第一章7『血を吸う鬼』

今日も小鳥達が鳴いているいつもと変わりない朝。俺はそれもまたいつもと変わりなく学校へと向かっていた。



「昨日は結局、妹の勉強だけになっちまって剣術の練習ができなかったなぁ」



「やぁ、ハルトくんおはよう。随分眠そうに見えるけど大丈夫かい?」



小鳥たちが朝日の昇る空を鳴きながら舞っているいつもと変わりない朝が彼の登場で全て台無しになった気分だ。



「また、待ち伏せかライト。」



彼はここ最近俺の登校を阻んでくる厄介者だ。



「そんなこと言わないでほしなぁ〜。で、今日は夢を見たかな?」



また、その話だ。毎度の如く持ちかけてくる。さすがに俺もうんざりしてきた。そこで俺は思い切って彼、神川ライトに聞いた、



「夢、夢うるさいけどお前の方はどうなんだよ。」



「へ〜、僕の夢に興味を持つなんて珍しいこともあるもんだね。もちろん毎晩見てるよ、美しくて輝かしい天使とお喋りしてる。」



「お前、まさか天使の加護を受けているのか?」



突然すぎる告白に動揺を隠しきれない俺は慌てて聞き返した、



「受けているよ〜。僕は次期当主だよ。光聖の称号だって受けてる。」



「あ〜、そう言えばそうだったなぁ。」



その本持ってるよ的なノリで言われ少し思考を狂わされる。その顔はいつも通りの笑みで満たされていた。本当のことなのかどうなのかよく分からないが、恐らくコイツは加護を受けている。そのことは彼が神川家の次期当主であるとともに光聖であることからわかる。しかし、不用意に彼が俺に馴れ馴れしく接してきていたため、すっかり忘れていた。



「いや〜しかし、天使の加護と夢が関係あるなんてどうしてわかったんだい?」



「天ヶ崎さんから聞いたんだよ」



「で、それ聞いてなんになるの?ハルトくん。」



「何って、確認だよ。」



「確認って、君は用心深い人間なんだなぁ。」



「お前は不用心すぎる気がするが?」



その発言を聞いて急に彼はクスクス笑いだした。俺はどこに笑うことがあったのか疑問にしかならなかった。



「不用心ってハルトくん忘れたのかい?」



すると、突如背中に光輝く聖剣が現れた。あ、そうだったと今更ながらに思い出す。彼は聖剣を常に身から離さずにもっていて、いつ何が起こってもすぐに対応出来る状態であった。昨日彼に言われたことをすっかり忘れていた。



「ハルトくんって結構忘れ屋さんなのかな」



「うるさい。人間は忘れる生き物だろうが」



「まぁ、確かに僕もそう思うけどね。昔って言っても、もっと昔の話だけど人類史上最悪の戦争があったにも関わらず今に至ってはそんなことがあったようには感じさせないくらい今は平和だしね。これから何が起こるかも知らないでね」



「何かがって何か起こるのか?」



そこでライトが足を止めてこちらを見て少し真剣な顔にはなったがそこに笑みを取り戻した。



「そのうち、きっとわかるさ。」



顔には笑みを浮かべていたが彼はどこか残念というかどこか物寂しそうに受けて取ることができた。この世界に今から起こることを知っているかのように、



しかし、その不穏なとした空気も一瞬だけだった。彼は何かを思い出したようですかさず俺に聞いてきた。



「そういえば、ハルトくんって剣術大会に出場するんだよね〜」



「そうだが。お前も出場するだろ?」



そう彼もまた剣術大会に出場する一人だ。それでいて彼は俺の難敵にもなると考えられる。



「うん、そうなんだけど僕は違う用があってね〜」



違う用とはなんなのかとても気になるのだが触れて巻き込まれるのも面倒なのであえて無視する。


「けど僕はその大会で優勝も狙っている。つまり、君と相手になる確率は高い」



「なぜ、そんなことが言える?」



「なぜって、入学試験の剣術で僕らは満点採った仲じゃないか」



いや、どんな仲だよって言いたくなるが黙秘する。笑っているのか、いやらしくニヤニヤしているのかもわからない顔でライトは俺の黙秘を気にせず。



「しかし、なぜそれほど剣術の才能を持ちながらこれまでの中等学校剣術大会には君の名前がないんだろうね」



「出場してな...」



「え、今なんて言ったのハルトくん?」



「だから、俺は今までに中等学校剣術大会には出場してない。というか、どこの道場にも入ってない」



ライトは驚いてはいたが少し笑っている顔だった。なぜ彼はいつも欠かさずに笑顔でいるかは今の俺には到底分からないが何か理由があるのかもしれない。



「ハルトくん、僕はさらに君に興味を持ったよ」



「持たなくていい」



「つれないなぁ君は。そうだ、そんな君にはいいことを教えてあげるよ」



彼は楽しそうにたんたんと話を違う話題へ持ち込む。



「実は学園には剣術部があるんだよ!どう、入部してみたら?」



「そうだな、剣術部か体を動かすには最適だな。でも、今からでも大丈夫か?」



「大丈夫、僕が話をつけておくよ...」



「きゃー誰か助けて〜!」



突如悲鳴があがり俺たちは素早く反応する。近い、すぐ先の路地に入ったあたりか。



「聞こえたか、ライト」



「今の聞こえてなかったら君に次期団長の座を譲るよ」



「そんなことはどうでもいい、いくぞ!」



俺は駆け出し二本目の角を曲がった。そこで見たものは俺が初めて見る驚愕の光景だった。白い肌の美貌の男が左手で女の両手首を拘束し、もう片方の手はその女の腹を回すように固定していた。しかし、驚いたのはそんなところではない。男が女の首にかぶりついていたのだ。しかし、ただかぶりついているようではなかった。微かではあるが口で吸う音が聞こる。



