第四話 お引っ越し大作戦
私とタロウ、メイド長のエスタシオン、料理長であるヤスノリさんの4人で今後の事を話し合った。
まず、食事は朝昼晩の三回。私は偶にしか食事を取ることはなかったし、タロウの世界では昼と夜の二食が常識だったらしい。
だが、シオン曰く「朝食を取らないと集中力や免疫力が落ちてしまいますよ」と、強く推されてしまった。
私は人型とは言え悪魔だしそこまで影響はないのだけれど……他はそうもいかない。
何よりヤスノリさんにも三食取ることを勧められた。栄養や体調面だけでなく仕事の割り振りや仕込みの時間も分かりやすいからと賛成していた。
ヤスノリさんはどことなく手慣れている。きっと以前も似たような事をやっていたのかもしれない。
食料の管理も彼等にやってもらうことにした。
と言っても今は街の竜たちが取ってきてくれる魚や海獣の肉しか置いてないが。今後増えるだろうし保管場所も考えて置かねばならない。
他にも必要なことを大まかに決めた後、私たちは調理場から離れた。後のことはヤスノリさんが上手く決めてくれるだろう。
それから、シオンに龍宮城を一部屋ずつ案内してもらう。
初対面の時からポンコツっぷりを発揮していたシオンだったが、案内は真面目で丁寧、説明もわかりやすくメイド長として相応しい対応と仕事のこなし方であった。
普段からこうだと良いのだけれど……。
「シオン、いつもこの調子で頼めないかしら?」
「私はいつも通りですよ」
「えぇー……冗談でしょう?」
少なくとも今のシオンは主人をいきなり母上呼ばわりするようなテンションではない。
まぁ、いつもあの状態ではないだけ良いか。いつ発作が起きるかわからないけれど。
「ほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
いきなり、通路の奥から少女の雄叫びが聞こえてくる。
たぶんアマテラスだろう。彼女もまた、やたらテンションが高い。さっきまで二日酔いだったのにね……。
「アマテラスはよく叫ぶよね。僕が呼び出す時は大抵大声で僕を罵ってくるし」
「それは十中八九タロウが乱暴に呼び出すからよ。もっと神様を労ってあげて頂戴」
釣り竿で引き釣られたらそりゃ怒るでしょうに。神様だから多少頑丈だろうけどそういう事じゃないのよね。
「そんな怒らないでおくれよ。彼女は無理矢理にでも引っ張らないと全然出てこないんだから。少し強引だけど矯正も兼ねているのさ」
「悪化しなければいいけど……」
私たちはアマテラスがいる方へと向かった。
一体何をしているんだろう? アマテラスの事だから変なことはしてないと思うけど……。
そう思いながら通路を曲がると、正面でアマテラスが机の様なモノをを担ぎながら部屋に入っていった。
「アマテラスって見た目の割には力持ちなのねぇ……自分の倍はある机を軽々担いでたわよ今」
「伊達に神様じゃ無いって事さ。おーい、アマテラスー!」
タロウがアマテラスを呼ぶと、部屋の奥で「フォオオオオオオウ!」と言う叫び声と共にドスーンと大きな音がした後、スタスタとこちらに向かう足音が聞こえる。
新築なんだからもう少し丁寧に扱ってね……。
「ふむ、タロウにウラクか。城内の確認は終わったのか?」
「うん、大体はね。途中でシオンに会えたおかげでスムーズに済んだよ」
「しおん?」
アマテラスがそう言うと、後ろに控えていたシオンが少し前に出て来る。
「お主がシオンか。妾は
「私はエスタシオンと申します。この龍宮城で女中を纏めさせて貰っています。よろしくお願いしますね、アマ様」
