第二章 悪魔ウラクと国作り

第一話 新しい仲間

 いきなりの戦争を終えた翌日、私たちは王座へと集まっていた。

 戦勝祝いは夜遅くまで続き、日輪の神であるアマテラスは二日酔いでふらふらしている。


「ふああ……一体何を始める気じゃ」

「戦争の勝利品を使わせてもらおうと思ってね」



 悪魔ウラクこと私が召喚した人間の子、浦島太郎が言う。



「お? 召喚すんのか?」

「うん、新しい仲間が増えるんだよ!」

「【魚】ねえ……あんま期待できないなぁ」



 戦勝して得た権限を利用して召喚権を行う。

 今回はタロウのアビリティとフォルネウスの起源アビリティである【魚】を参照して召喚される。

 その事に、タロウが召喚した亀……もとい、ドラゴンのタラスクが不満を漏らす。



「ちっちっち……あまいなたーくんは……たっぷりの甘葛煎あまづらせんをかけたかき氷よりもあまい」

「あん? 何なんだよ一体」


 

 タロウは人差し指を立て勿体ぶる。甘葛煎ってなにかしら?

 


「【魚】……そして僕のアビリティである【人】……これらが混ざりし時、一体何が生まれると思う?」

「はっ、まさか……まさかまさか!」

「ククク……ははは……はーっはっはっは!」



 タロウがサタン様の真似をしている。こういう所は子供っぽくて可愛いと思う。

 アマテラスが耳抑えて、大声をださないでくれえと嘆いている。

 


「では、始めようか! 僕達の新しい仲間を迎えるぞ!」

「私は、召喚というものを見るのは初めてです。緊張しますね。」


 

