこぼしながら食べ始めたのを見て、ふぅっと息を吐いて言った。

「俺が稽古してやろうか?」

「え?」

セラが勢いよくシズキのほうを見た。シズキはセラと目をあわせて、もう一度言った。

「俺が稽古してやろうか?早朝なら空いている。お前は今のままではアルドに勝てない。力では勝てないんだから、考えて戦うことを覚えないといけない。」

「考えて戦う…」

「ああ。沸点の低いお前には難しいだろうがな。どうだ?やってみるか?」


やる。そう答えたセラに対して、シズキは今まで見たこともないような優しい笑顔で笑った。



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