第一章3 「輝く者」
「ん、なんか向こうの方で集まってるな。」
まだ、上がり始めたばかりの太陽が校庭に降り注ぐ。校門を越え真っ先に目に入ってきた人垣。とても気になった俺はそこに足を運ぼうとするが、小さな手に袖を摘まれて左手だけがその場に残される。振り返ると頬を膨らませている彼女じゃなくて、幼馴染である佐倉シャナがいた。茶色に染まった瞳がこちらを睨みつけている。
「...なんだよ。」
彼女は黙ったまま白い紙が貼られた掲示板を指差す。その際に俺は太陽の光のせいかシャナの茶髪がとても美しく思った。そんなことはさておき、そちら方も少々人がいるので寄っておこくことにしておく、
「何々、入学試験上位10名。なるほど、俺の名前が載っているから教えてくれたのか。」
俺は自分は次席だということはもう知っていたがわざわざ教えてもらったので、そのことは黙っておこう。筆記試験、数学100点、語学100点、地歴公民100点、理学100点、そして魔術150点、剣技200点と神がかり的な点数をくりだす俺。そんな俺を抑えた首席はどんな点数を叩き出したのだろう。
「えっ、凄いわね。首席の子は数学、語学、地歴公民、理学、魔術、剣技すべて満点のようだわ。」
「それは凄いなあ。そいつはもう人間じゃねぇーよ。」
さっきまで黙りこくっていたシャナが少し驚いた表情で掲示板を見つめている。俺もきっと同じような表情をしているのだろう。俺は点数の記載された欄から左へと視線をおくる。この点数を叩き出した奴の名前を見るために。
「神川ライト、あの神川家の次期当主じゃねーか。」
神川家とは、この神聖カーラアノス国を護る魔法騎士団団長を代々引き継ぐ名家であり、この国の守護者として神から選ばれた一族だ。そして、その一族である神川家の中でも神に実力を認められた者だけが「光聖」の力が与えられる。その力もまた、代々受け継がれていくものである。そんな名家の次期魔法騎士団団長である彼ライトは、10歳にして光聖の称号を与えられるほどの鬼才なのだ。今まで光聖の称号を与えられてきた者の中で一番の実力があるとの噂も国中に広がっている。まぁ、流石神川家の次期魔法騎士団団長といったところか。心のどこかで剣を交わえたいという欲望が膨らんでくる。
「ハルト、何か馬鹿みたいなこと考えてるでしょ。」
「どうしてそう思うんだよ。」
「どうしても何も、あんたが顔に気持ち悪い笑みを浮かべたときは大抵そんなこと考えてるときでしょ。」
「気持ち悪い笑みで悪かったな。」
一番言われたくなかったことを言われた気がして心に大きな傷が入る。シャナは一体俺のどこまでを分析しきっているのだろうか。それを考えるとシャナがヤバイ少女にしか見えなくなってしまった。
「そんなことより、ここをみなさいよ。」
「なんだよ。10位、佐倉シャナ___ってただの自慢かよ。まっ、俺の相手じゃ、話にならないけどな。ハッハッハッハー。」
「それ、私の心を普通に傷つける言葉だよ。わかる?心が傷つく痛さが。」
「それは、お前にも言えることだぞ。」
真面目に説教たれてきたシャナも、先ほど俺の顔を気持ち悪いといったところだ。彼女は馬鹿ではないバズなのだが、そういうところは抜けているのだろうか、ではなく抜けているのである。とにかく、俺はさっさと人垣ができているところに行きたいということだけを考えていた。まぁ、あの人垣は何の人垣かは、おおよそ分かっているのだが。
「そういえば、ハルト。クラスの振り分けはどうなったのかしら。」
「おいおい、さっきまでの口論の意味は。」
シャナはまるで何事もなかったかのように話しの話題を素早く切り替えた。まぁ、確かにそれに関しては俺も気になっているところだった。恐らく、その答えはあの人垣の先にあると俺はふんでいる。というかそれしかないだろう。俺も早くあそこに行きたかったのだが、シャナに引き止められて、彼女の自慢に付き合わされてしまったために後回しになってしまったのだ。
「あー、クラスの割り振りならあそこで公開されてるんじゃねーの。」
「言われなくても、気づいていたわよ!」
「じゃあ、聞くなよ!」
学園生活初日の朝から言い争いが絶えない俺とシャナだったのであった。しかし、この言い争いもすぐになかったことになるのだが。この後確認するクラスの振り分けも知らずにもう片方の巨大な掲示板に向けて歩みだした。