 海竜のシュトロムが、タロウの召喚に興味津々な様子で言う。

 確かに、異世界からの召喚というのは期待と不安がある。

 勝手に呼びつけるのだから、あまりいい印象をもたれないだろう。



「そうね、私もこればっかりはまだ慣れないわ。どんなのが来るかしら。楽しみ半分、未だに不安もあるわ」

「ククク……タロウ、任せたぞ」



 タラスクは意味深な笑いを浮かべている。

 タロウの発言で大体どんな事を考えているか予想はつくけどね……。



「――我が其の能才を通し、召喚に応じよ。人魚カモオオオオオオオオオオオオオン!! コントラクトサモン!!」

「やっぱり……」



 タロウは力の限り叫んでいる。アマテラスが四つん這いになって耳を抑えている。

 人魚……確かに意思疎通が出来れば便利ではあるが、タロウのスキルである動物会話さえあればそこは問題ない。

 問題は話すら出来ないのが来たら手のうちようがない。せめて敵意が無いのを召喚してほしいものだ。

 いつものように光は徐々に収まっていき、召喚された者の姿を現していく。



「……びちびち!」

「ん?」

「びちびち! びちびち! びっちびち!」



 そこには……人並みの大きさをした魚がびちびちしていた。

 跳ねてはいない。何故か口でびちびち言っていた。

 ここにいる全員、目が点になっていた。



「びっちびっち! びちびち!」

「え、えっと……タロウ、この子が何を言ってるかわかる……?」

「いや、びちびち言ってるようにしか聞こえないけど?」



 ですよねぇ。タロウでもわからないとなると困った。

 と思っていた矢先。



「うん、びちびちとしか言ってないからね、あたし!」

「ふええ!?」



 びちびち言っていた魚がいきなり話し出す。私は思わず変な声を出してしまった。

 奇妙な魚だ……色もピンクだし。

 ピンクの魚は、続けて話しだした。



「みんなこんちわー! あたしはアスピドケローネ! 大洋系女魚だよ♪ 誰が呼んだかわからないけどよろぴこー!」



 いきなり自己紹介とは……やけにテンションが高い。

 こういった事に手慣れているのだろうか、彼女? は突然の事にも驚いていないようだ。



「ご丁寧にありがとう! 僕は浦島太郎。僕が君を呼んだんだ。よろしくね、アスピドケローネ」

「やーん! ヤダーすっごい可愛い子ね! よろしく、タローちゃん! びちびち!」



 どうやら会話は成り立つようだ、それならどうにかなる。

 後でスキルとアビリティを確認させてもらおう。まずは私の紹介と、現状の説明だ。



「初めまして、私はウラクよ。まずは貴方を呼んだ理由を説明したいのだけど、良いかしら?」

「びちびち! よろしくねウラクちゃん! あたしがなんで呼ばれたか教えてくれるの? 知りたい知りたい! なんでここに呼ばれ……はっ!」



 アスピドケローネは何か気づいた様に驚愕する。

 そして、ぐえーぐえーと謎の声を上げている。



「ど、どうしたんだコイツ……」

「みずー! 水がないよー! つらい、つらいよー!」



 変なテンションで忘れてたが魚だから当然水が必要だ。

 アスピドケローネはぴちぴち跳ねながら水を求めている。

 そんなアスピドケローネに、タロウが心配そうに駆け寄る。



「ああそっか、魚だものね……。大丈夫? すぐに用意するから待ってね!」

「はやくーはやく欲しいよー! このままじゃ三年くらいで干からびちゃうよー!」


 

 ……余裕じゃない。

「余裕じゃねえか……」



 私の言いたいことをタラスクが言ってくれた。



「ギュロロロロ! ギュルルル」



 影から異空間に侵入できる異形の生物、ギュルギュアが竜宮城のエントランスに置いてある巨大なツボを持ってきてくれた。

 いつの間に。この子は本当に気が利く。私は「ありがとう」と、ギュルギュアを撫でる。

 やっぱり顔は怖いけど、心は優しさの塊だ。



「アスピドケローネ殿。今からこの中に水を貯めますが、真水と海水、どちらがよろしいか?」

「海水でおねしゃす!」

「承知しました」



 シュトロムは水魔法で水槽に水を満たしていく。

 アスピドケローネはぴょいんと跳ねて水槽に入った。



「ぷはー生き返ったー! ありがとね、おっきなお魚さん♪ そこの可愛い黒ちゃんもね!」

「ギュルルル」

「いえ、ご無事で何よりです。後、私は魚ではございません。海竜です」

「あははっ、それは失礼しました!」



 大事に至らなくてよかった。しばらくあのままでも大丈夫だった気がするが。

 アスピドケローネは嬉々として泳いでいる。



「うは、テンション上がってきた!! この海水は体に馴染むッ馴染むぞうッ!」

「本当にテンション高い魚だな……これで人魚だったら少しは見栄えがいいんだがなぁ」



 未練がましくタラスクは言う。

 


