第4話
『好きな番組』
いつの頃からかそういうものも無くなった。
横並びで何処でも同じだから選ぶ必要がなく、むしろ出演者やテレビ局に対する感情だけでチャンネルを切り替えられる。
惹き付けられたはずの
何かで当たりを引くと、寄ってたかって真似て量産するのが根本的な原因なんだ、と話していたのを思い出す。
そんな折に突如としてインターネットを騒がせた一つの案件にテレビ局が食いつくのは仕方ないのかもしれない。
いや、こうした騒動に首を突っ込むのはいつの時代も同じだろうか。
別の番組にも関わらず、同じ時間に同じ内容を捲くし立てるのは相変わらず。
テレビに大々的に取り上げられたのは、株式会社アレイスのCEO、
そして僕の幼馴染で、親友でもある。
何でもできすぎる天才の鏡耶と、人に一段劣る僕とは何故か馬が合った。
周りは僕のことを鏡耶の子分や腰巾着と言って馬鹿にしたけれど、鏡耶も僕も気にしなかった。
僕達二人は、馬鹿を言い、褒め合っては互いを貶し合う、そんな仲。
性別が違えば夫婦になってたんじゃないかって思えるほどにね。
それはもう子供のころから四六時中一緒で、大企業に育ったアレイスの立ち上げにも参加した。
鏡耶が抜けた今も外部相談役って肩書きで席を持っている。
あれもこれも、鏡耶が僕を頼って与えたもので、どれもが僕の働きで手に入れたものでもある。
鏡耶、君はやっぱり優秀だよ。
だから僕が―――
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どれだけ僕が問題を抱えていても、鏡耶はあっさりひっくり返してくれる。
たとえばふいに学校で数人の強面の同級生三人に連れ出されたとき。
連れていかれたのはよくある少し裏手の日陰…後ろ暗いことをしそうな場所。
絵に描いたようにカツアゲの被害に遭って戸惑う僕と、ニヤついた嗤いを浮かべる同級生。
とにかく『人から金を巻き上げる遊び』が楽しかったようで、手持ちのお金はあまり関係なかったらしい。
そこへ颯爽と現れたのが鏡耶だ。
助けが来たと喜んだのもつかの間、ニヤニヤした顔のまま「遊んでただけだよな? ソータ君」って呼びかけられて固まる僕。
どうにかしなきゃ、と思っても頭が空回りした。
「そうか、ならこれはネットに流れても問題ないよな?」
冷めた顔で鏡耶が取り出したのはスマホ。
僕が連れ出されるシーンを見た鏡耶は、尾行して動画を撮っていたらしい。
しかも知らない間に僕のスマホにレコーダーのアプリを入れられていて、遠くて音量の足りなかった部分はそっちできっちり録音されていた。
鏡耶が流し始めた動画に連動するように僕のスマホが臨場感溢れる音を吐き出す。
いやいや、嘘でしょ。
いつの間に僕のスマホを勝手に操作できるようにしたの?
後はもう鏡耶の独壇場。
「どうした、遊びなんだろ?
何か都合の悪いことでもあるのか?」
突き放すように言ったのは僕の中では伝説だよね。
突然のことにびっくりしていた同級生は、すぐに鏡耶に掴みかかった。
鏡耶は無抵抗でされるがまま…というか喧嘩弱いのによく来たよね…。
だから慌てて僕が止めに入ろうとしたんだけど、抑えつけられてる状態なのに鏡耶はゆっくりと手で制して
「今ってかなり便利でな、データはすぐに何処かに移せるんだよ。
なぁ、こんなことするヤツが、バックアップもせずに出てくると思うか?」
煽るようなことを平気で言う。
だから喧嘩弱いのに何やってんの!
けれど勢いのあったいじめっ子予備軍の中で意見が割れ、仲間内で言い争いに発展して、鏡耶はポイっと解放された。
「だからやめようって言っただろうが!」
「今更遅い!」
「同じように脅せば良いだけだろ!」
そういう話はこっそりやってくれないかな…。
放り出された鏡耶に手を差し伸べながら、随分と白けた目で彼らを見ていたのを覚えている。
すぐに鏡耶は立ち上がり、乱れた制服を伸ばして「ふぅ」と溜息ともとれる息を一つ入れた。
「結論は出たか?」
おっと、まだ言うらしいぞこいつ!
どう見ても答えなんか出てない状況で訊くんだから鬼だよね。
「お前を泣かしてデータ取り返せば話は終わりだろ」
「それも一つかもな?
オススメはしないけど。
ほら、イマドキの学生って携帯を二台持ってるのも珍しくないよな?」
「…何が言いたい?」
「あっちの方に二台目をこっそり置いてきた。
後、どうでも良い情報なんだけどな。
携帯で写真を撮るのが流行ってて、望遠レンズも売ってるんだ。
三百メートルくらいなら顔まで見れるらしいけど、俺が殴られる瞬間ってどんな風に映ってるかな?」
「「「………ッ!!」」」
「まぁ、俺の言ったことは全部嘘かもしれないし、殴ってみるのも面白そうだよな?」
ニヤと笑いながら「実は生配信してるかもしれないけどな?」と情報を付け足す。
答えの分からないことを教えて混乱させるとか、相変わらずやり方がえげつないや。
「ついでに言っておくけど、颯太って喧嘩が無茶苦茶強いからな?
お前らが勝手に颯太のスイッチ入れるのは構わないけど、その時は入院くらい覚悟しとけよ?
後、三人がかりで先に手を出して負けたらだいぶ恥ずかしいよなぁ……誰にも言えないと思うけど、
あー…まぁ、入院は言いすぎだと思うけど、たしかに鏡耶が出てこなかったら多分殴り倒して逃げてたかな。
最後のダメ押しでいじめっ子になりかけた相手は綺麗に頭を下げた。
…意気揚々とカツアゲしようと出てきて、すぐに謝るって逆に潔いなぁ。
なんて思っていたのは秘密だ。
鏡耶は「今ならまだ間に合うよ」なんて視線を動かして立ち去らせた。
ただ一つ言えるのは、出来心でやったたった数分間の動画で、残りの人生の選択肢を奪われる瞬間を僕は見せられたってことだけか。
手際の良さが寸劇っぽい。
「鏡耶ありがとう」
「別に大したことしてないさ」
貸し借りなんて存在しない。
僕達の間ではどちらが助けても、これだけで話が終わる。
ただ感謝の思いをお互いに持つだけだ。
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そんな親友を警察に連絡して追い詰めたのは僕。
冷たい牢獄で、今君は何を思っているだろう…ねぇ鏡耶?
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