第九話 さぁ、ゲームの始まりだ!

「諸君、召喚は無事終わったかな? そろそろ時間だ、ゲームを始めようではないか!」



 あれから少しして、サタンから念話が入った。

 その声と同時に、目の前に小さい欠片が浮かび上がる。



「それが次元の欠片。その欠片に悪魔と王の力を注ぎ込めば、世界が生まれる。そこの住人は、王の力を反映させるから、同じような種族が生まれてくるだろう」

「えっタロウみたいなのがいっぱい……どうしよう」

「その言い方は失礼じゃあないかい?」

「お嬢の気持ち、わからんでもない。」



 王と同じ種族。即ちタロウなら、人間が生まれてくるだろう。

 だが、タロウはドラゴンの性質も持ち合わせている。一体どんな世界になるのだろう。

 もしかしたら……竜人、ドラゴニュートが出てくるかもしれない。



「悪魔は基本そこを拠点にしてもらう。だけど、次元自体は好きに移動が可能になるから、宣戦布告などをする場合は次元同士をぶつけて宣誓すると良い。そうすれば、空間全体に響くはずだ」

「世界をぶつけるって……とんでもないスケールの話をしてるな」

「当たり前みたいに言ってるけど、次元を移動させるのってどうすれば良いのかしら……」



 次元同士の干渉……本来であれば、衝突し巨大な爆発を産んで、二つの次元は消滅する。

 だが、この次元の欠片は元々巨大な一つの次元をバラバラにしたもので、それを各悪魔に配っている。

 それをくっつけて合わせていき、最後に一つの次元になるまで戦うという事だ。



「では、準備はいいかな? 欠片に力を注ぐ時は、手を翳す。それだけだ。」

「よーし、やるぞ、ウラク!」

「ええ、必ず勝ち残って……皆を見返してやるわ!!」

「はっはっは、その意気だ」



 私とタロウは、次元の欠片に手を翳す。すると、欠片が膨張を始める。

 そして、欠片は私達を飲み込む。



「ゲーム開始だ。皆の健闘を祈る。1000年分、私を楽しませてくれよ? ククク、フハハハ、ハァーハッハッハッハッハッ!!!」



 今ここに、悪魔たちの戦争アルプトラオムが幕を開けた。

 









「ん……」



 ここは、どこだろう。私はいつの間にか意識を失っていたようだ。

 小さいさざ波が聞こえる。時折大きく波打ち、生きているかのように波の音が主張する。

 風は暖かく、塩の香りがする。周りに生えているであろう木々が、風が吹く度に涼し気な音を立てる。


 