「ダメたよたーくんそんな事言っちゃ。ケロちゃんに失礼だよ」

「ケロちゃんって私の事? とっても可愛くて素敵な愛称ね♪ あ、ちなみに人魚にはなれるよ?」

「えっ!?」



 タロウとタラスクは嬉しそうに驚く。

 そんな簡単になれる物なのだろうか。私も人魚は見たこと無いから、少し興味あるかも。



「ケロちゃん、ちょっとだけ人魚になってみて貰ってもいいかな?」



 タロウは興奮気味にアスピドケローネにお願いする。



「ええ、わかったわ! ――けろけろケローネけろけろりん!」



 彼女は、いきなり謎の怪詠唱を始めた。

 こんなので変化出来るのだろうか……。というかこれ魔法の詠唱なのだろうか……。

 凄いツッコミたいけれど、邪魔するのも申し訳ないのでそのまま大人しく見ていることにする。



「けろけろケローネ――大変身! とうっ!」



 詠唱を言い終えると、アスピドケローネが光りだした。

 そして光が収まると、目の前に上半身が人間、下半身が魚の人魚が現れた。



「どう? 見栄え良くなった?」

「Yeahhhhhhhhhhhhhhh!!!!!!」

「Yeahhhhhhhhhhhhhhh!!!!!!」



 桃色の髪がサラサラと揺れ動き、顔は幼さが残る美形、八重歯が印象的だ。

 腰のラインは括れ、腹の下からは靭やかな魚の体がついている。尾びれが大きくゆらゆらと揺れて美しい。

 そして何より主張してくる豊満な胸。

 というか彼女、何も着けていない……。



 タロウとタラスクはハイタッチをして絶叫する。

 アマテラスが突っ伏している。合掌。

 ギュルギュアは手で顔を隠し、アスピドケローネの体を見ないようにしている。純情なのね……。



「最高だよケロちゃん! 人魚姿の君はとても可愛いね! 勿論魚のときもとっても可愛かったけど!」

「ひゅーひゅー! 人魚サイコー! ここに来てくれてありがとうございます! ありがとうございます!」

「なんかすっごいアゲアゲだね! あたしも嬉しいわ!」


 タロウは声を大にして喜んでいる。タラスクに至っては首を思い切り下げてお礼を言っている。

 このままでは収拾がつかなくなりそうなので、私はずいっと前に出る。



「あーはいはい、とりあえず落ち着きなさい君たち」



 そして、アスピドケローネに私の来ていた上着を差し出す。



「それで胸、隠しなさい。この国の風紀が乱れてしまうわ」

「それはいけない! わかったわ、ありがとうウラクちゃん!」

「そんな! 僕の桃源郷が!」

「ああ! 俺の悠久なる双丘が!」

「うっさい!」



 全くこの子たちは……。アスピドケローネにも、後で常識的な事は教えておいたほうが良いかもしれない。

 それから、私は彼女に今までの事、これからの方針を説明した。

 理解するのに時間がかかるかと思ったが、アスピドケローネは早々に理解してくれた。

 変なテンションで隠れているが、実際は理解力があり、頭の回転が早いようだ。



「なるほどね~。それであたしを呼んだってわけね♪ いいよ、あたしも協力する! こんな楽しそうな事、あたしからお願いしたいくらいね♪」

「ありがとうケロちゃん。じゃあウラク、長い説明も終わったしケロちゃんの能力を見てあげてよ」



 うん、君達が騒ぐから説明が長引いただけなんだけどね。

 私はアスピドケローネに能力確認の説明をする。



「そうね、じゃあアスピ……言いづらいから私もケローネって呼ぶわね。ケローネ、私が貴方に触れれば、貴方自身の能力を確認できるの。少しだけ触れてもいいかしら?」

「うん、いいよ! はい!」



 ケローネは胸をどーんと突き出してきた。この娘は一体何を考えているのか。

 これに触れと……。



「ケローネ、手や頭でも良いんだけど。あ、ヒレでもいいわよ」

「やーん、ウラクちゃんのエッチ! ヒレに触りたいだなんて……情熱的なスキンシップね♪」

「えぇ……、まさかそっちの方がタブーだったなんて知らなかったわ」



 仕方がないので、私はケローネの胸に触る。

 くそう、柔らかいなぁ……。決して嫉妬ではない。悪魔はそんな事気にしないのだ。

 後ろではタロウとタラスクが凄い羨ましそうな目で私とケローネを見ている。ぐっ、やりづらい。

 そして、頭に彼女の能力が浮かび上がってきた。

 



   名前;アスピドケローネ

   種族;魚

  スキル;海遊術 風魔法 統率術 魅了術 投擲術 変身 巨大化

アビリティ;魚 人 御伽 巨人



 スキルの中で最初に目がいったのは巨大化。どれくらい大きくなれるのだろうか。

 他にも風魔法に投擲術など戦闘系技術、部下を纏める技術である統率術、魅了術という特殊なスキルまで備わっている。

 魚だから海遊術は当然として、変身は先程の人魚化だろう。そして、巨大化。

 スキルは申し分ない。特に統率術は今後かなり役に立つだろう。



「ふう。ケローネ、貴方優秀ね。元の世界では魚達を統率していたのかしら?」

「うん! 皆、あたしがお願いすると言う事を聞いてくれるんだ! なんでなのかな?」

「統率術と魅了術があるから、それのおかげかもしれないわね……。それに戦闘もこなせるし、巨大化もできる。魚という枠組みでは規格外ね」



 自分で言っている通り、かなり期待できる。

 私は思わずぐっと力が入る。



「やーん、そんなに褒められると照れるわぁ♪ それにいきなり胸揉んでくるし……」



 しまった、深く考え込んでいたら手が勝手に。

 決してその手の趣味はない。ただ、余りにも柔らかかったのでつい。

 タロウとタラスクが更に羨ましそうに凝視している。みっともないからやめてね……。



「な、なんにせよ、とても頼りになるわ。タロウ達に、後で能力を纏めて書き出してから渡すわね。ケローネ、それでいいかしら? 何か問題とかある?」

「んーん、大丈夫よ♪ タローちゃんなら任せられるわ! とっても強いし、神格も備わってるし、私の主人にふさわしーわ!」

「え? 見ただけでわかるの?」

「ええ、わかるわ! ケローネちゃんは凄いんだぞう!」



 確かに凄い。ちょっと服装が野暮ったいけど、見た目だけなら特別な所はない普通の少年だ。

 ケローネは、相手の力量をある程度見抜ける目を持っている。スキルの中に観察系技術はないが、以前いた次元で経験を重ねているのかもしれない。

 何にせよ、またも強力な仲間が来てくれた。性格も懐っこくて明るい。皆とも直ぐに打ち解けられるだろう。

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