第七話 竜の宮

 私は、タラスクの種族を見て驚愕した。

 なんと、この亀は亀じゃなくてドラゴン……竜だと言うのだ。



「そうだよ、たーくんはこう見えて竜の一族なんだよ。凄いでしょ!」

「お前がドヤ顔してどうすんだよ、あーこほんこほん、俺こそ竜宮の竜姫こと乙姫様に使える竜、タラスクだ。最強種族の因子を仲間にできたんだ。もう怖いものナシだぜ! 大亀に乗ったつもりでいな!」

「あはは、たーくん。そういうの自分で言うことじゃないよ」

「うっせ! バッチシキメてんだから黙ってろ!」



 私は驚きと興奮を抑えつつ、タラスクのスキル、アビリティを確認した。



   名前;タラスク

   種族;ドラゴン(タラスク)

  スキル;炎魔法 突進術 遊泳術 ベフライドラッヘ

アビリティ;ドラゴン 甲羅 苦労人



 スキルとしては申し分ない性能である。

 炎魔法は当然有用だし、突進術も、彼の硬そうな甲羅も相まって破壊力がありそうだ。

 恐らく空中に浮いて泳げるのは遊泳術のおかげだろう。

 そして気になるのは、最後にあるこのスキル。一体なんだろうか?


「ねえタラスク、ベフライドラッヘって知ってる? 貴方のスキルにあるんだけど」

「なんだそりゃ。聞いたこと無いな」

「もしかして、変化の事じゃないかな。たーくんたまに大きくなるでしょ」

「ああーあれか、そんな大層な名前だとは思わなかったぜ」



 どうやら心当たりがあるようだ。変化と言っていたが、もしかして姿が竜らしくなるとかだろうか。

 私は、ふつふつとやる気が出てくるのを感じる。



「タラスク、貴方もしかして結構強い? 変化って何になるの?」

「おいおい、いっぺんに質問するなよ。まず、俺が強いか弱いかで言えば、強いぞ! しかも今は力を制限されてないしな。

と言っても、他の悪魔の所に乙姫様レベルの奴がいたら……俺じゃ勝てないだろうな」

「乙姫さまってそんな強いのね……タロウ、呼べるかしら」

「そんな事をするなんてとんでもない!!!!」

「そんな事をするなんてとんでもない!!!!」



 二人が同時に答える。仲がいいのね。

 


「確かに乙姫さまは美人だけどね、とっても面倒くさ……いや、かったる……うざ……やっかい……情熱的なんだよ!」

「ああ、そうだぜ! ここは俺たちだけで何とかするって!」

「え、ええ、そうね。あんまり個性的な人が来ても困っちゃうもの」

「ほっ」



 そこまで嫌だったのか。あのタロウが必死な形相で止めてくる辺り、危険な人物なのだろう。

 私はそこまでリスクを犯したくない。ただでさえ今、危うい状態なのにこれ以上変なのを呼ぶのは更に危険だ。

 でも、タラスクはそこそこ強そうだし、ちょっと希望が持てたかも。



「んで、変化のことなんだが。あれは基本使わんぞ?」

「え? どうして? 使うと自我が無くなるとかかしら?」

「いや、別に狂暴になったりとかはしない。そんなチンケな変化じゃないからな! ただ、めっちゃ体力使うのよ。空に浮けなくなるくらいにな。だからこれは最後の手段だ」

「なるほどね。納得したわ。じゃあそのスキル使用はタラスクの判断に任せる」

「助かるぜ」



 いわゆる奥の手というやつだ。

 きっと物凄い力が出るのだろう。代償を考えれば、当然多発はできない。

 ドラゴンは王や神と並んで強力なアビリティの種族だ。そのドラゴンが限界を超えて力を発揮すれば……どうなるのだろうか。

 私は期待と同時に、一つの疑問が浮かんだ。

 


「そういえば、貴方はドラゴンなのよね? どうして呼べたのかしら……」

「ん? どういうことだい?」

「タロウは人間でしょ? 人間がいきなりドラゴンを呼べるわけないのよ」

「そう言われても、僕呼べたよ?」



 幾ら仲は良くても、いきなりアビリティ未参照で召喚術が使用できるわけがない。

 悪魔王の力は例外なんて無いのだ。一体どうして……。



「ああ、それならわかるぞ。コイツ実は……」

「それは私が説明しよう」



 いきなり目の前に、小さな少女が現れた。

 白と黒が混ざった長髪を美しく靡かせている。

 私は知っている。この少女の事を。



「うひゃああああああああ!!!!??? サタン様ァァァァァl!?!?」



 いきなり、王様が目の前に現れた。

 私は突然の出来事に変な声が出てしまった。



「おおおおお超絶美少女だーーー!!!」

「露出多!! もう一枚! もう一枚!」

「ちょっ!? 貴方達失礼でしょ!! すみませんサタン様! この人達まだ召喚されたばかりで……」



 私はタロウとタラスクの頭を地面に擦り付ける。

 サタン様を怒らせたら最後、死よりも恐ろしい制裁が待っているらしいのだ。

 


