第一章5『運営委員シャナ』
入学式から2週間もの日が経ち俺もこの学園に馴染み出してきたころだった。その日はいつもと変わらない太陽が眩しく日当たりの良い日だが、この学園に通いだしてから一つ変わったところがある。それは_
「やぁ、ハルトくん。おはよう。」
「お前はいつから俺と馴れ馴れしく接する仲になったんだ?」
神川ライト。銀髪、金瞳の青年で少し俺より背が高く、かっこいい。最近、やたらと俺が来るのを待ち伏せしてる。そんな意味不明な行動をする彼からとても目を奪われるのは、
「てか、どうしてお前は背中に剣をおぶっているんだよ。物騒にも程があるだろ!」
背中に背負ってる剣に指差しながら大袈裟めに言う。ライトは、背負っている剣に手を当て、見つめる。少し笑みを浮かべながらこちらに向き直ると、
「なぜって、僕はこれでも魔法騎士団次期団長だからね。いつどこかでなにかがあるかもしれないという想定を踏まえての心構えの表れだよ。」
そんなことを言っていたが他にも何か理由がありそうだ。そんな好奇心を胸に抱く自分がそこにはいた。桜も散り、木には残された青い葉がしっかりとついていた。俺とライトは、春を感じさせるものを失ったカーラアノス学園前通りを歩いている。ライトが笑っているのを横目で見ると同時にライトが何かを察した。
「そういえば、シャナさんは今日は一緒じゃないのかな?」
「あいつなら、先に行ったぞ。なんか、大事な用があるとかなんとか言ってた...と思う。」
少しいや、全く彼女の話を聞いていなかったせいで、曖昧な返答になってしまった。
「へぇー、なるほどね。彼女そういえば運営委員やってたよね。再来週、確か剣術大会があるはずだからそのための準備かな。」
「どうして、そんなことがわかるんだよ。」
彼はさっきから微笑んではいたのだが、更に笑顔が増し、輝きもその分増す。さっきからこいつは俺をからかっているかのような気がするのはなぜだろうか。 ウザい、キモい、なぜ笑う。そのことだけが頭の中を駆け巡る。
「どうしてって言われても、僕がここで君を待ち伏せしているところにシャナさんが通りかかったから声をかけたんだ。彼女急いているみたいだったけど、事細かに説明してくれたよ。運営委員の仕事があるから今日は早く行くってね。」
「そりゃぁ、どーも。俺に分かりやすい説明をしてくれてねぇ。」
「どういたしまして。ところで今日は良い夢が見られたかな?」
微笑んで返してきたその返答は素早く呆気なかった。そして、大きく話しが転換させられてしまう。
(夢ねぇ~)
俺はその単語自体を耳に入れたくなかったのだが、彼から持ち込まれた以上避けては通れないだろうと思い諦めモードに素早く入った。
「今日は夢なんか見てねーよ。」
(夢なんか俺はみてない。)
横並びで歩くライトは何か不快そうな顔をするが、すぐ笑顔を取り戻し口を開く、
「そっか、それは残念ですね。」
言える訳がない。こんなこと俺の口から言ったところで誰も信じてくれないだろう。
俺は朝になるまでの自分でも少し信じ難い出来事を思い出すように目を閉じ、最悪な光景を少しでも鮮明に思い出せるようにする。そして俺は記憶を思い巡り出した。
____________________
地は黒く染まり真っ平らでとても人間が創り出したとは思えないほどの壮大なスケールのというか、終わりがない広さというべきなのか。空は青ではな く白く、ひとつのシミもなく広がっている。そして、毎度ここで俺と会話するこの世の者とは思えない美少年が、翼を広げて立っていた。
「やぁ、今夜も来たねぇ、ハルト。」
「別に俺がきてるわけじゃねぇ、お前が俺を呼び出しただけだろうが。」
「まぁ~、そうなんだけど、それじゃ面白くないからさぁ~。」
少女と見間違えてしまいそうになるあまりの美しさを誇る少年が軽い口調で残念そうに言うが内心はそうでもないだろう。
「で、何の用だ?」