「新入生の皆さん、入学おめでとうございます。国立カーラアノス学園自慢の桜も満開となり、皆さんの入学を歓迎しています。この良き日に、新入生、本科150名、留学生3名の、計153名の皆さんを、伝統あるカーラアノス学園の一員として迎えました。教職員一同の大いなる喜びであり___」
どこの学校のありとあらゆる式でお目にかかれる校長の長い長い式辞を俺は死んだ金魚のような目をしながら聞いていた。こんなに長く話してるいる校長は疲れはしないのだろうか。昔から聞いてきているが、どのような意図があるのか全く掴めずにいる。
「なんか、すごく長い話だな。聞いてて疲れてくる。シャナもそう思うだろ。」
隣で、見た目は茶色という印象の幼馴染シャナが退屈そうに話をきいてる。なぜ彼女が隣にいるかというと、大体は予想できるだろうが同じクラスになったからである。今年で10年連続クラスが一緒だとさすがの俺でも内部で不正がはたらいているようにしか思わなくなってしまった。まあ、俺はどうとでもいい話なのだが。ただ、彼女は不満に思っているだろう。俺を見ている顔がそう言っているようにしか見えないのだから。
「あんたには、関係のない話よ。」
「なんなんだ、このツンツンキャラの在り来たりな返答は!」
「何言ってんのか、わからないけど。私はあんたとクラスが10年連続一緒になることが辛過ぎるだけよ。」
「おい、なんか心が痛むから普通に言うのやめてくれる?」
仲は悪くないはずなのだが、このような言い争いになるのはなぜなのか。言い争いを避けたい俺は彼女が興奮させないようにしているのだが。
「___学ぶことはいつも楽しいとは限りません。うまくいかないこと、悩むことも沢山あることでしょう。それらを乗り越える最も良い方法は、何でも話せる仲間を持つことです。決して一人で悩まないでください___」
まだ終わらない式辞が自然に耳に入り抜けていく。俺は欠伸をしてから周りを見ると校長の式辞を熱心に聞く者達がいた。後ろでは保護者の方がいるのだが同様に熱心に聞いている。
(もしかして、俺浮いちゃってる感じ?)
流石、カーラアノス学園に入学しただけあると、いったところか。俺が不真面目な奴にしか見えなくなってくるではないか。後ろを振り向いた俺はとても新入の数が異様に少ないということに今更に気づく。国が経営している学校、それも超エリート校なのに募集人数があまりにも少ない。開校当時から一度たりとも入学人数153人を保ったままのカーラアノス学園は毎年恒例のように倍率5を超える。そのため、約760人の受験者が挑戦するのだが大半の者は合格発表当日に涙を流すことになる。そんな人達がいる中、俺は次席合格を成し遂げたのだ。それにしてもやはり、
「長い、長すぎる。話してる校長は嫌にならないのか?」
「黙って聞いていなさいよ、ハルト。」
「これを黙って聞いていろっていうのか?お前も実は痺れを切らしてきてんじゃないのか?」
「___まぁ、それもあるかもしれないけど。」
ヒソヒソと言葉を交わす彼女もついにボロを出してしまう。お前も十分同類じゃねーかと、心の隅の方で思う。スピーカー越しに聞こえる校長の声がノイズのように感じた。
しばらくして校長の式辞が終わり会場が(詳しくは、生徒集会場)が拍手で包まれた。やっとのことに俺はいてもたってもいられないこの感情を表に出さずにいられず。
「ひー、やっと終わった。いくつになってもこれだけは耐えられねぇ。」
「ちょっ、ハルト声が大きい。」
やってしまったと気づいた頃にはもう遅く、周りの人はまるで汚物を見ているかのような目で俺を見ていた。そのような目で見たくなる気持ちもわからなくもないが公衆の場でそんな目をするのだけはやめてください。と、心深くで思う俺をよそにひんやりした少し寒さが残る集会場で入学式のプログラムが着実に進んでいく。
「続きまして、新入生によります。新入生代表挨拶です。代表、神川ライト様お願いします。」
「はい!」
瞬間。集会場を包み込むように太陽の光が明るさが増した。いや、太陽の光ではない、彼神川ライトから放たれる自信、そして勇気の明るさだった。輝きが広がり全体がざわめく。
(神川って、魔法騎士団団長を代々務める神川家のか?)
(それ以外に何があるんだよ。)
(か、かっここい~!)
(ちょっと、何?あんた顔赤いよー。)
(おい、聞いたかよ。ライト様は試験科目全部100点らしいぞ。)
(マジかよ、見た目完璧。学力鬼才って欠点要素全く無いじゃないか!)
