第十話 いきなりの開戦!?
強い衝撃を受けて、タラスクは壁にぶつかってひっくり返る。
慌ててギュルギュアが、タラスクを持ち上げて元に戻した。
「ふぃー……すまねえギー、助かったぜ。それにしても一体なんだってんだこの衝撃は」
「この世界にも地震があるのかな。僕達の所にも地が揺れたことがあったけど」
「いや……この揺れは、次元全体が揺れたのでしょう。恐らくは……」
「まさか、もう攻め込んできたっていうの!? しかも宣戦布告無しで……まだ自国すら良く理解してないのに。やってくれるわね」
私たちは、宮殿の外へ出る。
街に変わりは無いが、空には、この世界に似つかわしくない魚人のような形相が移されている。
「クヒャヒャヒャヒャ!! この世界は72柱の30位に君臨する、フォルネウス様が頂いたぜぇ!! さっさと明け渡しなぁ能無しの悪魔!!」
あれは、前に私をよくバカにしてきた悪魔の一人であった。
一日で攻め落とせると思っているのだろう。宣戦布告もせずに攻め込んでくるようだ。
「なんだ? あの馬鹿面は」
「あれは悪魔よ。私と同じね……同じに見られたくないけど。まさかもう攻め込んでくるなんてね」
「はっはっは、丁度いいじゃないか。最初の戦は肩慣らしくらいが良いと思うよ。国民に僕達の強さを見せられるしね!」
「おお、流石は我らが王。早々の急襲にも動じないとは!」
「確かに、貴方達がどれだけ強いかが見られるわね。正直あれには負ける気がしないわ……。ギーひとりでも十分じゃないかしら」
「ギュルルル」
ギュルギュアは遠慮がちに手を振る。
ともあれ、相手の軍勢を見ないことには対処のしようがない。
それに、私たちはまだ国民と話すらしていないのだ。まずはそこからだろう。
「シュトロム、急いで街の人達を集めてくれるかい?」
「承知しました。街の中央に広場があります。そこに集めましょう」
「頼んだわよ。……それにしてもあいつ、ムカつく顔ね……あっ、消えた」
「言い逃げかよ! しかも宣戦布告ってのをしないんじゃ意味ないんじゃないのか? 全くどっちが能無しだよ……」
タラスクが、私の言いたい事を全て言ってくれた。こんな阿呆に負けるわけには行かない。
私たちは、街に戻って中央の広場へと移る。かなり広いので、大人数が纏まって聞くにはピッタリの場所だ。シュトロムが、急いで街の住人をそこに集めた。
緊急だと言うことが伝わっているのだろう。続々と集まってくる。
竜達が邪魔にならないよう極力後ろに控えている。ざっと50体程確認できる。壮観だった。
「すげーな。こんなに竜が並んでる所は見た事ねえぞ」
「私も流石に初めて見たわ……。タロウ、貴方が国民達に説明するのよ? 出来るかしら」
「ふっふっふ、任せておくれよ! こういうのやってみたかったんだ」
「ふふ、期待してるわ」
人間達も次々に広場へ集まってくる。300人はいるであろう。
大体が集まった所で、タロウがシュトロムの頭の上に乗っかって国民達の前へと出る。
国民達は、タロウの方へ視線を向ける。
王の登場……こんな小さい王を見て、国民達はどう思うのか。
タロウは、深呼吸をする。そして、にっこりと笑って話を始めた。
「やぁ皆、初めまして。僕は浦島太郎! この国の王様だよ。いきなりだけど……たった今他の世界から、戦争を吹っ掛けられたらしいんだ」
タロウの言葉を、人々は静かに聞いている。
先程フォルネウスが映ったのを、皆見ているのだろう。動揺は見られなかった。
「でもね、安心してほしいんだ。……この戦い、僕たちの力でなんとかしてみせる。まずはこの戦争の勝利をもって、僕が王に相応しいか証明してみせようじゃないか!」
タロウは自信に満ち溢れた、満面の笑みでそう宣言した。
小さい体、幼い顔。普通であれば子供の見栄や、虚言にしか聞こえないだろう。
だが、この国の人々はタロウに導かれた魂だ。心でタロウの力強さ、誠実さが伝わっているのだろう。
「おお、何という力強いお言葉!!」
「正に、王に相応しい豪気だ!!」
国民は、タロウの言葉に耳を傾け、奮起していく。
流石タロウの力に導かれた魂……とてもポジティブだ。
国民の一人が、勢いづいて声を上げる。
「我らも協力させて下さい! 共にこの世界を繁栄させましょう!」
「うん、でも無理はしないでね? 今回は、僕達が前に出るから、皆はここを守って欲しい。でもまぁ、ここに攻めさせはしないよ。宴の準備をして待ってておくれ!」
「おお!!!!!」
竜も人も、国民達は力強い歓声を上げて私達を見送る。
少し離れていた場所で見ていた私は、タロウに近づいて、話をする。
「タロウ、シュトロムに兵を集めてもらって、実戦をしてもらいましょう。シュトロム、貴方ならきっと即席でも上手く統率できるわ」
「そうだね、僕も考えていたよ。シュトロム。君から見て、良さそうな竜たちを何人か引き抜いてくれ。そして、僕達の遊撃に回ってほしいんだ。できるかな?」
「わかりました。直ぐさま集め、王の勝ち戦に華を添えましょう」
シュトロムは奥にいる竜たちの方へ向かっていった。
彼の力量も見ておいたほうが良い。あの様子では、不安は無いが。
「よし、じゃあ俺も宴の準備に……」
「たーくんは僕と一緒だよ」
