第十五話 チビVSチビ
決闘の最中、いきなり次元が開き少女が現れた。
金色の髪に鷲の様な羽根を生やし、蛇のような尻尾を二本生やしている。
その小さい体とは裏腹に、強大なプレッシャーが少女から放たれている。
ケートスはその少女を見るなり、驚愕と畏怖が入り交じったような声で口にする。
「テュポーン……様」
テュポーン。怪物たちの王でもあり、破壊の限りを尽くして次元そのものを崩壊させた危険な神だと言う。
現在サタンに召喚されたテュポーンだが、何故この場にいきなり現れたのか。
フォルネウスが、その金髪の少女に怒号する。
「おい、なんでお前がここにいるんだよ! 決闘の邪魔だからさっさと消えろ!」
「――黙っていろ」
「ひっ……!」
厳かで重圧のある言葉に、フォルネウスは怖気づく。
私とアマテラスは、遠くから今の状況を確認する。
「あの者……計り知れぬ力を持っているな。あれが敵だとしたら素直に逃れる事を勧めるぞ。タロウですら無事ではすまぬはずじゃ」
「テュポーンはあのサタン様が召喚したのよ。勝手に手を出す事はしないはずだけど……」
「タロウ! 下手なことを言うでないぞ!!」
テュポーンの表情は険しく、憎々しい目でタロウを見ている。
まるで前から嫌っていた奴にあってしまったと言うような、そんな感情がテュポーンの気配から漂ってくる。
タロウは、釣り竿を肩に担いでテュポーンに話しかける。
「君、誰かわからないけど今は決闘中だよ? 余計な事しないでおくれよ」
「貴様から……不快な気配がする。何故貴様が……」
「いきなり不快だなんてご挨拶だね。僕も君のことは好きに慣れそうにないよ。漂う気配が醜悪そのもので、不愉快極まるね」
「矮小なる人間が私を侮辱するのか?」
「神の癖に細かい事気にしないでよ、小さいのは背丈だけにしておくれ」
「ッ――貴様」
一触即発の状態である。というか、何故かタロウまでご立腹だ。
これ以上時間はかけられない……。私達の声は無視されるし、どうしたものか。
テュポーンはわなわなと奮えている。小さいと言われたのを気にしているようだ。
「元々の私はとても大きいのだぞ。変な召喚法を通したからこのような姿なだけで……」
「君の事はどうでもいいから、早く決闘の続きをさせてくれないかな?」
どうやらプライドが高いようで、テュポーンは必死に食い下がる。
だが、タロウもツンツンしておりテュポーンの話を聞こうとしない。
「ぐっ……人の話を聞け! 本来の私は星や銀河よりも巨大で……」
「興味ないって言ってるじゃないか。僕たちには時間が無いんだ。早くどいておくれ、おチビさん」
「むかむかむか……お前だってチビだろうがっ!」
テュポーンはタロウに一瞬で接近し、鋭利な爪をタロウの目の前に突き付ける。
最初は厳かな雰囲気だったが、段々と子供っぽくなっているような……。
タロウは動かず、テュポーンを見据える。いつもより表情が険しく、明らかに不機嫌だ。
テュポーンと話しているときだけは、通常の五倍増し毒づいている。
「あわわ、やはり恐れていた事態に……ウラクよ、なんとかならぬのか?」
「怒ったタロウって結構可愛……じゃなくて、悪魔は直接介入できないからテュポーンは止められないわよ。早くフォルネウスかケートスを倒すしか無いわ」
「お主がタロウを呼べた理由、わかった気がするのう……当事者二人がまいぺえすすぎて妾がヤバい」
アマテラスがそんな事を言っていると、後ろからシュゴゴゴゴと凄い勢いで何かが迫ってくる音がした。
そして、洞窟の入口側から勢い良く何かは飛び出した。
「とーーーーーー! タラスク参っ上! 推してま……あり?」
タラスクだった。きっとレモラを倒してこっちに向かってきてくれたのだろう。
この様子だと快勝したようだ。空気がよめない登場だけど、とても頼りになる。
「おおータラスクじゃ!」
「んん? アマテラスまでいるのか。タロウのやつはどうしたんだ」
「テュポーンって言うサタン様が召喚なされた神様と口喧嘩しているの……こっちの声は無視するし、タラスクがなんとかできないかしら?」