「うわぁ、すっげー反応しづらいのう。アマ様って……」
予想の斜め下を潜っていくシオン。
アマテラスもこれに慣れていかなければならないので、特に何も言わない事にする。決して面倒臭いわけではない。頑張って慣れてね……。
私は、アマテラスに何をドタバタやっていたのか聞いてみた。
「所で、アマテラスは一体何をしていたの? 随分ご機嫌だったけど」
「うむ! 妾が暮らすに相応しい部屋を見つけてな。天岩戸から少しばかり荷物を移動していたのじゃ」
「天岩戸から?」
アマテラスが引きこもっていたと言われる天岩戸。そんな簡単に移動できるものなのか。
「今運んでいたのは?」
「ふふん、今のは我が暮らしに必須である最強にして至高の魔具、コタツじゃ。その一部分を運んでおったのよ」
「コタツ?」
「なんじゃお主、コタツを知らぬのか」
魔具と言うくらいだから強力な武器なのかもしれない。
でも暮らすのに役立つというのだから……うーん、わからない。
「タロウは知ってる?」
「アマテラスから聞いているだけで実物は見たこと無いなぁ」
「タロウを天岩戸に連れて行くと碌な事にならなそうだからのう」
「はっはっは、酷いなぁアマテラスは」
タロウもよくわからないらしい。
「炬燵ですか、あれは良い物ですね。体があたたまって心地よく、中々抜け出せなくなってしまうのが難点ですが」
「ほほほ、そこが良い所でもあろう。シオン、お主わかっておるのう!」
どうやらシオンは知っているようだ。
あたたまって抜け出せなくなる……。聞くだけだと危険そうだけど、二人の表情を見るに危ないものではないらしい。
今度完成形を見せてもらおう。
「アマ様、もしよろしければ私共でお部屋を整えさせて頂きますが」
「ふむ、助かるのう。とりあえずコタツだけもってきて一人で何日かに分けてやろうと思っていた所じゃ」
「そんな沢山持ってくるんだね」
「妾、家具には拘りがあるから。では、ただ手伝ってもらうのも悪いし、助っ人を呼ぶかのう」
アマテラスはそう言うと、手を前に出して両手の指で四角を作る。
その指で作った四角中心から、八咫鏡からアマテラスが出てきた時と同じ輝きを発する。
アマテラスはその四角を引き伸ばすようにして指を離すと、大きな入口の様に四角が広がっていく。
「これってもしかして……ワームホールって奴?」
「ワームホールが何かわからないけど……たぶん、アマテラスが住んでた場所と繋がってるね」
さらっととんでもない事をやってるな……サタン様しか出来ないと思ってた。
「むぎゅぎゅぎゅーっと。これで良かろう。タヂカラオー!! タヂカラオはおるかー!!」
アマテラスが叫ぶと、その四角の中から大きい何かが飛び出てきた。
勢い良く飛び出した大きい何かは、そのまま部屋の奥へと突っ込んでいった。
「今何か変なものが飛び出てきたけれど……」
「あれこそは妾の配下にして力の神、
「力の神……。確かに筋肉が凄かったけど、デカ過ぎじゃない? 2メートルはあったわよアレ」
「アマテラス様!」
うわっ! 喋った! デカい! 怖い!
筋肉質な大男は部屋の中からドスドスと歩いてアマテラスの前に跪く。
「天手力男神、此処に」
「うむ、先も申したように妾はしばしここに滞在する。それで荷物をここへ移動させねばならぬのだ、お主も手伝うが良い」
「承知致した!!」
握った右手をを思い切り左手へバッチーンと叩き、礼をするタヂカラオ。暑苦しい。
大体なんで袴だけしか着けてないの? うわっ凄い胸の筋肉ピクピクさせてる……。
「おおっ! そなたがウラク殿であらせられるか!