「なんか今回はいい感じに進んでいるなぁ__」
「なんか、言ったか?」
彼は何か言葉をこぼしたようだったがそれを正確には聞き取れなかった。それを問い詰めることもあまりしたくないというよりは、興味や好奇心というものを彼に少しも向けていなかった。
「いや、なんでもない。そんなことより話を戻そうか。今夜君に来てもらったのは、今後の行動について話し合おうと思ったからだよ。」
「今後の行動とはなんだ?」
「そこから説明がいるの〜、手間がかかるやつだなぁ。じゃあ、君は昔この全世界を巻き込んだ大戦のことも知らないのかなぁ?」
「そんなことぐらい知ってるいる。『天地大戦』のことだろ。」
『天地大戦』とは2016年前に勃発した主に二つの勢力による歴史上最大最悪の戦争だ。ある者は世界永存を説き、またある者は世界破滅を説く。そのぶつかり合ってはいけない二つの信仰が2016年前のその日に衝突してしまった。その戦いも終始符を打たれることになったのは確か約150日後のことだったはず。その約150日の間、世界全体が地獄へと化していた。その戦いに一体何があったのか、突然終始符が打たれたのだ。その終始符に俺は疑問を浮かべながらも俺は頭を掻きながら率直に問う。
「で、その大戦がどうしたんだ?」
それに彼は微笑みを出し答える。その微笑みには何か深い意味があったのか否か。
「また、再びこの世界に起こる争いごとに抗うということだよ。ハルト、僕とこの世から争いをなくそう。」
これは大々的な事に巻き込まれてしまった。もちろん、俺は争い事が嫌いだ。大嫌いだ。しかし、そんな大事に俺のようなやつが混じっていいものなのか。いや、その前に本当に2016年前のような戦いが再び始まるのか。俺はこれを素直に受け入れるべきなのか。そうこうしている間にここにいる時間も終わりに近づく。それを翼をなびかせながらこちらの返答を待っているはずの彼が何か嬉しそうな顔をしながら、
「いいね〜、そう信じちゃ駄目だ。疑う心も大事だ。けど、何かを信じることも大切だ。だから、僕を信じて。僕を欲して。僕を楽しませて__」
一瞬で不可思議な世界が闇に包まれ彼とのやり取りは終わりを迎えた。そして再び俺は色鮮やかな世界に意識が戻っていく。
__________________________________
(__ルト__)
(__ハルト__ん__)
「ハルトくん!」
「ん?え、あ、どうした?」
俺は横から覗き込む金瞳の青年の姿をようやく認識する。彼はかなり心配してそうな顔をしている。立ち止まっていた歩行者専用信号機は青に光っており、歩行者たちが急かすように渡っている。
「いや、それを聞きたいのはこっちの方なんだけど。」
ライトはかなり不思議そうな顔相になる。俺はそれを黙って見つめているしかなかった。
「大丈夫?ボーとしていたけど何かあった?」
「いや、ただ単に信号待ちしていただけど。」
「本当かい?まぁ、いいや。あまり人のプライバシーに立ち入るような真似はしたくないからね。まぁ、とにかく渡ろうよ。ここの信号一度赤になるとしばらくは変わらないからさぁ。」
そう言われて信号を見上げるとちょうど青色が点滅し始めるところだった。急いで俺とライトは車道を横断する。
その際も、その後も二週間前から毎晩みる夢について考える。それがここ最近俺の日課になりつつあることがこわいが今は真実を見極める必要がある。
賑やかな教室で俺は席に着いたままでいる。黒板に落書きしている者もいれば、読書をする者、勉学に励む者、昨日のテレビの話をする者達など、休憩時間を様々な方法で過ごすのは他の学校とは何も変わらない。
「ねぇ、ハルト。」
俺を呼ぶ声とともによく見慣れた顔の少女がこちらに少し面倒くさそうに歩いてくる。佐倉シャナ。いつも一緒に登校する仲だが、毎度の如く意見が食い違うところがある。
「なんだよ?」
