第八話 黒い影
「うおおおおおお!! なんじゃありゃああああああ!!」
目の前を見ると、そこには……異形の怪物がいた。
全身が黒く、姿はどの生物にも似つかない……、いや、どこかで見たことがある。
海にいる深海生物のようで、だが、それを更に凶悪にして悍ましくした様な姿だ。
頭が長く、目がついていない。いや、もしかしたら小さくて見えないのかもしれない。
口は横に裂け、鋭利な牙が幾つも生えている。、肩と背骨が歪に出っぱっており、尻尾は長く丸みを帯びている。
まさしく、化物と言うに相応しい外見だ。
「ちょっとタロウ! 一体何を呼んだのよ!」
「なんだろうね、僕もわからないや、はっはっは」
「うーん、私も見たことがないなぁ。外見だけ見れば、エイリアンみたいだね」
「エイリアンって何ですか?」
私達が話をしていると、そのエイリアンの様な黒い生物が動き始める。
剣を構え、戦闘態勢に入る。
そして、黒い生物は咆哮する
「ギュルロロロロロロロ!!!!」
「くっ、凄い声……」
「あ、ちなみに私は一切手を出さないよ。自分たちだけでなんとかしてね」
「う、わかってはいましたが……」
私は黒い生物に斬りかかるべく、抜刀し間合いを詰める。
だがタロウは不用意に、てくてくとその生物の元へ向かった。
「ちょっとタロウ! 早く逃げなさい! 殺されてしまうわよ!!」
「おいタロウ! そいつはやべえぞ! 俺でもビリビリくる! 早く戻ってこい!」
私とタラスクは、タロウを引き留めようと声をかけるが、タロウに止まる気配はない。
タロウは黒い生物の目の前まで来ると、いつも通りに話を始めた。
「こんにちわ、僕は浦島太郎って言うんだ。君の名前を教えておくれよ」
「ギュルルルル……ギュウ」
「なるほど、君はギュルギュアと言うんだね。よろしく! なんかギュルギュアって言いづらいからぎーくんって呼んで良い?」
「ギュロロロロロ!!」
「うん、ありがとう。じゃあさ、なんでここに呼ばれたかなんだけど、僕、そういう説明とか苦手なんだ。だからウラクに説明してもらってね」
「ちょっとまてーーーーーーい!!!」
私は思わずツッコミを入れる。
なんで意思疎通がとれてるの? と言うか、私が説明するの? 怖いんですけど……。
色々聞きたい事がありすぎて、頭の中がこんがらがってきた。
「タロウ、君はその子の言うことがわかるのかな?」
「うん? わかるよ? 皆はわからないの?」
「わからないわよ……ギュルギュル言ってるようにしか聞こえないわ」
「俺も全然わからん……お前のことが」
「はっはっは、照れるね」
「褒めてない!!」
どうやら、タロウはこの生物と会話が出来るようだ。
タラスクがわからない所を見ると、ドラゴンと関係ないようだけど……一体どうして。
「む、なるほど、そういう事か。ウラク、さっき浮かべたタロウの能力欄をみてごらん?」
「え? はい。……あれ、なにか浮かんでる……」
名前;浦島太郎
種族;人間(???)
スキル;釣り ??? ??? ??? 動物会話術 ??? 旅術 ベフライドラッヘ ??? ??? ??? 特異召喚術
アビリティ;人 民 ドラゴン ??? ??? ??? 遊人 旅人 ??? ???