「あーいいよいいよ気にしないで。中々愉快な人達じゃないか」

「ありがとうございます……。でも、どうして私の元へ?」

「それはね、君の召喚した子が大分イレギュラーだから、個人的に説明しに来たんだ」

「イレギュラー?」



 タロウがイレギュラー。確かにちょっとおかしいと思ってたけど……。どういう事だろう。

 タラスクが呼べたのと何か関係しているのだろうか。



「うん。君、名前は?」

「僕は浦島太郎。よろしくね、美しい姫君」

「おいタロウ! てめえなんだその顔は! 今まで見た中で一番真面目な顔してんぞ!」

「しっ、たーくんはちょっと黙ってて。女性との付き合いは最初が肝心なんだから」



 見ていてハラハラする。

 ああもうこの子達は。だんだんと目眩が……。

 私がそんな状況だともしらずに、話が進む。



「あっはっはっは。面白い子だなぁ! 私はサタンだ。このゲームの主催者だよ。タロウ、君はかなり特殊な境遇だね。こんな出鱈目な人間はそういないよ。」

「僕は出鱈目じゃないよ。いつだって真面目さ」

「そういう意味じゃないだろ……、俺から見てもお前はだいぶ特殊だよ」

「えと、サタン様、一体どういうことでしょうか……」



 サタンはこほんと咳払いをすると、説明を始める。



「浦島太郎、君は人間で有りながら、竜になってしまったようだね。しかもどんな呪いかわからないけど、アビリティとスキルが殆ど隠れてしまってるじゃないか。私が直接触れて確かめて見てもいいかい?」

「どうぞどうぞ、でも、変なことはしないでね……」

「タロウ……、気色悪いぞ。いくら見た目が可愛いからってお前それはないわー」

「たーくんには中性的な子の魅力がわからないようだね」

「それを、自分で言うなよ……」



 そんな漫才が繰り広げられつつも、サタンはタロウの能力を読み取っている。

 そして、サタンが離れると……



「ククク、フハハハ、ハァーハッハッハッハ!! 面白い!! 面白いぞタロウ!」

「出ましたお馴染みの三段笑い!! 乙姫さまも得意だったなぁ」

「乙姫さま……お戯れを……ぶるぶる」

「どれだけトラウマなのよ……」



 サタンは妙に上機嫌だ。

 そんなにタロウの能力が面白かったのだろうか。召喚した身として、私もタロウの能力は知っておきたい。



「あの、サタン様。タロウの能力がわかったのですか?」

「いや、実は全然わからん」

「ええ!?」

「まぁ、ともかくこれを見よ。私の力で一時的にタロウの隠されたスキルとアビリティを文字化してやる」



 サタンはバッと手を前にかざし、魔法を使う。

 すると、目の前に光の文字が浮き上がる。どうやら能力確認する時に浮かぶ文字を、具現化しているようだ。



   名前;浦島太郎

   種族;人間(???)

  スキル;釣り ??? ??? ??? ??? ??? 旅術 ベフライドラッヘ ??? ??? ??? 特異召喚術

アビリティ;人 民 ドラゴン ??? ??? ??? 遊人 旅人 ??? ???



「なにこれ……殆ど隠されてる」

「タロウ、お前もベフライドラッヘ使えるのか……俺だけのアイデンティティだと思ったのに……ハァ」

「はっはっは、そう落ち込まないでたーくん。僕には甲羅ないし、それは君にあげるよ。お前がナンバーワンだ!」

「甲羅のナンバーワンってなんだよ!!!」



 この子達は、常に漫才をやっていなければ気がすまないのかしら。

 それはともかく、物凄い量のスキルとアビリティである。一体どうやってここまで……。



「私の力を持ってしてもこれだけしか情報を開示できなかった。強力な呪いだね、素晴らしいよタロウ」

「タロウ、貴方一体何者なの? 人間の生涯でここまでのアビリティとスキル、持てるはずがない」

「うーん、僕には細かい事がわからないんだけどね……人生楽しくをモットーに旅をしてただけだから」

「ハッハッハ、本人にもわからないか! ならば仕方ないな!」



 サタンは満足そうに笑う。

 アビリティにドラゴン。それならば確かに、タラスクを呼ぶ条件を満たしている。

 そればかりか、他のアビリティも豊富だ。これなら召喚の対象が著しく広がる。

 希望がどんどんと大きくなっていく。



「ウラク、君の王は素晴らしいよ。今後に期待だね。とりあえず、次の召喚を見学していいかな?」

「は、はい! タロウ、次の召喚をお願い」

「タロウ、可愛い女の子頼むぞ。できれば巨乳で」 

「タラスク、ちょっと黙ってて」



 私は、引き続きタロウに任せた。

 サタン様もそれを望むだろうし、私もタロウの可能性を見たい。

 次は一体どんな種族が召喚されるだろうか。期待半分、恐ろしくもあった。



「そうだなぁ、次は……うん、せっかくだから強そうなのが良いよね。頑張って召喚してみるよ」

「ええ、頼んだわよ!」

「フフフ、次は一体どんなゲテモノが来るか、わくわくするね」

「ええ、俺はゲテモノ扱いですか……」



 しょげているタラスクを尻目に、タロウは詠唱を始める。

 集中しているタロウは、普段のタロウとは少し違って、顔が凛々しい。

 いつもこうなら、もっとモテると思うのだけど。



「――我が其の能才を通し、召喚に応じよ。強いやつこーーーーい!!コントラクトサモン!!」

「勝手に詠唱いじるなーーー!!!!!」

「プフゥッ! アッハッハッハッッハ!」



 タロウは詠唱間に思いっきり我欲を込める。

 サタンは吹き出し、腹を抱えて笑っている。

 そして、目の前の魔法陣から光が……。



「ちょっと、なんで黒く光ってるの……?」

「たぶん、詠唱が歪だから普段とは違う呼び方になってしまったのかもね」

「張り切りすぎてしまいました。はっはっは」

「何してんのよバカーーー!!!」



 光は黒く、大きくなっていく。

 そして、強烈な光が辺りを包んだ。

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