第一章1 「新しい制服」
『おかえり』
うん、帰ってきた
『いってらっしゃい』
また、いってくる
『がんばって』
わかった、がんばってくる
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最近知ったのだが、産声は生まれて初めての呼吸らしい。ふと、立ち寄った本屋の本に書いてあったのを見た。それまでは呼吸をしていなかったのに、急に体外に出て呼吸を始めるかと思うと感心する。考えただけでも、凄いことだと思う。誰にも教わらずともできる、そのことを。
しかし、一つわからないことがある。〈彼らは何の為に生まれてくるのか〉その解答が今も心のどこかにひっかかっている。その解答を見いだす為に今回も生きる_
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朝。小鳥たちが鳴いてそれを告げる。窓から神秘的な朝日の光を浴びている彼、千代田ハルトが目覚める。今日もいつもと同じ朝を迎えられると良かったのだが、本日はどうも眠気がとれなかったようだ。昨日に増して疲れも溜まっているようにも感じた。両目を親指と人指し指で押さえる。
「いや〜どうして、こうも疲れがとれないのかなー。昨日は9時寝たはずなんだが。」
9時に寝るとか小学生か、と心の中で恥ずかしく思う。俺もそんな時期があったことを思いだす。
よく小さい頃は早く寝ないとお化けが出るだの、大きくなれないぞ、と脅されたものだ。そんなことでびびっていた自分が可愛く思えた。
「いや、寝る時間なんて関係ないか。」
そう、寝る時間は関係ない。なぜなら最近、妙な夢をみるようになったからだ。どこかもわからない黒い地にただ突っ立ている俺。そこで出会う天使。そして、死ぬ俺。そんな夢がここ連日続いている。
「頼りにしているか。」
なんとなく物語の主人公になったみたいな感じだ。天使から頼りされていると思うと興奮が止まらない。まぁ、そんな機会は絶対俺には来ないだろうが。
ベッドから降り欠伸をしながらクローゼットへ向かう。開けると中には新品特有の匂いを放つ制服があった。
「今日から、俺の新しい学園生活が始まる。」
彼、千代田ハルトはカーラアノス国の中で最も高い学力を有する学校への入学が決まった。彼は、よく分からず適当に選んだ学校をなんとなく受験し、なんとなく合格した。反対された両親に、合格通知書を見せると、父は「やはり私の血を引いているだけある」と自分の子だから当たり前だと言いたげな言葉を残し近所に早速報告しに行った。その後ろ姿は、まるで幼い子供がスキップをしているように見えた。母はその場に倒れ失神してしまい、しばらく目が覚めなかった。俺はこんな情けない両親の姿は見たくなかったと心底思った。
妹は同級生に広めてしまい、毎日妹が家に友達を連れてきて、俺が彼女らに勉強を教えてあげる春休みになってしまった。はっきり言うと、遊ぶ時間が欲しかった。もっと羽根を伸ばしたかったのに。
そんな日々を送り、遂にきた入学式。
「今日は俺の晴れ舞台だ。」
「ハル兄、見てて恥ずかしいよぉ〜」
とドアの前に呆れ顔をした黒髪の少女が立っていた。身長は160センチあるかないか。そんな彼女に今、とても見られてはまずいとことを見られてしまった。とにかく、話題を反らそう、
「__君だれ?」
「はぁ⁈ふざけてるの?ノアだよ、ノア!ハル兄の可愛い妹に決まってるでしょ!」
「いや〜、俺に妹なんかいたっけ。」
「頭大丈夫なの?もしかして、寝相悪すぎてベッドから落ちて頭打った?だっさぁー。後でみんなに言いふらしておこうかな。偏差値トップの学校に通う兄は、見ていられないぐらい寝相が悪いってね〜。」
「なっわけあるかぁ!冗談に決まってるだろ。」
そう今までのはただの冗談、
いや、それにしても危なかった。あともう少し揶揄っていたら変な噂が回るところだった。そんな事より、話を反らすことに集中しよう。
「で、いつまで居るつもりだ、ノア。俺は今から着替えるんだが。この真っ新な制服に。」
と、クローゼットの中にある新しい制服を指差す。それはとても輝いて見える制服。今すぐにでも着てやりたいところだが、
「ということだ、退出願う。」
「は⁈何で?」
「いや、今の状況的に普通、『はい、わかりました。』て、言って部屋出て行くところだろ」
あり得ない。まさか、我が妹は頭のネジがいくつか抜けているのでは。
「もう一度言うぞ。俺は今から着替えるんだから、部屋から出ていってくれ。」
「ん〜。私が出て行く意味がわからないというか」
あー、もうこれは頭
「いいから早く出て行け。」
声を低くして脅してみる。
「わ、わかったから。怒らないでねぇー、えへへへ〜。」
素早く後退りしながら部屋から出て行く。まだ、部屋の外から気配を感じる。
「ノーアー?」
そう言うとドタバタと階段を駆け下りる音が聞こえた。やはり、まだ部屋の前にいたのだ。どうやら恥ずかしい話をしなくて済んだようだ。
「全く、ノアは一体何を考えているのか。病院に連れていった方か。」
そう言いながら、俺は可愛い妹のことを考えてあげるのだった。
「ん〜、新鮮な気分だな」
新しい制服を手に取り腕をとおす。体温自動調整システムが作動し、快適な制服内。年中着ててもいいぐらいこの制服を気に入った。服を整え再び、
「少し邪魔が入ったが、今日から俺の新しい学園生活が始まる。」
日光が当たり輝く制服に身を包み決めセリフを言う。そんな
「ぷっ、」
部屋の外から吹き出すように妹が笑った。また、恥ずかしいところ見られたのだった。鳥の鳴き声でさえ笑い声に聞こえてしまった。
こうして千代田ハルトの新しい学園生活が始まったのだった__
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