第一章6『妹の講師』
日も暮れ街頭にも灯がつき、夜の街を一人で歩く。登校時はシャナか、ライトがいるのだが帰りは別のためこのような寂しい状況に陥ってしまうのだ。学校からは徒歩で30分と言ったところか、バスの利用を親に勧められたが俺は健康面、金銭面を考えて徒歩通学をすることにした。部活はしておらず学校が終わってからは近くの本屋に通い立ち読みをしている。今はその本屋からの帰りというわけだ。そんな俺は今日あった出来事を振り返る。
「剣術大会か。最近、剣もろくに振ってないしなあ。帰ったらノアを相手にして練習するか。」
入学式の日の朝の騒動はノアが親にちゃんとしてくれたというか、俺がそうなるように仕向けたのだがあれ以来、ノアは俺の部屋に無断で入ることはなくなった。喧嘩はするものの仲は良い方だ。そうこうしているうちに俺は薄暗い黄色に輝く門灯の前に着き、静脈認証システムに手を入れ、カチッという音ともに開いた門戸にはいる。どこかの名家でもない俺の家は極一般的な家で5LDKの規模のものだ。そこに申し訳なさげに庭がある程度のものである。玄関の前にたどり着き長かった時間も今終わりを告げた。
「ただいま~。」
いつも通り家の中に声をかけて靴を脱ぐ。その足でリビングダイニングキッチンへと向かう。
「あ、ハル兄おかえり~。今日も遅かったね。」
ガラスがはめ込められたドアを開け中に入に入ると、真っ先に声をかけてきたノアは、だらしなくソファでポテトチップスを食べながらテレビを見ていた。母はキッチンで皿を洗っているようだ。父は姿形さえ見当たらない。どうせ飲み会に行っていてまだ帰ってきてないのであろう。
「勉強しなくていいのか?お前一様受験生なんだぞ。」
「だってまだ試験まで時間あるだもん。」
聞いたか、今試験まで時間がまだあるといったぞ。と、心の中の何かに囁く。あれ、俺は何で心の中になんか囁いてるんだ。自分も馬鹿だな思いながら妹に告げる。
『いいじゃない、君も勉強なんてあまりしていなかったろう。』
コイツに囁くべきじゃなかった。中の天使が俺に話しかけてくるのだから。
『そんな冷たいこと言うなよ~。心が痛むじゃないか。』
「いいか、ノア。中等学校は二学期末まで内申点という受験に影響するものがある、知ってるか。」
『ちょっと、無視かよ!』
「あ~あれ?内申のことは内心どうでもいいと思ってッアフッ。」
「面白くないことは言わなくていい。いいか、内申点は合否を左右されるほど重要な自分の持ち点なんだぞ。もし、定期テスト如き大丈夫とか思っていたなら心を入れ替えることだな。」
少し親の真似事みたいなことも入れながら妹の頭をコツンと叩く。それを痛そうに頭を手で押さえながらソファの上から転げ落ちるノアの有様を見つめる。天使の方は黙り込んだみたいだ。
「イタタッハル兄、か弱い妹になんてことするの⁈」
「お前のことを俺は一度もか弱い妹なんて目でみたことはないが?」
「ひ、ひどい。それはあんまりだよ~。」
ソファの下から顔出したノアは涙目になっていた。恐らくそういう演技だろう。
「まぁそんなことより、勉強しろと言いたいところだが。ノア、ちょっと俺に付き合ってくれ。」
「もしかして、ハル兄ってシスコン?」
「そういう付き合えじゃない!文脈的にわかるだろうが。」
臨機応変に対応してくるノアは、少しどころではない引き方をする。誤解を解こうと俺は慌てるが、
「あは、ハル兄心配しなくても私もそんなに馬鹿じゃないんだから。それじゃあ、何に付き合えばいいのかな?」
慌てていた俺は少し取り乱し過ぎていたことに今更に気づき咳払いしその質問に答える。
「来週、学園主催の剣術大会があるんだが練習に付き合って欲しい。」
「え、ハル兄って剣術の試験満点じゃなかった?」
「もしかしてお前、剣術の知識についてにわかじゃねーだろうな?」
図星なのか、妹は黙ったままニコニコしているが口がつり上がっているようにみてとれた。これは剣術について説明する必要があるようだな。
その夜、受験生の妹に講師として一夜を明かすのであった__
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