「うげえ! やっぱりか! 危なくなったらすぐ引き返すからな!!」
「いやいや、僕達が引き返した所で相手はずっと追ってくるからね? 大丈夫、僕がなんとかするさ」
「頼むぞ……マジで」
そういえば、タロウは一体どんな方法で戦闘を行うんだろう……。
見えるスキルで戦えそうなのは……ベフライドラッヘくらいか。
だが、あれは体力を急激に消耗する奥の手だ。通常時の戦闘には向かない。
まさかあの釣り竿で戦うのだろうか……。
「ん? どうしたのウラク? 僕が心配?」
「いや、心配はしてないわ。貴方が負ける所を、何故だか想像できないのよね」
「はっはっは、期待されてるなぁ僕。そんな事言われたら張り切っちゃうぞ」
「ええ、頼んだわよ。私は手を出せないから……」
私は、近くでタロウの戦いぶりを見ることにした。
一体どんな戦いぶりを見せるのか、今後の参考と、単純な興味だ。
「ギュロロロロ」
「うん、勿論ギーもね。貴方の方は……相手に同情してしまいそうね」
「ギュルルル」
ギュルギュアはまたも照れくさそうに手を振る。
慣れてくると、それも可愛く見えてくる。
「んでよ、相手さんはどうやって攻めてくるんだ? さっき空に出たっきり何も来ないじゃねえか」
「そうね……どうなっているのかしら?」
「ふむ……たーくん、海の方に行ってみようか。乗せてくれるかい?」
「おう、わかった」
タロウはタラスクに乗って海へと飛んでいく。
「ウラク、僕たち先に行って様子を見てくるよ」
「ええ、私とギーも後から行くわ。もし異常があれば直ぐに報告して頂戴!」
タラスクは意外と早い。二人はスイスイと先へ行ってしまった。
私とギュルギュアは、走って二人を追いかけた。
海は先程と同じように波をうち、風をそよそよと吹かせている。
だが、海の底からは異様な気配を漂わせていた。
先に向かったタロウとタラスクは、海の上で浮いている。
「どうだ、何か感じるかタロウ」
「ふむ、いっぱい魚が泳いでいるね」
「いやいや、そっちじゃねえよ! 敵がどこから湧いてくるかって言ってんだよ!」
「まぁまぁ、まずは釣りでもして精神統一でもしよう」
タロウは釣り竿を手にして、静かに釣り糸を垂らす。
プカプカと、ウキが海の上に浮いて波と一緒に揺られている。
「お前……本当にマイペースだよなぁ……」
「たーくん、僕はいつだってマイペースさ。戦だってそう、常に自分の戦いができるかで決まるんじゃないかな」
「うわあ、戦なんてした事が無いお前がすげえらしいこと言ってる」
「はっはっは、僕にとっては、釣りも戦いも一緒なのさ。――たーくん、そろそろだよ」
「……はい?」
タロウとタラスクが浮かぶ海の下で、黒い影が揺らめいている。
そして、タロウの垂らしたウキが、思い切り下に沈む。
「かかった! よーし、たーくん。今から戦を始めるぞ! そぉーれ!!」
「ちょっと待て!? それってどういう……うおわあああああ!!! なんじゃこりゃああああ!?」
タロウが竿を引くと、巨大な魚が下から飛び出してきた。
魚は水面から飛び出ると、タロウたちに襲いかかる。
「ははっ、たーくん、空に回避しようか!」
「言われなくても!」
タラスクは空へ逃げて、巨大魚の攻撃を避けた。
巨大魚は再び水面に顔を出し、タロウたちを見て言葉を発する。
「クカカカカ、下等ナル種族、弱小ナ人間共二、我ラ魚類ガ負ケル訳ナイ!!」
「魚が喋ったぞ。もう何でもありだなこの世界」
「いやいやたーくん、彼はきっとこの世界の住人ではないよ。きっと別の次元から攻め込んできたのさ」
「マジかっ、まさか魚が攻め込んでくるなんてな」
巨大魚は水面から飛び出し、タロウに向かって襲いかかる。
タラスクは再度空中で巨大魚の攻撃を避ける。
「チョコマカト、小賢シイ亀ダ。サッサト死ンデ、我ガ体ノ糧トナレイ!!」
「あーん? 魚如きが調子にのるなよ? このタラスク様が一撃でのしてやるぜ!」
「たーくん、君が攻撃すると僕にまで被害が及ぶからよしておくれよ。その代わり、直ぐに捌いてあげるからさ」
「ッ!! 舐メルナ、人間風情ガァッ!!」
巨大魚がタロウに突っ込んだ。タラスクは、避ける事をせずその場に浮いたままだ。
タロウは釣り竿を手にして前に向けると、釣り糸を垂らす。
「君は、大きい割に食べれる所は少なそうだね」
「食イ殺シテクレルワ!! 死ネェェェェェ!!」
タロウが釣り竿を一振り、二振り。縦、横とゆっくり振った。
ヒュン、ヒュンと竿の振る音だけが辺りに響く。
「
すると声を出す暇も与えず、巨大魚が破裂するかの如く細切れになる。
もはや、魚の原型も留めてはいない。ボトボトと肉が落ちて、海は地に染まる。
「あーあ、僕達の海が……こんなに汚してくれちゃって、酷い奴だなぁ」
「いやいや、お前がやったんだろ」
「ううん、そうじゃないよ。まだ下に、沢山いるんだ。」
「うげっまじかよ……まぁ、戦争って言うんだから、そりゃ一匹じゃないか」
タロウは海を見る。まるで全てを見透かすように、海を見続けている。
そして、深く大きなため息をつくのだった。
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