「ライト、あれは...」



「吸血鬼。この光景を見る限りそうとしか言えないだろうね。だがなぜ太陽が昇っている朝っぱらからいるのかな?」



「そんなこと考えいる場合じゃない、助けるぞ!」



「まぁ、それもそうだね。じゃあ、やるか」



ライトは剣を握る動作するがそこから出て来たのはただの木刀二本だった。それらは何もなかったところから突如として現れるのだった。なぜそのようなことができるのかわからないが、今は救出の方が先だ。



「ほら、ハルトくんも」



俺の方に向かって片方の木刀を寄越してくる。この時のライトはすこしだが頼り甲斐があるものだ。



「ありがとよ、でもこれであいつを倒せるのか」



「これは対吸血鬼装備だよ。木刀には僕も知らない技術が施されているよ」



そんな技術がこの世界にはあるとは俺も知らなかった。ライトは指を器用に使ってその木刀を回している。俺も準備が整いいつでもいける。俺とライトは容赦なく跳んだ。



「おっと誰かきたな」



吸血鬼がそう一言呟くと女の手を離した。そこで女は崩れ落ちるように倒れる。まず、俺が一振りする。吸血鬼は頭上から落ちてくる木刀を難なく避ける。それに続くようにライトが腹のあたりに向けて木刀を走らせる。



「おっと、これはミスったな。手加減しすぎた」



ライトの素早く木刀は空気を切るように吸血鬼切ろうとするが吸血鬼は避けようとする。しかし、手加減し過ぎた吸血鬼は横腹に擦り傷を負う。それでも吸血鬼はまだ余裕の表情をしている。隣にいるライトは頬に汗を垂らしている。再び俺は斬りかかるが、呆気なく避けられる。



「無駄、無駄。全部見え見えだよ。ふーん、でも君ら吸血鬼に対抗できる力があるなんてすごいね。その力の源は一体どこにあるのかなぁ!」



勢いよく踏み込んでこちらに跳んできた吸血鬼はまずライトを狙い壁に殴り飛ばす。壁に埋もれたライトはここでようやく口を開く。



「ガハッ。ハルトくん、これはちょっとまずいなぁ。こいつはそこら辺の吸血鬼とちょっと訳が違うね。貴族の吸血鬼だ」



「はぁ、なんだそれッ」



俺も同じく反対がはレンガ造りの建物に殴り飛ばされる。こんなもの食らってよくライトは喋れたなと思う。



「へ〜、君ら吸血鬼のことちょっと詳しいね」



吸血鬼はまた女の方へと近づいて行くが血を吸わず路地の奥へと歩いて行く。



「おい!逃げるのか⁈」



「勘違いするなよ、人間。君らを生かしてやっているんだ。君らは僕のあそび

相手として残しておくよ」



俺が発した時には確かに前にいた吸血鬼がすぐ耳元で囁いた。あまりの速さについていけない。



「ソラ様、都市に戻りましょう!」



どこからか声が聞こえた。それを聞き吸血鬼が発つ体制になる。



「連れが呼んでる。僕は行くけど、君ら追ってこないことをお勧めするよ。可愛い天使ちゃん達」


そう言い残して吸血鬼はこの場から姿を消した。ライトがこちらへやって来て手を貸す。



「大丈夫?ハルトくん」



「なぜ、剣を使わなかった?」



「えっ?」



「お前の聖剣を使っていれば、あいつを殺れただろ!」



彼は少し困った顔をして俺に向き直る。



「ハルトくん、あれは使えない」



「どういうことだ?」



「実は、あの剣周辺の生命エネルギーを吸収するんだ。つまり、周辺の生命を殺すことになってしまう」



「なんだよ、それ。そんなの使えないじゃないか」



「そう、だから使えない。もちろん吸収しなくても振ることはできる。でもそれだと、僕達が使ったこの木刀にさえも劣る剣になってしまう」



「...」



黙る他なかった。彼はそんな大きなものを背負っているなんて思いもしなかった。



「そんなことよりハルトくん、女性の介抱を」



「そうだな」



俺は乱雑に倒れこんだ女性を安静できる態勢にする。息はしているようだったが、血を吸われている医者に見てもらった方が良さそうだ。すぐにでも治療できればいいのだが。



「ライト。お前治癒魔法とか使えるか?」



「残念だけどここまで重度だとどんな一流医師でも完全には治癒できないよ」



「そうか、でもできるところまでいいからやってくれ」



「わかったよ」



そう言い頷くと、女性に手をかざす。途端その女性が緑色の光に包まれ傷が癒えていった。問題はこの後だ。この女性に後遺症が残るかもしれないということだ。それでも俺は良かったと思う。もし死んでいたら、それを悲しむ人がでるかもしれない。そこで俺は何かの決意が心の中で固まったように思えた。これ以上このような事態にならようにと。



「ライト」



「ん、どうしたのハルトくん」



「俺話すよ夢のことも_」



この後少し言い難かったが手汗握って口に開くように農家ら命令を送った。治癒魔法をかけ続けているライトは顔だけこちらに向けている。その顔にはまだ戦いの傷が残っている。



「_天使のことも」

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再び始める世界破壊 Yuya.n/Naokira @Yuyan

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