第2話

買って来た豆寒天を早速頂く。寒天の水を笊で切り少し大きめな鉢に盛り、黒豆とピンクと若草色で砂糖を塗した求肥を乗せてから黒蜜を掛ける。

1.5人前づつ食べて残り半分はまた明日のお楽しみに。


このお店の寒天と黒豆は他の店の物より圧倒的に嫌な癖が無い。弛めの粘度の黒蜜が一緒に絡み合い噛み砕かれ、気持ち良く喉を下って行く。食べていて気持ち良い。気が付くとお鉢がカラッポに「ふ〜ぅ」と二人して同時に溜め息を出している。

顔を見合せニッコリ笑顔に。


温かい地獄人参茶でゆっくりとした時間を楽しんでいたら。

「蜜、晩御飯作りたく無くなっちゃったなぁ〜。悪いけれども後でお弁当買いにもう一度お使いお願いして良い?」とテーブルの上に上半身を投げ出しながら気怠そうに言う。

それを見て私は仕方ないわねと頷く。

「夕方五時過ぎに横浜駅で焼売弁当二つお願いね。一番大きな改札の目の前。でも横浜駅って特殊な場所だから駅前を少し歩いてお使いして貰わなきゃ行けないんだ。」

横浜駅は開業から百数十年未だに完成した事が無いらしい。それは常に工事をして通路を一定にしない事で悪い物を惑わせ居つかせない”おまじない”を施しているのだそう。


私が直接改札前のお店に移動したら弾かれる可能性が高いからこの世の境界線である駅近くの河沿いに出て歩いて改札前へお使いに行くのが安全と聞かされる。

移動を弾かれて変な場所に出て仕舞わない対策なんだとか。古都や神社仏閣、魔術的な場所は結界が張って在り通行証が無ければ直接入れず何処かに飛ばされてこの世のから消える場合も。

黒蜜おばばの山小屋も”おまじない”が張って在る。

私が名前を貰った後に通行証として赤い首輪も貰った。首輪には通行証以外に黒蜜おばばへ蜜の簡単な声を伝える機能と首輪の長さの自動調整の”おまじない”が付与されている。

私はもう成犬だけど使い魔としてはまだ数ヶ月なのでまだ喋れない。もう数年かかるみたいなので声を伝える手段が必要なのだ。本当に簡単な単語位しか伝わらないけれども。


買い物籠を咥え横浜駅の私鉄出入口横の河に架かる橋の袂の暗闇から現れた。私は私鉄駅ビル前にある通りをJR横浜駅で一番大きな改札へタッタッタと歩いていると。

雰囲気のある立ち食い蕎麦屋さん。鰹節の出汁がとても良い匂い・・・蜜、甘味も好きだけれどもこの出汁の匂いも好き!。店の外で丼を持って竹輪の天麩羅蕎麦を食べている冴えない中年のオジサンがいる。


私、竹輪の天麩羅も大好きなんだ。あ〜食べたい!

(蜜は、使い魔なので人間と同じ物を食べても大丈夫です)


竹輪の天麩羅を咥えたオジサンと目が合う。

買い物籠を咥えた真っ黒い甲斐犬と竹輪の天麩羅を咥えた冴えない中年が「ジーッ」と見詰め合う。


蜜の中に何かが芽生えそう・・・。


温かいけど経験した事の無い感覚。


その感覚に支配されそうに成り怖くなって竹輪の天麩羅オジサンから眼を外らし目的の改札へ走り出した。


地下街へ続く階段がある入口からJR横浜駅へ。

私鉄改札横を通り過ぎ広い広場みたいな改札口前の通路真ん中に焼売弁当を売る売店を見つけ売り口正面に買い物籠を咥えチョコンと座る。

売店の中にいた販売員さんが私に気付き脇のドアから出て来てくれた。

販売員のお姉さん「こんばんわ、真っ黒い使い魔さんその買い物籠はからすると黒蜜おばばの新しい使い魔ね?籠を貸してね」と口から優しく籠を外し売店へ戻る。何分もせずに籠を持って出て来たお姉さんが「あなた蜜ちゃんねよろしく、メモにあった様に焼売弁当二つね。出来たてが丁度入荷してたから入れといたわ。普通前に入荷したのを先に渡すのだけど。可愛い真っ黒な使い魔さんが来たから特別ね」と籠を咥えさせてくれた。


私はお姉さんにお辞儀をしてからタッタッタと混んで来た夕方改札前を人の間を縫う様に出口へ走る。


先ほどの立ち食い蕎麦屋の手間で警察官が大きな声で誰かを問い詰めている。

「あんたね!竹輪の天麩羅を握り締めた髪がボサボサで無精髭、服もヨレヨレの冴えない中年男性が笑いながら駅前に突っ立っていて気持ち悪いって通報があって来たけど、マジに気持ち悪いよ?」。

「やっと俺の運命の彼女を見つけた・・・出会った瞬間に分かった!ビビッと来た!まずは、この竹輪の天麩羅を彼女に捧げて愛を告げるんだ!!俺の嫁だ!」と眼がハートになってるオジサン。


眼がハートになっているオジサンが怖くなって、警察官に問い詰められこちらに背を向けいる空きを突いて直ぐ先の河沿いへ走り橋の袂の暗闇から姿を消した。

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