うわわっこっち見た! 顔も濃いなぁ。
「あ、う、えっと、よろしくねタヂカラオ。急に呼んでしまってごめんなさいね。そっちの都合もあるでしょう?」
「いえいえ! 某は力仕事しか出来ぬ故、お力に慣れるだけでも嬉しいですぞ! それに」
タヂカラオは私にだけ聞こえるような小さい声(のつもり)で囁く。
「アマテラス様も親がかりのヒキニートになりかけていたので、少しは運動なされた方がよろしいのです!」
「聞こえておるぞ筋肉ダルマ。それで囁いてるつもりかのう……」
アマテラスの評価が散々だ。尊敬しているのかしていないのか。
でも、見た目の割には謙虚で良い人だ。見た目がもうちょい控えめだったらなぁ……。
「やや、タロウ殿! お久しゅうございます!」
「タヂカラオ、久しぶり! なんか前よりも縮んだかい?」
「それがこの間、
減量してソレ!? 前はどれだけデカかったの……。
というかその図体で掃除ってなんか違和感が……。
「と、言うわけでシオン。よろしく頼むぞ。どんな重いものでもこやつなら平気じゃろう。タヂカラオ、今日一日このシオンに付いてやれ。妾の部屋以外でも困ったことがあったら力を貸してやるのだぞ」
「ありがとうございますアマ様。ではタヂカラオ様、よろしくお願いします」
「ははぁ! 今からはシオン殿が某の主! 力仕事ならなんでも言ってくだされ!」
タヂカラオはシオンの前に跪く。一々行動がオーバーなのよね。
この人、シオンと一緒にして大丈夫かしら。まぁアマテラスの事だから問題はないだろうけど、不安だ……。
「天岩戸にある妾の私物は全部持ってきて構わぬからの。この天岩戸通過門も一日は持つ、慌てずにやると良いぞ」
「アマテラス様はこの後、如何なされるおつもりで?」
「そうじゃのう……ふむ」
アマテラスは思案し、ふむふむと考える。
シオンがこの部屋に残るならば、案内は出来ないし私たちもそろそろ外に出ててもいいだろう。
それに、アマテラスの能力も見てみたい。豊穣神の力とやらを拝見させてもらおう。
「アマテラス、手が空くなら私たちと一緒に外に出て、スキルを見せてもらえないかしら?」
「ふむ、そうじゃな。そこまで力も使ってはおらぬし、丁度良かろう」
アマテラスの許可も取れたので、私たちは外に向かおう。
シュトロムからここの立地を簡単に説明してもらっている。竜宮城を出て山の方に少し進むと、ちょうど良さそうな開けた場所があるらしい。
そこで、アマテラスの能力を見せてもらおう。
「外出でございますか。それでは、お見送りを……」
「大丈夫だよシオン。こっちの事は気にしないで! アマテラスの荷物は多くて大変だろうから」
タロウはそう言って、シオンを止める。
ここからなら私たちでも出口はわかるし、大した距離でもない。シオンにはそこのムキムキおじさんと一緒に頑張ってもらおう。
「そうですか。ではここで……」
シオンは私たちの方を向くと姿勢を正す。
そして、静かで上品な笑みを浮かべ
「お気をつけていってらっしゃいませ、ご主人様」
と、お辞儀をして見送ってくれた。
その優しい笑顔に、見送られる方も自然と笑みが溢れる。
「うん、なんか良いね……こういうの。今度から事ある毎にやってほしい」
「タロウ、シオンの仕事を増やしてはダメよ?」
「ほほほ、では参ろうかのう」
メイド長の笑顔に癒やされて、私たちは外へと向かおうとした。
……ん? 何やら隣の筋肉隆々な神様が不気味に蠢いているが……何をするつもりだ。
「ハァッッ!! 行ってらっしゃいませ、ご主人様ァ!!」
「…………」
「…………」
隣のマッチョが胸の筋肉をアピールしながらシオンに対抗してきた。
台無しだ……。せっかく気持ちよく外出しようとしてたのに。何が悲しくてポーズを決めながら見送られなければならないのか。
「タヂカラオ様、ご主人様をお見送りする時に体を捻る必要はありませんよ」
「やや、これは失礼。では改めて、行ってらっしゃいませェ!!」
隣のガチムチが、今度は腕を上げ、上腕二頭筋をアピールして見送って来た。キツい。胸焼けがする。
反応するのも野暮なので、私たちは無視してその場を後にした。
「タロウが変なこと言うからよ」
「僕のせいかい!? あれはアマテラスが……」
「妾、のーこめんとじゃ」
最後にどっと疲れたので、私たちは少し休んでから外に向かった。
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