タラスクが派手に登場したにも関わらず。二人はグチグチ言い合っている。
「おーおー、ありゃ相当苛ついてるな。しかも女の子相手に珍しい。相当嫌な感覚だったんだろうな」
「そうであろう。ああなると気が済むまでやるからのう、あやつは……よっこいしょ」
アマテラスはそう言うと、タラスクの上に乗っかり座る。
小さいのでタラスクの背中が大きく感じる。
「なんで俺に乗ってんだ?」
「そりゃ逃げるからに決まっておる。こんな物騒甚だしい状況はそう無いぞ。妾、天岩戸に篭もらなきゃ」
「俺は逃げないぞ? ここなら俺は物見遊山に出かけられるからな。最初は俺も嫌だったけど、少しばかり手伝ってやることにした」
タラスクがそんな事を言うとは。一体何があったのだろうか。
アマテラスはがっかりしたようにタラスクにもたれかかる。
「そんな……妾はもうおこたの中で寝ていたい……。もう一生分は働いたのじゃ」
「あら、やる気満々ね、嬉しいわタラスク。じゃあ、あの二人を止めて来てくれるのかしら」
「俺は決闘に水を指すような野暮なドラゴンではない」
「まぁ、そういうと思ったわ……」
そんな事をやっている間にも、タロウとテュポーンは口喧嘩に勤しんでいる。
どちらもルールと言う制約の一線をギリギリ踏みとどまっているような状態だ。
「大体貴様、何故あの忌々しい女神共と同じ気配をしている! 人間のチビがあのクズ女神共と何の関係が……」
「女神なんて知らないよ。君も神様なら知ってるだろう? この世には幾つもの次元があるんだ。似たような気配は幾らだって」
「こんなイライラする気配は他に知らない! 絶対あのクソ女神の関係者だ! 許さない……許さないぞ……」
女神とは誰のことだろうか。どうやらタロウも心当たりがない様で、話が進まない。
後ろから申し訳なさそうにケートスが近づいてくる。
「テュポーン様……少し落ち着いて……」
「ケートスか、貴様は黙っていろ」
「ははぁ……」
ケートスは大人しく後ろに下がる。どうやらテュポーンは今ケートスに気づいたようだ。
私から見ても、とても不憫だ……。どんな関係かは分からないが雰囲気を見ていると、仕事していたら怖い上司が別件で現場に来たような状況だろうか。
気まずい事この上ないだろう……頭に風穴開けられてるし。
そして、今度はタロウから口を開く。
「決闘の邪魔するし、変な因縁つけてくるし……そろそろ僕だって怒るよ? チビポーンちゃん」
「ぐっぎいいいいいい!! 変な名前で呼ぶなこのちんちくりん!!」
「じゃあチビ神」
「黙れ小人!」
「幼稚!」
「クソガキ!」
もはや子供の罵り合いになってしまい収拾がつかない。
はたから見れば確かに少年と少女が言い合ってるだけなのだが、その実、化物と化物が今にもぶつかりそうになっている。
せめてケートスを倒すか降伏させれば水位上昇が止まるのだが、それも難しそうだ。
「――分かった。もういい、戦争なぞ私の知ったことではないしな。貴様は殺してやる」
「気が合うね。僕もそっちの方が手っ取り早いと感じてきたところだよ。僕は君たちと違って殺しとかすき好んでしないけど、君が向かってくるというなら……容赦はしないよ」
「フッ……このテュポーンが神や悪魔はおろか、まさか人間にここまで舐められるとはな……怒りを通り越して愉快になってきたぞ」
「いいから早くしてよチビポーン」
「その名で呼ぶなぁ!!」
全然怒りを通り越していないテュポーン。二人の間には殺意がぶつかり合い凄絶な空気が場を支配している。
いつ戦闘が始まってもおかしくない状態だ。そしたら、この洞窟だけでなく、次元そのものがどうなるかわかったものではない。
だが突然、洞窟の上部から見たことがある扉が出現する。
その扉が開かれると、最近やたら見ているので目に馴染みつつある、白と黒の髪を靡かせた少女の悪魔……悪魔王サタンが現れた。
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