第3話
黒蜜おばばが待つ山小屋の居間いつもの食器棚横の暗闇から勢い良く飛び出した。余りにも勢い良く飛び出したのでテーブルの脚に額をゴッチん。
何だか鈍い音がしクルクルと眼を廻し籠を咥えたままヨタヨタ。それを見た黒蜜おばばが慌てて買い物籠を私の口から取り、額に掌を当てて回復のおまじないをしてくれた。
痛みが引き落ち着いた私に何かあったの?と聞かれたけれども簡単な単語しか伝えられない私は「立ち食い蕎麦屋・竹輪の天麩羅・中年・オジサン・温かい・待ち伏せ・ハート等を首輪から黒蜜おばばに伝えたけれども上手く話しが伝わらない。
伝わった単語だけでも只事では無い雰囲気を察し買い物籠からお弁当を取り出し籠の側面に自分の耳を当てる。
ウンウンと頷きながら籠と会話している・・・相変わらず怪しい。
買い物籠にはかなり高度な”おまじない”が施され
てあり”意思を持つ魔道具”なんだとか。黒蜜おばばの妹で魔道具を作る事を生業としている魔女に特注で作って貰ったそうだ。
魔女や魔法使いの様に魔力が強く魔力の扱いに長けた者が買い物籠に耳を当てたり籠の持ち主である黒蜜おばばの使い魔の蜜が籠の持ち手を咥えていると”会話”が可能。籠を咥えている蜜をお店の場所へ案内するGPS付ナビ機能有り。
事情を知らない人が見ると嫌、解っていてもかなり怪しい光景に映る。
ちなみにガマ口財布には盗難防止や不正防止に”呪いの内容を聞いただけで充分な程の制裁になる呪い”が施されている。どんな呪いかは聞いてい無い・・・。
籠から耳を離し蜜を見て「竹輪の天麩羅を握り締めた中年!ダメ!マジに受ける〜蜜こんな変人にまで好かれるなんて魔性の乙女犬なの蜜?運命の嫁?そんなのが眼をハートにして待ち伏せしてたら誰だって走ってにげるわ!」。涙を流しながらお腹を抱えて笑い転げ回ってる。
ハアハアと荒くなった息を整えて涙を腕で拭ってから真面目な顔になり「ゴメンね蜜、怖かったんだね?笑ったりして許しておくれ」とさっき打った額を撫ぜながら私の顔を覗き込んだ。
「大丈夫よ」と声を送ると安心した様子。
「でも何なんだろうね?その竹輪の天麩羅中年・・・まあ気にしても仕方ないか。それより焼売弁当食べよう用意するね」。
まだホンノリ温かい焼売弁当とっても美味しい。焼売に辛子と醤油を付けて貰ってと。出来立て最高!冷えた弁当も良いけどね。筍のコロコロ四角いのや卵焼きどれも良い味。
私、勿論焼売が一番美味しかったけど本当は・・・”あんず”が大好き。
お弁当を食べ終わり。地獄人参茶を飲んでいたおばばがカレンダーを見て「地獄人参もう直ぐ在庫が切れそうだね・・・そうか明後日は七月朔日(ついたち)か蜜に伊勢でアレをお土産に買って来て貰って私と同じ甘味好きな”あの方”に持って行けばきっと貴重な薬材も・・・普通の使い魔では時間が掛かって無理だけれども蜜なら」。
地獄人参茶を飲んでいた私を見て「蜜や、お前地獄へ行って貰うよ」えっ?殺されちゃうの私?。
普通の使い魔が地獄へお使いへ行く場合、日本だと富士裾の冥府に通じる風穴まで飛び風穴から一日掛けて黄泉比良坂を降る。
降りた先の三途の河まで行き”地獄の通行証”を奪衣婆に見せ地獄行きの渡し船に乗って地獄門へと空を飛ぶ使い魔でも片道丸二〜三日近く掛かる計算だ。
しかし蜜なら”地獄の通行証”が有れば何処からでも一瞬で地獄門前へ。
これを活用しない手は無い。
次の日午後早くに買い物籠を咥え伊勢神宮近くの行列に並ぶ蜜。黒い色が災いして太陽が熱い。毎月朔日(ついたち)に売られる老舗の季節限定菓子を買う”受付番号票”を貰う行列だ。この票で買う事はまだ出来無い。菓子を売る朔日の真夜中に菓子を買う行列に並べる”列整理券”をこの票と交換し券の番号順に並んだ後にやっと季節限定菓子を買える。
二日がかりで二度三度と並びやっとの思いで七月朔日餅”竹流し”が買えたのは朝日が登ってから大分経ってから。
お店の人に「真っ黒い使い魔さんご苦労さま、メモに買い物籠に入るだけ売って下さいとあるけど大丈夫?」と聞かれ頷く私。
意思をもつ魔道具である買い物籠さん大きさもある程度調節可能で大きくなって貰ったけれども竹筒に入った水羊羹咥えて歩ける重さを考慮し最終的に100本購入。
入るだけ籠に入れたら「く、首が折れそう」になりお店の人が減らしてくれた。籠を咥えさせて貰い、お手間掛けましたとお辞儀をして神宮の神域外までタッタッタと走り抜け目に付いた電柱裏の暗闇へ飛び込んだ。
食器棚の暗闇から現れた蜜の口から籠を受け取り「お疲れ様大変だったろうけどその限定菓子日持ちし無いんだよ10本は自分達用に取って置いて、10本は地獄門直行で無くいつも世話になってる奪衣婆に渡し、その後門へ行き門番に”日持ちのし無い季節限定水羊羹をあの方に持って参りました鮮度が落ちると大変です”と書いたメモを見せれば超特急で”あの方”の所に案内してくれる。疲れてるだろうが頼んだよ蜜」と言うと”地獄の通行証”になっている中国の古銭の穴に自分の髪を一本通し蜜の首輪の金具に縛り付けた。
自分達用の10本を抜き用意してあった奪衣婆用のメモと門番用のメモ”あの方”用のメモを新たに入れた買い物籠を咥え地獄へ初めてのお使い行ってきまーす!。
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