「なんだよ、じゃないでしょ!あんた、今日会議あるって昨日のホームルームで言ってたでしょ!」
「はぁ?なんだそれ。」
身に覚えがなさ過ぎて何を言えばいいのか全然わからない。顔で教室から出ろと合図され俺は仕方なくそれに従う。廊下を突き進む二人は対向者を避けながら人気のない階段にたどり着く。そこで彼女が先ほどの話の続きを再開する。
「で、まさかハルト、昨日のホームルームで決めたこと忘れているんじゃないでしょうね?」
「昨日?昨日、うーん。...すまん、忘れた。」
「はぁ〜?ハルト、あんたというやつはぁね!」
「おっとっと、落ち着け。しょうがないだろ、人は忘れる生き物だ。まぁ、その決め事の説明頼む。」
殴りかかってこようとするシャナ俺は真剣な眼差しで見つめる。
「う、うるさい!今回限り私が親切に教えてあげる。」
チョロい、俺は心の中だけでそう思うが、けっして表には出さなかった。
「剣術大会よ。そのおかげで私達、運営委員会は大忙しというわけ。そして、ハルト、あんたはそれに出場するのよ。今日の会議はそのための注意、禁止事項を説明する機会でもあるのよ。で、なんか質問ある?」
「じゃあ、三つ質問があるんだがいいか?」
「ちょっと、質問が多いわね。まぁ、いいわ好きにしなさい。」
「よし、まず一つ目なんだが、どんな奴が出場するんだ?主要人物だけでいいから。」
まず、俺はどのような者が出場するのか聞きあとで調査して対策を練る作戦の一段階目をもう実行する。
「そうねぇ、強いていうなら二人いるけど__」
「その二人、誰?」
「鶴来エルート、昨年の剣術大会で優勝した二年の先輩よ。でも、最近は調子が悪いみたいっていうことも聞いたわ。」
「昨年の大会の優勝者か。あとでしっかり対策練っておくとしよう。」
「まぁ、それもいいけど。次が肝心なのよ。」
彼女も本当の本当に真剣な顔になっていく。
「まぁ、ハルト。これは負けても仕方ないかもしれないけど一様言っておく。」
なんだこの無駄に緊張してしまう空間は、早く言ってくれと思う。
「神川ライト、次期魔法騎士団団長。今年の当校の首席でもあるわ。多分、一番の大きな壁になると思う。」
「なんだ、心配してくれるのか?」
「ち、違うわよ!心配なんて、これぽっちもしてないわ!」
赤面になる彼女はどこか慌てた仕草をとるがそれでいて乙女を感じさせられるようにみえた。なぜ、こんなに動揺するのか俺には理解し難いが。そんなことはさておき、これはこれで面白いことになったと思う。なんせ、神川ライトと剣を交えることができるかもしれないのだ。俺がこの学園に入学してからずっと心の中に秘めていた一つの願望が叶おうとしているのである。いつもは、そっけなくしているが心の内では剣を交えたいという欲望が暴れていた。頭の中でライトが背中に背負っていた眩しく輝く剣を思い出す。俺はこのチャンスを無駄にはできない。
「で、あと二つの質問は?」
「もういいよ、今ので全部わかったから。」
神川ライトが出場すると聞いて俺は二つの質問をすることの意味がないことに気づいたのでなかったことにする。やはり、少し心配そうにしているがどこかイライラしているようにみえる彼女の行動は意味が理解できない。
「で、肝心のその大会でのルールは教えてくれないのか?」
「あ、忘れていたわ。まぁ、ルールはいたってシンプルなんだけどね__」
魔法禁止、木刀を使用、相手を殺してはいけない、制限時間10分、戦闘不能又は降伏で勝負が決まる。制限時間が経った場合審査員の判定で決まる。審査員の判断絶対。などなど、シャナが紙を見ながら説明しだしたので呆れて俺はその紙を奪ってその場を後にするのだった。
「これは、楽しくなりそうですねぇ〜。」
そのやりとりを陰で笑いながら聞き耳を立てている者がいるなどハルト、シャナは知るはずもなかった。
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