先程は???となっていた部分が一部見えるようになっている。
動物会話術……つまり、タロウは色々な生物と会話できるのかもしれない。
でも、あれが動物と認めたくない……。
「動物会話術があったから話せたというわけだね。しかも、行使したと同時にスキルが表示された。周りや自分が認識して、初めて表示されるのかもしれないね」
「へええ、動物会話術か。だからタラスクと話せたのか」
「いや、俺は普通にお前らの言語使うから……」
「ギュロロロロロロ!!!」
「ヒエッ」
タラスクが首を引っ込めてしまった。
確かに、あのような生物が間近にいたらそうもなる。
私は、彼(彼女?)と会話を試みる。
「タロウ……私が説明して、伝わるの?」
「うん、恐らく伝わるよ。どうやら彼は口の構造上話せないだけみたいだし。それに話し方はとっても優しい感じだったよ。きっと良い人さ」
「そ、そう……初めまして、私はウラク。いきなり剣を向けてごめんなさい。今から貴方にこの状況を説明しようと思うのだけど、大丈夫かしら?」
「ぎーくん、もし大丈夫なら首を縦にふってごらんよ。こうやってね」
タロウは首を縦に振る。
ギュルギュアも、唸りながら首を縦に振る。どうやら伝わっているようだ。
そして私は、ギュルギュアに事のあらましを説明した。
「ギュ……ギュ……」
「え? どうしたの?」
「ギュロロロロロロロロ!!!!!!!!!!」
「ひゃあ!」
私は思わずタロウに抱きついてしまう。
タロウは小柄で、顔も可愛く少女のようだが、体はやはり男の物で意外とがっしりしていた。
「おっと、ウラク。大丈夫かい?」
「え、ええ、ごめんなさい。急に大声を出すから驚いてしまっただけ。それで、なんて言っているの?」
「うん、どうやら凄く喜んでいるみたいだね。誰かと関わって、誰かのために生きるのがとても嬉しいみたい」
「え、それって……」
もしかたら、ギュルギュアはずっと孤独だったのかもしれない。
この姿で、話もできないとなると人や、他の生き物と関わるのは難しいだろう。
私は、ギュルギュアの事をもっとよく知るために、能力の確認をする。
「ギュルギュア、貴方の能力確認がしたいから、体に触ってもいいかしら?」
「ギュルルル」
「うん、いいよ。でも、女の子に触られるのは恥ずかしくて、緊張する。だって」
「シャイなのね……」
ギュルギュアは、尻尾を私の前に出してくれた。
善意に感謝して、私は尻尾に触れる。
名前;ギュルギュア・ラギュア
種族;ドラゴン(影人)
スキル;影魔法 水魔法 土魔法 剣術 暗殺術 毒術 投擲術 遊泳術 蹴脚術
アビリティ;ドラゴン 影人 悲運 孤高 殺戮 苦労人
どうやら、ギュルギュアもドラゴンの類らしい。
そして、とんでもなく物騒な物ばかり持っている。
魔法三種に攻撃系技術が5つ。おまけにタラスクと同等の遊泳術まである。
影魔法というのは見たことがない。一体どういう能力なのだろうか?
それに……アビリティには。
「殺戮って、貴方やっぱり……」
「ギュ……」
「どうやら、襲われてやむを得ない場合のみは返り討ちにしていたようだね。それは仕方あるまいよ」
サタン様はギュルギュアにフォローを入れる。
確かに、襲われて無抵抗というのもおかしな話だ。
そもそも、私たちは悪魔。そこまで生殺に関して拘ってはいない。
「ぎーくん、心配しないで。僕もそれなりに罪を犯してるから。はっはっは」
「笑い事じゃねえんだよなぁ……」
「ギュルルルル」
ギュルギュアは、どことなく笑っているように見える。
どうやら、危ない子じゃないようだ。私はやっと、安堵した。
「ギュルギュア、貴方の影魔法だけど、どんなものか教えてくれないかしら?」
「ギュロロロロ。ギュルル……」
「影魔法って言うのは、影の中に沈んで異空間を移動できる魔法らしいよ。凄いね。」
「空間移動系の魔法……確かに、凄いわね」
「空間移動、持っているものは悪魔ですら希少だ。素晴らしい魔法だね」
次元を行き来する時点で、異空間を移動できるからどうなのだと言う風に見える。
だが、次元の行き来は単なる移動。悪魔からすればただの国渡りみたいなものである。
異空間移動は、今存在する全く違う空間……言わば、その世界の裏側に入れると言う事。悪魔から見てもかなり異質だ。
そんな事ができる者が味方にいれば、諜報や偵察、奇襲が容易くでき、優位に立てる。
「凄い……最高よ、ギュルギュア。貴方が来てくれて良かった」
「ギュギュ……」
私はギュルギュアの尻尾を撫でる。
ギュルギュアはもどかしそうに尻尾を動かしている。
「うんうん、素晴らしい配下ができて、僕は満足だよ」
「なぁ、俺ってもしかしていらないんじゃないか?」
「そんなことはないさ、たーくんが一番乗り心地良いしね」
「そんなん嬉しくないわ!!」
何はともあれ、戦力は十分すぎるくらいに整った。
内政面の不安が大きすぎるけど、そこは私が頑張るしか無い。
そもそも国民や世界観ってどうなってるんだろう……。
「あの、サタン様。次元に国を作るのは理解できるのですが、その内容は一体どの様にすれば……」
「あーやっぱり気になるよね、それは次元の欠片を渡す前に説明するよ。そろそろ、時間だしね。私は戻らせてもらおうかな。
いや、面白いものが見れたぞ。今後の活躍を期待している! では!」
「はい、ご期待に添えるよう尽力致します」
「もう帰っちゃうのかい? またね、サタン様!」
「ギュロロロロ!」
こうしてタラスク、ギュルギュアと言う戦力が加わる。
半ば諦めていた野望を再燃させ、サタン様の念話を待つのだった。
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