「やぁ、目が覚めたかい?」

「ん、タロウ……ここはもしかして」

「うん、そうみたいだね。ここは、次元の欠片が創った世界。僕達の世界だ」

「そう……なのね」



 私は徐々に意識が醒めていく。

 欠片に力を注いだ後、欠片が膨張し私達を飲み込んだ。

 そして……この世界が創り上げられたのだろう。



「あれ、タラスクとギュルギュアは?」

「あそこだよ」

「イヤッフゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!」

「ギュロロロロロロロロ!!!!」



 二匹の竜は、海を泳いでいる。

 ギュルギュアは泳いでいるというより、海上を走り回っている。



「おっ、目が覚めたか! まっさかいきなり海があるなんてなー! やっぱりホームグラウンドはいいな! 海サイコー! ギーもそう思うだろ!?」

「ギュロロロロロロ!!」



 ギュルギュアはうんうんと頷いている。

 ジェスチャーで多少の意思疎通が取れることを理解したようだ。

 仲良くなってくれてよかった。




「それで、一体どう国を作ればいいのかしら。誰もいないじゃないの」

「うーん、もしかしたら他の場所にいるのかもしれないよ? 少し海沿いを歩いてみようよ!」

「そうね、まずは現状を把握しなくちゃ」

「おーい! たーくん! ぎーくん! いくよー!」



 私とタロウは二匹の竜を呼び戻して、探索を開始した。

 辺りは一面の海。そして陸側には青々とした山が広がっている。

 私たちは白い砂を踏みしめながら、海沿いを歩いていった。



「何もいないわね……もしかして失敗?」

「はっはっは、じゃあ、僕と君で新しい生命を育もう」

「変なこと言わないで。全く、黙ってれば可愛いのに……」

「男としては、格好良いの方がいいんだけどなぁ!」

「ギュルルル……」



 ギュルギュアは恥ずかしそうに顔を覆っている。

 どうやらその手の話は苦手なようだ。ピュアなのね……。

 そんな事を言っていると唐突に、海から大きな音が聞こえた。

 そちらを見てみると、大きな竜がこちらを見ている。



「おっ、竜がいたよ! どうやらこの世界は竜の国らしいね」

「まだ決めつけるのは早いわ。とりあえず話を聞いてみましょう?」



 私は大きな竜に近づく。竜は青く、所々鱗が生えている。

 竜はこちらの様子を伺っているようだ。

 更に近づいて、私は話を始めた。



「こんにちわ、私はウラク。もし話せるなら、何かしら応えてくれるかしら? 誰もいなくて、困っていたのよ」

「前から思ってたけど、お嬢ってキモが座ってるよなぁ……普通あんなデカい竜にズカズカ近づいて話しかけねえだろ……悪魔って全員あんな感じなのかねぇ」

「ぎーくんで慣れた所もあるよね」

「ギュルル」



 私がそう話しかけると、竜は少し頭を低くした。

 そして、波が立たないよう静かに手をつき、話し始めた。



「私の名はシュトロム、もしや、貴方が王なのか?」



 いきなり王という言葉が出るってことは、このシュトロムという竜はどういう経緯でここにいるか知っているのだろうか?

 私は、彼の質問に答える。


「いいえ、私は王じゃないわ。王はあっちにいる小さいの。私は……そうね、この世界の管理者みたいなものかしら」

「おお、その並々ならぬ力、やはりそうでありましたか! あちらの御仁も、底知れぬ物を感じる」

「せっかくだから呼びましょうか。タロウ! ちょっと来て!」



 私はタロウを呼んだ。タロウはひょこひょことこっちへやって来る。

 


「声が大きいから聞こえていたよ。こんにちわ、僕は浦島太郎っていうんだ。よろしくねシュトロムさん」

「敬称は不要です。王よ、どうか我々をお導き下さい」

「導くのはいいんだけど、まずは色々説明してほしいなぁ。僕達、ここに来たばかりなんだ。一体どういう世界か、教えてくれるかい?」

「仰せのままに。では、まずは我らが国へ案内します。このまま海沿いを進みましょう」



 シュトロムと言う竜は丁寧に応対し、道案内をしてくれた。

 どうやら、タロウを王と認識してくれたようだ。

 しばらく進むと、今までとは違う風景が見えてきた。


「あれは……街か? 竜が……ってオイ! 人間もいるぞ!」

「ええ! ……本当、人間がいるわ。竜と人間が一緒にいる」

「はい、我らは共に協力して暮らしているのです」

「へえ~凄いね! それになんだかとっても楽しそうだよ」



 人間と竜が行き来し、立ち止まって話をしていたりする。

 しかも活気あふれていて、楽しそうだ。



「タロウの力が反映されるとは、こういうことだったのね。確かに、それらしいもの」

「普通竜が大っぴらに出歩いて歓談なんてしないからなぁ、すげえ世界だぜ」

「ギュロロロロロ」

「うんうん、いいじゃないか。楽しいことは良い事だよ」

「気に入って頂けて何よりです。こちらに、我が王の宮殿がございます」



 シュトロムは海から上がり、街の中を入っていく。

 街の人や竜はは口々にシュトロム様だ、シュトロム様が帰ってきたと盛り上がる。

 どうやら、シュトロムは有名人らしい。



「貴方、街の人達に人気なのね。」

「いいえ、私はただ王が来られるまでこの街を守護していただけです。意思を持たぬ海獣類も、この世界には存在しますので」

「守ってくれてたんだね。ありがとうシュトロム」

「お褒めに預かり、身に余る光栄です」

「はっはっは、もうちょっと軽くてもいいんだけどねぇ」



 そうして、私たちは街の中を歩き、宮殿の前へとたどり着いた。

 とても綺麗で華弥やかな宮殿だった。地上なのに、珊瑚で綺麗に埋め尽くされ、竜が周りを飛び、とても壮大で美しい光景だった。



「なんだか竜宮城に似ているね」

「似てるってか殆ど同じだぞこれ……まさかこの世界に乙姫様がいるんじゃねえだろうな……」

「とにかく、中に入ってみましょう。シュトロム、お願いね」

「はい、畏まりました」



 私たちは、シュトロムに連れられて中に入る。

 中も、外と同じように豪華で、カラフルな珊瑚や海藻で彩られている。

 着物を来た女の人が何人もいて、掃除をしている。

 

