第十一話 ウラクの威厳


 ヤスノリさんに会うべく私たちは調理場へと向かう。

 昨日色々と仕事を押し付けてしまったのでその礼と、今日もたぶん食材を色々渡すからよろしくと仕事を押し付ける為だ。



「恐らく彼、これからどんどん忙しくなるわね」

「大丈夫です、きっとノリノリで受けてくれますよ。ヤスノリなだけに」



 くっだらなすぎてツッコむ事も野暮なのでそのままスルーして隣の調理場に入る。シオンが妙に期待した目で見ているが気にしない。

 昨日に比べ大分忙しいみたいだ。人が忙しなく動き回っている。

 今だからまだ大丈夫だけど、流石に人が少ないか。ここだけでなく全体的にそんな感じだが。

 この間と同じく、ヤスノリさんが私たちに気づいてこちらへと向かってくる。



「おや、ウラク様。それにシオンも。おはようございます」

「お疲れ様、ヤスノリさん。忙しい所悪いわね」

「いえいえ、早速仕入れてくれて嬉しいですよー。僕の所ではお米が主食でしたからね、僕自身も馴染み深い物が食べれて良かったですよ」

「あら、そうだったの。やっぱりタロウと同じ次元だったのかしら?」



 ヤスノリさんは嬉しそうに語る。やっぱり食べ慣れているものは安心出来るのかしら。



「そのお米のことなんだけど、急に頼んでごめんなさいね。いきなりで困ったでしょう?」

「いえいえー、確かに専門外ですが、脱穀機と籾摺り機があったので大丈夫ですよ。使い方もアマテラス様に教わったのでバッチリです」

「そんなものまであるの……」



 竜宮城って一体どんな所だったのかしら……。

 何はともあれ、そこまで窮している訳では無いようだ。と言っても昼夜に向けてまたせっせと準備しているようだけど。



「確かにヘンテコなお城ですが、便利な事には間違いありませんねー! 」

「ヤスノリさん、ヘンテコだなんて失礼ですよ?」

「あはは、申し訳ない。僕も外の様子は見てるから知っているけど、明らかにここだけ異質だからねぇ」



 他の人から見てもこのお城はおかしいと感じるようだ。よかった、私だけじゃないのね。

 あんまり他の悪魔と関わっていないせいか、どうにも常識や感性がズレてしまっているから。……うん、自分で言うとなんか恥ずかしい。



「それでヤスノリさん、今日は山の様子を見に行くんだけど」

「食材探しの定番ですねー! 今のところ謎の木の実しか見つかっていないようですが、奥まで行けば何か見つかるかもしれませんね」

「謎の木の実……ああ、あの固いやつね」



 竜たちがゴリゴリ食べていたあれ。肉しか食べないと思ったけど偏見だったようで、普通に肉以外も食べるようだ。

 あの木の実、噛む度に味が出て美味しいのよね。少し顎が疲れるけれど。



「ウラク様、もしやあれを?」

「え、食べたけど……。何かマズかった?」

「いえ、マズくはないです。多分。それよりも、あんなに固い物を良く食べれましたねぇ」

「ウラク様は悪魔ですからね。あれくらいなら容易いのです。二ついっぺんに頬張って食べていた所は、ハムスターみたいで可愛かったですよ」

「なんで知ってんのよ……」



 そこから観察ストーキングしていたのかこのメイドは。

 後、一つじゃ味がわからなかったから二つ同時に食べただけで、決して欲張ったわけではない。



「ま、まあ何はともあれ、何か食べれそうな物があったら持ってくるわね」

「ウラク様基準の食べれそうは、少し不安ですねぇ」



 うぐぐ、この人優しいのは確かなんだけど同時に遠慮もないなぁ。

 食事に関しては多少なり自信があったのに……料理もやってたし。



「ヤスノリさん、キアロとソフリアも一緒ですので大丈夫ですよ」

「なるほど、それなら安心だね。彼女たちもこっちで働いてくれたらいいのに」

「もう、ダメですよヤスノリさん。昨日断られたばかりなんですから、すっぱり諦めて下さい」



 早くも労働力の取り合いが! しかも私そっちのけで!

 それに、遠回しに頼りないって言われてる気がする。ぐぬぬ、ここの人間たちは逞しくて頼りになりますこと。



「そういうわけだから、持ってきたら後よろしくねヤスノリさん」

「なんかいきなり素っ気なくなった気がしますが……わかりました! 楽しみに待っていますよウラク様」



 楽しみなんだ……大変そうだったけど、やっぱりお料理好きなんだなこの人。



「別に素っ気なくないし。見てなさい、思わず跪くような凄い食材持ってくるから」

「不貞腐れるウラク様も良い……」



 そこのメイドは無視し、私は調理場の外へと向かう。まずは他の使用人達に挨拶。その後はケローネの様子を見にいかなければ。

 でも、柄にもなくあんな事言っちゃったし少し早めに山に入ろうと思う。ここは一つこの次元の主としての威厳を見せないと。

 でも……うーん、何もなかった時どうしよう。そこらに生えてる食べれそうな草でも渡そうかしら……。



「食材を持って帰る時はキアロかソフリアを通して下さいねー! 人が食べれない物があるかもしれないのでー! 間違ってもそこらに生えてる草やキノコをそのまま持ってきちゃダメですからねー!」



 だ、そうなのできちんと聞いてから渡すことにする。

 だんだんと子供扱いになっているような……。おかしい、変なことは言ってないはずなのだが。うう、私の……悪魔としての威厳が……。

 ううん。まぁ、良いわ。キチンと仕事をこなせば見方も変わるでしょう。やってやるわ。

 私は意気揚々と調理場を出た。



 私とシオンは、そのまま他の使用人たちに挨拶をしていった。

 各々個性はあるし、年齢も様々だ。だが、シオンほど尖っているのはいなかった。



「褒めても何も出ませんよ、ウラク様」

「褒めてない褒めてない」



 冗談を言ってはいるが、ちゃんと全員の位置を把握していた。まだ三日目にも関わらず誰がどこの担当か明確になっているようだ。

 私たちも見習わないとね。一応皆には私の予定を伝えてはいるけれど。



「シオンはまたここに残るのかしら? ケローネに会っておいた方が良いと思うけど」

「ウラク様、私は海の中で呼吸できませんので」

「ああ、そうだったわね」



 タロウがおかしいだけで、それが普通だ。ケローネが落ち着いたらまた城に来てもらおう。

 そして、私は少し休憩を挟んでから海へと向かった。

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