どこからともなくそんな会話が聞こえてきた。あまりの騒がしさに入学式どころではなくなるが、
「オホンッ______これは失礼。」
魔法騎士団団長神川エルバードの咳払いで会場内が再び静まりかえった。秩序を取り戻した入学式は終わりを迎えようとしていた。残すは神川家の次期魔法騎士団団長ライト様の新入生代表挨拶だ。騒がしかったことが嘘かのように静まりかえった空間の中、彼は登壇し終わって全体に一礼する。俺が見る限り彼はこの会場のどの灯よりも明るかった。彼自身が発光している訳ではない、てか、そんな奴がいたら逆に怖すぎるだろ。深々と礼をしたライト様は懐から紙を取り出すが、中身は出さずにその場におき、
「あたたかな春の訪れとともに、私たち153名は国立カーラアノス学園の一年生として入学式を迎えることができました。校庭の周りに咲き誇る桜の花、校門から校舎までの道に散った花びらが桜の絨毯となり、私たちを歓迎しているかのようでした。本日は__」
内容はいたってシンプルなのだが、とても心を惹かれるその声に一同が目を輝かせている。会場全体を包み込む暖かな光が俺の心までもを揺さぶる。そんな俺が我に返って隣を見るとシャナが頬を赤く染めて座っているではないか。俺はシャナの顔の前、それも鼻に当たりそうな距離で手を振ってみせるが、
「反応なしと、」
「心の干渉」に対しては免疫はないということか、彼女ほどの実力を持っていても心に干渉できる実力を神川ライト様は持っているということだった。「心の干渉」とは、他人の心に他者が割り込む、つまり干渉するという名前通りの「潜在能力」だ。心に干渉されてしまったシャナは、もう助けようがない。ただ俺は耳に心地よい声を聞きながら待つというシンプルかつ逃避的な選択をしたのだった。視線を元向いていた方向へと戻す。神川ライト様の美しい顔を見たまさにその時、不意に思った。
「そういえば、神川ライト様のことをどこかで...」
「もしかして、あなたも免疫があるのでしょうか。」
何かを思い出そうとしていた俺の努力を踏みにじるように水のような清らかで透き通った声が後ろからかけられる。振り返ると髪は黒色とも灰色とも言えない微妙なラインの色をしておりストレートでなおかつ質感がいい。瞳は水が光ったかのような水色をしている。彼女の美しさはそれだけでは止まらず、女性の象徴といってもいいほどのスタイル抜群な体を持っている。そして何よりもその体に合った大きくもなく小さくもないちょうどいいサイズの胸が_
「すみません、やましいことはあまり考えないでもらいたいんですが。」
「なっ、なぜわかった⁉︎」
口には出していないはずなのにバレてしまい、驚きの顔に俺は汗を浮かべる。そんな俺の反応に反して彼女は口を開いた、
「そんなにすごいことではないですよ。単に貴方が、いやらしい顔で笑っていたからそう思っただけですので。」
「俺、そんなにヤバイ顔だったのか⁈いや、待て。それ今日聞くの二回目のような気もするが、」
「はい、とても。」
「そこは、嘘でもいいから『いいえ、素敵な顔ですよ。』とか、『とてもいい笑顔ですよ。』など俺を傷つけない返答が欲しかったんだが⁉︎」
正直者のような彼女が少し驚いた顔を見せた。何に驚いているのか分からない俺は首を傾けて困惑する。しかし、彼女は顔に笑顔を作って、
「貴方のような方は初めてです。もしよければ、お名前の方を聞いていいでしょうか?」
「名前ぐらいいくらでも教えてやるぞ。俺は神に遣わされし千代田ハルト、バリバリの高等生だ!呼び名は君の好きな呼び方でいいぜ。」
「え、君が千代田ハルトくんですか。ちょうど、探してたところだったんです。」
「なんかスルーされて非常に心痛むんだが?てか、なんで俺を探してたんだ?そこのところ、とても気になるんだが?」
疑問を一方的に投げかける俺ははたから見たらどんな奴に見えるのだろう。そんな思考はさておき、全ての質問に対する答えを聞こうと俺はまず頭の中をクリアにする。壇上ではライト様の挨拶がそろそろ終わりそうな文言を発している。そんな中、彼女は笑みを浮かべてこちらを真っ直ぐに見て、何かを思い出したかのような顔で言葉を発した。
「名乗るを忘れていましたが、私の名前は天ヶ崎レクハ。水聖の血を受け継ぐ天ヶ崎家の者です。」
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