 

「おかえりなさいませ、シュトロム様。お客人でしょうか?」

「この方々こそ、我らが王。ついに、この国に王が君臨なされる。急ぎ全国民に伝えてくれ。今日は宴だ」

「おお! いいね宴! やっぱ竜宮城といえば宴だよね」

「いないよね!? 乙姫様いないよね!? 大丈夫だよね!?」

「ギュルルルル……」



 ギュルギュアが、タラスクを宥めている。本当にいい子だな……。

 そうして、私たちは玉座の間へとやってきた。奥に大きな椅子が置いてある。

 タラスクは、乙姫がいない事に安堵している。



「ここが、王の間となります。どうぞお座り下さい、王よ」

「うん、それじゃ遠慮なくーとうっ!」

 

 

 タロウがボフンと椅子に座る。

 彼の小さな体に対して、大きな椅子はどこかアンバランスだった。

 


「ぷっ、なんか変な感じね」

「笑わないでおくれよ。こう見えても僕は傷つきやすいんだよ?」

「どの口が言ってるんだお前は……」

「王よ、先程の件なのですが」



 シュトロムはこの世界の説明を始める。

 どうやら、この国の住人は事の経緯を知っているようだ。

 そして、僕とウラクの力でこの世界を創造することにより、体が形成されて、それに適合した魂がその体に入る。

 注いだ力が大きければ大きいほど、国民もまた強靭になっていく。

 ちなみに、国民はあの街にいる者たちだけらしい。国というよりは、まだ街……いや、村の域だろう。

 恐らく、他の次元を組み込む度に世界は大きく、生物も増えていくのだろう。



「私たちは、貴方達の力に導かれてこの世界へとやってきました。私達がこうして生まれてこれたのも、貴方達のお陰なのです」

「不思議ね……私達の力でここまで強大な力が出来るなんて」

「つまり、君は僕とウラクの子供というわけでへぶぁっ!?」 



 私は、タロウの頭にチョップした。

 全くこの子は隙あらばそう言う事を……。



「いきなり酷いじゃないか~」

「良い薬ね。全くデリカシーがないんだから」

「お嬢、もっと言ってやって下さい!」

「貴方も大概だけどね……」

「ギュッ……ギュルル」



 ギュルギュアが引いているように見えたが、きっと気のせいだろう。

 私はシュトロムの方に向き直して、話を続ける。



「大体はわかったわ。シュトロム、貴方は他の住民よりも力が強く、慕われているようだから、貴方を親衛隊長に任命する事を提案するけど……。どうかしらタロウ」

「うん、そうだね。君ならきっと上手くやってくれるだろう。お願いできるかな?」

「間近で貴方にお仕え出来るとは、何と光栄な事か。命に変えても、お守り致しましょう」

「はっはっは、僕は寂しがり屋だからね、命に変えても、だなんて言わないでおくれ。皆一緒に、この戦を勝ち抜こう!」

「仰せのままに……!」



 私は、この世界に強く干渉ができない。

 少し手助けするくらいなら問題ないだろうけど、これから本格的になってくると、タロウだけでは不安だ。

 シュトロムが近くにいてくれたら、きっと上手くやってくれるだろう。彼が生まれてきてくれてよかった。



「じゃあ、早速宴の準備だ!! 全国民を呼んで、大いに騒ごうじゃないか!!」

「いきなり!? もっと政策を考えるとか街を整備するとか、そういうのはしないの!?」

「いやいや、まずは皆に僕のことを知ってもらわないと。焦っちゃダメだよウラク」

「うっ、一理あるから何も言えない……」

「よっしゃ! まずは街と宮殿の、可愛い女の子をリーサチすっぞ! ギーも来るか!?」

「ギュルギュル」



 ギュルギュアは首を横に振る。シャイな彼がナンパとか出来るはずがない。

 タラスクは意気揚々としてこの部屋を出ようとした。

 その時だった。



 ドッゴォーーーーーーン!!!!



 強い衝撃が、この宮殿……いや、この世界を襲った。

 私たちはまだ知る由もなかった。戦争は既に……始まっていることを。

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